女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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話数が増えるほどマイルドになるエミヤ。
あと初歩的なミスが多くてすまない。本当にすまない。


エミヤと望まれた聖女

 エミヤがカルデアに召喚されてから、結構な時間が経ったそんな中、彼には悩みの種があった。

 このところ、自室への侵入者が多いのである。セイバーやセイバーオルタは部屋で寛いでいるし、メドゥーサが寝込みを襲いに来るし、藤丸立香やジャンヌはベッドで寝ているし、いったいどうやって侵入しているのか、エミヤには皆目見当もつかない。

 ロマニに話を聞いてみても、「流石に知らないなぁ」と同情の眼差しを込めた言葉を返され、ダヴィンチに話を聞いても、「し、知らないよ……」と冷や汗をかいて言われた。

 もはや手の打ちようが無くなった結果、特に害はないので放っておくことにした。

 

 そして、部屋に入ったエミヤの目に映ったのは意外な人物だった。

「お邪魔しているよ、エミヤ」

 新約聖書にもその名を遺す、聖女マルタその人だった。

 特異点で会った時は精神力の強さで一時的に狂化を抑え込み、逆転への道標となってくれた恩人である。このカルデアでは料理と掃除を共にこなす同僚だ。

 椅子に腰かけて気安く声をかけてくるが、これがマルタの素の姿らしい。世界を放浪していた頃、聖書に目を通すことがあったため、エミヤ自身も名前を知っているほどの人物である。

 カルデアに召喚された後、初めて素の姿のマルタに会った時は驚いたが、彼女の内側を知ると聖書に書いてあること以上の発見がある。

「聖女マルタも不法侵入か、そろそろお引き取り願いたいところだが」

「その割にはお茶を出す準備しているじゃない、息抜きぐらい許しなさいよね」

 侵入者が多いとは言っても、エミヤは本気で追い出すつもりはない。マルタもそれをわかっているのか、お互いに笑いながら軽口を叩きあう。

「それで、今日は何の相談があるのかね?」

 エミヤは紅茶を差し出すと、話を切り出す。

 マルタがエミヤの部屋に来るのは、何か相談事がある時ぐらいだ。最初に来たときは、「ジャンヌが目を輝かせて話を聞きに来るんだけど、どうごまかせばいい?」だったか。

「それなんだけどねぇ……私って、聖女らしいと思う?」

「というと?」

「タラスクと戦った後からかな、周りの人に聖女だなんて呼ばれるようになったんだよね、聖女なら言葉遣いとかちゃんとしなきゃって思うし」

 幻滅されないように、聖女としての振る舞いができているか、マルタは心配なのだろう。これはエミヤの勘だが、問題はそこではない気がする。

「…………そんな自分に疲れてしまう、か?」

「……顔に出てた? そんなところかしら。私だって最初はただの村娘よ? 妹や弟と、至って普通の暮らしをしていただけだもの。元々聖女なんて柄じゃなかったし」

 聖女と村娘の二つの側面を持つマルタは、聖女の面を必ず保たなければならない。

 

 いわば聖女の称号はマルタの行動を縛る枷のようなものであり、そうあらねばならない、周りの期待を裏切るわけにはいかないという義務感が常に付きまとう。

 マルタ自身が負っている苦労は、エミヤの想像を絶するものだろう。

 しかし、聖女マルタとは違う理想を追い求めた、ある愚かな男の末路をエミヤは知っている。お節介かもしれないが彼女の心を摩耗させるわけにはいかない、そんな自分ができることとすれば──。

「……月並みな言葉しか言えんが、君が素を出したいと思った時は、遠慮なく話をしに来てくれ。どちらの君もマルタであるのなら尚更だ、自分を押し殺して理想に近づいても、大抵碌なことにならんからな。それに、マスターもマシュも、聖女らしくないからという理由で幻滅したりはしない、そうだろう?」

「……そりゃあそうだけど」

「それに私も、こうして話をするために遊びに来てくれる君の一面を好ましく思っている。仮に完璧な聖女になってしまったら、君の本当の笑顔を見られなくなるだろう」

 マルタの不満を解消するために寄り添うことだろう。期待に応えるばかりでは重圧に押しつぶされてしまうが、このカルデアでは立香達もマルタの理解者になりえる。疲れた時くらい寄りかかってほしい。

 エミヤは本心を口に出したが、マルタは珍しく眼をそらしている。

「本当にそういう台詞さらっというんだから……」

「ん? ……何か言ったかね?」

 あまりにも小さく呟いたからか、エミヤの耳にマルタの言葉は届かなかった。

「……何でもないわ、そろそろ夕食の時間じゃない? 早く行きましょう、手伝うわ」

「…………そうか」

 マルタから会話を打ち切られたため、空になったカップを片付ける。これからいつものように食堂で夕食を作らなければならない。

 マルタが先に部屋を出ようとしていたが、突然振り返ると──

「また来てもいい、エミヤ?」

 穏やかな笑みを浮かべて問いかけてくる。

「無論だ。いつでも来たまえ」

 答えなど決まっている。マルタの誘いを断る理由などエミヤには存在しない。

 エミヤとマルタは食堂へ並んで向かうが、エミヤの隣にいるのは、聖女マルタではなく、ただのマルタだった。

 

 後日、不法侵入の幇助の疑いでダヴィンチが摘発されたが、相変わらずエミヤの部屋に侵入する者がいたのは、もはやいうまでもない。

 

 

 




 召喚早々に素の自分がエミヤにばれた時はどうなることかと思いましたが、彼は口外することもなく、話していると不思議と心地よさを感じました。
 一緒にいる内にだんだんと彼に惹かれていった。
 妹や弟と話しているときのような安心感を与えてくれて、聖女ではなくただのマルタを受け入れてくれた人。
 いっそのこと私と家族になりますか? エミヤさん…………なんてね。
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