ではどうぞ。
「ふぁ~全然寝れなかった……」
ツナはベットからのろのろと起き上がり、伸びをする。
ツナが今いる部屋はアトラティカ城の一室を使わせてもらっている。
昨日ムラサメと言う、己を貫き通すなんとも言い難い医者に出会った。
そのムラサメがこれまた予想通りに騒がしく、ツナやクロノスは振りまわされていた。その所為でツナは寝不足である。ちなみにアイゼンはいつの間にか姿をくらまし難を逃れていた。
「今日はどうしようかな」
ツナがパジャマから普段着に着替えながら、これからの事を考えていると、
「勇者入るぞ!」
返事を聞かず、ドアを勢いよく開く。
突然の事に驚きドアに目をやると、そこにはムラサメが威風堂々と立っていた。
「む、ムラサメさん!」
あまりにも唐突の訪問に困惑する。
しかし、ムラサメは鼻を鳴らし、
「大したことはない。アクア姫にお前を連れてくるように言われたのだ」
腕を組み、わびる様子もなく自分の用件を伝えるとツナの腕を掴む。
「行くぞ」
「えっ、ちょ!」
ムラサメは半場強引にツナを部屋から連れだし、二人はそのまま部屋を後にした。
♦
「ごめんねツナ。いきなり呼び出して」
「別にいいよ。どうせやることもなかったし」
ムラサメに連れてこられたのは、昨日ムラサメが医者だと教えられた城の入口だ。
アクアの隣にはセルクルがいて、これからどこかに出かけるようだ。
「それで、用って何?」
「これから街の方に出るんだけど一緒に来てくれない」
「それくらいなら別にいいけど……」
ツナはおかしいと感じた。ただ街に行くだけで何で自分が呼ばれたんだろうと。
(まぁいっか)
特段気にする事でもなく、すぐに考えをやめる。
「それじゃ行こ。ツナのセルクルはそれね」
「分かった」
ツナはセルクルにまたがる。最初の頃に比べセルクルに乗るのは難しくなくなっていた。
「それじゃ、行くとするか」
「あれ? ムラサメさんも来るの?」
「城に残るより、こっちの方がおもしろそうだから。問題はないだろうアクア姫」
「はい」
アクアは笑顔で答える。昨日も思ったが、アクアは随分とムラサメを慕っているように見える。
三人はセルクルを進め出す。
街には数十分で着いた。
街では行きかう人々で賑わっていた。
「そういえば、俺この街の事あんまり知らないな」
ツナが街に来たのは祭りのの時だけだ。
あの時は、いろいろありゆっくり見物する時間がなかったので、ツナは物珍しく街を見渡し自分が、異世界にいる事を改めて実感した。
「ん? あれってなにやってるの?」
複数の屋台が何か飾り付けみたいなものを作っていた。
「あぁ、あれは今度の感謝祭の為に自分たちの屋台を飾り付けてるの」
「へぇ、そうなんだ……って感謝祭!」
「うん。そうだよ」
アクアはさも当然の如く答える。
「私たちに国には一年間お疲れ様って意味を込めて、一年に一度国総出で盛大なお祭りをするの」
「そうだったんだ。もしかし、今日来たのも…」
「そ。この前の騒動で大分作業が遅れたから、それの手伝いってこと」
アクアを先頭に三人は歩き出した。
よく見てみると、確かに街の人達の中には熱心に何かをしている人がちらほらと見える。
「フム、街の方も活気づいているな。この分だと今年も楽しめそうだな」
「ムラサメさんも感謝祭に参加した事あるんだよね? どんな風なの?」
「フフッ、中々面白いぞ。この国はもともとが広いからな、様々な場所で多種多様の物を見たり聞いたり経験したりできるぞ。それに、最終日にある光のパレードはこの国の名物しと言われてる」
「へぇ~、なんか面白そうだな」
異世界の壮大なパレード、ツナは今から楽しみにしているようだ。
他にもムラサメにどんなものがあるか、興味津々に尋ねている。
「ふふっ、ツナってこういう祭りごとが好きなんだね」
「えっ、あ、そういうわけじゃ……」
ツナは子供みたいにはしゃいでいた事が恥ずかしく、顔が赤くなっている
「それよりアクア! 領主が自分から出るほどの手伝いってなんなの!?」
悪気があるわけじゃないのは分かっているが、女の子に笑われるのに耐え切れず話をそらす。
「あぁ、それなら、ほら」
どうやら目的地についたらしい。ツナは指が差される方向に目をやる。
ツナの目に入ったのは、何の変哲もない民家だった。
間違いではないか、周りを確認するが、他にそれらしい物は見当たらない。
「えっと……あの家に用があるの?」
「うん。そうだよ」
アクアに確認をとるが、間違いないようだ。
「この家の猫達を追い出すの」
「猫って………あの猫」
「そ。小さくて耳があって尻尾があって、見ているだけ癒される。かわいすぎるあの猫」
アクアは猫の説明をうっとりした表情で、すらすら述べる。よほど猫のことが好きなのだろう。
「その猫と感謝祭への手伝い。どう関係があるの?」
ツナはさらに尋ねた。
「それがね、感謝祭を行うに当たって、この家に住み着いてる猫が邪魔をしてくるの」
「邪魔をする?」
「うん。この家に猫が住み着きだしたのはつい最近なんだけど、何故か準備の邪魔ばかりしてくるの。このままじゃ、当日まで間に合わないかもしれないから、私が引き受けたの」
「でもなんで、アクアが? こういうのは騎士団の皆に頼んだらよかったのに」
猫を捕まえるのは体力を使うだろうし、アクアには荷が重いはずだ。
すると、アクアは目線を下に落とし、肩を震わる。
「えっ、アクア!」
突然泣きだしたのかと思い、ツナは慌てた。
「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて! 日頃から忙しいから、猫を捕まえるのって難しいと思うし、それに―――」
「猫がいるんだよ。猫が……あの家には猫が……肉球があるの! これだけは譲れない!」
「なんか変なスイッチ入ったぁ!」
目を輝かせ、高らかに宣言する。アクアは好きは好きでも大の猫好きらしい。
「ふん。猫ごとき追い出すことなどこの俺一人で十分だ」
ムラサメは二人に構わず、民家のドアの前まで歩いていく。
「それで、猫を追い出すってどれくらい住み着いてるの」
「それがね!それがね!なんと!」
アクアがぐっと溜めを作ってる。
「100匹もいるんだって!」
「ムラサメさん!開けちゃダメ!」
「もう開けてしまったが―――なっ! なんだこの数!や、やめろっ!離せぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
時すでに遅く、ムラサメはドアを開けていた。、数十匹もの猫が服に噛み付かれ、ムラサメは強引に家の中に引きずり込まれていった。
「む、ムラサメさんが家に食われたぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「ツナ落ち着いて。家に食われるなんてあるわけないでしょ」
「そ、そうだよね。ごめ―――」
「ムラサメさんは猫と戯れているの。あぁ~早く私も猫と遊びたいなぁ~」
「さっきのが!猫に引きずり込まれてたよ!後アクアここに来た目的忘れてないよね!」
「冗談だってば、冗談」
さっきの眼の輝きは冗談とは思えなかった。
しかし、このままアクアと二人でこの悪魔の家に入るのは大丈夫なのだろうか。
ツナが少し思い悩んでいると、
「何やってんだ沢田」
声に振り返ると、両手を首の後ろに組んでいるクロノスがいた。
「クロノス!」
「昨日と同じ反応だな。で、お前は姫と一緒に何してたんだ?」
ツナは猫の追い出しの手伝いの事を説明する。……一応ムラサメの事も。
「なるほど。それで姫があんなにそわそわしてるのか」
クロノスは視界の端で、速く猫と遊びたくてうずうずしてるアクアを見て言う。
「よし。なら俺も手伝うぜ」
「え、いいの?」
「あぁ、俺の分の仕事は終わってるから、後はアイゼンに任せてる。それに……」
「それに?」
オウム返しをすると、クロノスが悪戯っぽく笑う。
「ムラサメのマヌケをバカにできるからな」
「そ、それが狙いなんじゃ……」
どうやらクロノスは猫に負けたムラサメを馬鹿にしたいらしい。
ここまで、クロノスが笑顔を表に出すのは初めてだ……悪い意味で。
「そ、それじゃ行こっか」
時間が無駄に過ぎる気がして、さっそく取り掛かろうとする。
「ちょっと待て沢田。どうやって捕まえるつもりだ」
「あ! ………考えてなかった」
考えてみれば100匹もの猫をどうやって捕まえてるのだろう。
アクアに来た頼みごとだから、何か考えていると思い聞いてみると、
「え? 1匹ずつ捕まえていけばいいんじゃないの?」
駄目だ。何も考えていなかった。
クロノスは一度ため息を吐く。
「はぁ~、しょうがねぇ-な。ちょっと待ってろ」
そう言ってクロノスは街の方に向かった。待つ事数分、クロノスは大きな檻を持ってきた。
しかし、その檻を軽々しく持ってくるクロノスの力も凄い。
「よっと。まぁ俺の作戦は簡単だ。この檻に猫達を入れるだけ」
「でも、どうやって入れるの? かなりいるよ。まさか、アクアが言ったように、一匹ずついれてくの?」
「そこんところは任せとけ」
クロノスは自信ありげに笑う。
檻をドアの前に置き、準備万端と言う。
「俺は家の後ろに回り込む、合図したらドアを開けてくれ」
「わ、分かった……」
今だこの作戦がよく分からない。
クロノスは何をするのか気になる。隣ではアクアが猫との邂逅を今か今かと待っている。
「いいぞぉ!!開けろぉ!!」
合図だ。ドアを勢いよく開けると、同時に地響きが起こった。
その揺れのせいで、ツナは態勢を崩してしまう。
「うわっ!………ってて、一体何なん……………」
ツナは目の前の光景に息を呑んだ。なぜなら、先程まで隣にいたはずのアクアが今目と鼻の先にいるからだ。
「………」
「………」
一瞬時が止まった。そして、二人は段々意識を取り戻していくと同時に、顔が赤くなっていく。
「はひゃっ!つ、つつつつつツナっ!!」
「い、いや!こここここれはその!」
ツナは状況を理解し、素早くアクアから離れる。
二人の顔はリンゴみたいに真っ赤である。お互い顔が見れない状態でいると、家の中から何かが迫ってくる物音が聞こえる。
二人がドアに目をやると、何十匹の猫達が全速力でドアから出てきて、檻の中に入っていく。
猫の列がが終わると、クロノスが戻ってきて檻を閉める。
「よし、こんなもんかな。ん? 二人共何やってんだ?」
クロノスは二人が正座をして、互いに背を向けているのを不思議に思った。
「「何でもない!何でも!」」
二人は慌てながらも息ぴったりで答える。
クロノスもあまり気にしていない様子だ。
「そ、それよりクロノスは何をしたの」
ツナ気を取り直し尋ねた。
「そこまで難しい事はしてねぇよ。動物は大抵大きな物音がなったら、それとは逆の方に逃げるから、家の後ろでちょっと地面を割ったらドアの方に行くんじゃねぇかと思ったんだ」
「そんなむちゃくちゃな……」
「でも、うまくったじゃねぇか」
「……確かに」
作戦はめちゃくちゃすぎる。作戦とも呼べるのかさえ怪しいが、実際にはうまくいった。
クロノスは得意げな表情だ。
「あ、そうだ。ムラサメさんを探さなくちゃ」
「それなら大丈夫。ほれ」
クロノスは先程から引きずっていた何かを投げ出す。
「ムラサメさん!」
「さっき家のそこで拾った」
「そんな捨て猫みたいに! てかこれ本当に大丈夫なの目が虚ろなんだけど!」
よほど怖い体験でもしたのか、意識はあるのに動かなくなっている。
ツナが肩を掴み揺らしてもピクリと動かない。まるで生きる屍だ。
「ちょ、これどうしよう」
「別にいいんじゃねぇの、静かで助かるぜ」
「そういう問題じゃ……アクアどうしよ――あれ? アクアは?」
さっきまで、近くにいたのに居なくなっている。
「姫なら檻の中で猫と戯れてんぞ」
指が差された方を見ると、自ら檻の中に入り猫を何匹も抱きかかえ、あまりの嬉しさに何度も転がっている。
「……ね……こ……猫だと!」
突然ムラサメは目を大きく見開いた。猫と言う単語に反応したらしい。
ムラサメはぶるぶると肩を震わせている。
「猫はだめだ……猫はいけない……猫、あれにだけは関わってはいけない……」
ぶつぶつと何か言っている。本当に怖い体験をしたらしい。猫恐怖症とも言えるだろう。
既にツナとクロノスの周りは収集がつかない状況になっている。
「おや? 皆さんこんなところでどうかしましまたか?」
「お、アイゼンちょうどいいところに。ちょっと手を貸してくれないか」
アイゼンは既に自分の作業を終えたのか、タオルを肩にかけていた。
「手を貸せとは………なるほど、何となくはわかりました」
アイゼンは苦笑いしながらも、この悲惨の状況を瞬時に理解したらしい。このとてつもないカオスの状況を。
この後、アイゼンの手際の良さですぐに収集がついた。
猫の件は騎士団の人達に国の外まで連れ出し、解放するということになった。
「はぁ~、疲れた~。本当に助かったよアイゼン」
「いえいえ、これくらいお安いご用ですよ」
「あ~あ、まだ猫を愛でていたかったのに。残念」
「猫など、もう二度見たくない」
「情けねぇな」
日は沈み始め、全員一緒に帰路につくこにした。
「クロノスも本当に助かったよ。ありがとう」
「別にいいっていったろ。それに……」
クロノスは少し恥ずかしそうに口ごもる。
「俺はこの国の為に少しでも役に立ちてぇんだよ」
その言葉にツナは驚いた。
「最初はこの国に迷惑かけといて、どの面下げていればいいんだと思ってたけど。でも、仕事の手伝いにとかやってると、この国の人達は優しく接してきてくれるんだ。許してくれたとは思ってねぇけど、俺はそれだけでも十分嬉しかった。だから、俺は俺にできる事は何でもしたいんだよ」
「クロノスも成長しましたね」
アイゼンはクスリッ、と嬉しそうに笑う。
するとクロノスは恥ずかしそうに顔を背ける。
「クロノス」
「何だよ沢田……」
「改めてよろしく」
クロノスの本心も聞け、ツナも嬉しく思った。
クロノスは背けたままだが、不器用なりに答える。
「……おぉ、よろしく頼む」
皆と話して帰る道のりは騒がしくも楽しいものだった。
今回で小話は終りです。
次回からは原作に入っていきます。楽しみにしててください。