どうぞ
『卒業生答辞。卒業生代表、雪ノ下雪乃』
「はい」
雪ノ下がゆっくりと壇上へ上がっていき、答辞を読み始める。
それにしても、姉妹揃って卒業生代表かよ。
相変わらずというか、なんというか。
「~。私はこの総武高校を卒業できたことを、心から誇りに思います。……卒業生代表、雪ノ下雪乃」
最初から最後まで、相変わらず堅苦しいな。まぁ、雪ノ下らしいといったら雪ノ下らしいのだが。
「それに、去年に比べたら大分マシだしな」
そう、去年の卒業式。つまりめぐり先輩の答辞である。去年は本当に酷かった。中盤辺りから何を言っているのか本当にわからなかった。本人が号泣しすぎてて。
まぁ確かに、その涙につられて泣いている卒業生もいるにはいたのだが……。俺?笑いを堪えるのに必死でした。
「そんなこと言ったら城廻先輩に失礼だよ」
そんな言葉が俺の前の席の生徒から聞こえてくる。どうやら俺の独り言に前を向きながらも答えてくれたらしい。
「だけどよ戸塚。正直去年の答辞、どうだった?」
「……まぁ、確かに吹きそうにはなったけど」
「だよな。せっかく、答辞の原稿を書くのに付き合ってやったっていうのによ」
「まぁまぁ。あれも城廻先輩らしかったじゃん」
そんな会話を小声でしながらも、式は順調に進んでいった。
『卒業生退場。来賓、保護者の皆様も拍手でお送りください』
やっと終わったな。
俺たち卒業生はA組から順に退場していった。
俺はとある人物に呼ばれて、生徒会室の前まで来ている。
コンコン
「どうぞー」
「よう。何か久しぶりだな」
俺は扉を開けながら、生徒会長の席に座る一色いろはに声をかけた。
「そうですねー。先輩は勉強で忙しそうだったので、流石にお手伝いも頼みにくくて」
「まぁな。正直、この1年は自分で言えるほど死ぬ気で勉強したからな」
「あの先輩が数学の勉強してましたもんね」
「ホントそれ。あの人マジでスパルタなんだよ」
「あれ?愚痴ですか?チクりますよ?」
「おいバカやめろ」
最近やっと慣れてきたが、あの人が本気で怒ったときの笑顔はマジでヤバい。
「でもそのおかげで、同じ大学にいけるんでしょ?」
「まあな。センターが良すぎて、一般入試受けずに合格しちまったし。ていうか、まさか数学が国語、日本史の次に良かったとか、1年前の俺からすればマジでありえないんだけど」
「まぁ勉強した甲斐があったじゃないですか」
「来年、ていうかもう今年だな。今年はお前だけどな」
あー、俺今きっと、あの憎たらしい顔してるんだろうなー。
「甘いですね先輩。わたしがいったい何のためにまた生徒会長をしたと思ってるんですか?」
「そういや、今度はお前立候補で生徒会長になったんだったな」
「ええ。総武高初の2年連続生徒会長&卒業式の送辞ですよ」
すげーな。最初は嫌がらせで推薦されたくせに。
「んで?それと受験に何の関係があんの?」
「先輩。それでも城廻先輩の彼氏ですか?城廻先輩がどうやって推薦を貰ったと思ってるんですか」
「いや、あの人は成績も普通に良かったぞ?」
「成績なら、わたしも常に上位ですけど?」
「……マジかよ」
ありえねー。
「あー、ひっどーい。せんぱいひどいですぅ」
「はい、あざといあざとい」
こういうとこは変わってねーな。
「そういや、小町が書記になったんだってな」
「あ、そうそれなんですけどぉ。小町ちゃん、卒業式の後は生徒会が片付けしなきゃなのに、どこかに行っちゃったんですよぉ」
うん。100%戸塚のとこだわ。
「ま、どうせ戸塚先輩のとこでしょうけどね」
「あ?わかってんじゃねえか」
「まぁ、毎日のように惚気話聞かされてますので……」
おおう。うちの妹もなかなかやりよる。
「……いろいろ、ありましたね」
「……そうだな」
本当にいろいろ。
「あ、そうだ。お前に会ったらお礼言わなきゃってずっと思ってたんだったわ」
「お礼?」
「少し前にめぐり先輩に聞いたんだけどよ。お前がめぐり先輩に説教してくれたお陰で、俺たち付き合えたんだってな」
「ぬなっ!!そ、それはわたしの中でもかなり上位の黒歴史!」
「『告白を受けた人間は何かしらの答えを返す義務がある』当たり前のようで、深い言葉だよなぁ」
「ぬおおぉぉぉぉーー!!やめろーー!!」
一色が頭を抱えて悶えている。
「ホント、お前のお陰だよ」
「ぐっ。……ま、まぁ、お2人が今幸せなら、良かったです」
「いろはすっ……」
「キモいんでその潤んだ目をこっちに向けるのは止めてください」
リアルトーンは深く傷付くからやめようね。
「にしても、ちゃんと続いてるんですね」
「あ?当たり前だろ。続かない理由がないね」
「ほお。言い切りましたね。その根拠は?」
「俺の夢はまだ叶ってないからな」
そう。全てはあの一言から始まったんだ。
「……ああ。言ってましたね。初めは何言ってんだコイツってマジドン引きしたんですけどね」
「おい、ドン引きしてたのかよ」
「でも、叶いそうじゃないですか?小町ちゃんと戸塚先輩も付き合ってるわけだし」
「ああ。絶対叶えるよ」
「ふふっ。頑張ってください」
一色が楽しそうに笑う。いつもこんな感じで笑ってれば、葉山だって振り向くかもしれないのに。
「わたしがあそこまでして2人をくっつけてあげたんですから、城廻先輩を悲しませたら許しませんよ?」
「心配ねぇよ。俺の夢は、疲れきった状態で職場から家に帰ったときに、あいつらが笑顔で迎えてくれる家庭を造ることだ。そこに悲しい顔は必要ねぇ」
「………よく素面でそんな台詞言えますね」
「……俺だって結構恥ずかしいっての。……だが本心だ」
「そうですね。なら、安心です」
いったん話が区切れたところで、部屋に置いてある時計が視界に入る。
やべっ!待ち合わせの時間、過ぎてんじゃん!
「悪い一色!この辺で失礼するわ」
「そうですか。あっ、雪ノ下先輩たちには会ったんですか?」
「ああ。ここに来る前に3人で話してきたよ」
「そうですか。ならOKですっ!」
一色からOKをもらったところで、俺はドアノブに手をかける。
「……先輩!」
すると、後ろから一色に呼び止められ、
「あ?どした?」
「……先輩が城廻先輩に捨てられちゃったときは、もしそのときフリーなら、わたしが先輩をもらってあげます!」
と、くだらないことをほざきやがった。
「……ハッ。ありがたい申し出だが、そんな未来は来ねーよ」
だから俺は精一杯呆れた表情で返してやった。
「……ご卒業、おめでとうございます。
比企谷先輩」
「……ああ。いろいろ世話になった」
「それはこちらの台詞ですよぉ」
「確かにな」
そう言い2人してひとしきり笑った後、俺は生徒会室をあとにした。
昇降口から外にでる。
暦の上では春だとはいえ、3月は普通に寒い。しかし、ノロノロと歩いては行けない。すでに20分の遅刻である。
俺は正門に駆け足で向かうと、楽しそうに会話をしている3人組を見つけた。
どうやら、向こうもこちらに気づいたようである。
ほらな一色。そんな未来はやっぱ来ねーよ。
「あっ、はちまーん!」
俺が遅れて来ても、こいつらは笑顔で迎えてくれる。
「お兄ちゃん!おっそーい!」
見てみろよ。どこからどう見ても……
「お疲れ様。帰ろっか、八幡くんっ」
やはり俺の将来設計は完璧過ぎる。
~fin~
最終回でした。
何かいっきに飛ばしちゃってすみません。
まぁ最終回といっても、これからも未来編や大学編などを書いていくつもりです。
いったん区切りとして、最終回にしました。
また投稿した際には、読んでいただけるのを心より願っております。
では、この辺で。
感想、評価、お待ちしております