EPISODE20「新たな世界、そこは妖精郷」
『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。』
無機質な声のアナウンスで、俺の意識は覚醒した。
誠「アルブ……なんだって?」
周りを見渡すと真っ暗な空間、というわけでもなく、縦3列に並んだ水色の長方形が俺の周りを回っていた。床は俺を中心に二重の橙の円が描かれていた。
目の前に現れたウィンドウを見ると同時にアナウンスが流れた。
『性別とプレイヤーネームを登録してください。』
誠「SAOと違って性別も変えられるのか……」
ここでハッとした。俺、記憶あるやん。
2年前のSAOみたいにログイン前の記憶が消えてることはなく、アインクラッドでの記憶が一つ一つちゃんと思い出せた。
誠「……ここが、俺の新しいステージか。」
特に考えることもなく、流れに沿って名前をキーボードで打つ。SAOの時と同じプレイヤーネーム「Soma」で新しい世界へと旅立とうじゃあないか。もちろん性別は
『それでは、種族を選択してください。』
誠「種族?」
疑問と同時に、目の前に9つのアバターが現れた。赤、緑、茶、紫、黒、白、銀、黄、青の9色が、それぞれの種族を象徴しているのだろう。
何よりも驚いたのは、9つアバター全ての背に、それぞれの種族の色をした4枚の羽があることだ。薄く輝くそれを見て、何か閃きそうになって後ろを見たところ、おそらくログインした時のものであろう文字が宙に浮いていた。
立ち位置的に逆文字になって見にくかったが、『Welcome to ALfheim Online !!』と読めた。そのおかげで謎がある程度は解けた。
誠「これ、北欧神話がモデルだろ?多分。」
俺の中ではギリシャ神話に次ぐメジャーな神話の印象である北欧神話。人間、神、妖精、巨人など多彩な種族が登場し、終末の戦争『
なぜ北欧神話がモデルか、という結論に至った根拠の一つは、先に言った通り妖精が登場するからだ。神話というだけあってメインは神々だが、ちょくちょく妖精も出てきた覚えがあった。鍛治が得意なドワーフなんかは結構登場していたな。
もう一つの根拠として、ゲームの名前にもなっている『アルブヘイム』だ。北欧神話の舞台である大地は9つの世界に分かれている。その中に『〜ヘイム』とあったため、この結論に至った。アルブヘイム自体は聞いたことはなかったが、地下世界に炎の世界『ムスペルヘイム』や氷の世界『ニブルヘイム』などがある。
……ともかく。北欧神話が基になっていると考えていいだろう。それにしても、羽があるってことは……?
誠「まさかとは思うが、飛べるのか?飛べるんだな?」
少し興奮してしまった。自分の身体で空を飛ぶのにはロマンがある。浪漫が、ある。
誠「これは……楽しめそうだな。」
ワクワクしながら、9つの種族の大まかな情報をそれぞれ見てどれにしようか悩む。全身真っ黒な『
『
その名の通りである。他の種族と違う点としては、妖精特有の尖った耳はなく、代わりに猫の耳が付いているのだ。しかも後ろに見れば人間の尾骨にあたるところから尻尾も生えている。耳はともかく、尻尾となると感覚的にどうなるのか気になってしまった。
種族情報を見ると、テイミングや敏捷が全種族一らしい。テイム、というとシリカとピナを思い出す。
まぁそういうことで、好奇心に負けて種族をケットシーに決定する。容姿はランダムで生成されるらしい。
『それでは、ケットシー領のホームタウンに転送します。幸運を祈ります。』
そのアナウンスの後、身体が青白く光り、新たな世界に転送された。
補足として、『猫妖精族』とは言うが、ごく稀に猫以外の動物も生成されるらしい。
◇◇◇
浮遊感を感じる。いや、浮遊というより落下か?
ソーマ「おお……!」
目を開けると、広大な大地が俺を迎え入れた。月明かりに照らされながら落下方向を見ると、周りを海に囲まれた陸地で灯りがついている街が見えた。あそこがケットシーのホームタウンとやらだろう。
重力加速度に任せて落下していると、ふと嫌な予感を感じる。
……これ、このままだったら落下死すんじゃね?
マズい、と思いメニューを開こうと右手を振る。しかしメニューは現れない。
ソーマ「はぁっ⁈」
何度右手を振ってもメニューは出ない。試しに左手を振ってみると鈴の音と共にメニューが現れた。ほっとしつつアイテム欄から転移結晶を出そうとすると、今度はアイテムが文字化けしてるときた。
ソーマ「はぁぁっ⁈」
街の灯りがみるみるうちに近づいてくる。そこでハッとする。羽で飛べばいいじゃん!
背中に意識を集中させると、黄色に光る羽が出てきた。とりあえず飛ぼうと背中に力を入れる。それでも落下は止まらない。
さらに力を入れる。それでも落下は止まらない。
一瞬落ち着いてまた力を入れる。それでも落下は止まらない。
地面はもうすぐそこ。5,6秒もすれば激突してお陀仏だろう。
そこでまたもハッとする。羽は肩甲骨辺りから生えていた。となると、そこに意識を集中させればまだなんとかなるのではと考えてすぐ実行する。
目を閉じて1秒だけ脱力し、その間に肩甲骨周辺に意識を向けて仮想の骨と筋肉で構成された羽をイメージし、パラシュートを開く感じで羽を目一杯広げる。
ソーマ「んごぉっ⁈」
瞬間、今まで加速していた分を加えた重力が俺を襲い、情けない声が出る。あまりの衝撃に背中への意識が途切れ、羽が消えて地面に落ちる。落下時の痛みはほぼなかったため、おそらく地面は目と鼻の先だったのだろう。本当にギリギリ間に合ったようだ。
鼻をさすりながら起き上がると、街灯に照らされた街並みが広がっていた。その界隈にいたプレイヤー達は俺のことを見ていたが。
ソーマ「………………」
どう反応したものか、と考えていたところに、背後から声をかけられた。
?「キミ、大丈夫かい?」
ソーマ「あぁはい。なんとか…………」
振り向くと、とうもろこし色のウェーブがかかった髪の両脇から覗く三角形の大きな耳、褐色肌に白のワンピースに戦闘似たスーツを着た、小柄なケットシーの女性だった。その後ろに見える館らしきところから出てきたのだろう。
?「ふぅむ……キミ、初心者だネ?」
ソーマ「え?そ、そうですが。」
?「じゃあちょうどいいネ。ちょっと付いてきてくれル?」
ソーマ「あ、はい……」
断る理由もないので、言われるがまま女性についていく。館に入ると、階段を登ったすぐ隣の部屋に案内された。部屋は大きなデスクに柔らかそうなソファが2つと少し大きめのテーブルがあり、校長室や社長室などのお偉いさんの部屋のようだった。
部屋に入ってすぐ左にあった鏡に目をやると、自分の姿が映し出されていた。
不思議なことに、顔や髪型、身長や肉つきまで、浮遊城を駆け回ったものと全く同じだった。オッドアイも相変わらずで、紺色の左目と碧色の右目が鏡に映る自身を見つめていた。初期装備と思われる防御面が不安な山吹色の胴着とズボンを装備し、左腰に貧相な剣を吊っていた。何より驚いたのは、本来の位置より少し上にある白銀の三角耳だった。腰の後ろ側を見ると、猫というより狼や狐に近いモフモフと膨らんだ、こちらも白銀の尻尾がある。
ソーマ「おお……」
少しばかり感動していたところに、視線を感じて振り向くと女性がニヤニヤしながら俺のことを見ていた。
ソーマ「あ…すみません。」
?「いいヨいいヨ。初めてだとみんなそうだから。」
まあ座りなよ、と言われたのでソファに腰を下ろし、テーブルを挟んで向かい側に女性もソファに座った。これから俺はナニをされるのか……。
?「じゃあまずは自己紹介から。アタシはアリシャ・ルー。ケットシーの領主をしてるヨ。」
なんと。本当にお偉いさんとは。
ソーマ「ソーマです。つい先程始めました。」
ルー「よろしくネー。」
ソーマ「よろしくお願いします。それで、なぜ俺はここに……」
ルー「うーん……個人的興味、かナ?」
ソーマ「えぇ……」
個人的興味で領主様に部屋に連れてこられるって……俺、この先大丈夫かな。
ルー「だって、猫以外の動物のケットシーって中々いないんだもん。加えてオッドアイ!レアアバターだヨ!」
猫以外の動物で『猫妖精族』とは、と言いたくなったが心の中にそっとしまっておく。
ソーマ「えっと、ルーさん。」
ルー「ん?何かナ?」
ソーマ「俺はこの世界について下調べも何もせずに始めてしまったんです。なので、色々と教えていただけると有り難いのですが……」
ルー「うーん……アタシも領主だからネー。こっちの仕事とか色々あるんだけど、いいヨ!」
そんなあっさりと。
ソーマ「え、でも」
ルー「大丈夫大丈夫!今日のは全部終わったから!」
視界の端にある時計を見ると、『2024年 11月 7日 p.m.22:42』とあった。もうこんな時間なのか。
……というより、11月7日って75層のボス戦をやって、ヒースクリフと戦い敗れ、城が崩壊したその日ではないか。念のため西暦を確認するが、間違いなかった。
ルー「それじゃあ、どこから話そうかナ?」
ルーさんの声で我に返る。考えるのに集中していたようだ。今はこっちの情報を仕入れないと。
ルーさんの話によると、ここは『ALfheim Online(略称ALO)』の舞台であるアル
9つの種族はそれぞれ世界樹の上にあるという空中都市に行き、妖精王オベイロンに謁見した種族は上位種族『アルフ』に転生することができるという。このアルフになったら何が嬉しいかというと、飛行時間の制限がなくなり自由に空を飛べるのだとか。その為全種族が他種族と競争し合いながら、サービス開始からもうすぐで1年経つという。
世界樹の上に登ればいいのなら飛べばいいのでは?と思うが、それが一筋縄じゃいかない。先に述べた通り、飛行時間に制限があり保って10分が限界なのだそう。しかもこの世界樹がまぁデカイデカイ。東京スカイツリーの比じゃないという。よって世界樹の上へ行くには、根元にあるドームからバカ強いガーディアンを突破して行くしかないという。その為の戦力増強に日々努力しているとのこと。
また、SAOにはなかった魔法が使えるPK推奨のこのゲームには、レベルの概念がない為プレイヤー個人のスキルが求められるのだという。ソードスキル無し魔法有りのSAOといったところか。
他にも飛行や中立域などの細かい話を聞き終えると、ルーさんが俺にこんな提案をしてきた。
ルー「ねぇソーマ君、明日ってインできる?」
ソーマ「できますが…………明日何かあるんですか?」
ルー「いやいや、君の戦闘能力を知りたいからネ。あと飛行の練習もした方がいいよネ?」
ソーマ「それは有り難いんですが……ルーさんこそいいんですか?」
ルー「いいのいいの!センスがあれば戦闘部隊に入れてあげてもいいヨ〜?」
ソーマ「……はぁ。では、明日もよろしくお願いします。」
ルー「うん♫じゃあ明日の夜7時にこの領主館の前でネ〜」
そう言うと左手を振り青白い光に包まれて消えていった。今のがログアウトなのだろう。試しに俺も左手を振りメニューの歯車マークを押すと、3つ現れた項目の一番下に『log out』とあった。
……そういえば。
ソーマ「現実がどうなったのか、ちょっと聞けばよかったな……」
仮想世界での現実の話はタブーだが、せめてSAOがどうなったのかくらいは聞きたかった。まぁ明日聞けばいいか。
領主館をあとにしてルーさんから教えてもらった宿屋に入る。NPCに料金(この世界ではコルではなくユルドらしい)を払って部屋に入る。
ベッドに寝転がり、シミ一つない天井を見上げる。
ソーマ「ALO、ねぇ……」
そう呟いたとき、久しぶりの頭痛が俺を襲う。この感じはあれだ、SAOにログインする時のに似ている。ということは、『俺はここも知っている』。まだぼんやりとしかわからないが、そんな気がする。
特に根拠があるわけでもないので、目を閉じて眠りにつく。明日になって、この世界に来てからの出来事が夢だったとしたら、中途半端すぎるから是非やめていただきたいが。
ただなんとなく、明日は忙しくなりそうな気がした。
◇◇◇
次回
21話「天より落とされし碧剣」
どうも、窓風です。
予想よりだいぶ早く投稿できました。嬉しい。
Fairy Dance編突入です。誠君はケットシーを選びましたが、皆さんはどの種族を選びますか?
『疾風』ならシルフだろ!と言われそうですが、ちゃんと理由があります。まぁ楽しみにしててくださいよ……
今回はこの辺で。ではまた会いましょう。