女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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遅くなりました。


エミヤと良妻な狐

 一人の男を愛し、皇帝と月で争った妖狐がいた。

 

 アタランテと共にジャックを寝かしつけ、一足先に自室に戻ろうとしたエミヤの前に見慣れた狐耳の女性が居た。その女性は顔こそ同じだが、カルデアに以前から居る猫な狐ではない。

 しかしながら、知り合いに廊下でバッタリ会うという展開は使い古されているものの、実体験したエミヤは思わず苦笑いしてしまう。

「みこーん! お久しぶりですねアチャ男さん! ロンドン以来でしょうか?

 いやあ、お互いに大変でしたね。ご主人様とのハネムーンの下見に来たらあんなことになって、一尾の状態じゃコテンパンですもの──」

 同窓会で旧友に積もり積もった話を聞かせるように、矢継ぎ早に語り掛けてくる女性は玉藻の前(キャスター)である。無銘の記憶が間違っていなければ、月の勝者である岸波白野の妻……のはずだ。

 その記憶をさらに深く辿っていくと、ネロの陣営で副官をやっていた時に彼女を見かけたが、途中までは冷酷な女帝の印象が強く、岸波への思いの丈を吐露してようやくその仮面が外れていたらしい。

 しかし、その情報を得て尚エミヤが今すべきなのは──

「ああ、そうだな。長くなるのなら、私の部屋でお茶を飲みながら語らないか?」

 場所の変更だった。

 

 勝手知ったる自室で紅茶を振る舞う弓兵と優雅にお茶を嗜む妖狐。

 日本の出身であるから緑茶の方が良いかと聞いてみたが、玉藻はエミヤの腕なら紅茶を飲みたいと言っていた。

 月で敵対していた割には、ある程度の信頼があるようで、無用な諍いを避けておきたいエミヤからしても悪い気はしない。

「紅茶の淹れ方は流石の一言に尽きましょう。確か……、執事(バトラー)でしたっけ?」

「自然とそう呼ばれてみたいものだが、私はまだまだ研鑽が足りんよ。

 ──ところで、私を呼び止めたのは何か用があったからだろう? 茶飲みに誘われることを期待していた訳でもあるまい?」

 そして、エミヤもある程度の信頼を玉藻に置いている。少なくとも、彼女が何の用も無く呼び止めることがないことくらいは分かっている。

「半分正解、とだけ言っておきましょう。三つに分かれたご主人様の一人を支えた家事力、(わたくし)の見込み通りです。

 そんなアチャ男さんにお願いがございます」

「いや、まずはそのアチャ男という呼び方は何とかならんのかな?」

「では、……アーチャーさん?」

「……エミヤでいい」

「なぜか真名は初めて聞く気がしますねぇ。

 では改めましてエミヤさん、私に家事のご教授をお願い致します」

 妙に畏まった様子の玉藻だったが、意外なお願いだった。無銘だったエミヤは陣営を去るときに遠くから岸波の様子を少しだけ見ていたが、彼女はネロに劣らぬ料理の腕を披露していたはずだ。

「良妻を目指す者として、家事も完璧に熟したいのです」

 岸波白野への並々ならぬ献身、彼女のそれを知っていれば違和感はないだろう。

「それでネロへの対抗心が無ければ気が楽なのだがな」

「あらあら、気が付かれてしまいましたか? 

 不肖私、玉藻の名に懸けて、あの皇帝様からご主人様の相棒枠を簒奪する所存。

 今の内に良妻力を磨きに磨かなければなりません」

 饒舌に計画を語る玉藻は、ネロに思うところがありながら心底楽しんでいるように見えた。エミヤの長年の勘がそう告げている。

「さてさてエミヤさん、お返事を聞かせて頂いても?」

「……断る」

「そんな殺生な。そこを何とか」

「断る」

「そんな殺生な。そこを──」

「待て、断らせる気がないなら返事も何も無いだろう?」

「いえいえそんな、エミヤさんに快諾していただいた方が差し障りはありませんでしょう?」

 危うく玉藻の術中にはまるところだったエミヤは苦言を呈するものの、当の本人は苦言に対してどこ吹く風か、悪びれることなく言い切る。

「やはり返事など聞く必要はないだろう。私は本気で断るつもりではないし、君がどういう人物かは大体把握しているからな」

「それは重畳でございます」

 エミヤの回答が分かった上で玉藻に遊ばれた気もするが、彼女のはしゃぐ様を見ると弓兵は毒気を抜かれてしまう。

 エミヤが玉藻と初めて会ったのは、月の裏側に居た時の時空の乱れによる連戦、その最終戦で白衣を着たマスターの男に彼女が付き従っていた時だった。

 まるで人形のように感情を殺していた玉藻の姿は、無銘だったエミヤから見ても痛々しいものだった。

 今こうして本来の自分を曝け出しているのは、玉藻が去り際に語っていた得難い岸波白野(マスター)に出会ったということでもあり、戦った身としては幸福な出会いが彼女へ訪れたことに安堵する。

「あ、そうでした。話は変わりますがエミヤさん。最近背後から視線を感じる、なんてことあります?」

「ん? ……あるな」

「やっぱりそうでしたか。

 いえ、カルデア(こちら)に召喚される前にメル友の清姫ちゃんからマスターと毎日ラブラブしているって惚気メールが来ていたんですが、途中からマスターが赤い弓兵に現を抜かしているという文章が送られるようになり、あっ(察し)となりまして」

「犯人は分かっていたんだが、まさかここで経緯を聞くことになるとはな」

「エミヤさんも努々油断なさらないよう。清姫ちゃんは背後になら何時でも立てる特技がありますから。後ろからグサリなんて優雅じゃありませんもんねぇ。

 まあ、ここのマスターはご主人様並みの胆力により、背後に立たれても一切動じないので見習った方がよろしいかと」

「……ああ」

 助言と取るべきなのか迷うところだが、エミヤは頷くしかなかった。

 しかしながら、強敵が味方の中に居るのは好ましくないため何とかしなければならない。

「しかも随分とモテるようですねぇ。合縁奇縁と申しますし、愛多ければ憎しみ至るとなりましょう。呪相・玉天崩(いろいろ)な意味で!」

「不吉なことを言わないでくれ」

「不安を煽るようなことばかりでしたが、これでも感謝致しております。特にタマモキャット(あっちの私)ネロ(皇帝様)エリザベート(トカゲ女)に構っておられるようで、……少し安心しました」

 爽やかさを残しつつ紅茶を飲み終えた玉藻の姿を見ながら、エミヤは背中を刺されないよう対策を練ることにした。

 

 次の日、約束通りエミヤから家事の習得に励む玉藻だったが、乱入してきたタマモキャットとの乱闘で酒池肉林になりかけたのは言うまでもない。

 

 




 エミヤさんはお変わり無いようで安心しました!
 ネロと無銘と玉藻(三人ユニット)で活動してましたし、お友達が居るのは安心できますねぇ。
 ご主人様は伴侶ですが、こちらのマスターにも誠心誠意仕えましょう!
 

 今思えば、無銘(アーチャー)さんはイケタマを燃やし尽くしてでも闘ってきたのでしょう。
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