SAO:time   作:窓風

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EPISODE7 「Memory Heart Message」

 

 

 

 

2023年 12月24日 p.m.23:45

アインクラッド 第35層 『迷いの森』

 

 

俺は今地図を片手にシステムが許す限りの速度で全力疾走している。ざくっざくっと雪を踏む音と、はぁっはぁっと息を切らす音が周囲(といってもそこまで広い範囲ではない)に木霊する。

つい先ほど、アルゴからキリトが35層の『迷いの森』にあるモミの木に向かったという情報を買って、追っているところだ。

 

なんでこんな時間に最前線から10層以上も下の層でキリトを追ってるかって?訳を話すには約半年前までに遡る。

 

 

キリトは、半年前の6月半ばに最前線に戻ってきた。それはいいんだけど、最前線から離れる前のあいつとは違った。1人で遅いときは深夜2時3時過ぎまで迷宮区にこもってレべリングをしたりしているのを風の噂で聞いた。簡単にいうと、『壊れて』しまった。常にキリトの目に光は無く、絶望の暗闇が広がっていた。

 

果たして戦力になるのかと心配したがその予想を裏切り、キリトはボスモンスターに鬼人とも呼べる猛攻を次々と叩き込みそのままボスを撃破、LAボーナスを獲得していった。俺は一度、キリトにその捨て身の攻撃をやめないとお前の身体が保たないと言ったのだが、キリトは「それじゃ意味がないんだ」と返すだけだった。

 

あの場に居合わせた俺ならキリトがそこまでして無茶をする理由が分かる。分かるけど…………無茶しすぎてお前が死んだら元も子もないんだ。この世界が本気だということをあいつに再確認して欲ほしい。……もしかすると、キリトはこれから『背教者ニコラス』との闘いを心のどこかで死を望んでいるかもしれない。

 

(お前には、生きていてほしいんだ……キリト…‼︎)

 

 

◇◇◇

 

 

言い方が悪いかもしれないけど、キリトがあんな風になったきっかけは、ある一つのギルドだった。ギルドの名は『月夜の黒猫団』。前衛が1人に対して後衛が4人というソロの俺から見てもバランスの悪いパーティに、キリトが自分の本来のレベルを隠して春にそのギルドに加入した。

 

それから2ヶ月程経ったある日の夜中、その時の最前線の経験値効率の良い狩場『狼ヶ原』でたまたま会った。攻略で何度か顔を合わせている少規模ギルドに軽く会釈をして、そのときだけ、約5ヶ月ぶりにキリトと一緒にレべリングをした。レべリングを終えて主街区まで帰っている間、キリトから黒猫団の雰囲気の話を聞いた。『黒猫団が急成長して攻略組に加わることがあれば、今の攻略組の雰囲気をガラッと変えられる、そんな力がある』と。俺も同感だった。確かに、今の攻略組は意気込みがあるものの、どこか気を引き締め過ぎているところがあると感じていた。一回だけ、『隠蔽』を使って(キリトは恐らく気づいていただろうが)キリトが黒猫団をどう育てているか見に行ったことがある。そこで目にしたのは、一回の勝利を大いに喜び合うなんとも見てて良い気持ちになる雰囲気だった。あの活気が攻略組の張り詰めた空気に入れば、間違いなく攻略組全体が変わると思った。俺は、キリトが攻略組に戻り、黒猫団が攻略組に加わる日を楽しみに待っていた。

 

 

 

 

 

しかし、その日が来ることは無かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

狼ヶ原でキリトと再会してから1ヶ月足らずのある日、俺はいつもどおり特訓をしていた。『自動回復』の熟練度を上げるためにモンスターの攻撃をわざと受けながら(もちろんHPを全損させないようにこまめにポーションを飲んで)狩りをした帰りになんとなくフレンドの現在地を見てみると、キリトが丁度同じ層の迷宮区にいることを確認すると同時に嫌な予感が俺の足を動かした。この層はトラップが多く仕掛けられている。キリトがいるなら大丈夫だろうと思ったけれど、それでも行かなきゃならない気がした。

 

 

 

俺が迷宮区に到着したとほぼ同時に奥の方からトラップにかかった(現実世界でいつかに聞いた警報に似た)音が聴こえた気がして全力で音のした方へ行くと、隠し扉があり、その奥に大量のモンスターが湧いているのと4つのカーソルが見えた。その内のひとつのHPバーの上に『kirito』とあった。

 

俺は抜刀と同時に下位スキル《レイジ・スパイク》を放ち、モンスターハウスの中へと突入していったとほぼ同時に悲鳴がしたのとカーソルが1つ消えた。

 

そこからは、よく覚えていない。片手剣上位スキルを片っ端から発動させて大量に湧き続ける敵に放ったことはうっすらと覚えているだけだった。

 

 

 

気がついた時には第10層の外周部にいた。そこには俺とキリト、黒猫団のリーダー、ケイタしかいなかった。つまり、キリトとケイタを除く黒猫団メンバー4人は、あの部屋で爆散し、無数のポリゴン片となって消えていったことになる。

 

キリトがメンバー4人が死んだこと、自分の本当のレベル、そして『ビーター』であることを明かした。それらの告白に対するケイタの顔には絶望しかなかった。そして「ビーターのお前が、僕たちに関わる資格なんてなかったんだ!」と吐き捨てるように言うと、外周部の柵に乗り、そのまま無限に広がる空の中に飛び降りて、2分後にポリゴンとなっていった。

 

 

 

 

 

その日、『月夜の黒猫団』なるギルドは壊滅した。

 

それからというもの、先に述べたとおり、キリトは壊れてしまったが、ある日、クリスマスに出現するフラグボスの報酬の中に死んだ人を生き返らせるアイテムがあるとの噂が流れてから、キリトはさらにレべリングに没頭していた。

そして今日の深夜0時にとあるモミの木の下にそのフラグボス『背教者ニコラス』が出現する。

 

 

 

◇◇◇

 

 

と、話してる内に聖竜連合のやつらの姿が行く先に小さく見えた。同時にワープしていった。やつら、キリトを追跡してやがったな……。ま、そういう俺も聖竜連合のやつらを『追跡』スキルで追っていたけどな。

 

聖竜連合がいるとなると大体面倒くさいことになるから、たぶん「キリト1人vsニコラス」となってしまうだろう。そこは許してくれ、キリト。

 

 

そう思いながら俺もワープポイントに入った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「聖竜連合。悪いが、ここから先に行きたきゃ、俺を倒してから行け。」

 

 

俺は最後のワープポイントがあるエリアに着いたと同時に聖竜連合の1人1人の間を出せる限りの速度で縫っていき、戦国時代を思わせる赤い防具を身につけ、既に抜刀済みの5〜6人の集団の前で静止すると聖竜連合の方に向きながら、やや中ボス然とした台詞を言った。

 

「……オメェ、まさか」

「なんのつもりだね?ソーマ君。」

 

声がして後方にちらりと目をやると、赤い防具を装備した集団が攻略組の『風林火山』だというのに気がついた。声を発したのはクラインという名の風林火山のリーダーだった。キリトの姿が無いことからもうあのモミの木まで行ったのだろう。クラインがその後何かを言おうとしたが、後から発せられた声に消され、その声に俺も正面に向き直る。

 

「そのまんまだ。リンド。」

「君はもう少し日本語というものを勉強しようか。それだけでは我々には伝わらんよ?」

 

リンドと呼ばれたプレイヤーは半ば呆れたように言う。リンドは、聖竜連合のリーダーだ。本人曰く、今は亡きディアベルを尊敬している、とのことだっけ。興味無いから覚えてない。

 

俺は小さくため息をつくと左腰にある剣を抜きながら言う。

 

「そのまんまだっての。聖竜連合のやつらと1人ずつ、俺と初撃決着デュエルで一発勝負をする。俺に勝った奴からニコラスと戦わせてやる。」

「随分気前がいいね。君1人でここにいる全員、連続で相手できるのかい?」

「1人じゃねぇぞ。」

 

乱入してきた(いや、正確には俺が乱入しているけど)のはクラインだった。趣味の悪いバンダナを頭に巻き、無精髭の生えた野武士面で言った。

 

「こいつと、俺達風林火山がお前さんがたと1人ずつ相手してやる。」

「……話をしても無駄らしいね。ならば、そのデュエル受けようではないか。」

 

そう言いながらリンドも自身の武器を手に取った。俺も剣を握り直す。

 

「えっと、結局これどうすりゃいいんすか?」

 

台詞の主は風林火山メンバーの1人だった。俺は簡単に要約して説明する。

 

「要は何回も初撃決着デュエルして勝ち続けりゃいいんだよ。いくぞ!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

疲れた。疲れたしか言えない。そのくらい疲れた。この場にいた30人を超える聖竜連合のやつら全員をソロプレイヤーと小規模ギルドが相手して完勝、そしてこの時間だ。こんな夜中に全力でデュエルすりゃ疲れるわ。俺はすぐ側で休んでいるクラインを見つけ、一声かける。

 

「……悪いな。巻き込むような真似をして。」

「いいってことよ。これだけの人数をでここを守り抜いたんだ、悪い気分にゃならねぇよ。」

 

クラインはそう答えると「ふぅ。」とおっさんのように(といっても見た目は20代半ばってところだけど)息を吐いた。

 

それとほぼ同時にシャランというサウンドエフェクトと共にワープポイントからキリトが出てきたが、目に光は無かった。すると、右手から水晶のようなものをクラインに投げ渡した。

 

「………お前もいたのか。」

 

ひどく嗄れた声でキリトは俺にそう言った。他にかける言葉が見当たらず、「まぁな。」とだけ答える。

 

「……それが、蘇生アイテムだ。」

「えぇっと、なになに…。」

 

俺もクラインの肩越しに水晶のポップアップメニューを見る。名前は『還魂の聖晶石』。使用方法は、ポップアップメニューから使用を選択か、オブジェクト化して手に持ち「蘇生:プレイヤー名」と言うことにより、対象のプレイヤーを……

 

「「10秒以内⁈」」

 

俺はクラインとほぼ同時に驚いた。10秒以内ということは、アバターが四散してマイクロ波が脳を焼くまでの時間だ。あまりにも短い時間に唖然としていると、キリトが口を開いた。

 

「過去に死んだ奴には使えない。次に、お前の前で死んだ奴に使ってやれ。」

 

言い終える途端、この場を去ろうとするキリトのコートをクラインが掴んだ。クラインの瞳に映る透明な液体がゆっくりと頬を伝い、雪上に落ちていた聖晶石にポトリと落ちる。

 

「……キリト、キリトよぉ……。オメェは、生きろよ……。生きてくれ……」

 

クラインはそれだけ言うと掴んでいた手を放し、膝立ちになった。

 

キリトは「じゃあな」とだけ言って去っていった。

 

 

月の光を反射して聖晶石はキラキラと青く輝いていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「なぁ、ちと飲まねぇか?」

 

第35層主街区『ミーシェ』に戻るとクラインにそう言われた。特に断る理由もないから「いいよ」と応じた。

 

ミーシェのとある路地裏を歩いて行くと小さな酒場があり、クラインと中に入る。NPCのマスターに軽く会釈するとカウンター席に腰を下ろし、烏龍茶を注文。

 

「……オメェ、変わってねぇんだな。」

 

クラインが言った言葉の意味がすぐには理解できなかった。それ故、俺は聞き返した。

 

「変わってないって……何がだ?」

「それだよ」

 

と指を指した先にはちょうどマスターが持ってきた烏龍茶があった。

 

「それがどうしたんだ?」

「……小学校からか。クラスのレクでバイキング店に行ったとき、同級生の奴らは飲み物をみんなコーラだのメロンソーダだの頼んでた中、男子でただ一人、オメェだけがお茶を頼んでたよな。それからは自販機で買うにしろ、コンビニで買うにしろ、オメェは必ずお茶を選んでた。」

 

こいつは何を言っている?と思った。いくら俺がこの世界に入る前までの記憶が無いとはいえ、言っちゃあ悪いがこんなおっさんが俺の知り合いだった覚えはない。ましてや、まともに話すのは初めて(攻略会議の時にはたまに話すくらい)なのに俺の記憶喪失のことを知っているとは考えにくい。このことを知っているのはキリトとアルゴの2人だけだ。あの2人が言いふらしたとも考えられない。でも、これだけは分かる。俺とこの男の間に、切っても切れない、何かがある。

 

「……なんも覚えてないのか?」

「残念ながら、そうだ。まぁいいか。この際だから話す。」

 

俺はクラインに今の俺に起きてる現象を説明する(さすがに本名までは明かさないが)と、クラインはどこか悲しそうな表情で「相当苦労してんだな……」と言ったが「でもよ」と続けた。

 

「それでもよ、オメェがちゃんと生きてるってのが分かって俺ぁ嬉しいぜ。誠。」

「………………は?」

 

つい、聞き返した。それもそのはず、自分の本名を言った覚えは無いはずなのに「誠」と名前を呼ばれたのだ。俺とこのクラインという男の間に何があるという?問い返そうと口を開くより先にクラインが言った。

 

「これ、やるわ。オメェが使ってくれ。」

 

そう言って俺に手渡したのは、『還魂の聖晶石』だった。

 

「ちょっ、これ、でも!」

「んじゃぁ、俺は帰るわ。あ、支払いは済ませといたからゆっくりしてけ。」

 

俺の言葉を無視してそのまま去ろうとする野武士面の男を俺はただ席について見ていた。

 

 

「また会おうぜ。誠。」

 

 

そう言うと野武士面の男はこの酒場を後にした。

 

 

俺はなぜか聖晶石を握る手を強く握り、男が出ていった扉をただ眺めているだけだった。

 

 

 

 

 

 




どうもSAO・東方中毒です。

昨日映画見てからSAOの熱が下がるどころか上がりっぱです。
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