SAO:time   作:窓風

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EPISODE18 「面白くて最悪なシナリオ」

 

 

 

疲れた。ひどく疲れた。

 

ボスはなんとか倒したものの、犠牲が14人と多すぎた。

 

おかげで攻略組の今の空気はひどい。

 

エギル「あと、25階も登らねぇといけねぇのか……」

 

あと25階、今回のようなボスを倒さなければいけないと思うと、気分的に滅入る。

 

ソーマ「最低1週間は……休みをもらいてぇな……」

 

生き残った面々は、冗談はおろか、まともに立つことすらできていなかった。

 

 

ただ一人、残りHPがグリーンに染まり、疲弊している攻略組を上から眺める聖騎士を除いて。

 

 

攻略組に向けられる聖騎士の目は、転移門広場で俺に向けられたものと同じような気がした。慈悲を含みながらも、どこか楽しんでいるような……

 

 

なんともいえない違和感を感じた瞬間、俺のすぐ近くでアスナと背中合わせにして座っていたキリトが、片手剣の突進型ソードスキルでヒースクリフに斬りかかった。予想外の不意打ちにヒースクリフを含むプレイヤー全員は驚愕し、ただその光景を見ていた。

 

キリトの愛剣は白十字の盾より上にいき、ヒースクリフの顔にヒットする。

 

 

そう思っていた。

 

 

金属同士がぶつかるそれとは違う、別の激突音がフィールドに響いた。音の出所はヒースクリフの目の前にある『Immortal Object(不死属性)』と書かれた紫色のウィンドウだった。

 

ソーマ「……そうか。」

 

合点がいった。違和感の正体がなんとなくわかった。あとは本人に聞いて確かめる他ない。

 

アスナ「システム的不死…⁈団長、それは一体……?」

 

キリト「いくら攻撃しても、こいつのHPはイエローになることはない。システムに保護されてるんだ。」

 

周囲がざわつく中、キリトは続ける。

 

キリト「この世界に囚われてから、ずっと考えていた。あいつは今一体どこで、どうやって俺たちを監視し、世界を調整しているのかってな。でも、単純なことだった。小さな子どもでも知っていることだ。」

 

ま、そもそも俺は知らないけどな。と言おうとしたが空気がぶち壊れるから思うだけにしとく。

 

キリト「『他人のやってるRPGを傍らから眺めるほどつまらないものはない。』そうだろ?茅場晶彦。」

 

 

茅場晶彦。

SAOの開発者にしてGM。その男が、今目の前にいるという。

 

ヒースクリフ「……なぜその結論に至ったか、参考までに聞かせてくれるかな?」

 

ヒースクリフは表情一つ変えずに問う。

 

キリト「最初におかしいと思ったのは、」

ソーマ「前の決闘だろ?」

 

視線が俺に集まる。

 

ソーマ「キリトが最後の一撃を当てる一瞬、あんたはあまりにも速すぎだったぜ。普通だったら盾を引き戻す前に決闘が終わってた。」

ヒースクリフ「ほう、君も気づいてたのかね?」

ソーマ「あの一瞬だけ妙な違和感があっただけだ。さっきキリトが言わなかったら知らないままだったさ。」

ヒースクリフ「そうか。アレは私にとっても痛恨事だった。キリト君のスピードに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまったよ。」

 

キリトと俺を除くプレイヤー達は困惑していた。いきなり目の前の聖騎士がゲームの創造主だと言われたから、困惑しない方がおかしい。

 

ヒースクリフ「確かに私は茅場晶彦だ。加えて言うならば、君達と最上層で戦う最終ボスでもある。」

 

……なんと。

 

キリトの読みは当たり、ヒースクリフ=茅場晶彦という事実がハッキリした。だが予想以上の収穫というべきか、SAOのラスボスだということもヒースクリフは打ち明けた。

 

キリト「趣味がいいとは言えないな。最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスか。」

ヒースクリフ「中々いいシナリオだろう?」

 

ヒースクリフはキリトと俺を見据えて淡々と話す。

 

ヒースクリフ「最終的に私の前に立つのは君達だと予想していた。『二刀流』スキルは魔王を倒す勇者の役割を、『神速』や『抜刀術』など他のユニークスキルはその勇者のサポートをする役割を担うものだった。だが君達は、予想以上のものを見せてくれた。」

ソーマ「その話を聞く限り、俺のユニークスキル『神速・抜刀術』は元々別のスキルだったってことか?」

ヒースクリフ「そうとも。『二刀流』は一番の反応速度を、『神速』は一番の剣撃速度を、そして『抜刀術』は一番の剣術を持つプレイヤーに与えられるはずだった。『二刀流』は問題なくキリト君に与えられたが、何かの因果により『神速』と『抜刀術』が合わさった形でソーマ君に与えられた。おかげで、全部で10個あったユニークスキルが9個になってしまったがね。」

ソーマ「剣術なり剣撃速度だったら、俺よりも適任がいたんじゃないのか?あんただってアスナの剣撃速度は知ってるだろ?」

ヒースクリフ「知っているとも。ソードスキルによる加速があれば『神速』を与えられたのはアスナ君だろう。しかし、ユニークスキルは個々人のプレイヤースキルを判断基準にしている。それ故に、独特な戦い方をするソーマ君に『神速』と『抜刀術』が与えられたのだろう。君は不確定要素の塊みたいな、面白いプレイヤーだ。これもまた、ネットワーク型RPGの醍醐味というべきかな。」

 

その時、血盟騎士団の一人が怒りを露わにし、その手に持つ両手剣でヒースクリフに斬りかかろうと飛んだ。

 

しかしヒースクリフは冷静に対処する。左手を振り素早く何かの操作をすると、斬りかかろうとしたプレイヤーは麻痺状態になり、重力に逆らわずに墜落した。視線だけを動かすと、他のプレイヤーも次々と麻痺状態にされ地面に突っ伏していた。なぜか俺とキリトだけは麻痺状態にされなかった。

 

ソーマ「ここで全員殺して隠蔽……ってわけではなさそうだな。」

ヒースクリフ「そんな理不尽な真似はしないさ。今まで育ててきた攻略組を途中で放り出すのは少々不本意だが、私は先に最上層の紅玉宮にて君達の到着を待つとしよう。なに、君達ならたどり着けるさ。……だが、その前に。」

 

純白の十字盾がボス部屋の床に突き立てられ、金属音が響く。

 

ヒースクリフ「君達には、私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。今この場で君達が私と決闘し、私に勝てば全プレイヤーを解放しゲームクリアとする。無論、不死属性は解除する。私は2対1でも構わないが、どうかね?」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

俺は、英雄になりたいわけではない。

 

では何故、日々の一瞬一瞬を懸命に生きれるのか。

 

何故、目の前で人が死ぬのを怖れるのか。

 

…………何故なのかな。

 

この世界に来てから、得たものがあった。失ったものがあった。

 

じゃあ、ここに来る前は?

 

…………わからない。未だに。

 

日々を過ごしていく中で、思い出したことはあった。

 

でもそれは、「そういえばこんなのが好きだったな」「こういうのが苦手だったな」「こんな風にしたことがあったっけな」程度のものだった。

 

はっきりと「思い出した」と言えるのは、つい最近のクラインとの件と、去年の夏のはじめの件だ。

 

一度「妹」という単語で激しい頭痛が走ったことがあるが、その時以降、何かの単語による激しい頭痛はなかった。結局、何かを思い出すまでには至らなかった。

 

つまりまぁ、俺は自身についての謎が多すぎる。ヒースクリフの言う通り、不確定要素の塊だ。

 

もしこれが、この世界が、俺の見る夢だとしたら。俺がこの世界で見て、聞いて、感じたことが全部夢で。仮に最上層まで辿り着いてゲームクリアしたとしたら。

 

…………俺は、この世界と共に消えてしまうのではないのか。

 

そう、思ってしまった。

 

少なくとも俺の心は本物だと思う。それ故に消えたくないと考えてしまう。

 

そんな時、ふとこの世界に来てからの行動を思い返した。

 

 

 

…………なんだ。何をバカみたいに悩んでたんだ。

 

答えなんて、とっくの前から出てるじゃないか。

 

どうせなら、最後の最期までその意志を貫いてやろうじゃないか。

 

 

 

俺は、英雄になりたいわけではない。

 

感謝や見返りなんていらない。

 

その人の笑顔が守ることができたなら。

 

その人がそこにいるという幸せを感じられるなら。

 

俺は、この手を伸ばそう。

 

そして、そこからいなくなろう。

 

 

 

吹いては止み、右に左に流れる。

 

一筋の風になろう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ソーマ、キリト「「いいだろう。」」

 

キリトと声が重なり、互いに目を合わせる。

 

キリト「ソーマ、」

ソーマ「先にやらせてくれ。」

 

ウィンドウを操作し、薄いピンク色の結晶が埋め込まれた指輪をキリトに渡し、ヒースクリフの方へ歩き出す。

 

アスナ「ソーマ君、それ……!」

ソーマ「押し付けるようで悪い。……あとは頼んだ。」

キリト「っ、おい!」

 

呼び止めには応じない。その双眸が見据えるはヒースクリフただ一人。

 

ソーマ「2つ聞きたいことがある。」

ヒースクリフ「何かな?」

ソーマ「『神速・抜刀術』のソードスキルは確認したのか?」

ヒースクリフ「もちろん。壱の太刀から最終奥義まで把握済みだ。」

ソーマ「そうか。そんでもう一つだが…………俺がソードスキルであんたの鎧に傷をつけたら俺の勝ち、剣や盾で防いで鎧に傷が付かなければあんたの勝ち、ということにできないか?」

ヒースクリフ「…………君は、アレを使う気なのかね?」

ソーマ「1回も使わずにゲームクリアするのも癪でね。」

ヒースクリフ「…………ハハハ!君は本当に面白い。その案に乗るとしよう。」

ソーマ「決まりだ。ただ注意しろよ?下手したらその緑色が一気に黒くなるからな。」

ヒースクリフ「それについては十分気をつけることにしよう。」

ソーマ「不意打ちはしないが、俺のタイミングでいかせてもらうぞ。」

ヒースクリフ「構わんよ。」

 

ヒースクリフとの交渉は終えた。あとは……

 

後ろに振り返り、特に俺を心配そうに見つめるエギル、クライン、アスナ、そしてキリトに笑いかける。

 

ソーマ「……悪りぃ。」

 

前を向き、左腰に帯剣してある愛剣『ウィンディア・スウィフト』を抜きながら独り言のように呟く。

 

ソーマ「……我が剣は一閃なり。我が剣技は無限なり。夢を斬り、幻を断つ。狙うはただ一点、無限の彼方。」

 

全身の力を抜き、楽な姿勢で立つ。両手は身体の横に。そしてソードスキルを発動させる。

 

ソーマ「あんたが勝ったら、俺を斬るなり殺るなり好きにして構わないぞ。」

ヒースクリフ「……承知した。手加減はなしだ。」

ソーマ「共に戦った戦友が魔王サイドに堕ちる展開……俺は結構好みだぜ、茅場。」

ヒースクリフ「……君とは気が合うようだ。できることなら、色々と語り合いたいものだね。」

 

目を瞑り、ヒースクリフの言葉にふと笑みをこぼす。キリト達が何かを叫んでいるかもしれない。しかしその声は俺には届かない。

 

深く息を吸い、目一杯吐く。

 

ソーマ「…………行くぞ。」

 

そう言って目を開ける。

 

脳が、身体が加速を始める。時が止まった世界で、ただ一人銀色に光り輝く剣を振るう。邪魔するものは、何もない。

 

 

…………はずだったのだが。

 

一瞬。ほんの一瞬。時が止まった世界での一瞬。その時に、浮遊城全体が右から左へと青く染められた。

 

まるで、この世界をまるごとコピーするかのように。

 

 

その所為か、加速する世界で次に見たのはヒースクリフの装備する金属に迫る自身の剣。

 

ソードスキルは一度発動させてしまえば、余程無理に動かさない限りその剣の軌道は変わらない。

 

それ故に、変えられない結果が見えた。

 

愛剣を目一杯振り抜き、鞘に納める。おそらく今の動作を全て視認できたプレイヤーはいないだろう。そんな、まさに瞬きの間に放つユニークスキル『神速・抜刀術』の最終奥義。

 

放つは一閃。神経を研ぎ澄まし、ただその一太刀に賭ける。

 

 

…………終の太刀『夢幻』。

 

 

剣を納め、ソードスキルを放ち終わる間際。

 

誰にも聴き取れない程の音量で呟く。

 

 

 

ソーマ「…………なんてこったい。」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ヒースクリフ「……手加減したわけではなさそうだね。」

 

静寂に包まれたボス部屋に響く。

 

ソーマ「俺は日々全力だからな。手加減なんて基本しないさ。」

ヒースクリフ「それもそうか。……いやしかし、予想以上の速さだね。見ることすらできなかった。」

ソーマ「そりゃ……どうも。」

 

そう言って、震える足をどうにか動かしヒースクリフに向き直る。

 

ヒースクリフ「不思議なこともあるものだ。衝突時の金属音の周波数が高すぎて聞き取れないときた。君には驚かされてばかりだ。」

ソーマ「それは俺もびっくりだ。また面白いデータが取れたんじゃないか。」

キリト「……どういうことだ?」

 

わけがわからない、と言いたげな顔でキリトや他のプレイヤーが俺とヒースクリフを交互にみる。

 

ソーマ「今のソードスキルで俺の剣とヒースクリフの盾がぶつかったんだが、その時に発生する金属音が高すぎて人の耳じゃ聞き取れなかったんだよ。」

キリト「……は?」

アスナ「た、盾……?」

ソーマ「結論を言うとだな。今の勝負、俺の負けだ。」

 

プレイヤー達の顔が絶望の色に染まる。何か言おうとするキリトの言葉を遮って続ける。

 

ソーマ「悪いが今の俺には、もう剣を持つ体力はない。……目の前はチカチカしてて足もふらふらで、立ってるのがやっとなんだよ。そのくらいさっきの一撃に賭けてたんだが……どうやらここで運のなさが発揮されたようだ。」

 

瞼を閉じて足の感覚だけでなんとか立つ。今にもぶっ倒れそうだ。

 

ソーマ「ヒースクリフ、一思いに頼む。俺はもう…………疲れた。」

ヒースクリフ「……そうか。」

キリト「おい……待てよ……!」

ソーマ「キリト!」

 

腹から目一杯の声を出す。あまりの大きさにキリトが一瞬固まる。

 

ソーマ「元々、俺はちゃんとこの世界で生きているのか怪しかった。もしかしたらこの世界に作られた存在で、見てきた景色とかは全部偽物じゃないのかって思ってた。…………でも2年前、お前は俺にこの世界での生き方や剣を教えてくれた。いわば、お前は俺の友であり師匠でもある。」

キリト「おい……」

ソーマ「師匠は弟子より強いのが普通だ。だから絶対、負けるんじゃねぇぞ。………ありがとう。…………またな。」

キリト「…………‼︎‼︎」

 

瞬間、腹を貫く一撃が俺を襲う。刺さっている剣を辿ると、ヒースクリフがいた。無表情にも見えるその顔は、俺には少しばかり悲哀も混じってるように見えた。

 

今まで見てきたポリゴン片になるまで、なぜかとても長く感じた。

 

自然と、アインクラッドでの今までの出来事がフラッシュバックする。

 

悲しい思い出も多いが……なんだかんだ楽しかった。

 

ポリゴン片になる最後の一瞬に、大切な人のことを思い出した。

 

ソーマ『どうやら、俺の冒険はここで終わりみたいだ。……悪いな、ルカ。』

 

身体の内側から弾けるように、俺は水色の破片となって宙に舞った。

 

 

 

fin

 

 

◇◇◇

 

次回

 

19話「そして浮遊城は崩れゆく」




どうも、『SAO・東方中毒』から改名しました『窓風』です。

前話から結構経ってしまいました。遅くなってすみません。どうやら自分の執筆スイッチは不安定なようです(苦笑)

次も頑張って書きたいと思います。ではまた。
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