南斗孤鷲拳の伝承者   作:銀の鈴

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お久しぶりです。今回もユリア視点です。


修羅の国での悲劇

浜辺に潜む小さな影。

 

それは一匹の修羅だった。

 

未だ名すら許されぬ年若き修羅。

 

だが、その未熟ともいえる彼ですら百の死闘を生き抜いた猛者であった。

 

その名もなき修羅の瞳に、水平線の彼方より近づく船影が映る。

 

修羅が住まう国は、鎖国を敷いている。

 

つまり、近づく船というのは

 

「──侵入者か」

 

修羅の敵であった。

 

 

***

 

 

私はサザンクロスの旗を靡かせた船のデッキに立ち、ようやく見えてきた陸地を眺めています。

 

「あそこが修羅の国なのですね。そして、ジュウザが逃げ込んだ場所……」

 

ジュウザ――私の異母兄にして南斗五車星最強の男。

 

そして、幼い少女を連れ去った唾棄すべき犯罪者(ロリコン)です。

 

自分の身内から犯罪者(ロリコン)がでるなんて恥でしかありません。婚約者(シン)に知られでもすれば、結婚後の主導権を奪われかねない醜聞です。故に、彼にバレる前に私の手でジュウザをボコって少女を連れ戻すことにしました。

 

では、いざ行かん。

 

私の輝かしい新婚生活に向けて。

 

 

 

 

「ユリア、足元に気をつけるんだぞ」

 

「ええ、分かったわ。よいしょっと」

 

私はリュウガ兄さんの手を借りながら浜辺に降り立ちました。

 

私以外の配下の拳士達は、適当に船から飛び降りています。まったく、我が部下達ながら気持ち悪いぐらいの身体能力ですね。

 

「お袋、足場が悪いから俺の手に乗ってくれ」

 

「誰がお袋よ。でも気が利くわね」

 

デビルリバースが大きな手の平を差し出してきたので、私は遠慮なく乗っかりました。

 

デビルリバースは、私を乗せた手の平を揺らさないようにしながら、胸の高さまで丁寧に持ち上げました。

 

「うふふ、人がまるでゴミのようだわ」

 

高みから望む景色は良いものです。つい、私の口が滑ってしまいました。

 

これはいけませんね。聖女のように慕われている私が、このような毒舌を口にすれば信望者達に失望されかねません。

 

「いや、ユリアの口の悪さなど今更だろ? 誰も気にしないぞ」

 

リュウガ兄さんが何やら失礼なことを言っています。親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らないのでしょうか?

 

ふと周りを見渡すと、多くの部下達がリュウガ兄さんの言葉を肯定するかのようにウンウンと頷いています。

 

こ、こいつら……顔は覚えたわよ。特に激しく首を縦に振っているケンシロウは許せないわね。

 

サザンクロスに帰ったらシンに言いつけてとっちめてもらいましょう。

 

逆にリュウガ兄さんの言葉に頷いていない子飼いの部下達(南斗五車星ジュウザ抜き)は大事にしないといけませんね。

 

とりあえず、リハクの三ヶ月間晩酌抜きは勘弁して上げるとしましょう。

 

「――ずいぶんと呑気な連中だな」

 

晩酌復活に小躍りを始めたリハクを微笑ましく見つめていた私に無粋な声がかけられました。

 

無粋な声が聞こえてきた方向に目を向けると、そこには前髪ぱっつん男が立っています。

 

突然現れた前髪ぱっつん男にビックリする私ですが、周囲の部下達はとっくに気づいていたのか全く驚いていません。

 

どうやら前髪ぱっつん男に気付いていなかったのは、私以外には小躍りをしていた自称大軍師のリハクだけのようです。

 

「ば、馬鹿な!? この海のリハクともあろう者がこのような不審者の接近に気付かぬとは……ぬ、ぬかったわ!!」

 

叫んでいるリハクは、周囲の者達から呆れたような視線を向けられていますね。

 

うーん、よし!

 

私は、前髪ぱっつん男に気付いていたことにしましょう。

 

「うふふ、先程から感じていた視線の持ち主は貴方ですか。それで、私達に何か御用かしら?」

 

私は妖艶な笑みを浮かべながら、前髪ぱっつん男に問いかけます。

 

ククク、これでリハクの仲間入りは逃れることが出来たでしょう。

 

側から見れば、妖しい色気を漂わせる余裕ある美女です。

 

さあ、部下の皆さん、私を崇めてもよろしくてよ!

 

あら?

 

なんだか皆んなの目が生暖かいような……いいえ、きっと気のせいですね!

 

「ほう、この俺の気配に気づいていたのか。どうやら、見かけ通りの能天気女ではないようだな」

 

前髪ぱっつん男が意外そうな顔をしています。

 

ふふん、この私を舐めないで下さいね。これでも南斗慈母星を背負っている女ですよ……って、誰が能天気女ですか!!

 

「貴様! 我らの将への暴言は許さんぞ!」

 

おおっ!?

 

炎のシュレンが、前髪ぱっつん男の暴言に怒ってくれました。

 

流石は、南斗五車星一の熱い男です。

 

私の顔に泥を塗った雲のジュウザとは違いますね。

 

「我が将の顔を曇らせた貴様は生かしておけぬ! 我が炎でこの地上より消え去るがいい!」

 

シュレンが炎を撒き散らしながら前髪ぱっつん男に襲いかかり……ちょっと待って!?

 

暴言一つで殺すって、どこの独裁者よ!!

 

南斗の聖女と讃えられている私の名声が地に落ちたらどうするの!?

 

ボコった後で簀巻きにして川に流す程度で許して上げなさい!!

 

「ユリア、お前……やはり、シンを側から離すべきではなかったな」

 

リュウガ兄さんが何かボソボソと呟いています。そんな暇があったらシュレンがやり過ぎないように見張って下さい。

 

「シュレン! お前にだけ良い格好はさせぬぞ! この風のヒューイ、将への想いなら誰にも負けぬ!」

 

「この山のフドウ。我が将のため、今こそ鬼のフドウに戻ろうぞ!」

 

「ヒューイ!? フドウ!? ――いいだろう。五車星の力を合わせて、我が将の怨敵を討ち果たそうぞ!!」

 

「お主ら、今こそ五車星の力を見せるときぞ!! この海のリハクが授けた集団戦の妙技を存分と振るえい!!」

 

「「「オウッ!!!!」」」

 

ああ!!

 

シュレンと一緒になって、ヒューイとフドウまで前髪ぱっつん男に突っ込んでいきました。三人とも殺る気マンマンになっています。

 

リハクッ、あんたも三人を焚きつけるんじゃないわよ!!

 

ところで、いつの間に前髪ぱっつん男が私の怨敵になったのでしょうか?

 

あんな雑魚キャラのような男如きが、私の怨敵などとは片腹痛いですわ。

 

あのようなモブは鎧袖一触して当然です。僅かでも梃子摺ることは、私の顔に泥を塗る行為だと知りなさい。

 

お前達はジュウザと同じ真似はしませんよね?

 

「ぬおおお!! 五車炎情拳!! 我が身に触れる者は怒りの炎に包まれるわ!!」

 

「我が拳は風を友とし空中に真空を走らせる!! 喰らえ、五車風裂拳!!」

 

「我が封印せし鬼の拳、その愚かな身で存分に味わえ。五車山峨斬!!」

 

「うむむ、ワシも良いところを見せねばユリア様の怒りに触れそうじゃな。よし、ならば死にゆく者への手向けじゃ。五車波砕拳、変幻自在の構えから荒波が岩を砕くが如しの一撃を放つ我が拳にて滅せよ!!」

 

前髪ぱっつん男と南斗五車星(ジュウザ抜き)が激突しました。

 

えーと。

 

その結果としてはですね。

 

前髪ぱっつん男も腕に覚えがありそうでしたが、数の暴力というものは偉大です。

 

つい口にしてしまった私の言葉に四人がハッスルした影響もあるのでしょうか?

 

不幸なことに前髪ぱっつん男はお星様になってしまいました。

 

まあ、不幸中の幸いといってはアレですが、シュレンの炎が全てを燃やし尽くしてくれました。

 

これで外部に秘密が漏れる心配はありませんね。

 

「では、内部のシンには俺が報告しておこう」

 

リュウガ兄さん!?

 

私を裏切るつもりですか!!

 

「ユリア、お前の不用意な言葉で起こった悲劇だ。その結果はお前自身が受け止める必要がある」

 

リュウガ兄さんは哀しみを感じさせる瞳で私を見つめます。そして――たとえこの世界が、暴力が支配する世界になったのだとしても……いや、暴力が支配する世界だからこそ、ユリアよ。お前は自分の『言葉が持つ力』と真摯に向かい合う必要がある。そう続けたリュウガ兄さん。

 

私が口にした軽い言葉。

 

その軽い言葉が持つ力が起こした今回の悲劇。

 

私は自分の言葉について、そこまで深く考えていませんでした。

 

今回のことを知れば、あの優しいシンはどう思うのでしょうか?

 

もしもシンから、どうしてあんな言葉を口にしたんだ。と、問い質されたなら私はこう答えるしかありません。

 

──噛みました、と。

 

〜Fin〜

 

追記:この後、リュウガ兄さんに本気で説教されました。非常に不本意です。

 




前髪ぱっつん男と五車星達(ジュウザ抜き)との戦い、ユリアはデビルリバースの手の平に座ったまま観戦していました。
屈強な千人の拳士集団にたった一人で声をかけた前髪ぱっつん男は、勇敢な男だったと思います。
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