女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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エミヤと太陽を落とした女

 フランス、ローマに続く新たな特異点、そこは見渡す限り水平線で囲まれた大海原だった。

 立香一行は、この時代の聖杯を託された海賊──フランシス・ドレイクの協力を得て、彼女の愛船と共に海へ繰り出した。

 順風満帆な航海ではなかった。時空を超えて集結した名のある海賊達が立ちはだかり、その果てには神代の英雄達が世界崩壊を目論む謀略の海が待っていた。

 絶望的でも、不可能な航海ではなかった。数多の難航を前にしても、四海(オケアノス)を制したフランシス・ドレイクは、決して諦めなかった。

 

 生前のサーヴァントとの別れは、二度目のことだった。一度目はローマの特異点でネロ・クラウディウスだった。特異点が修復されれば、それぞれがあるべき時代に戻る。立香達との思い出は、なかったことになる。ローマでもオケアノスでもそれは変わらない。

 別れの時になって、初めてドレイクは心中を吐露した。立香達と世界一周の旅をしたかった、その願いがかなえられないことが残念だ、と残念そうに語っていた。それでも、最後は彼女らしい豪快さで笑って別れた。

 次に会うことがあっても、彼女は特異点の出来事を覚えていない───はずだった。

 

 カルデアに来てから何回抱えただろう。もはや日課と呼べるほど頭を抱えているエミヤは、眼前の現状から逃げ出したかった。

「はは、飲みすぎた~。……ごめん、膝貸して? エミヤ」

 ラム酒の飲みすぎが原因だと先程の台詞を聞かずとも分かるほど顔を赤くして、特異点で出会った(・・・・・・・・)ドレイクが甘えた声を出していた。来客用のいつもの椅子に座り、テーブルに突っ伏している。

 本来であれば、生前のサーヴァントが特異点の記憶を持っているはずがない。一つ違うことがあったとすれば、特異点の彼女はその時代の聖杯を持っていた。おそらくは、最後の最後に彼女の願いを叶えたのだろう。

 同じくネロも特異点の記憶を持っていたが、彼女がアルテラから聖杯を回収し、マシュに手渡していた。聖杯に触れた時に深層の願いを読み取り、記憶が座に反映されたのだろうとエミヤは推測する。

 考察もほどほどして、目の前の酔っ払いを処理しなければならない。

「自分の部屋に帰って寝るべきだと私は思うがね?」

「……流石に冷たすぎじゃないかい?」

 無論、先程の言葉が冗談だということをエミヤは一目見て看破していた。普段から飲み慣れているドレイクが酔っぱらうなど、召喚当日に行われた酒豪達の宴会ぐらいなものだ。セーブ役のブーディカまでもが潰されてしまい、様子を見に行ったエミヤが惨状を片付けたものだ。

 荊軻の時と同様に、心底申し訳なさそうな顔をしたマルタとブーディカの看病をしたが、平然としていた荊軻とドレイクの姿を見ると別の意味で感心してしまう。

 深夜だったためマスターに話を通せなかったことが失態だが、その当時に起きていたサーヴァント全員で、酔い潰れたサーヴァントを部屋まで運んだ。ドレイクを連れて行ったのはエミヤであるため、酔っているかいないかは反応と顔で分かる。

「まったく……嘘をついてまで頼むことでもないと思うがね」

「そう思っているのはアンタだけだよ、エミヤ。もう少し自分の価値を見直したらどうだい? 磨けば光るってアタシが保証するよ。

 それはそうと、アタシの船の料理長になるかって話の答えを聞こうじゃないか」

「買ってくれるのはありがたいが、残念なお知らせだ。謹んで断らせてもらうよ。第一、君は海賊だろう……正義感のある人間は嫌いなんじゃないのか?」

 演技する必要もなくなったため、ドレイクはとっくにテーブルから顔をあげている。彼女に向き合うよう、聞かれた質問に答えながら対面の椅子に腰かけ、エミヤからも問いかける。

 片や海賊、片や正義の味方、余程のことがなければ交わることのない水と油の関係、相成れぬにも程がある。

「言うほど正義感があるのかい、エミヤ? アンとメアリーを口説き落とし、冒険中はうちの野郎共と意気投合して船の修理とかしていたじゃないか。しかも、野郎共にはエミヤの旦那とか言われちゃってねぇ」

 そう言われてしまうと返す言葉もない。大人しくなったものだとエミヤは己をそう評する。

 思い返せば気を張ることが多かった。八つ当たりにも等しい自分殺しをかつての自分は考えていた。しかし、今のエミヤは考えてはいない。

 衛宮士郎(かつての自分)に敗れ、自分殺しに失敗した戦いがあった。その中で答えを得ることになったのは何たる皮肉か、と当時から思っていた。その答えさえ、記録になることが分かっていても、憑き物が落ちたように晴れやかな気持ちで、マスター()にあの男を託すことができた。

 今では藤丸立香(マスター)の下で人理修復の旅に力を貸しているが、これほどまでに居心地のいい召喚先はなかった。日々の中で自分の『答え』を体現できた。それが物腰の柔らかさに繋がっていたのだろうと結論付ける。

「そうさね。うちで働くのが嫌なら、その代わりにマスターやマシュと一緒の、世界一周の旅に付き合うってのはどうだい? エミヤも来るなら愉しい航海になるよ」

「……前向きに検討しておく」

「相変わらずつれないねぇ。まぁ、それがエミヤらしさってもんさね」

「しかし、君らしくもないな。計画性のある話をするとは」

「…………それもそうだね」

 竹を割ったような、さっぱりとした性格のドレイクらしくない動揺。先程から違和感を覚えていたが、どうにも図星らしい。彼女に一体何があったのだろうか。

「地獄に行くはずのアタシは死んで英霊になったから、時間の浪費が惜しくなっちまったのさ。召喚されてる間しか楽しいことはできないだろう? 生きているうちはパーッと使ってたんだけどね」

 誤魔化す(笑う)ことなく、珍しく物憂げな表情で本心を語るドレイク。特異点の記憶と元々の生前の記憶が混ざっているからこそ、マスター達との冒険で得られた愉しい思い出が、忘れられないのだろう。

「……すまない。意地の悪い質問だった。私でよければ、世界一周に付き合おう」

「本当かい!」

「ああ。ただし、この戦いを終わらせてからの話だが」

「約束……いや、契約だね。破ったら許さないよ! こういうのは信用が大事さエミヤ。それじゃまた来るよ」

 これもまた珍しい。財宝を手に入れた時のように心底嬉しそうな顔で喜んでいた。ドレイクは、軽やかな足取りで部屋を出て行く。やはり酔っていなかったらしい。

 

 それを苦笑いしながら見送るエミヤだった。

 

 




 エミヤねぇ、アイツは狡いよ。アタシが女扱いされるなんて、慣れているわけないだろう。幽霊に脅えて叫んだアタシを、すぐ守りに来てくれるんだからさ。
 船長が守られるなんてとんだ笑い話さ。それなのに嫌味たらしくないなんて、とんでもない女たらしさね。
 道理でマスター達が苦笑いしていた訳だよ。まあ、アタシもそれにやられたクチだけどねぇ。
 黒髭(ティーチ)には茶化されたけど、碌でもない男にしか会えなかったアタシからすれば、二度と手に入らない財宝さ。
 こればっかりは、いくら積まれても手放せないね。
 このエル・ドラゴを生娘にしたんだ、アタシを落とした対価は高くつくよ?
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