南斗孤鷲拳の伝承者   作:銀の鈴

1 / 7
北斗の拳の真面目なファン向けの話ではないです。そういう方は読まないでね。


南斗孤鷲拳の伝承者

俺には前世の記憶がある。

 

ついさっき、頭を打った衝撃で思い出したのだ。

 

残念ながら前世は平凡な日本人だったようだ、そして今世も日本の生まれだ。

 

こういう場合は、ファンタジーの世界に生まれ変わるものじゃないのかと、俺は地団駄を踏んだがどうしようもなかった。これが現実というものなのだろう。

 

俺は今世でも平凡な毎日を送っている。

 

早朝に起きて拳法の修行をした後、小学校に通い、帰宅後は夜遅くまで拳法の修行をするだけの毎日だ。

 

拳法の修行の毎日が平凡なのか?だと。

 

俺だって別にしたくてしてるわけじゃないぞ。

 

我が家は昔から伝わる拳法を伝える一家だから仕方ないだろう。

 

今は親父が師範だけど、将来は俺が師範になる運命なんだよ。

 

門下生より弱い師範なんか問題外だからな、幼い頃から親父にアホみたいに扱かれているよ。

 

まあ、今までの俺はよく修行から逃げていたが、前世の記憶を取り戻した今となっては修行に励もうと思う。

 

肉体的には辛いが、能無しの上司にこき使われるよりよっぽどマシだからな。将来の仕事のため、今は実力を磨くべきだ。

 

しかし、前世では拳法なんかには興味がなかったから知らなかったが、鍛えた人間というのは凄いんだな。

 

親父はコンクリートだろうと鉄板だろうと手刀で貫いちまうぞ。

 

蹴りを繰り出せば、電柱をへし折るどころか切断しやがる。

 

拳法家というのは化け物の一種だな。そういえば、段持ちの空手家の拳は凶器扱いされていると前世でも聞いた覚えがあるな。それも納得できる話だ。

 

まあ、そういう俺も順調に化け物への道を歩いている。幸いなことに親父の才能を受け継いでいるみたいで面白いように身体能力が上がっている。

 

我が家が伝えている拳法は、“南斗孤鷲拳”という有名な拳法らしいが、同じ流れをくむ“南斗”を冠する拳法は数多く存在するため、門下生の取り合いが激しい。

 

門下生の数が生活レベルに直結するため、他の南斗の奴らよりも弱くては、うちの門下生が離れてしまい生活が苦しくなるだろう。

 

強くなくては生きてはいけないとは世知辛い世の中だ。

 

今のところ、同世代だと俺が頭一つ抜き出ているようだが油断はできない。

 

他の南斗のガキ共が無邪気に遊んでいる間に修行を続けて、このまま実力を引き離すべきだろう。

 

今のうちに頑張って南斗最強の男になれば、将来は大勢の門下生を獲得できるだろう。

 

大金持ちになろうとは思わないが、豊かな人生は送りたいからな。

 

さて、今日も修行を続けるとしよう。

 

ちなみに前世の記憶が蘇ったのは修行中に親父にぶん殴られたせいだ。

 

いつか殴り返してやる。

 

 

***

 

 

親父の知り合いが女の子を連れてきた。

 

なんでも生まれつき感情と言葉を失っているそうだ。

 

親父の知り合いは、彼女に色々なことを体験させれば、それが切っ掛けで治るんじゃないかと思い試している。などと訳の分からんことをのたまっていた。

 

そんな事をするよりも病院に連れていけ。

 

なに、連れていったけど異常はないと言われた?

 

うーむ、仕方ない。

 

それなら俺も協力しよう。

 

俺は三秒ほど考えると、あるアイディアが浮かんだ。よし、試してみよう。

 

俺は庭に出ると目的のものを探す。

 

おっ、いたいた。

 

俺は“ソレ”を両手で隠して彼女の元に戻る。

 

無表情のままの彼女の顔に、俺は手の中の“ソレ”を問答無用で押し付けてみる。

 

 

《ニュチョ》

 

 

女の子の顔面に張り付いたソレ――カエルはヌルヌルと蠢いている。

 

感情のないはずの彼女の目が大きく見開いた。

おっ、効果アリかな?

 

彼女はプルプルと震えだしたと思ったら、顔面のカエルを投げ捨てると拳を大きく振りかぶった。

 

「何すんのよ!? この変態!!」

 

女の子のパンチが俺の顔面を捉える。

 

ふはは、修行をしている俺には効かぬぞ。

 

親父達が奇跡だと騒いでいる。

 

うんうん、俺のお陰だな。

 

報酬として、お小遣いアップを要求するぞ。

 

「ふざけんじゃないわよ!! それなら女の子の顔にカエルを押し付けた慰謝料を請求するわ!!」

 

夜叉のような表情で、女の子が騒いでいる。

 

失敗だ。

 

無表情だった方が可愛かった。

 

「可愛いなんて言葉で誤魔化されないわよ!!」

 

少しだけ頰を赤くした彼女が叫ぶ。

 

もしかしてカエルの粘液で皮膚が被れたかもしれない。

 

俺は心配になり、彼女の頰に優しく触れてみる。

 

「顔を洗ってくるわ!!」

 

女の子は慌てて洗面所へと駆けていった。

 

まったく、落ち着きのない女の子だ。

 

 

***

 

 

騒がしい女の子に目をつけられてしまった。

 

ユリアという名の彼女は、少し前まで感情と言葉を失っていたそうだが、それが嘘だとしか思えないほどに騒がしい女の子だ。

 

当初の夜叉のようだった表情こそ見せないようになったが、マシンガントークでお喋りをしてくる。

 

家族や学校での出来事、それにテレビや雑誌の話題など、よくそこまで話が続くものだと感心するほど喋り続ける。

 

俺の修行中は静かにしてくれるが、ジッと見つめてくる。

 

まあ、ユリアには友達がいなかったらしいから仕方ないだろう。

 

どうせ暫くすれば女の子の友達が出来るだろうから、それまでの話だ。

 

今は我慢するとしよう。なんといっても彼女のお陰で、俺のお小遣いはアップしたのだからな。

 

 

***

 

 

親父に交流のある拳法家の家に連れて行かれた。

 

その流派は、南斗とは親しい関係にあるらしい。

 

南斗と門下生を取り合うライバルか!? と思わず気色ばんだ俺だが、聞いたところその流派は一子相伝だとかで、門下生は少数らしい。

 

うむ、それならいい友人関係でいられるだろう。

 

紹介された拳法家の弟子に俺と同じ年の少年がいた。名はケンシロウと言うそうだ。

 

そいつは小学生の割には落ち着いた雰囲気の奴だった。

 

もっとも、中身が大人の俺からみれば、ただのガキでしかないがな。

 

そういえば、こいつらの流派名は北斗神拳というらしいが、神の拳を名乗るとは随分と強気な流派だ。

 

俺は根っからの日本人だからな。謙虚さの足らんこいつらとは気が合わんかもしれん。

 

南斗の場合は、動物を模したよくある象形拳だからな、平凡ともいえるだろう。

 

んー、でも門下生を集めるためには強気な流派名の方がいいのか?

 

たとえば南斗全体の流派を称して、“南斗聖拳”とかはどうだろう?

 

聖なる拳……厨二病か! とか言われそうだな。俺からはとても恥ずかしくて提案できんから、今度ユリアに言わせてみよう。

 

 

***

 

 

ユリアの提案が通った。

 

俺の家の拳法を含めて、南斗には主流と目されている流派が六つあるが、その六つは“南斗六聖拳”と名乗り、南斗全体では南斗聖拳を名乗ることが正式に決まった。

 

俺はただの冗談だったのだが、ユリアに提案させたことが大きかったようだ。

 

南斗の中ではユリアは、アイドル的な扱いになっているからその影響力は大きい。

 

むさ苦しい男が多い南斗では、ユリアのような可愛い女の子の存在が貴重なのは分かるが、自分の提案が通ったときのユリアのドヤ顔がムカついたのは俺だけか?

 

そうか、俺だけか。

 

それなら仕方ない。

 

今日から俺は、南斗六聖拳のシンと名乗ろう。

 

うむ、案外と格好いいかもしれんな。

 

「うふふ、シンは厨二病みたいね」

 

誰が厨二病だ! ユリア、変なことを言うな!

 

 

***

 

 

南斗六聖拳の後継者がほぼ決まった。

 

まずは俺こと“南斗孤鷲拳”のシンだ。

 

そして“南斗水鳥拳”のレイ。こいつは一見、真面目そうだが本物のシスコンだ。よく妹に格好つけているところを目撃するぞ。妹の方は適当にレイをあしらっているようだ。

 

次に“南斗紅鶴拳”のユダ。コレはただのナルシストだな。しかし、甘くみることは出来ん。何しろユリアには、彼奴は危険だから二人っきりになるなと言われているからな。

 

四人目は、“南斗白鷺拳”のシュウ。この人は少し年上で落ち着いた人だ。今度、幼馴染と結婚するらしいな、ユリアがキャアキャアと騒いでいた。

 

五人目は、“南斗鳳凰拳”のサウザーだ。何故かこの流派だけが空想の生物の名を冠している。自己顕示欲が強いのだろうか? 「鳳凰が一番強いよな!」とか言って、南斗六聖拳最強とか言い出したからな。よし、今度皆んなでシメてやろう。

 

六人目は……残念ながら決まっていない。

 

実はユリアの親父さんが現在の継承者なのだが、この親父さんが女癖が悪く、彼方此方の女性に手を出して子供まで作りまくっているのだ。

そのせいで、後継者となるべき子供達からは嫌われまくっている。

親父さんを嫌っている子供達は他の南斗の流派を習っているから、現在は継承する人間がいない状態だ。

一応は、ユリアの子供に継がせようという話が持ち上がっているらしい。

 

これらの南斗六聖拳の中では、俺の強さは上位になるだろう。レイとユダには余裕で勝てる。サウザーとは互角に近い。シュウは経験の差で今はまだ勝てん。そんなところだ。

 

だが、配下の勢力は俺のところが断トツだな。

 

レイは妹に夢中で配下の統率はおざなりだ。

 

ユダは自分のことにしか興味がない。

 

シュウは平和主義で派閥を大きくする気がない。

 

サウザーはボッチ気質で孤立している。

 

ユリアはある意味では最大派閥だが、この場合の意味では関係ないだろう。

 

南斗の流派は数が多いからな、統率する人間がいなくては纏まらん。

 

今は俺がトップに立っていると言っていい状態だ。

 

まあ、トップだからといっても、気苦労が多いばかりで、特別良いことは少ないけどな。

 

 

***

 

 

最近の日本は治安が悪い。

 

連日のように強盗・殺人等のニュースが流れている。

 

幸いなことに俺が住んでいる地域は、南斗のお膝元だから犯罪は起こらないが少し心配だな。

 

南斗の人間で自警団でも結成するか?

 

それにしても世界的にみても政治状況も悪くなっているらしい。まさか戦争は起こらないと思うが、最近の富裕層の流行りは核シェルターを持つことだそうだ。

 

…本当に大丈夫かな?

 

念のため、地元の政治家を動かして、公共の核シェルターを南斗の近くに作らせてやろう。

 

ククク、南斗のトップに立つ俺の言葉は、政治家をも動かせるのだ。凄いだろう。

 

その代わり選挙協力をしてやっているがな。

 

 

***

 

 

199X年。世界は核の炎に包まれた。

 

 

***

 

 

どっこい生きてた、俺だ!!

 

なるほど、ノストラダムスの大予言とは核戦争のことだったのか。

 

作ってて良かった核シェルターだな。

 

嫌な予感がするとかで、ユリアが大きめな核シェルターを政治家を脅して作らせたお陰で、南斗の者達を全員助けることが出来た。

 

荒廃した地上だが、屈強な南斗の者達がいれば生き抜けるだろう。

 

ククク、力こそ正義、いい時代になったものだな。

 

いやいや、もちろん冗談だ。

 

だからそんな呆れた目で見ないでくれ、ユリア。

 

じゃあ、皆で畑でも作ろうか!!

 

 

***

 

 

南斗の村は平和だ。

 

残念ながら周囲は暴力が支配する世界になってしまったが、この村は南斗の化け物じみた拳法家達が揃っているから防衛力は抜群だ。

 

それに南斗の場合は、家族全員が核シェルターで生き残っているから、住んでいる者達も戦前と変わらない感覚で生きている。

 

つまり、日本人らしい規律正しさを保っているお陰で、村内での争いも殆どなく呑気に暮らせている。

 

ただし、村から一歩外に出ると危険だから、俺は南斗のトップとして村を守るため自警団を組織した。

 

自警団の名は、“KING”だ。

 

だから俺は厨二病じゃないぞ!

 

KINGと名付けたのはユリアだぞ!

 

「ちなみに私が、“QUEEN”よ!」

 

ユリアは、いつものドヤ顔で言い放つ。

 

俺よりもユリアの方が厨二病じゃないのか?

 

そう思う俺だが、南斗の連中はユリアに甘いから皆んなニコニコしてユリアの言うことを聞きやがる。

 

最近は、ユリアに特に甘い奴らを集めて南斗五車星とかいう親衛隊を作りやがった。

 

あいつは一体どこに向かっているのだろう?

 

幼馴染として心配になるぞ。

 

 

***

 

 

いつの間にか南斗の村は大きくなり街と呼べるほどになった。

 

街の名は、“サザンクロス”と名付けられた。

 

もちろん、名付けたのはユリアだ。

 

「おーほほほほほ、私の街よ! 富も名声も権力も、全ては私のものよ!」

 

ユリアはわざわざ玉座を作らせて、そこで高笑いをしている。

 

どこで教育を間違えたのだろう?

 

取り敢えず、ユリアのお袋さんと二人で説教をしておいた。

 

ユリアは涙目になって反省したと言っていたが、まったく信用が出来ない。

 

しばらくは目を離さないようにしよう。

 

 

***

 

 

ユダの奴が女装にハマりやがった。

 

彼奴はそういう趣味だったのか。

 

ただのナルシストだと思っていた俺が甘かった。

 

だが、幸いなことにユダの狙いはレイみたいだから一安心だ。

 

俺に被害がなければ大目に見てやろう。

 

レイは相変わらずのシスコンだから、ユダの誘惑に乗ることもないだろう。

 

よかった、よかった。

 

 

***

 

 

かつての友人といえるラオウが、ならず者達を率いてサザンクロスに攻めてきた。

 

なんという無法を働くのだろうか。

 

これも時代が悪いのだろう。

 

だが俺もこの街を守る責任がある。

 

総力をもって撃退してやろう。

 

「私のサザンクロスを守りなさい。あんな筋肉ダルマなんか袋叩きよ!」

 

何故かユリアの号令で戦闘は開始された。

 

こちらの主だった戦力は、

 

南斗六聖拳(ユリアは応援のみ)

 

南斗五車星(別名、ユリアファンクラブ)

 

泰山天狼拳(ユリアの兄、親父さんに反発して南斗聖拳を習得しなかったそうだ)

 

南斗聖拳の各流派の拳士達(1000人からは数えていない)

 

よし、雑魚共は配下の拳士達に任せて、南斗六聖拳でラオウの奴をボコるぞ!!

 

 

***

 

 

「おーほほほほほ、私の軍勢は圧倒的ですわ!」

 

俺達はラオウ軍を撃退した。

 

ラオウには逃げられたが、南斗六聖拳で囲んで袋叩きにしてやったから奴も懲りただろう。

 

逃げていくラオウに、次は首を落とすと忠告してやったからもう来ないことを願おう。

 

こんな乱世でも知り合いの命を奪いたくないからな。

 

「シンは甘いですわ、私の街を襲う慮外者に情けなどかける必要はありません!」

 

そうだな、たしかにユリアの方が正しいのだろう。

 

俺がラオウを見逃せば、奴の手によって罪なき者達が苦しむのかもしれん。

 

「その通りです、ラオウのような下衆共は管理すべきなのです。さあ、私の紋章、ブラッディクロスの元に集いなさい。そして私がこの乱世を統べるサザンクロスのQUEENとして立ち上がりましょう! 愚民共は私の前に跪くのですわ!!」

 

ユリア、ちょっとお話をしようか?

 

「え、ちょっと、どこに連れていくの? 手を引っ張らないでよ。ちょ、ちょっと待って!? お母さんを呼ぶのは反則よ! いやー! 誰か私を助けなさいー!!」

 

 

***

 

 

ケンシロウが行き倒れていた。

 

こいつは拳法馬鹿だったから、この乱世では上手く生きられなかったのだろう。

 

この街に辿り着けてさえいれば死なずに済んだだろうに。

 

せめて立派な墓を作ってやろうと穴を掘っていたら、ユリアがやって来た。

 

「誰こいつ、行き倒れなの?」

 

あれ、ユリアは北斗神拳のケンシロウを知らないのか?

 

「北斗神拳…そういえばラオウの弟弟子だったかしら?」

 

北斗神拳の正統伝承者はケンシロウだったはずだ。そうか、ラオウは弟弟子に伝承者の座を奪われてグレてしまったんだな。

 

「ふーん、別に北斗神拳に興味はないけど、正統伝承者といっても死んじゃったら意味がないわね」

 

そう言いながらユリアは、ケンシロウの遺体の上に立つと、「アイアムナンバーワン」とかほざいている。

 

こいつを矯正するにはどうすればいいのだろう?

 

「グッ…ゴホゴホ、こ、ここは…?」

 

なんと!? ユリアの体重の圧力のお陰だろうか、ケンシロウが息を吹き返したぞ!

 

「まあ、流石は私よね。南斗の聖女と呼ばれるだけあるわ」

 

いや、南斗の聖女だなんて初めて聞いたぞ?

 

「うふふ、これから広めていく予定なの」

 

まあ、サザンクロスのQUEENよりかはマシかな?

 

なんとなく、ユリアに毒され始めている気がするが、もう細かいことはいいか。

 

それよりもケンシロウは大丈夫かな?

 

 

***

 

 

ケンシロウは飯を喰わせたら元気になった。

 

この恩は必ず返すと言うケンシロウに、「気にするな、困った時はお互い様だ」と言おうとした俺の言葉を遮って、ユリアが言葉を発する。

 

「うふふ、貴方を救ったこの私に忠誠を誓いなさい。これからはこの街のため、そして何よりもこの私のために、北斗神拳正統伝承者の力を振るうのですよ」

 

ケンシロウは分かったと答えると、素直にユリアに首を垂れる。

 

ユリアは満足そうに頷くと、一応は聖女っぽく見える微笑みを浮かべる。

 

ケンシロウはその微笑みに見惚れているようだ。

 

いや、まあ、別にいいか。

 

俺からしたら邪な考えが透けて見える微笑みだが、ケンシロウに真実を教えて落胆させることもないだろう。

 

俺の負担が減れば儲けもんだしな。

 

頑張ってくれ、ケンシロウ。

 

 

***

 

 

ケンシロウがいなくなった。

 

なんでもユリアの無茶な命令に耐えられなくなったそうだ。

 

ユリアも南斗の人間に対しては猫を被っている部分があるが、ケンシロウに対しては遠慮なく扱き使っていたからな。

 

ケンシロウの主な仕事は、廃墟になった都市を巡っての宝石類の発掘だった。

 

この荒廃した世界では食料品の生産が第一だから、今まではそんな発掘に南斗の者達を使うことを俺が許さなかった。

 

だが、ケンシロウなら一人でも危険な荒野を旅することが出来たし、ユリアや他の女達も身を飾る宝石等を欲しがっていたから許可を出すことにした。

 

女達が喜べば男達も喜ぶからな。サザンクロスでの生活も安定してきたから、この程度の贅沢は許容範囲だろう。

 

などと安易に俺は思っていたが、ユリア達のケンシロウに対する発掘ノルマが酷かったようだ。

 

女達も元々は余所者のケンシロウに対しては遠慮がなかった。

 

馬車馬のように働かさせれたケンシロウは、遂に家出をしてしまった。

 

責任を感じた俺は、ケンシロウの捜索をさせた。

 

ケンシロウの所在は簡単に判明したが、ケンシロウが幸せそうだったから連れ戻すことはしなかった。

 

ケンシロウがいた村には、驚くことにユリアに瓜二つな女性がいた。

 

マミヤさんというその女性は、ユリアと容姿は似ていたが、性格が似ておらず優しい女性だった。

 

ケンシロウに寄り添う彼女の姿に、俺はユリアと交換して欲しいと思ったが、その瞬間、何やら背筋に寒いものを感じたから口には出さなかった。

 

ケンシロウよ、どうか俺の分まで幸せになってくれ。

 

ん?

 

こんな言い方だと俺が不幸になりそうだな。

 

よし、ケンシロウよ、俺と共に幸せになろうじゃないか!

 

うんうん、これでいいだろう。

 

 

***

 

 

元斗皇拳のファルコと名乗る男がサザンクロスを訪れた。

 

俺は元斗皇拳をよく知らなかったが、俺の親父が知っていた。

 

なんでも南斗と北斗、そして元斗の三つの拳は古から天帝守護の拳として伝えられている拳法らしい。

 

なるほど、そういう関係なのか。と、納得した振りをしておいたが天帝とはなんだろう?

 

少し気になったが、深入りするとメンドくさそうだから触れずにおこう。

 

ファルコがサザンクロスを訪れた理由は、元斗皇拳の村人達をサザンクロスで庇護して欲しいからだそうだ。

 

元斗皇拳にも屈強な拳士達がいるが、その数が南斗と比べると非常に少なく、盗賊達に苦しめられているらしい。

 

確かに南斗の流派は数多く存在する分、拳士の人数も桁違いに多い。

 

特にこの乱世になってからは南斗聖拳を学ぶ人間も増えて、南斗聖拳の流派のうち既に途絶えていた流派も復活している。

 

その流派数は、南斗最盛期にあった1000派に迫る勢いだ。

 

現在のサザンクロスならファルコの村人達を庇護下におくことは可能だが、どうするべきだろう?

 

南斗以外の拳士を取り込むのは、余計な厄介ごとを持ち込むことになりはしないだろうか?

 

なんだかんだいっても、南斗は同じ一族だから結束が固いからな。こんな乱世になってもサザンクロス内は平和ボケした日本の雰囲気を残している。

 

俺は、この雰囲気を壊したくはない。

 

「ファルコさん、あなたの村に天帝はいらっしゃるのですか?」

 

俺が返事をする前に、ユリアがファルコに問いかけた。

 

天帝か…

 

俺は関わり合いたくないんだがな。

 

「はい、天帝は我が村にてお世話をさせていただいております」

 

「そうなのですね……ファルコさん、ひとつ提案があります」

 

「提案ですか?」

 

ユリアは、ファルコの返事に少し考えた後、ファルコに提案をした。

 

その提案とは、

 

サザンクロスは南斗の街のため、少人数なら兎も角、元斗皇拳の村人達全員は受け入れることは出来ない。

 

だけど、南斗もまた天帝に仕える存在ゆえ、天帝とその身の回りの世話をしている者達だけなら受け入れることは出来る。

 

そして、同じ天帝に仕える者として、元斗皇拳の村人をサザンクロスに受け入れることは出来ないが、サザンクロスの近くに村を作り、その村の守護と支援を行うことは可能である。

 

そのような提案をユリアは行った。

 

ちなみに俺に相談はなしだ。

 

まあ、ユリアの事は信用しているから構わないけどね。彼女が自分のモノだと考えているサザンクロスの損になる提案などするわけがないからだ。

 

ファルコは村に戻って相談するそうだ。

 

さて、どうなることやら。

 

 

***

 

 

サザンクロスに天帝と数人の侍女達がやって来た。

 

天帝は幼い少女だった。

 

結局、ファルコは全ての提案を飲んだ。

 

ファルコにとっては、天帝の安全が第一だったらしい。

 

ファルコは南斗を随分と信用したみたいだな。

 

「おーほほほほほ、私の人徳ですわ」

 

この高笑いをするユリアの姿を見れば、ファルコも考え直すんじゃないかな?

 

それにしても、ユリアはよく天帝を受け入れる気になったな。

 

女王様気質のユリアが、自分より上の立場の存在を受け入れるとは信じられんのだが?

 

「何を言っているのよ、シン。天帝なんて厄介な存在を野放しにする危険なんか冒せるわけないじゃない」

 

ユリア曰く。

 

天帝という旗頭の元に、南斗以外の勢力が集まることを危惧したそうだ。

 

天帝自身は野心はなくとも、その威光を利用しようとする者達は必ず現れるだろうから、それに対抗するぐらいなら最初から天帝を取り込んだ方が安全だと判断した。

 

幸いなことに南斗の者達は、天帝に対する忠誠心が全くないから、南斗内部に変な勢力が生まれる心配は少ない。

 

いや、忠誠心がないというよりも天帝の存在を知らないという方が正確だろう。

 

昔から南斗はとかく人数が多かったから、その辺の話は近代まで伝わらなかったのだろうな。

 

そう考えたら、元斗皇拳の奴らは凄いな。よく大昔から天帝に仕え続けられたものだ。

 

親父世代も元斗皇拳の事は知っていたが、天帝のことは名称ぐらいしか知らなかったぞ。その名称も何かの比喩のようなものだと思っていたそうだ。

 

「うふふ、天帝にはサザンクロスの奥深くで、幸せに暮らしてもらいましょうね」

 

そう言って、ニッコリと笑うユリアの顔は、悔しいことに美しかった。

 

どうしてこんな性悪女なのに綺麗なのだろう?

 

「誰が性悪女よ! そんな事ばかり言ってたら結婚してあげないんだからね!」

 

えっ!?

 

俺達って結婚するような関係だったのか!?

 

「当たり前じゃない! シンはサザンクロスの“KING”で、私は“QUEEN”なんだからね!」

 

うーむ、どうしよう。

 

ユリアとマミヤさん、チェンジは出来ないかな?

 

「出来るわけないでしょう!! この唐変木!!」

 

ユリアは叫びながら拳を大きく振りかぶった。

 

ユリアのパンチが俺の顔面を捉える。

 

ふはは、修行をしている俺には効かぬぞ。

 

 

 

 

そして、今日もユリアは元気だった。

 

 

 

 

 

 

〜Fin〜




私はケンシロウよりもシンが好きでした。ユリアのために一生懸命なシンには報われてほしいけど、報われないからこそ輝くというのもあるし。うーん、難しいです。ところで、私が書く女の子は何故か真っ当なヒロインにならないのはどうしてだろう?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。