SAO:time   作:窓風

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EPISODE19 「そして浮遊城は崩れゆく」

 

 

 

 

 

とても綺麗な夕陽だ。

 

足元は透明な床があり、不思議な浮遊感を感じる。

 

オレンジ色に染まる空に、俺はいた。

 

これが、天国とか極楽浄土というものか?

 

自分の身体を見ると、死ぬ間際までに身につけていたコートなどの装備品に加え、愛剣も左腰に帯剣されていた。身体は薄く透き通り、亡霊にでもなった気分だ。

 

ソーマ「…………。」

 

視線を下に向けると、ガラガラと崩れていく鋼鉄の城があった。この2年間の思い出の塊が、データとして消えていくようだった。

 

ソーマ「これは……」

「ソ、ソーマ…………?」

ソーマ「ん?」

 

聞き覚えのある声がした方へ向くと、手を繋ぐ黒の剣士と閃光がいた。2人も俺と同じように身体が薄く透き通っていた。

 

ソーマ「……よぉ。」

キリト「………………」

 

キリトは少しの間黙っていた。

 

そのキリトの表情と、隣にアスナがいることからなんとなく察する。なんともまぁ……。

 

ソーマ「負けはしなかったようだな。……まぁ、いいんじゃねぇの?勇者と魔王の相打ちって展開もさ。」

キリト「…………‼︎‼︎」

 

その後キリトは、何度も「ごめん、ごめんな」と謝ってきた。「謝る必要はない。よく頑張ったな」と俺はキリトの頭を撫でながら慰めた。

 

2年ぶりに聞いた声が聞こえたのは、キリトが落ち着いてすぐの頃だった。

 

「中々に絶景だな。」

キリト「茅場晶彦……!」

 

白衣を纏い、崩れゆく浮遊城を眺める若い男が、SAOの開発者、茅場晶彦その人だ。先程まで死闘を繰り広げたであろうキリトは、とても驚いていた。

 

茅場「現在、アーガス本社地下5階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置で、データの完全消去を行なっている。あと10分もすれば、この世界は跡形もなく消えてなくなるだろう。」

 

右手を振りウィンドウを開くと、装備やアイテム欄などはなく、『最終フェイズ実行中 現在60%完了』とだけ表示されていた。

 

崩れゆく鋼鉄の城を見ながらアスナは問う。

 

アスナ「あそこにいた人たちは、どうなったの……?」

茅場「心配には及ばない。つい先程、生き残ったプレイヤー6147人のログアウトが完了した。」

キリト「……今までに死んだ4000人はどうなる?」

茅場「……残念ながら、彼らが戻ってくることはない。死者が消え去るのは、どこの世界でも一緒さ。」

 

少しの沈黙の後、キリトが茅場に疑問を投げかけた。『なぜ、こんなことをしたのか』と。

 

茅場「なぜ、か。……私も長い間、忘れていたよ。なぜだろうな…………。」

 

茅場はどこか違う世界を見据えるような目で語った。

 

茅場「フルダイブ環境システムの開発を知った時…………いや、その遥か以前から私は、あの城を現実の枠や法則を超えた世界を見ることだけを欲して生きてきた。そして私は、私の世界の法則をも超えるものを見ることができた……。私はね、キリト君。まだ信じているのだよ。どこか別の世界に、本当にあの城が存在するのだと…………。」

キリト「……ああ、そうだといいな。」

 

すると何かを思い出したように、茅場は俺の方を見た。

 

茅場「それと、ソーマ君。君はあんなことを言っていたようだが…………その可能性はないよ。君は、何らかの手段でこの世界に来た。システムによって作られたものではない。君は、君という現実世界の人間の意識を持って、ここで2年間を過ごしたのだよ。君の本来の身体は、現実世界のどこかの病院に保護されているはずだ。」

ソーマ「……‼︎」

 

あんなこと、とは。

おそらく、死ぬ前に言った『この世界に作られた』とか言ったことだろう。

 

今まで抱えてた荷物がなくなり、とても気が楽になった。

 

ソーマ「…………そうか。そしたら、あんたは俺の恩人とも言えるな。礼を言う。ありがとう。」

茅場「……一つ、言い忘れていた。ゲームクリアおめでとう。キリト君、アスナ君、ソーマ君。」

 

茅場はそう言うと、こちらに背を向けて歩き出す。心なしか、茅場が少し笑っているように見えた気がした。

 

茅場「では、そろそろ私は行くよ。」

 

俺たちは風と共に消えゆく世界の創造主を、ただ見つめていた。

 

キリト「…………。」

ソーマ「……………俺も先に失礼するかな。」

アスナ「え……?」

 

ウィンドウを開くと、『最終フェイズ実行中 現在94%完了』と表示されていた。もうすぐここも崩壊するだろう。

 

ソーマ「……魔王を倒した勇者御一行は、世界各地を回り、仲間が1人、また1人とそれぞれの故郷へ帰っていく。最後に残るのは、勇者とヒロインだ。」

 

脳裏に映像が流れるのは、攻略中にふと思い出した、昔遊んだRPGのエンディングだ。ああいうのに、少し憧れていた。

 

ソーマ「今の場合だと、最終的にはハッピーエンドってわけじゃないけど、なんか、心地いいだろ?俺にとっては、お前たち2人がそうだ。…………まぁ、カッコつけて勝手に死んでった奴が言うのもなんだけどな。」

アスナ「ソーマ君…………」

ソーマ「もし違う世界でまた会うことがあったら、その時は……」

キリト「……ああ、また一緒に、な。」

 

互いに拳をぶつけ、俺は背を向けて歩き出す。本当なら、言いたいことがたくさんあるのだが、言葉はいらないようだ。

 

ソーマ「そんじゃ、ソーマこと『蒼葉 誠』はここで退場だ。……またな。」

アスナ「……またね、ソーマ君。」

キリト「またな。…………ありがとう。」

 

微笑み、目を閉じると、心地いい風が吹いた。

 

身体の内側から溶けていくように、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

再び目を開けると、今度は真っ暗な空間に来た。自分の姿しか視認できないが、特に気にすることなく歩き続けていた。いずれ光が見えて、その中に消えていくのだろうと思いながら、歩いていた。

 

「誠。」

 

もう聴くことはないと思っていた、とても懐かしく、とても愛しい声が聞こえ、歩みを止めて振り返る。

 

そこには白いワンピースを着た、1人の少女がいた。成長したユイちゃんを彷彿とさせるが、髪は肩までの長さで両頬に薄っすらと見えるそばかすは、間違いなく彼女だった。

 

ソーマ「…………ルカ。」

ルカ「お疲れ様、かな?」

ソーマ「……だな。結構疲れたよ。」

 

しばらくの沈黙の後、俺は彼女に尋ねた。

 

ソーマ「……たまに聴こえた声は、ルカ?」

ルカ「どうなんだろね。私かもしれないし、私じゃないかもしれない。」

ソーマ「じゃあ、ルカの声だったってことにしとくよ。」

ルカ「ふふっ」

 

彼女が微笑む。もう見ることができないと思ってた、彼女の笑った顔。これが例え幻でも、彼女の笑顔が見れたのなら、もう思い残すことはない。

 

また歩き出そうとすると、今度は彼女が尋ねてきた。

 

ルカ「どこに行くの?」

ソーマ「……どこだろうな。君のいるところかもしれないし、また別の世界かもしれない。今はただ、罪を背負って歩き続けることだけが、俺にできることだ。」

ルカ「………………後悔してる?」

ソーマ「…………たぶんね。自分でもよくわからないけど、寂しいというか、喪失感はいつまでも消えないな。でも、もう決めたから。…………君が見ることができなかった分まで、これからの世界を見ようって、決めたから。」

ルカ「……それなら、大丈夫だね。」

ソーマ「ああ、安心していいよ。」

ルカ「じゃあ、最後に……」

 

ふわっ、と重力を感じさせない動きで、彼女が俺の胸に飛び込んできた。

 

彼女を抱きしめたかった。でも、触れたら居なくなってしまうかもしれない、壊れてしまうかもしれないという恐怖があった。

 

ただ彼女の温もりを感じていた時、彼女はそう言った。

 

 

ルカ「…………私は、君の心にいつでもいるからね。」

 

 

いつの間にか閉じていた目を開けると、彼女はもうそこにはいなかった。

 

ソーマ「…………ありがとう。」

 

彼女への感謝の言葉は、虚空へと消えていった。でも、きっと届いただろう。

 

その時、歩き出そうとした方向から小さく光が差し始めた。それは徐々に強くなり、黒の世界を白に染めていく。

 

不思議と恐怖は無かった。俺はこれを、新しい世界への旅の始まりだと思ったため、恐怖より好奇心が勝ったのだ。

 

 

…………一つだけ、願いが叶うというのなら。

 

あの城で出会った、ただ1人の師匠であり親友である友に、また逢いたい。

 

 

そう思いながら、俺の身体は世界を照らす光に包まれた。

 

 

 

◇◇◇

 

次回

 

20話「新たな世界、そこは妖精郷」




どうも、窓風です。

ついに、というかやっとアインクラッド編が終わりました。
スイッチが入らない日が続き、20話を書き上げるのに1年……いや、2年経ってますね。サボりすぎ。

まぁそれはともかく、自己満足のこの小説を読んでくださっている読者さんにも感謝です。

誠君の冒険はまだまだ続くので、これからもどうぞよろしくお願いします。

予告通り、次回からフェアリィ・ダンス編に突入しますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

最後に、前回で出たオリジナルソードスキルの解説だけ載せておきます。

それではまた。


神速・抜刀術スキル
終の太刀「夢幻」 Hit数:1
(奥義の1つ。楽な姿勢で立って身体中の力を抜き、攻撃する一撃に全てを賭ける不定形ソードスキル。発動中は視認できるものがいない程速く、不定形の為一見最強だが技後硬直がソードスキル中最長かつ、使用者の脳がソードスキル中の様々な処理にほぼ追いつかないので、使用後は倒れてもおかしくない。
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