2024年 11月1日 a.m.10:50
アインクラッド第1層 『始まりの街』
アインクラッド第1層はアインクラッド上最も面積が広く、直径10kmにも及ぶ。『始まりの街』はとても規模の大きい街で、広さはどこかの夢の国くらいあるだろう。
『始まりの街』は今はアインクラッド解放軍(通称:軍)の支配下にあるといっていいほどに状況が悪かった。なんでも、キバオウが力を強めていって長のシンカーさんはほぼ飾り物状態で軍の統率が崩れていったらしい。おそらく、74層ボス戦の時のコーバッツ中佐の部隊はキバオウによって派遣されたのだろう。何を考えてるやら。
さて、そろそろ転移門だ。シャムと1層で待ち合わせをしているため10分前に着いておこうと思い、さっきホームの宿屋を出た。
ソーマ「転移『始まりの街』!」
?「とおーぅ‼︎」
ソーマ「ぐほっ⁉︎」
転移する瞬間、腹に何かが突撃してきた。目の前が白く染まり、視界が開けると第1層主街区『始まりの街』の風景が眼前に広がる。
突撃され後ろに倒れこんでいる俺の腹には、突撃してきたストレアがいた。本当に神出鬼没。
ソーマ「ストレア……何か用か?俺はこれから約束があるんだが。」
ストレア「なんとな〜くソーマについて行こうって思ったから!あと少し遅かったら置いてかれてたよ〜。」
ソーマ「気分屋にも程があるだろ……今日は剣を持つ予定はないからな。」
ストレア「はぁ〜い!」
返事だけはいい。ストレアはたまに俺のことを弟みたいだって言うが、俺から見れば普段は頼りない妹って感じだ。たまに自分のことを『お姉さん』というが、どうも精神状態を見ると妹ポジションな気がするのはたぶん俺だけ。お姉さんなのはその身体だけでじゅうぶ……コホン、失敬。
立ち上がりシャムと合流しようと思った時、どこからか女性…いや、女子プレイヤーの悲鳴が聞こえた。方向は……東。
ソーマ「シャム‼︎」
ストレア「あっ、待ってよ!」
そういえば、最近軍による恐喝まがいな徴税……逆だ、徴税という名の恐喝が所々であるらしい。シャムはそれに巻き込まれたと考え、声のした方へ全力で走る。
気がつけば商店街。その路地にシャムとピクスを囲む4人の軍の兵隊。シャムとピクスは壁を背にしていて逃げることは困難そうだ。なら……
ソーマ「何してやがる」
兵A「お?なんだなんだ?新しいカモか?」
兵B「見ねえ顔だな。なら軍の為にちょいと税を払ってくれねぇか?」
兵C「払わねぇと……分かるな?」
シャム「……!ダメです……!」
ソーマ「か弱い女の子に男が4人がかりで囲む……ダサいって思わねぇの?」
兵A「あん?」
兵D「兄貴ィ!コイツからやっちまいましょうぜ!」
兵A「見た目がショボいが……まぁいい。こいつからやるぞ!」
兵B、C「へい!」
兵D「兄貴ィ!やっちまってくだせえ!」
俺の顔を知らないということは軍の下っ端の連中だな。こういう雑魚共はきっちり痛めつけてやらないとな。
ソーマ「来るのか?だったら圏外にでも行くか?それとも完全決着決闘か?俺はなんでも構わんが。」
兵A「なんだと……?」
兵B「てめぇ……ナメてんのか?お?」
兵C「だったら圏外行くか?死んでも知らねえぞ?」
ソーマ「そっくりそのまま返すぞ」
瞬間、兵Cの懐に入り膝蹴りを入れる。圏内のためダメージは入らず紫色の窓が出てきたが、ノックバックのみが発生し兵Cは吹き飛ぶ。他の兵は何が起こったのか分からず固まっている。
ソーマ「てめぇら程度の雑魚なら素手でも勝てる。殺しはしない。ノコノコ逃げんなら今のうちだぞ。」
兵B「てめぇっ……生意気な小僧が!」
兵Bは腰に帯剣していた片手剣を抜くと横から俺に斬りかかってくる。俺は右手を横に伸ばし、兵Bの顔は勢いよく俺の拳に突っ込んできて俺に剣が触れる前に気絶。
兵A「死ねぇ!」
兵Aは両手槍で俺の隙を突こうとするが、それを背中を反らせて避ける。すぐに槍の柄を掴み跳んで兵Aの顔に蹴りを入れる。兵Aも吹っ飛び、残る雑魚ヤンキーもどきを見るとシャムの首筋に短剣が。ピクスは腰が抜けて怯えている。
兵D「お、おおい!ここここいつらのいい命がお惜s……」
ソーマ「その汚ねぇ手を離せ」
兵D「ひぃっ!」
自分でも驚く程ドスの効いた声が出て雑魚ヤンは怯む。その隙を逃さずに右手を思い切り雑魚ヤンの顔に叩き込む。紫色の窓が出て雑魚ヤンの顔に拳は届かないが、ノックバックにより雑魚ヤンの頭が弾かれすぐ後ろにあった壁に後頭部を打ち膝から崩れていった。
シャム「…………」
ソーマ「……見なかったことにしてくれないか?今のは……」
いつもの俺じゃなかった。ただ友達を助けたかっただけなのに………
座り込んでしまっていたシャムに手を貸して立たせて、シャムはピクスの側に行く。ピクスはシャムに抱きつくと小さく震えた。それは見知らぬ兵に囲まれたことによる怯えか、先の俺の暴れっぷりに対する恐れか。怖がらせてしまったのに変わりはない。
シャムがピクスをおんぶし、路地から出ると、置いていってしまってたストレアと遭遇。置いていったことにひどく怒られたが、絡まれてた女の子を助けたということで免除された。
さぁ目的地の教会へ行こうとすると、一瞬俺の頭に電撃がパチッと流れた。SAOに魔法の類はない為正体は不明。失った記憶の一部が戻ろうとしているかもしれないが、実のところは謎である。
少し歩くと前方に白髪のポニーテールが見え、俺はその人物に声をかける。
ソーマ「ユリエールさん!」
ユリエールと呼ばれた女性は振り返り、俺に礼をした。とても礼儀正しい人だ。
ソーマ「久しぶりですね。」
ユリエール「ええ。でも、なぜこの街に?」
ソーマ「ちょっと用があって。それより、軍はどうなっているんですか?治安維持には熱心だったはずなのに、気がつけば恐喝なんて……」
ユリエール「……もしかして。」
ソーマ「はい。さっき絡まれてたんで、ちょっと説教しときました。」
ユリエール「またか……すみませんソーマさん。」
ソーマ「いえ、シンカーさんとの仲ですから。」
シンカー、と言ったときにユリエールさんの顔は暗くなり、何かに耐えているようだった。
ソーマ「……ユリエールさん?」
ユリエール「……いえ、なんでも。そちらの方々は?」
ソーマ「俺の知り合いです。ちょっとこの子のことで用があって、この先の教会に行くところでした。」
ユリエール「ああ、そこなら私も向かうところでした。」
ソーマ「そうなんですか。折角なので一緒に行きませんか?」
ユリエール「ええ。」
ピクスの頭を撫でながら俺は答え、ユリエールさんを加えて目的地へと向かった。
◇◇◇
同日
アインクラッド第1層 地下ダンジョン
地下ダンジョンと言うだけあってやはりモンスターが出る。それだけならまだマシだったんだが……
キリト「ぜあっ!」
しばらく剣を振れてなかった黒の剣士のストレス発散として蛙型モンスター『スカベンジトード』を狩りに狩りまくっていた。俺?シャムの後ろに隠れてビクビクしてるけど?両生類が苦手だけど文句あるか?アスナとユリエールさんが俺を見て引きつった顔をしているが知るか。苦手なモンは苦手なんだよ。
シーンが飛びすぎ?あぁ、なんで教会に向かってたのに地下ダンジョンにいるかってことだろ?説明すると、
1、教会に行くとキリトとアスナがいた。
2、キリトとアスナもピクスと同じ記憶喪失の少女『ユイ』を保護し、教会の子かもと思い昨日訪ねてきた。しかも驚いたことに、ピクスとユイは容姿が非常に酷似していて、正直双子かと思った。
3、その途中で教会の子が軍の奴らに捕まり、軍の奴らをアスナが撤退させる。
4、ユリエールさんはその軍の奴らを撤退させたことに対する礼として、今日教会に向かっていたところで俺たちと遭遇。
5、教会に着いてキリトたちと合流。ストレアがキリトに抱きつきアスナに白い目で見られる。
6、ユリエールさんの話を聞いてシンカー救出の為『黒鉄宮』の下にある地下ダンジョンへ。
7、モンスターのレベルは60相当で攻略組としては苦戦はしないが相手が悪く戦闘は二刀流に任せっきり。(イマココ。)
というところである。誠に情けないが苦手なものは仕方がないだろう?……と、一通り狩り終わったか。
キリトが戻ってくるとメニューを開き、生々しい音と共に赤黒い肉塊が出てくる。
ソーマ「……おい、まさかそれ」
キリト「うん?さっきの奴らの肉だぞ?ゲテモノほど美味いってーー」
ソーマ「せぇい‼︎(必死)」
悲痛な叫びと同時に腰の短剣を抜き忌まわしき肉塊を斬り捨てる。パリンッとポリゴン片になり消えていく肉塊にキリトは玩具を取り上げられた子どもみたいな目で俺を見て。
キリト「おおおお前何してんだ⁉︎」
ソーマ「ンなもん捨てんか‼︎今回ばかりは食わねえからな‼︎」
キリト「意地でも食わせる‼︎」
ソーマ「やーめーろー‼︎」
またメニューを開いてさっきの肉塊×30が出てきたと思ったらそれを1つずつ投げてきた。お前は馬鹿か⁉︎
飛びかかってくる肉塊を短剣で全て処理しきった頃には傍観していた女性陣が腹を抱えて震えていた。……こっちは失神寸前だったんだぞ?
キリト「はぁ…はぁ……お前、短剣スキル取ってたっけか?」
ソーマ「はぁ…はぁ……取ってるがソードスキルは使ってないし今は発動すらできない。相棒をそんなゲテモノで汚す気はない。」
キリト「……攻略中とかずっと気になってたんだが、それはどういうことなんだ?」
ソーマ「…1年と半年くらい前に、ふと『装備してない武器で敵にダメージを与えられるか』って疑問に思ってな。装備はしないでオブジェクト化だけした剣で下層のモンスター斬ったら装備時の6割くらいのダメージ入ったんだわ。つまり、威力は下がるが武器は非装備状態でもちゃんと使えるってこと。まぁ相手の武器を受け流す程度が精々だけどな。」
キリト「そういうことだったのか。たまに二刀流じみたことするからどうやってるのかずっと気になっててさ。」
ソーマ「短剣だから一・五刀流とか二分の三刀流みたいな?」
キリト「なんか中途半端だし分かりにくいぞそれ。」
未だに笑っている女性陣を落ち着かせて奥に進むと、索敵スキルにプレイヤーの反応が出た。色はグリーン、安全エリアと思われる場所は目の前の十字路の先にある。ユリエールさんは耐えられなかったのか、シンカーの名を呼びながら目的地へ走って行っていた。……その時。
ソーマ「なっ……‼︎」
キリト「ユリエールさん‼︎」
大きな黒い影がユリエールさんに襲いかかろうとした。影の持つ巨大な鎌を剣を横にして両手でおさえて受け止め、キリトがユリエールさんの助けに入り危機を逃れる。鎌を受け止めながら影の頭上にある名前を見ようとして、
視界がブレた。
次に瞬きした時には、俺の身体は壁に叩きつけられていた。何が起きたのか?身体中に響く痛みに耐えながら考える。
ソーマ(受け止めた鎌で…薙ぎ払われた?それより……立とうに立てない?なんでだ?)
先の出来事で受けたダメージを見るため自身のHPバーに目をやり、絶句。
ソーマ「い、一撃で……半分削られた⁈」
攻略組の俺の体力を鎌の一振りで半分も削る。それすなわち、圧倒的不利。
鎌を持つ死神の名は、『The Fatal Scythe』。90層クラスのバケモンだ。
キリト「ソーマ‼︎」
キリトの声で正気に戻り、この場は危険と判断してシャム達に声をかける。
ソーマ「っ、シャム‼︎ストレア達と安全圏に行け‼︎」
シャム「でっ、でも!それではソーマが…‼︎」
ソーマ「いいから‼︎」
シャム「っ‼︎」
戸惑いながらも、シャムはピクスとストレアを連れてシンカーとユリエール、そしてユイちゃんのいる安全圏へ。アスナは………どんな時も君の隣にいるよ、ってか。残ってキリトのカバーに入る気だな。
すると、目の前に俺を庇うようにして見知ったプレイヤーが出てきた。
シャムだ。
ソーマ「馬鹿野郎、なんで戻ってきた!」
シャム「……私はあの時、ソーマに助けられました。死にもの狂いで、ソーマは守ってくれました。なら今度は‼︎私があなたを守りたい‼︎あなたを助けたいんです‼︎」
ソーマ「だからって……!」
シャム「それに………何もできずにただ見てるだけなのは、もう嫌です。もう、見たくないから……‼︎」
ソーマ「………もう止めないからな。」
シャム「……はい。」
その時、死神の鎌が防御しているキリトとアスナに襲いかかり、
2人とも先の俺同様に吹き飛ばされた。
◇◇◇
シャム「ストレア、ピクスを頼みます。」
ストレア「えっ、ちょっと!シャム!」
シャムがソーマの前に飛び出すほんの少し前、安全圏にて。
ユイ「パパ……ママ……」
ピクス「シャム……ソーマ…」
ストレア「…………」
3人の少女は、苦しかった。
ユイ「?……これは…?」
ピクス「……?」
ストレア「何…それ……?
少女達は、安全圏の真ん中にある大きく黒い物体を見つける。
そして、3人同時にそれに触れる。
◇◇◇
キリトとアスナを吹き飛ばし、こっちにゆっくり近づいてくる死神。キリトやアスナもHPを半分近く削られ、上手く立てずにいる。シャムは俺を守るように立っているが、脚や手が小刻みに震えている。
まともに動けない侵入者にトドメをささんと死神が鎌を振り上げようとした時、
ユイちゃんが死神の前に立ちはだかった。ユイちゃんだけじゃない。ピクスやストレアも、俺達を守るように。
キリト「ユイ……⁉︎」
シャム「ピクス⁉︎」
ソーマ「ストレア……何してんだ‼︎」
ユイ「ピクス、ストレア、4人を頼みます。」
ピクス「ええ。」
ストレア「わかった。」
アスナ「ユイちゃん、逃げてぇぇ‼︎」
ユイ「……大丈夫だよ、パパ、ママ。」
瞬間、死神の鎌がユイちゃんの頭に振り下ろされた。…………と思った。
ギギギギギギという鈍い音が響き、死神が弾かれた。
そしてユイちゃんの頭上には、『
ユイちゃんが手を前に出すと炎が出て、その中から深紅の長剣が出てきた。それを両手で持ち死神の頭に振り下ろす。死神は炎の球に包まれ、消えていった。
ユイちゃんがこちらを振り向き、言った。
ユイ「皆さん……私達、全部思い出しました。」
◇◇◇
安全圏で、部屋の中央にある黒い物体に座るユイ、ピクス、ストレア。
アスナ「……ユイちゃん、それにピクスちゃんとストレアさん……全部思い出したって…」
ユイ「……はい。キリトさん、アスナさん。それに、ソーマさんにシャムさん。」
キリト「‼︎」
アスナ「っ‼︎」
ユイ「『ソードアート・オンライン』という名のこの世界は、ひとつの巨大なシステム『カーディナル』によって、世界のバランスを自らの判断で制御されています。モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランスなど、全てがカーディナルの指揮下のプログラムで操作されています。」
ピクス「でも人間の、プレイヤーのメンタルに対するプログラムは無かった。」
ユイに次いでピクスが説明する。
ピクス「そこで開発者達は、プレイヤーのメンタルケアをもシステムに委ねようとプログラムを試作した。」
ストレア「それが私達、メンタルヘルスカウンセリングプログラムなの。」
ユイ「試作1号、コードネーム《Yui》。それが私です。」
ソーマ「……ってことは。」
ストレア「……そう。私は、試作2号。」
ピクス「同じく、試作0号。私達3人は、MHCP。プレイヤーに違和感を与えないように感情模倣機能を与えられたAIなの。」
全員「‼︎⁉︎」
ただただ、俺達は驚き、話を聞くことしかできなかった。
アスナ「で、でも……記憶が無かったのは…?ピクスちゃんや、ストレアさんもそうだったんでしょう?」
ユイ「……2年前の、サービス開始の日、カーディナルは、私達MHCPに『プレイヤーへの干渉を一切禁止する』という予定にない命令を下しました。それにより、私達はプレイヤーのモニタリングだけを続けました。」
ストレア「状況は……最悪だった。恐怖、絶望、怒りといった負の感情に支配され、時に狂気に陥る人すらいた。本来なら、すぐにそこに駆けつけなきゃいけない。でも、接触することは許されない状況の中、私達は徐々にエラーを蓄積して崩壊していった……。」
少しの沈黙。それを破ったのはユイちゃん。
ユイ「ある日、私は他のプレイヤーとは異なる感情を持つ2人のプレイヤーを見つけました。喜び、安らぎ……でもそれだけじゃない。私はそれに触れたくて、フィールドを彷徨いました。」
アスナ「それで22層に……」
ユイ「はい。」
ストレア「私もユイと同じ。だけど、それとはまた別に、『自分が何者かわからないのに、その上で誰かを助けたいって思える優しさ』を知りたかった。それで、サービス開始の日に、ログイン時のバグでアカウントだけSAOに残っちゃった子のアバターを借りて、キリトやソーマに会いに行ったの。特にソーマにね。」
ピクス「私は、私と同じだけど違うプレイヤーを見つけて、ただただ一緒にいてみたいって思っただけ。」
シャム「それが……私?」
ピクス「……うん。おかしいわよね、AIなのに、プログラムなのに。この涙だって、全部偽物……。」
そう言うと、ピクスの目から涙が。隣を見ると、ユイも同様に涙を流し、ストレアも涙を浮かべていた。その涙は、水晶のように透き通っていた。
アスナ「ユイちゃん……あなた達は、本当の知性を持っているんだね。」
ストレア「わからないよ……そんなの…」
キリト「……なぁユイ。」
キリトが柔らかい声で、座る少女達に問う。
キリト「ユイ達は、もうシステムに縛られる存在じゃないんだ。ユイの、ユイ達の望みはなんだい?」
その問いに、少女達はさらに涙を流し答える。
ユイ「私は……ずっと、一緒にいたいです……!パパ…!ママ…‼︎」
アスナ「……ユイちゃん……!ずっと、一緒だよ……!」
キリト「あぁ、誰がなんと言おうとユイは俺達の子どもだ。」
ストレア「私も……ソーマやキリトと、一緒にいたいよぉ……!」
ソーマ「……ストレア。」
ピクス「私…だって……!もっとシャムとお話ししたい……!」
シャム「っ……!」
キリトとアスナはユイちゃんを、シャムはピクスを抱きしめ、俺はストレアの頭を撫でる。ずっとこの時間が……と思っても、その時は無情にもやってくる。
ユイ「……もう、遅いんです。」
ソーマ「……遅いって、まさか。」
ユイ「……はい。私達が記憶を取り戻したのは、GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたこのコンソールに触れたからです。」
ユイちゃんが座っている物体に触れると、水色の線が走り、キーボードとホログラムの画面が出てきた。これが……
ユイ「そしてあのボスモンスターを消去したことによって、私達の存在がカーディナルに見つかり、システムの異物としてじきに消去されてしまうでしょう。」
アスナ「えっ……?」
シャム「そんな……」
キリト「なんとかできないのかよ!」
ソーマ「…………」
突如、ユイちゃんやストレア、ピクスの身体が白く光り始めた。すぐに消去されてしまうのだろう。
ソーマ(コンソール……ユイちゃん達はプログラム、AI…………これなら…………‼︎)
ソーマ「キリト!ユイちゃん達をカーディナルから引き剥がせ!」
キリト「引き剥がすって言ったって、どうすりゃいいんだよ!」
ソーマ「このコンソールだよ!今ならまだ、GMアカウントで割り込めるはずだ‼︎」
キリト「……‼︎そうか‼︎」
俺がキリトに指示すると、合点がいったのか、キリトはすぐにコンソールで操作を始めた。
ソーマ「間に合えばいいがな……」
ユイ「なぜ……」
ソーマ「ん?」
ユイ「なぜ、そこまで、一生懸命になれるんですか?こんな、ただのプログラム相手に……」
ソーマ「なんで……か。ストレアはいつもどこから出てくるかわからないけど、一緒にいても退屈しない。ピクスはあまりお話できなかったから、もっと色んなことをしたい。ユイちゃんは……君達3人が、本当の家族に見えたから。だから…なんだ。簡単に言うとな………もう、友達は、大切な人は失いたくないんだ。特に、ユイちゃんには消えて欲しくない。親と子どもが別れるのが………俺は一番嫌だ。」
ストレア「ホント、ソーマのそういう所、惹かれちゃうな。」
ソーマ「今回ばかりは俺の専門外だからな。こうやってただ見守ることしか出来ない。」
ピクス「あなたの、その気持ちだけで充分よ。私自身、もっとソーマと一緒にいたい。……でも、今だけはさよならね。」
ピクスを包む光が一層強くなる。
シャム「ピクス……!ダメ、行かないで……!」
ピクス「シャム。短い間だったけど、楽しかったわ。私の為に、色々としてくれてありがとう。今度会えたなら…………そうね、一緒にゲームでもしましょ?」
笑顔でそう言ったピクスは、光の粒になって消えていった。
ストレア「私も……そろそろかな。ソーマもキリトも、ありがとね。」
キリト「ストレア!」
ストレア「誰かを思い合える心って素晴らしいね……。その心、大事にしてね。忘れちゃダメだよ?」
ソーマ「ストレア………ありがとう。……またな。」
ストレア「ふふっ、私、ソーマのその
ストレアを包む光が強くなり、その粒は薄く消えていった。
ユイ「皆さん…行っちゃいましたね。」
アスナ「ユイちゃん!ダメ!行かないで‼︎ユイちゃんがいないと、私、笑えないよ……!」
キリト「行くなユイ‼︎」
ユイ「これからも、みんなを助けて……喜びを分けて…ください。」
アスナ「嫌!ユイちゃん‼︎」
ユイちゃんを包む光が強くなり、虚空へと光の粒が消えていった。それでも、ユイちゃんの最後の声は、アスナにも届いただろう。
ユイ(ママ……笑って……)
俺には、そう聞こえた。
キリト「クソッ、カーディナル‼︎なんでもお前の思い通りになると思うなよ……‼︎」
床に崩れて泣くアスナ。
今なお懸命に少女達を救おうとプログラム相手に奮闘するキリト。
なんとも言えない喪失感を感じてると、背中に重みを感じた。後ろを見ると、シャムが寄りかかっていた。俺は何も言わず、背中を貸した。
部屋に響くのは、キーボードを叩く音とアスナの悲痛な泣き声。あとは上手くいくことを願うしかない。
ーと、その時。
キリト「ぐあっ‼︎」
キリトがコンソールから弾かれた。その際の音で俺達は顔を上げた。アスナがキリトの心配をして近寄った時に、キリトから何かを手渡された。
すぐに起き上がったキリトから、俺とシャムにも何かを手渡される。アスナは水色の、俺は薄いピンクの、シャムは銀色のクリスタルの欠片のようなものだ。
アスナ「キリト君、これって……?」
キリト「ソーマの早い判断のおかげだ。……ユイ達をシステムから切り離して、オブジェクト化した。」
ソーマ「ってことは…」
キリト「それぞれユイ、ストレア、ピクスの心だよ。」
シャム「ピクス……!」
アスナ「ユイちゃん……!ここに、いるんだね……!」
キリト「ユイ達は最終的に俺のナーヴギアのローカルメモリに保存されるようになってるから、現実に戻ったらまた会えるさ。」
ソーマ「じゃあその為には、現実で会わなきゃいけないな。」
キリト「あぁ。必ず、生きて帰ろう……!」
◇◇◇
その後、アスナとシャムはユイとピクスの心をネックレスに、俺はストレアの心を指輪にして肌身離さず持った。
彼女らに会う為にも、彼女らの願いの為にも、まずはこの世界をクリアしなければならない。
そう思い、俺は翌日からまた最前線の攻略に励んだ。
そして俺は、何度目かわからないー
ー地獄を見ることになる。
fin
◇◇◇
次回
17話「骸骨の刈り手」
はいどうも中毒野郎です。
半年ぶりの投稿になります。めっちゃ遅れてすみません汗
今回のはオリジナルを混ぜるのが難しくて……だからって半年もかからないんですけどね。すみません、全然スイッチが入らず筆が止まってました。
でもでも、今回からまたスイッチ入れ直して頑張りたいと思います。この作者の想像全開な小説を読んでくださり、本当にありがとうございます。