2024年 11月 9日 p.m.13:20
央都アルン
目を覚ますと、窓からは暖かな日差しが差し込んでいた。朝だと錯覚しそうになるが、実際はもう昼過ぎだ。少し寝過ぎたらしい。
大きな欠伸をしながら部屋から出ると、シャルルもまた欠伸をして椅子に座って待っていた。
ソーマ「悪いシャルル、ちょっと寝過ぎたようだわ。」
シャルル「なに、俺も起きたのはついさっきなんでね。問題はないさ。」
軽く朝食を済ませて目的地へと向かう。アルンの街並みは想像以上で、様々な種族のプレイヤーが往来してとても賑わっていた。
目的の場所へ行けば行くほどプレイヤーの数も増えていき、何か祭りでもしてるのかと疑う規模になってきた。ようやくたどり着いた頃には、身動きが取れないほどではないがそれでも沢山のプレイヤーが集まっていた。
シャルル「普段だったらここに来る奴はそういないんだが……すごいな。」
ソーマ「そうなのか?」
シャルル「ああ。あそこに見える巨大な扉が、世界樹攻略の難関だからな。余程のことがない限りは、観光以外でここに近寄るやつはそういない。」
ソーマ「つまり、この人数のプレイヤーを引きつけてるのが……あいつか。」
シャルルが指差した方を見ると、巨大な2対の像が守護する大扉があった。(表現が悪いかもしれないが)捻り過ぎた雑巾のように天高くそびえる世界樹の根元にあり、扉がある前は広場になっていた。その広場で今催されているのが……
司会者「さあ!力自慢のプレイヤーはいるか!我こそはという無謀者は、50ユルドを置いてけばあの剣を引き抜く挑戦権を与えましょう!見事引き抜くことができれば!剣とそれまでに貯まったこの大量のユルドを差し上げます!時間制限はなし!剣を抜くかリザインするまで何度でも挑戦可能です!」
この場の司会者らしきプレイヤーがマイクのような拡声アイテムで盛り上がったところに、浅黒い肌の巨漢プレイヤーが名乗り出た。太陽の光を反射するツルツルな頭なんかは、エギルを連想させる。
司会者「おや?ガイズさん、また挑戦なさるのですか?」
ガイズ「おうよ!今度こそあの剣を抜いてみせらぁ!」
司会者「よろしい!では50ユルドを置いて存分に勇姿を見せてくださいっ!」
ガイズという土妖精族と思われるプレイヤーが剣のそばに行き、グリップを握ったかと思えば空気が震えるほどの気合いで剣を抜こうと引っ張る。
ガイズ「うおおおおぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
「もっと引けー‼︎」
「そんなもんかー?」
声援を受けてガイズはさらに踏ん張って剣を抜こうとする。その間、俺とシャルルはガイズではなく剣を見ていた。
シャルル「……ありゃあほぼ不可能だな。」
ソーマ「……ああ、剣が微動だにしてない。あらゆる物理的干渉を吸収してるみたいだ。」
司会者「ほほう、中々見る目がありますな。」
中々に渋い声が聞こえたと思ったら、隣にさっきの司会者らしき壮年の男がいた。黒いタキシードに同色のシルクハット、片眼鏡と胡散臭さや怪しさが全開だ。近づいてくる気配に全然気づかなかったのが不気味だ。
司会者「ちなみに魔法を地面に当てて掘り起こす方法も試しましたが、そちらも全くダメでして。どうにか引き抜くしか選択肢がないのですよ。……おっと、申し遅れました。私、クロイスと申します。以後、お見知りおきを。」
シャルル「お、おう……」
口周りの白い髭を撫でながらクロイスと名乗る男は語る。色々と言いたいことはあるが、優先順位を間違えてはいけない。
ソーマ「……クロイスさん。あの人の次、やってもいいか?」
クロイス「おや、貴方も挑戦なさるのですか?」
ソーマ「ああ。アレは……あいつは、俺が抜かなきゃいけないんだ。」
クロイス「……面白い。では、ガイズさんがリザインした後、貴方に出番が回ってきますので、覚悟を決めておいてくださいね?」
ソーマ「望むところだ。」
瞬間、会場がどよめき思わず視線をガイズへと戻す。だが……
シャルル「…………あのおっさん、どこ行った?」
クロイス「ああ、またですか……」
やれやれと呆れながらクロイスが状況を説明してくれた。
クロイス「あのノームのガイズさんは、最後は決まって羽を使ってあの剣を引っ張るのですが……毎回最後に手を滑らせて勢いがあまり、上空にジェット機並みの速さで飛んでいってしまうのです。少ししたらいつものように降りてきますが、そのたびにとても悔しそうな顔をするのですよ。今ので飛んでいくのはちょうど20回目になりますね。」
ソーマ「20って……」
シャルル「すげぇガッツ持ってんな、あのおっさん。」
誰もいなくなった剣の前にクロイスが移動すると、拡声アイテムで熱烈に話す。
クロイス「挑戦者ガイズ、今や恒例となった場外飛翔につき強制リザインとします!」
わあああああああ、と湧き上がる会場に少しばかり鳥肌が立つ。ボクシングでもやってるのかここは。
クロイス「それでは次の挑戦者です!どうぞ!」
いきなり呼ばれ、慌ててそこに向かう。
クロイス「これを抜けば剣と貯まったユルドは貴方のもの!リザインするまで挑戦可能です!……覚悟はよろしいですか?」
ソーマ「望むところだ。」
再度会場が湧き、様々な声援が飛んでくる。クロイスに50ユルドを渡し、深呼吸をして剣の側に歩み寄る。
剣……『ウィンディア・スウィフト』は、変わらず綺麗だった。傷一つなく、エメラルドグリーンの鍔から伸びる白刃は1/3が地面に刺さっている。あまり深く刺さってないように見えるが、100人以上の力自慢が踏ん張ってもビクともしなかったのだ。中々手強い相手だ。
気がつけば、周りの声援が聞こえないほどに集中していた。
グリップを両手で握り、目一杯引っ張る。剣が動く様子はない。やはりそう簡単にはいかないか。
もう一度深呼吸をし、剣の横に立つ。剣が地面に垂直に刺さってるおかげで少しやりにくが、まあそこはうまく調整しよう。
抜刀の要領でグリップをさっきとは逆方向に……つまり、親指を鍔に向けて握る。
ソーマ(たった数日握ってなかっただけなのにな……)
懐かしい感触に微笑むと、剣と俺の手が一体になった感覚があった。
ソーマ(……いくぞ、相棒‼︎)
右手を思い切り振り抜く。後でシャルルから聞いた話だと、会場は突風に襲われ、プレイヤー達は何が起こったかわからなかったそうだ。
振り抜いた右手の先には、一振りの碧剣。太陽の光を反射して、その刀身を輝かせていた。
少しの間静寂が続いたが、観客の誰かから歓声と拍手の嵐が巻き起こった。
すげぇだのおめでとうだのと祝いの言葉を身に受けながら右手の相棒を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、いつ降りてきたのかガイズが悔しそうに笑っていた。
ガイズ「スゲェなお前さん。接着剤で固定でもされてるんじゃないかとも思ってたそいつを抜いちまうとは。」
ソーマ「いや、こいつを抜けたのは俺だけの力じゃない。……相棒に今まで挑んできた人たちの力があって、こいつは今俺の手にある。『おおきなかぶ』って話があるだろ?それと似たようなもんだ。これは俺と、あんたや他の人たち全員で挑み、勝ち取った勝利の剣だ。」
ガイズ「へっ、20回やって後続がやりやすいようにしといてやったんだから、抜いたからには大事に使えよ?」
ソーマ「ああ、大事に使わせてもらうよ。」
ガイズと握手を交わし、剣の銘を確認する。『Windia Swift』とあるのを見て間違いなく相棒であると確認してホッとする。
クロイス「いやはや、まさか本当に抜いてしまわれるとは思いませんでした。それではこちらが、参戦者達の汗と涙の結晶であるユルドです。それと、こちらは私からの餞別です。受け取ってください。」
クロイスが取り出したのは、深緑に染まる鞘だった。前に使ってたものにどこか似ているその鞘を受け取り、剣と一緒に装備する。
ソーマ「……ぴったりだ。ありがとさん。」
ガイズ「中々様になってるじゃねぇか。剣の腕もさぞかし達者なんだろうな。」
ソーマ「それなりに剣は振ってきたつもりだけど、俺なんてまだまだだよ。」
キリトやヒースクリフに比べたらな。と内心呟くと、目の前にフレンド申請の窓が現れた。申請先の名前には『Guyz』とあった。
ガイズ「あんたの腕がどのくらい立つかはわからんが、人数は多い方がいい。俺が組んでるパーティが来週あるクエストを受けるんだ。もし興味があるんだったら連絡をくれるとありがたいが……」
ソーマ「いいぜ。これも何かの縁だ。力になれるなら、存分に暴れてやるさ。」
ガイズ「ありがとよ。じゃあ後でクエストの詳細を送っておくからな。仲間には俺から話を通しておくさ。」
ソーマ「色々と悪いな。」
ガイズ「なぁに、いいってことよ。」
申請を承認し、新しいフレンド欄に一つ名前が増える。
用があるからと飛んでいくガイズを見届けて、「せっかく来たんだから、観光しながら何か奢ってくれよ」と言ってきたシャルルとアルンの街を散策して1日を終えた。いつのまにか消えていたクロイスに驚いたが、シャルルによると『鞘渡した後に人混みに紛れてった』とのこと。胡散臭さに加えて謎のおじ様、という印象の不思議なプレイヤーだなと思った。
その翌日、フリーリアに戻るため日の出(時間にして朝11時前)とともにアルンを発った。
行きはひたすら急いでたから景色を楽しむことはほぼなかったが、帰りは特に急ぐ理由もない。おかげでアルヴヘイムの様々な景色を楽しむことができた。夕陽に照らされた『蝶の谷』は特に綺麗だった。景色に魅了されすぎて何度もシャルルに呼び戻されたのは少し恥ずかしかったが。
相棒の感触を確かめながら道中のモンスターを倒し、景色を堪能しながら飛んだため夜10時と遅くなったが、その日のうちにフリーリアに戻ることができた。シャルルは「明日からまた仕事かぁ……」と言ってログアウトしていった。
シャルルと別れた後、俺はフリーリア周囲を探索した。ぶらぶら歩いたり飛んだりしながら西の林を抜けると、月明かりに照らされた海岸に出た。水平線の先に島などは見えず、波打つ水面が壮大に広がっていた。
ソーマ「ここも、綺麗だな……」
砂浜に座り、月を仰ぐ。アインクラッドでも似たような景色を見た。あれは確か、61層主街区『セルムブルグ』だったかな。その時の俺は、もう一つの現実であるあの城で何を考えたのだったかな。
…………いや、一つしかないだろう。
今日の帰り道に魅了された景色を見て何度も最初に思ったことを口にする。
ソーマ「…………君なら、なんて言うのかな。」
呟き、微笑む。
その後30分程海を見た俺は、まっすぐフリーリアに戻って宿屋で眠りについた。
◇◇◇
2024年 11月 11日 p.m.19:30
ケットシー領首都『フリーリア』
ソーマ「ルーさん。部隊加入のことなんですが……」
フリーリアに帰ってきてから一晩経った次の夜、俺は数日前に持ちかけられた話の返事をするために領主館を訪れた。警備の人に話を通して部屋に入ると、シャルルとルーさんが紅茶を飲みながら談笑していた。
ルー「ナイスタイミング♫ちょうどキミの話をしてたんだヨ。」
シャルル「あんたの抜剣話をアリシャさんに話してたんだ。」
ルー「ケイ君の勘が当たったみたいだネ〜。」
シャルル「……それで部隊加入はどうすんだ?」
シャルルが話を戻し、真剣な表情になる。
ソーマ「部隊への勧誘はありがたいです。でもすみません。俺は、この世界の隅々まで旅をしたいです。旅をして、見聞を広めたいです。」
ルー「……それが、ソーマ君の意志だネ?」
ソーマ「はい。」
ルー「じゃあいいヨ!たまには帰ってきてネ!」
ソーマ「……ありがとうございます!」
思ったよりあっさりと了承を得ることができた。ルーさんが寛大な人で良かった。
ソーマ「それでルーさん、旅をするにあたって一つ考えがあるのですが……」
ルー「お?何かナ何かナ?」
ソーマ「旅をしたいのは本心ですが、もし道中でグランドクエストや他種族の有力な情報が手に入れば、連絡しますよ?」
シャルル「ほう。これはケットシーにとって、大きなアドバンテージになるんじゃないんですか?」
ルー「ふむ、悪い話じゃないネ。ウチは情報の仕入れ場所が他種族と比べて少ないから、ありがたいヨ。」
ルーさんがメニューを操作すると、俺の目の前にフレンド申請の窓が出てきた。迷わずOKを押し、ルーさんと握手を交わす。
シャルル「で、ここを出発したらどこに行くんだ?」
ソーマ「シルフ領で約束があるから、とりあえずそっちに行ってみようと思う。」
ルー「シルフ領なら安心だネ。行くならスイルベーンがオススメだヨ?」
シャルル「ケットシーとエルフは領主同士が仲がいいから、余程のことがない限りは斬られることはないぞ。」
ソーマ「それなら安心だ。」
他種族領の街では、他種族に襲われる可能性があるという。例えば、俺はスイルベーンでシルフを攻撃できないが、その逆、シルフは俺を攻撃できるというシステムがあるらしい。
シャルル「まぁ、あんただったら返り討ちにしそうだけどな。」
ソーマ「そうならないようになんとか我慢するよ…」
場合によってはブチ切れて本当にやりかねないので出来るだけ目立つ行動は控えたい。密兵の真似事をしようと思っている時点で半分目立ってるようなものだが。
その後はルーさん達と談笑して日付けが変わる頃には解散した。宿屋に戻り、長い欠伸をしながらベッドに入って毛布を被る。
明日からの旅に内心ワクワクしながら、俺は眠りについた。
◇◇◇
次回
23話「黄道からの誘い」
どうも、窓風です。
最後が少し無理矢理感があったのは否めませんが、この辺にしときます。
そして、アリシゼーションのアニメが始まりましたね。作者はWi-Fi環境が整っていないので、実家で録画をお願いしてます。冬休みにでも見ますわ。
特にないので今回はこの辺で失礼します。
読んでいただき、ありがとうございます。