2024年 2月23日 p.m.5:30
アインクラッド 第35層 『迷いの森』
「はぁ〜〜……」
なんなのだろうか、これは。
黒猫団が壊滅したあの日といい、今といい。
俺はフレンドリストに、いや、この世界のシステムに何か呪われるようなことをしたか?…………まさかな。
思い当たる節はあるが、そんなことを考えてる暇はない。
え?どうせまたキリトのことなんだろうって?いや、今回は違うね。
今回は……
ビーストテイマーの『竜使いシリカ』だ。
◇◇◇
よく分からなかった人のために最初から説明しよう。
アインクラッド35層にある迷宮型ダンジョン『迷いの森』は、上位プレイヤーでも地図を持ってないと簡単に道に迷ってしまう。そんな折、ふと嫌な予感がしてフレンドリストを見る。前の時とかなら『Kirito』へと指が行くのだが、今回はその下にある『Silica』の位置情報を開いた。
『Not Found』と画面に出ていたが、俺の今までの経験からすると、俺がシリカの位置情報を見た時点で俺と同じ層、つまり35層にいることになる。35層で『Not Found』と表示されるところは大体決まってる。それが『迷いの森』だ。
と、なるとだ。シリカのいるところまで行くにはそれこそ勘に頼るしかない。
俺のこういう勘(と言っていいのか?)は必ずと言っていい程当たる。
(ていうか、こんなこと説明してる暇あるんならさっさとその勘を頼りに行けよ俺‼︎)
ウインドウを閉じるとその勘とやらに従って森の中を翔けていく。
……てか、誰に説明してたの?俺。
◇◇◇
ーーーほぼ同時刻
「ピナ、ピナぁぁ‼︎」
叫んだ瞬間、腕の中でひとつの命が散った。さっきまで組んでいたパーティのリーダーと口論になり、シリカは1人でこの森を突破し、主街区『ミーシェ』まで帰ろうとした。のだが。
1人でこの森を突破できると思い上がった結果、一番大切な友達、ピナをモンスターによる攻撃で失ってしまった。
どすどすと数匹の猿型モンスター『ドランクエイプ』が近づいて、ゆっくりと右手の棍棒を振り上げる。
ーー嫌、死にたくない。
そう思った刹那、ドランクエイプが次々とポリゴン片となりひらひらと空中に舞った。その後ろに人がいたのはすぐに分かった。
全身を黒い装備で着込み、髪や瞳もまた黒。右手に握られる片手剣は青いライトエフェクトを徐々に薄くしていく。
自分が助けられたことに気づいた瞬間、両眼から熱い液体が出てつうっと頬を伝い、ぽたぽた落ちるのを感じた。
「ピナ……あたしをひとりにしないでよ……」
嗚咽を漏らしながら1枚の淡い水色の羽根を胸に抱く。すると、おそらく先の黒衣の剣士のものであろう優しい声が聞こえた。
「その羽根は?」
「ピナです。あたしの、大事な……」
「すまない。君の友達、助けられなかった。」
「いいえ、あたしがバカだったんです。ひとりで森を突破できると思い上がっていたから…」
「その羽根、アイテム名とかは?」
そう言われて羽根の窓を出すとアイテム名のところに《ピナの心》とあり、今にも涙が溢れてきそうになる。
「泣かないで。ピナの心があれば、まだ蘇生の可能性がある。」
「ほ、本当ですか?」
黒衣の剣士は頷くと続けた。
「47層の南に、『思い出の丘』というフィールドダンジョンがある。そこのてっぺんに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらしいんだ。」
「47層…」
一瞬喜びかけたが、47層という壁が高いことを知る。
「実費だけもらえれば俺が行って来てもいいんだけど、主人が行かないと花が咲かないらしいんだよなぁ。」
「情報だけでもありがたいです。頑張ってレベルを上げれば、いつかきっと」
「蘇生できるのは、死んでから3日までだ」
「そんな……」
47層という高い壁と死んでから3日までという時限の2つがシリカを絶望させた。今のレベルは44、デスゲームのこの世界での安全マージンのことを考えれば最低でも55レベルは必要だ。あと2日で10レベルを上げるのは一日中迷宮区に潜ってもそこまでは上がらないだろう。
突然目の前にトレード窓が出現し、何事かと思うと黒衣の剣士から装備が計5個も送られてきた。装備の名前は、まだ見たことのないものばかりだった。
「この装備なら、5,6レベルは底上げできる。俺も付いて行けばなんとかなるだろう。」
「……どうして、そこまでしてくれるんですか?」
シリカは、まだ13歳だ。同級生に告白されたことがないし、そのうえ初恋も…………まだ。男の人をあまり知らないシリカはこのSAOに囚われてから元々少ない女性プレイヤーで中層ゾーンのアイドル的存在ゆえに男性から声をかけられることが後を絶たなかった。自分に声をかけたのには理由があると思ったから、聞かずにはいられなかった。
「……笑わないっていうなら。」
「笑いません。」
もしかしたらこの人も……と不安と恐れを抱いて聞いてみたが、帰ってきた言葉はなんとも意外なものだった。
「君が……妹に、似てるから…」
これには思わず笑ってしまう。プッと吹き出して笑うと黒衣の剣士は照れたように頬を掻きながらそっぽを向く。
「笑わないって言ったのに…」
「えへへ、すみません。」
(悪い人じゃないんだ。)
トレード窓に金額を入力しようとしたとき、向かって右側の木の陰から堪えきれなかったような笑い声が聞こえ、その陰から1人、こっちに歩いてきた。
「お前らしい理由だな、キリト。」
聞き覚えがある声。グレーのロングコートに黒のズボン。左腰にはこちらも片手剣が下がっている。若干茶色がかった黒い髪(とクセ毛)に瞳(といっても右眼が前髪で隠れていて見えないが)綺麗な紺色。普通に整った顔立ちの剣士は、頭を掻きながら言った。
「久しぶりだな、シリカ。」
「ソーマさん⁉︎」
◇◇◇
同日 p.m.8:30
アインクラッド 第35層 主街区『ミーシェ』
「ふぃ〜。」
ラフな格好になって部屋のベッドに寝転がる。ふと、太腿の裏にあるポケットに入ってるものが俺の太腿を刺激した。それを手に取ってみる。
「………まだ起きてるよな。」
俺はそう呟くと俺の部屋と真向かいのシリカの部屋へと行った。
迷いの森にて、俺は勘に頼りシリカのもとへ全力で走ったが、たどり着いたときにはモンスターのモの字もなく、1人の少女がと1人の剣士が何やら少女の手に乗る淡い水色の羽根について話しているようだった。すぐ近くの木に隠れてその話を聞いているうちに少女が剣士に
「なぜそこまでしてくれるのか」
と聞いた。するとどうだろう。剣士は
「妹に似てるから」
と答えたのだ。これには腹を抱えて笑う以外のことは考えられなかった。アルゴにも情報提供しようか思ったくらいだ。いや、提供しないけどね。
散々笑ったらもう隠れてる必要もないので堂々と2人の前に出る。その後は少女:シリカと剣士:キリトと合流して無事に……いや、無事じゃないな。子竜のピナがいないのだ。
シリカの相棒のピナが今は一枚の羽根と化している。後に聞いた話だと、キリトが猿を倒したときにはもう子竜も姿は無かったらしい。しかし子竜として死んでしまっていても、まだシステム上では羽根としてピナは生きている。と俺は思う。
俺たち3人が森を抜けて主街区のミーシェまで帰った。すっかり日が落ちていて、視界の端にあるデジタル時計を見るともう7時を回るところだった。
森を抜ける途中シリカが倒れてキリトと焦ったが、1時間近くも森を歩いてたらしくもう限界だということだった。仕方なく俺はシリカをおんぶしていった。ミーシェに着いた時にシリカは「もう大丈夫です//」と頬を赤らめながら言ったので俺は少し名残惜しそうに降ろした。え?なんで名残惜しそうなの?なんでなの?
それはともかく。俺の今のホームが35層ということもあって、主街区の一角にあるここ『風見鶏亭』にて夕食と宿泊をすることなった。食堂で軽く話をしてチーズケーキを美味しくいただき、各自部屋に戻った。それで現在だ。
はぁ。説明疲れた。
軽く溜め息をついてから、シリカの部屋のドアをコンコンとノックする。思ったよりも早く応答があった。
「シリカ、起きてるか?」
「ソ、ソーマさん?」
「ちょっと渡す物あるんだけど大丈夫?」
「は、はい!今開けます…ね……」
途中で言葉が途切れ何事かと思ったが、10秒もしない内にドアが開いた。
「ど、どうぞ……」
「お、おう。」
「危なかった…」と聞こえた気がするが、気にしないでおこう。
部屋の中は俺の部屋と全く同じだった。ベッドと机の位置が廊下を挟んで対称になってるくらいだ。
シリカはというと、薄緑のチュニックを着ていた。ドアを閉めて施錠するとベッドに腰掛けたので俺もそれにならう。
「えっと…どうかしました?」
「ふぇ⁉︎」
俺らしくない声を出してしまった。不覚。俺は無意識のうちにシリカの服をジッと見てたらしい。
「あ〜、いや…その服、可愛いな。似合ってる……/」
「へ⁉︎いやぁ、その……ありがとうございます……//」
しばしの沈黙。
あ、これヤバイ。気まずいやつだ。話題変えよう。
「そ、それより、渡す物あるんだったわ。これ、シリカにって思って。」
そう言って太腿のポケットから取り出したのは赤い球に同色の紐が付いた髪飾りだった。
「えっ、これくれるんですか⁉︎」
「あぁ。モンスタードロップだからそんないいモンじゃないけど。」
「いえいえ、ありがとうございます!早速つけてみますね!」
シリカはそう言うと装備窓を開いて今の紐のみの髪飾りを外した。途端、シリカの茶色の髪がふわっと宙に舞い、ゆっくりと下に流れた。また不覚にもドキッとしてしまい、反射的に目をそらす。
「ど、どうでしょうか…?」
そう言われて視線を戻すと。
きゃる〜ん♫
と効果音が出そうなくらい可愛かった。髪飾りを変えただけなのにさっきより随分と可愛らしさが増した気がする。
「……さらに可愛くなっちまって。」
こう言ってしまったからにはそれなりの行動する必要があるだろう。恥ずかしいけどな。
「はうぅ//」
シリカの頭をゆっくりと、優しく右手で撫でる。シリカがハラスメント・コードを押さないことを祈りながら5秒ほど撫でる。
そっと手を離すとシリカの顔は真っ赤に染まっていた。やっちまった。と思ってお互いに黙ってしまう。その沈黙を破ったのは、
コンコン。
「シリカ?」
ドアをノックする音。続いて聞いて落ち着く声が響く。
「キ、キリトさん⁉︎」
「47層の説明をしようと思ったんだけど…明日にする?」
「いえ、大丈夫ですよ!入ってください!」
シリカが俺をちらりと見て微笑み、ドアを開けに行った。俺は少し恥ずかしく、頭を掻いた。そして森で会ったときと装備が何も変わってない全身黒ずくめのキリトが入ってきた。
「なんだ、お前もいたのか。」
「いちゃあ悪いのか?」
そんな他愛のない会話を済ませるとキリトは机と椅子をベッドの横まで運んで椅子に、俺とシリカはベッドに座った。
「キリトさん、それは?」
「ミラージュスフィアっていうんだ。」
キリトはそう言いながらひとつの箱を出してボタンを押すと、アインクラッドの、続いて47層の全貌が映し出された。簡易版のプラネタリウムと思っていいだろう。
「ここが47層で、こっちが『思い出の丘』。それで、この道を行くんだけど…」
キリトの言葉が途切れる。俺もキリトが反応したそれに気づいたが、シリカは何かありました?と言うように首を傾げている。シリカがキリトの名を呼びそうになって「しっ!」と言いながらほぼ無意識に左手がシリカの口元へと伸びた。その間にキリトはものすごい速さでドアに近づき、「誰だ!」という鋭い声と共に勢いよく開けた。
ダダッと慌てるような足音が耳に届いた。左手をそっと離し、キリトに視線を送る。
「なん…ですか?」
シリカの問いにキリトが答える。
「聞かれていたな。」
「で、でも、ノックなしじゃドア越しの声は…」
「聞き耳スキルだと、その限りじゃないんだ。」
今度は俺が答える。
「そんなスキル上げてるやつ、中々いないけどな。」
「ちょっとメッセージを打つから待っててくれ。」
そう言うとキリトはメッセージ窓を開いてタイピングを始めた。
シリカは疲れたのか、瞼を重そうにしてうとうとしていた。そして、俺の右肩にこてんと頭を預けてすぅすぅ寝息を立て寝てしまった。
俺はシリカを、あ〜、俗に言うお姫様抱っこをしてベッドに寝かせ、毛布をかけた。その後キリトに話しかけた。
「じゃあ俺も部屋に戻って寝るわ。あとは頼んだ。」
「は⁉︎この部屋の鍵はどうすんだ?」
「お前がかければいい。」
「じゃあ俺はどこで寝るんだ?」
「床とかその椅子でいいんじゃね?」
キリトはその後他に言葉を探そうとしていたが、観念したように肩をすくめた。
「…分かった。」
「んじゃ、頼んだぞ。お兄ちゃん♫」
「……お前な。」
俺はそう言うとシリカの頭をもう一度撫でて「おやすみ」と小さく囁いてから部屋を出た。
廊下には俺以外の人はいない。そのまま足を運んで自室に戻る。
俺はベッドに倒れ、そのまま眠りについた。
窓から青い月光が射し込んでいた。
どこまでも続く海のように青く、蒼く。
どうもSAO・東方中毒です。
そろそろ同時制作進行中の『東方幻蒼旅』(原作:東方project)なるものを投稿しようと思ってます。
先に言っておくと、『東方幻蒼旅』は『SAO:time 』のネタバレが所々含まれておりますので、ネタバレされても構わない方は読んでいただけるとありがたいです。