案の定、ピザと聞いた日向さんは反論しましたが、今回は反対するのは日向さんだけで、足柄さんも青葉さんも衣笠さんもピザがいいと賛成したので、二日続けてピザになりました。
「最近は皆さんとご一緒する機会が多いですね」
注文し終えた青葉さんが、数冊のノートを持って戻って来ました。
「本当は巻き込みたくないのよね。有る事無い事記事にしそうだから」
足柄さんがそのうちの一冊を受け取りながら応えました。
「今回は日向さんのご指名らしいですけど、情報だったら、青葉達よりも持っていると思うのですが……」
青葉さんはノートを机の上に置くと、日向さんの方を見ました。
「私たちじゃ情報を発信することはできないからな」
日向さんはノートを一冊手に取ると、それを読み始めました。陸奥さんもノートを手に取りました。
「足柄……」
日向さんはノートから足柄さんに顔を向けました。足柄さんはとても困った様な顔をしていました。
「私は何も話してないわよ……」
「……それで?」
「やっと来ましたかって言われたわ」
日向さんと足柄さんは青葉さんの方を見ました。青葉さんは自信に満ち溢れた顔をしていました。
「計画そのものは随分前から噂されていましたよ。それについて私が調べていたわ」
青葉さんを横からどかして、数冊のファイルを持った衣笠さんがそう言いました。
「青葉の手柄じゃないのか……」
「さ、最近は青葉も一緒に調べていたんですよ!本当ですよ!」
青葉さんが慌てて補足をしました。ですが、二人は興味が無さそうです。
「……ねぇ」
それまで黙ってノートを読んでいた陸奥さんが口を開きました。
「日向、あなたはさっき秘密裏に動いているって言ったわね?私もその秘密に加わってもいいのかしら?」
「既に巻き込んでしまっているが……どうした?」
日向さんが真面目な顔で陸奥さんを見ました。
「さっき計画とか大和とかって言っていたから察しはついていたけど、今回、提督絡みなんでしょ?」
陸奥さんがそう言うと、日向さんは黙って頷きました。
「私のところにも来たわ。何人か受け入れて欲しいって」
「初めて聞いたぞ」
「初めて言ったからね」
陸奥さんはしたり顔でそう言いました。
「黙っていてくれって言われたから何も言わなかったけど、ここまで調べられてんじゃもう隠す必要もなさそうね」
そう言うと陸奥さんは別のノートを取りました。陸奥さんの言葉に青葉さんが応えました。
「青葉達の情報には確証がありません。その事実確認を皆さんにお願いしたい。そう思っていたのですが……」
「野分達が知り得た情報は少ないです。これら全てを確認していたらその間に実行に移されると思います……」
野分がそう言うと、日向さんが続きました。
「そうなったら、大和が動くだろう。大和を止めて欲しいの意味がやっとわかった」
「人の為に戦ったのに、人を殺めようとしているなんてね」
陸奥さんが呆れた様に言いました。
「……明朝、関係者全員をしょっぴく」
日向さんが真剣な眼差しでそう言いました。足柄さんも野分もその視線に黙って頷くことしかできませんでした。
「青葉、すまないがこれを記事にして明日報道関係にリークしてくれ」
「嘘かもしれない情報を流せ。そういうことですか?」
「責任は私がとる。頼まれてくれないか?」
「…わかりました」
青葉さんはそう言うと、パソコンに何かを打ち込み始めました。
「私は何をすればいいかしら?あなた達だけに良い所取られるのは癪なんだけど?」
陸奥さんはそう言うと足を組み替えました。
「違法献金を受け取っていた三人を任せたい。他は私たちがやる」
日向さんはそう言い、青葉さんのノートを読み始めました。
「疑わしきは罰せず。それがこの国のルールよ。もし不正が暴けなかったらあなた達ただじゃすまないわよ」
陸奥さんが足柄さんと野分を見ながらそう言いました。
「私は覚悟できているわ」
「野分もこのまま何も無く終わりたくはありません」
「……そう……わかったわ……」
陸奥さんはそう言うと、青葉さんを見ました。それに気がついた青葉さんは困った様に笑いました。
「この件、青葉はちゃんとした記事にしますよ」
それから流れた沈黙を、来客が告げるチャイムが破りました。
野分はピザを食べると、満腹からくる睡魔と戦っていました。
「明日も早い。早めに休め」
日向さんにそう言われると、青葉さんに案内され寝室に向かい、そのまま倒れこむ様に寝てしまいました。
ふと、目が覚めた時には時計の短針が12を過ぎた頃でした。トイレを済ませ、再び寝室に戻ろうと思うと、先ほどまで話していた所で日向さんと陸奥さん、青葉さんが真剣な顔で話していました。
「青葉の方は問題ありません。人手が欲しいと思っていましたから」
「私は少し厳しいわね。一人が精一杯だと思うわ。もしそうなったら野分よりも足柄の方が優先されると思うし……」
「それに日向さんはどうされるつもりですか?」
「私にはその後やるべきことがある……二人をよろしく頼む」
日向さんがそう言って頭を下げました。野分は影から見ていることしか出来ず、三人が何の話をしているのかを聞く勇気はありませんでした。
明朝、陸奥さんが野分が起きると同時に出かけ、日向さんも用意を済ませていつでも出られる様子でした。青葉さんと衣笠さんは電話に追われバタバタとしていましたが、野分が起きるのを見ると、心配そうな顔でいろいろと用意を手伝ってくれました。
「…私たちも出かけるとしようか」
野分と足柄さんの準備が終えるのを確認すると、日向さんは外に出ました。昨日の会話を思い出し、こうやって日向さんと足柄さんと仕事をするのが最後になるかもしれない。そう思うと涙が出てきました。
「のわっち、どうしたの?!」
横にいた足柄さんが野分を見て慌てていました。こうやってのわっちって呼ばれるのも最後かもしれない。そう思うと涙が止まりませんでした。
「大丈夫ですよ。死ぬわけじゃないんだし、またすぐにみんなで会えますよ」
後ろから青葉さんに肩を抱かれました。衣笠さんからハンカチを受け取り涙を拭いました。
「すいません……大丈夫です。行きましょう」
足柄さんの手を引っ張り、日向さんが回してくれた車に乗り込みました。
「特捜だ!人身売買罪及び賄賂罪の容疑で逮捕する!」
例の三人を除く、艦娘管理計画に加担した関係者全てを逮捕しました。そこには司令も含まれていました。逮捕した全員を個々に取調室に隔離し、一人ずつ取り調べを行いました。
「冤罪だ。そんな事実はない!」
野分が請け負った一人の取り調べをすると、彼はその一点張りでした。
「調べはついています。計画のことも全て。現在、艦娘には人権が与えられています。その人権を無視した法案を通すために不正な献金を行なったことも」
「そんな証拠、どこにある?それよりも自分の身の振り方について考えた方がいいんじゃないか?私のところへ来るなら、悪いようにはしないことを約束しよう」
「結構です。では今度会う時には証拠を持参しましょう。失礼します」
取調室を出ると、海軍特別犯罪捜査局の長官が立っていました。
「こんなことをして、唯で済むと思っているのか?」
「……結果は出してみせます」
「そういう問題ではない!」
長官が怒鳴ります。実際証拠らしい証拠もない野分には黙って頭を下げることしか出来ませんでした。
「のわっち!!」
足柄さんに呼ばれ、目をやると疲れ切った表情の足柄さんがいました。
「あら、長官、御機嫌よう。申し訳ないけど、忙しいから文句は後にしてくれるかしら?」
長官の顔はみるみるうちに赤くなりました。ですが足柄さんそれを気にする素ぶりはありませんでした。
「のわっち、悪いけど三番の取調をお願いしてもいいかしら?」
「はい、わかりました。失礼します」
長官に一礼すると、足柄さんに言われた取調室に入りました。
「失礼します」
そう言って部屋に入ると、そこに少しやつれた司令がいました。
「野分……久しぶりだな」
「はい、司令は痩せましたね」
「そう言うのわっちは少したくましくなったな」
司令は野分の顔を見て笑いました。
「さっき足柄と話したよ。頑張っているらしいな」
「みなさんほどじゃないです。司令も含めて。野分がやったことなんてたかが知れてますよ」
「そう謙遜するなよ。報告は聞いている」
「そうですか…司令、野分は…」
「のわっちがやりたいようにやればいい。少なくとも、大和がやろうとしてたことに比べればマシだ」
「そんなこと大和さんが聞いたら、野分は無事ではいられない気がしますが……」
「俺も刺されるかもな。嫉妬深いから……俺が金剛に殴られた日の事を覚えているか?」
「はい、覚えていますよ。二人に邪魔者扱いされましたから」
「別に邪魔者扱いしたわけじゃないさ。大和はのわっちに手当てを手伝われるのが嫌だったみたいで、俺もここでのわっちが絡んだら大和が怒るだろうと思ってな。悪かったとは思ってる」
「惚気話はいいです」
「足柄が言ってた通り、日向に似てきたな」
司令はそう言うと笑い始めました。
「司令、野分が出来るのはここまでだと思っています……」
野分がそう言うと、司令は笑うのをやめ、真面目な顔をしました。
「まだだ。日向にも足柄にも野分にも、それぞれに違うやれることはいくらでもある。本当は俺が指示を出してやりたいところだが、そういうわけにもいかない……」
「今は日向さんの指示を仰ぐことしか……」
「日向はさっき、足柄と野分に自由にやらせるって言っていたぞ」
「そんな……」
「証拠がなくても、それが事実なら政治家にとって今回のことは大きなダメージを負うことになる。のわっちが何をしてもそれが無駄になることはない。ここが正念場だ」
「……わかりました。頑張ります」
「何か聞きたいことはあるか?」
「…彼らを検挙できる方法を教えてください。それも今回の計画が白紙に戻るやつです」
「それはのわっちが考えることだ。教えることは出来ない……だが一緒に考えようじゃないか」
そこから野分が司令の取調室を出たのは、三十分以上後のことでした。
司令の部屋を出ると、今度は明石さんが立っていました。
「お疲れ様です。これ差し入れです」
明石さんはそう言うと、野分に缶コーヒーを渡してくれました。
「ありがとうございます…明石さんも取り調べを?」
野分がそう聞くと、明石さん首を横に振りました。
「私には出来ませんからね。さっき出てきた足柄さんなんて、閉めた扉を蹴飛ばしてましたから」
明石さんは苦笑いをしながらそう言いました。
「そうですか…他に何か聞いてませんか?」
「大淀も取り調べには参加してますけど、皆さん出てくるなりイライラしてて、言葉は少ないですね。こうやってゆっくり話すのも野分さんが初めてですよ」
「うまくいってないんですね」
「そうみたいですね。これ、日向さんから渡すように言われました」
明石さんは傍に抱えた新聞を渡してくれました。青葉新聞と書かれたそれには、今回の計画や加担した関係者がどの様なことをしていたかが詳しく書いてありました。
「青葉さん達が出勤時間を見越して駅でばら撒いたみたいです」
「そうですか…わかりました。ありがとうございます」
「何か欲しいものがあったら言ってください。出来る限り用意します」
「でしたら十分後、適当な書類を持って入って来てくれませんか?」
「適当な書類……?なんでもいいんですか?」
「出来れば数字がたくさん書いてあるのがいいです」
「わかりました」
明石さんにそうお願い事をすると、野分は先ほど取り調べた人物ともう一度話をするため、先ほど同じ部屋に入りました。
「証拠でももってきたのか?」
男性がそう言うと、野分は先ほど受け取った新聞を見せました。
「こんな記事を出して……もしこれが間違いだと証明されたらこの記者も名誉毀損罪になるな」
「記者も、ということは野分達もその罪に問われる。ということですか」
「そうだ。もちろんだろう?」
「先その前にご自分が名誉毀損罪に問われる心配をしたらどうですか?」
「何を馬鹿馬鹿しいことを……」
「証拠……にはなりませんが、警察に捕まった三人が計画への関与を認めたそうです」
野分がそう言うと、男性の顔が一瞬でしたが動きました。
「そうだとして、まだ実現してもいない計画が人身売買か、名誉毀損か、それは君らのさじ加減だろう?現状の明確な罪状はなんだ?」
「賄賂罪と言えばいいでしょうか?」
「馬鹿馬鹿しい……そんな証拠、どこにある」
「さきほど司令の取り調べが終わりました。彼は艦娘を警察OBの天下り団体に賄賂を渡し、艦娘の就職を斡旋したと自供しました」
「……それがどうした」
男性の顔から余裕がなくなりました。知らなかった事実を突きつけられ、予定が狂ったようです。
「彼の言う、天下り先にはここも含まれているのでしょうか……少し調べればわかります。それがどこから、どういう理由で、いくら入っていたのかも」
「そんなもの出てこないよ」
「別に出てこなくたっていいんですよ。その事実だけが証明できれば良いんですからね……」
野分がそう言うと、男性の顔は渋い顔に変わりました。
「どういうことだ……?」
「野分は日向さんのもとで仕事をしているのであって、長官にはここに来てからいい思い出ありませんからね。上がやめろと言ったところで、日向さんの指示が無ければやめる気は一切ありませんし、それを調べ上げるだけの力は野分達もにはあります。野分達がやってきたこと、知らないわけじゃないでしょう?」
野分がそう言うと、ドアがノックされ明石さんが入ってきました。
「失礼します。野分さん、頼まれていたものです……」
明石さんから、書類を男性に少しだけ見えるように受け取り、目を通しました。それは、少し前の経費申請の書類でした。それを読むふりをして男性を見ると、顔が緊張で強張っていました。
「わかりました。ありがとうございます」
野分はそう言って再び少しだけ男性に見えるように書類を明石さんに渡しました。
「さて……取り引きでもしますか?」
野分がそう言うと、男性は目を見開いてこちらを見ていました。
「ここに不正な金が流れていた。それも捜査員を計画に巻き込むためのものだった。その金が誰から渡されたのか……そんなことはわかりませんが、この計画の一部であることは変わらないし……なによりこの計画の存在を裏付けるものですね」
「私は何も知らない」
「あなたがこの計画に関与した証拠が見つからなくても、世間はこの記事を見てどう思うでしょうか……」
野分は新聞を見せつける様に開きました。
「名前、しっかり載ってますよ?」
「それがどうした。関係を証明するものは何も……」
「そうですね。疑わしきは罰せずですから。でも世間はどう思うでしょうか……火がないところに煙はたちませんよね?」
「……何が言いたい?」
「あなたに不都合なことは話さなくて結構です。もしこちらにとって有益な情報が得られたら、野分はあなたは無関係だったと明言しましょう。誤認逮捕だったと世間に謝罪します」
「そんな馬鹿なことを……」
「なら結構です。この一件を機に、公安に睨まれながら真っ当な政治活動を行なってください。」
男性は黙ってしまいました。野分はわざとらしく大きなため息をつくと席を立ちました。黙って部屋から出ようとすると、後ろから声をかけられました。
「わかった。話そう」
振り返り、男性を蔑む様に見てから、席に座り、男性から再び詳しい話を聞きました。
結局、拘束した関係者が八人のうち、検挙出来たのは半数の四人でした。収賄をお互いに暴露しあいましたが、残りの半数は関与を証明出来ませんでした。司令も野分が話を聞いた男性も立件出来ず、そのまま釈放となりました。そのまま陸奥さんに引き渡され、全員逮捕。艦娘管理計画はその存在が明るみに出たことと、政治家の不正行為が発覚したことで、白紙に戻りました。
しかし、それに関与していた海軍特別犯罪捜査局も無事ではすみませんでした。長官、及び関与が疑われた人物はみな辞職に追い込まれました。また、野分達七係もずさんな捜査で誤認逮捕をしたことの責任を追及され、解体されることになりました。
「日向さん、足柄さん、短い間でしたけどお世話になりました」
デスクの片付けを終え、二人にそう挨拶をすると、涙がこぼれました。精一杯頑張ったのに、こういう終わり方をするとは思ってもいませんでした。
「泣かないの。別に今時期の別れじゃないんだから」
足柄さんにそう言われ、抱きしめられると、涙が止まらなくなってしまいました。
「足柄の言う通りだ。それに、お前らの次の場所はもう決まっている」
日向さんに頭をなでられ、落ち着いた野分は足柄さんから離れました。
「これがお前らの新しい場所だ」
日向さんから手渡された書類には、野分は青葉さんの事務所が次の勤務地になっていました。
「野分は情報を集めるの仕事が向いていると判断してだ。青葉からの指名もあったけどな」
「私は陸奥のところか……いまと変わらないわね」
「変わるさ。ここほど自由には出来ない」
「それもそうね……」
「そんなことより、早く片付けて鳳翔さんの所に行きましょう」
野分はここにいるとまた泣きそうになるので、二人の手を引っ張りました。
「あら、珍しい……そうね行きましょう」
「二人とも、今日はいくら飲んでも食べてもいいぞ」
「今日は野分もいっぱい飲みます!」
「死なない程度にしてくれよ」
日向さん、足柄さん、野分、旧七係は暖簾の中に消えて行きました。