2024年 10月24日 p.m.2:30
アインクラッド第26層
キリトが血盟騎士団に入団して3日が経過し、そしてやっとと言うべきか、昨日キリトとアスナが結婚した。
経緯はあえて言わないでおこう。今はもう壊滅しているはずのアレが部分的にとはいえ関わっていたんだ。アレは口に出すだけでも嫌な雰囲気を感じる。
話を戻そう。結婚した2人は22層に家を買って引っ越し、仲睦まじく暮らしてるそうな。昨日キリトからメッセージが届いた瞬間、リズとシリカに引っ張られてヤケ酒に付き合わされた時は大変だった。その後にクラインにも同じことされて只今絶賛疲れております。
で、俺はこんな所で何してるかっていうと、ある人から約1年ぶりにメッセージが届いてその人の所に向かっている。互いに会うのも話すのも1年ぶりだしあんな事があった手前、気まずいのもある。……と、いたいた。
転移門広場から少し離れた所に木が一本生えていて、その根元にある質素なベンチに俺を呼んだ人がいた。ピンクの髪をツインテールに縛り、紫のスカートに白のシャツを着た少女がいた。少女の隣には……真っ白なワンピースにこれまた白い髪を腰に届くくらいに真っ直ぐにおろし、少女に体を預けて寝息を立てている6,7歳くらいの女の子が。
ソーマ「…………シャム。」
少女……シャムは、名前を呼ばれ俺の方を向く。一瞬笑顔を見せるが、すっと眉が下がり悲しそうな表情になる。
シャム「……久しぶりです。」
ソーマ「あぁ。……隣の子は?」
シャム「……その事で話があります。」
どうやらこの女の子の件で呼ばれたらしい。小さい子の相手は少々苦手なのだが話だけでも聞く。
昨日の夕方、シャムは街に戻る途中にこの女の子……ピクスが森に入って行くのを見て追いかけたところ、モンスターの群れに囲まれて怯えていたという。モンスターを屠ってピクスを保護すると街に行き知り合いがいないか聞いたら『名前以外何も分からない』と言われ、一先ずシャム自身がピクスを預かることにして、知り合い探しを翌日の今日に26層の転移門広場で朝から5時間もずっと聞き込みをしていたらしい。一旦休憩を取るべくこの場所に来て、どうしたものかと思案した時にふと俺の顔が浮かびメッセージを寄越したという。
ソーマ「カーソルがないからNPCじゃないし……プレイヤーの線が微妙だが、こんな小さい子が一人でいるのは確かに放っておけないな。」
シャム「……何か良さそうな案はありますか?」
ソーマ「………1層に小さい子ども達を預かってる教会がある。もしかしたらそこの子かもしれないけど……場所分からないよな…」
シャム「……はい。そんな所があるとは知りませんでした。」
ソーマ「…………1日。」
シャム「……え?」
シャムの薄紫色に光る目を見て一つの約束をする。
ソーマ「俺が来週の1日に攻略の休みを入れるから、その時に一緒に行こう。案内する。」
シャム「え……でも、それでは攻略のペースが…!」
ソーマ「俺1人が1日休んだところで影響はほぼない。第一、最前線の75層はこれまで以上に慎重に攻略しないといけないからな。適度な休憩はいるよ。」
シャム「そう……ですか…わかりました。来週の1日ですね。……すみません、巻き込んで。」
ソーマ「いや、気にしなくていい。週に2,3回は中下層プレイヤーの手伝いやってるから大丈夫だ。」
シャム「……ソーマは、あの日のことを克服したのですか?」
ソーマ「………………」
シャムがなぜこの質問をしたのかはわからない。だが質問に答えるとするならば。
ソーマ「克服した、と言えば嘘になる。むしろ表に出さないだけで引きずりまくってるよ。」
シャム「……顔に少なからず出てるとは思いますが。」
ソーマ「…………マジ?」
シャム「……はい。」
ソーマ「……はぁ、顔に出やすいのかね。俺の性格ってのは。……まぁでも俺は、多少は引きずってもその出来事を受け止めなければならない。あいつらの為にも、俺は生きなきゃならない………」
そう言って首に下げていたネックレスを服の中から取り出し見つめる。狼を模しているという獣は月に向かって吠えている、というこのネックレスは元は俺の物ではなく、彼女から譲り受けた物だ。
シャム「それは……」
ピクス「ぅ、うぅん……」
ソーマ「お、お目覚めかな?」
ネックレスを仕舞い、目を覚ましたピクスの前にまで移動し、目の高さを合わせる。
ピクス「ふわぁ。………あなたは誰?」
ソーマ「こんにちはピクス。俺はソーマ。シャムの友達だ。」
ピクス「ソー……マ。ソーマ、ね。よろしく。」
ソーマ「なんだ、見た目の割にはちゃんと会話ができるじゃないか。いい子だな。」
ピクス「……バカにしてるの?」
ソーマ「いや、そんなつもりはないよ。気に障ったなら謝るよ。」
ピクス「……じゃあ、頭撫でて。」
ソーマ「おうとも。」
右手を伸ばしピクスの小さな頭に置いて優しく撫でる。ピクスは最初は小さく体を震わせたが、すぐに気持ち良さそうに目を細めた。
ピクス「……なんかソーマに撫でられるの、初めてじゃない気がする。」
ソーマ「へ?いや、でも今日初めて会ったよな?」
ピクス「そうなんだけど……よくわからない。なんだろう……」
シャム「おそらく、ソーマを父親か誰かと重ねたのでしょう。何かを思い出すきっかけになります。」
ソーマ「そうだといいな。………あ、ヤバ。」
視界左上の時計を見ると、午後3時過ぎ。
シャム「……どうかしたのですか?」
ソーマ「3時から知り合いの野郎共と最前線攻略するんだったんだわ。悪い、今日はここまでだな。」
シャム「いえ、私こそ突然呼び出してすみません。……気をつけてくださいね。」
ソーマ「……あぁ。じゃあまたな、ピクス。」
ピクス「またねー。」
急ぎ気味でその場を後にする。バンダナ侍宛てに遅くなるとメッセージを送り、26層から75層に行くために転移門をくぐる。転移する瞬間、胸のネックレスを服の上から握り、1人の名を音にならない声で呟く。
ーーーーーーールカ。
◇◇◇
同日 p.m.4:00
アインクラッド第75層 迷宮区入り口
予定より結構遅れて迷宮区に到着。時間に余裕があるからシャムの頼みを受けたが、少し話し込んでしまったようだ。クライン率いる『風林火山』のメンツが俺を見つけて腰を上げ、腕やら足やらを軽くストレッチし始めた。
クライン「お、やっと来やがった。遅えぞソーマ‼︎」
ソーマ「悪りぃだいぶ遅刻したわ。」
クライン「まさかナンパしてて遅れた〜っつー言い訳しねぇよな?」
ソーマ「俺がナンパするような奴に見えるか?」
クライン「じゃあ後ろの人は誰なんだ?」
ソーマ「は?」
振り返り呆れる。紫を基調としたミニドレスのような服装。その胸元は大きく開き、谷間にはほくろが2つ。そして背には全長2mはある両手剣。天真爛漫、の字が似合いそうな彼女……ストレアは、ウインクをして手をひらひらさせている。
ストレア「やっほ〜ソーマ!」
ソーマ「ストレア……なんで尾けた?」
ストレア「ん〜…なんとなく、ソーマと迷宮区攻略をしてみたかったから!」
額に手を当て再度呆れる。チラリと『風林火山』を見ると、全員目から血涙を流していた。お前らェ……
ストレアとは初対面ではなく、俺の非攻略日にたまに遭遇する。したがって、彼女の性格は把握済み。初めて会ったのは……確か『圏内事件』でわたわたしてた頃だから半年前だ。俺の索敵スキルでも感知できない程の隠蔽スキルの持ち主で、今みたいに気がつくと近くにいることが多い。しかし、彼女は自身の記憶がなく、気づくとフィールドにいたという。そういえばピクスも記憶がないって言ってたな。何かに巻き込まれなきゃいいんだが……
ソーマ「はぁ……どうせ帰れって言っても付いてくる気だろ?なら一緒に攻略するぞ。」
ストレア「やったー‼︎ありがとー‼︎」
ソーマ「そうやってすぐ抱きつこうとするの直そうな。」
バッと来たストレアを躱し頭に手刀を落とし「あうっ」と唸り頭を抑えるストレア。お、やっと正気になったかクライン。
クライン「……で、でもソーマよぉ!ストレアさん連れてって大丈夫か?ここは最前線だし、第一ストレアさんのレベルとか……」
ソーマ「そこは心配無用。ストレアは中層プレイヤーだけど、実力は攻略組と同等だぜ?安心しろ。」
いつ立ち直ったか、隣でストレアが胸を張って自身満々にVサインをしている。
ソーマ「そういうわけだ。行くぞ。」
ストレア「はーい!」
クライン「ちょ、待てソーマ‼︎行くぞおめぇら!」
後ろにストレアと『風林火山』が来るのを感じながら迷宮区へと入っていく。この後モンスターの群れと遭遇し、ストレアの見た目にそぐわない剛腕っぷりを見て野郎共が口をあんぐり開けてたのは記憶に新しい。
その6日後、キリトとアスナはピクスと似た容姿の、そして記憶喪失だという女の子を保護する。
記憶喪失の少女達は、なぜ彼らを選んだのか。それは少女自身しか知らない。
fin
◇◇◇
次回
16話 『アイの心』
どうも中毒野郎です。
オリジナル話の割には結構早く仕上がりました。
もうすぐでAincrad編が終わります。しかし物語はここで終わらずFairy Dance編に突入。まだまだ続く予定です。pixivの方でも閲覧数やブックマーク等、予想以上の量をいただいております。これからも頑張って書いていきたいです。
ではさらば。
9/29 p.m.1:11追記
日にちがズレていたので修正しました。