女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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京言葉が間違ってたらと思うと不安。

真の頭領は次回


エミヤと大江山の頭領

 刹那の快楽に酔う鬼が居た。

 その生き方に流行り廃りはなく、心の赴くままに振る舞う。決して共感を得られなくとも、それが変わる事は無い。

 

 帳簿を眺めながら自室への帰路についていたエミヤは頭を抱えていた。

 というもの、カルデアは大酒飲みが非常に多いのだが、最近に至っては酒の消費量が尋常ではないほどに多い。禁酒令を出したら後が怖いため、他の対応策を考えている。女性を怒らせたら身が持たない、生前に落とされたテムズ川でそう学んだ。ただし、今更エミヤがそう考えても、もはや後の祭りではある。

 そもそも、悩みの大本の原因はといえば──

「これはまた奇遇やなぁ、赤い兄やん」

 酒呑童子だった。

 彼女、酒呑童子にはスキルとして「果実の酒気」が備わっており、声だけでも思考を蕩けさせてしまう。サーヴァントであれば、酷い状態でも酩酊する程度で拮抗できるが、一般人には文字通り毒となる。幸いなことに、エミヤの体調が悪化することはなかった。

 弓兵は羅生門周辺の酒気で無様を晒したこともあり、レイシフトの終了後、二日ほど寝込んだ。二の轍を踏まないためにも、精神干渉型のスキルで酩酊状態にならないのはありがたい。

 思考を脇道に逸らしたエミヤはそういえばと思い出す。酒呑童子がロマニにシミュレータの設定を無茶振りする場面に立ち会った時、彼は医療部門の関係者でありながら酒呑童子のスキルで思考を乱すことなく、色香に惑わされて悪ノリするだけだった。オペレーターとのお茶の時間でロマニについて聞いた話によれば、前所長であるマリスビリーの助手を務めていたらしい。少なくとも、ロマニは魔術関係の素人ではないことが確かだった。

 そう結論付けて思考を一時中断する。

「私に何か用かね? ……先に断らせてもらうが、食堂の営業は終わっているぞ?」

 大方、酒のつまみでも欲しいのだろうと見当を付けながら、親しい友人のように近づいて来る相手の挙動を観察する。

 酒呑童子は控えめに評価しても、マントを脱いで戦闘態勢になったジャック並に際どい恰好をしている。

 その一方で弓兵は警戒していた。先日の協力者、Mr.ゴールデンこと坂田金時は、カルデア一同に向けて絶対に油断しないよう忠告していたからだ。マスターの安全を最優先にしているため、基本的には中立の立場をとるエミヤもそうせざるを得なかった。彼女は鬼と言うだけあり、天邪鬼な一面もある。

 そのような相手でも、立香の社交性を考慮すれば彼女自身で対処できる案件だろう。しかし、彼女に過度に期待しすぎるのもよくはない。多くの特異点を越え、数多くのサーヴァントと縁を結んだマスターと言えど、等身大の少女に変わりはないのだから。期待で押し潰すわけにもいかない。

 斯くして、酒呑童子は酒豪のサーヴァントと一緒に酒宴を開いており、今の所は平穏だ。

「そないに警戒されると、うちは傷ついてしまうわぁ……」

「そう悲しむ必要はない。君が何もしなければ、私が手を下す事は無いのだからな」

 エミヤが歴戦の英霊といえど、人間の挙動は酒呑童子からすればお見通しなのだろう。

 弓兵は看破されても白を切ることなく、譲歩をしながら返答する。

 無意味に事を荒立てれば、相手の土俵に乗ってしまうと理解している。専ら、頼光と酒呑童子の諍いを宥めることが多い。

「まあ、ええけど。……そうや、うちの晩酌につきおうてほしいなぁ」

「その相手を私に……か、どういう風の吹き回しだ?」

「みぃんな先週は飲みすぎたっちゅうて、人が集まらんもん。いうて一人で飲むのも味気ないやろ? ほなら酒の肴とええ男がおらんかなぁと探しとったんよ」

 随分と遠回しな表現だが、彼女の要望とこうして会いに来た理由を考えれば、エミヤの予想通り一杯付き合えということだろう。彼女の言う「ええ男」に該当するのかは分からない。

「まあ……朝の仕込みのついでに用意できなくもないが……」

「なら決まりやな。楽しみにしとるよ」

 言っておくことは全て話したと言わんばかりに、いそいそと背を向けて去っていく。

 呆気にとられたエミヤは、帳簿を閉じて頭を掻くしかなかった。

 

 あまり待たせるのもよくない、そう思ったエミヤは一人で仕込みを終わらせ、他のメンバーに宛てた書置きを残して食堂を後にした。

 仕込みの片手間に作っておいたツマミを運びつつ、場所を聞いていなかったと失態に後悔しながらひとまず自室に向かったが、部屋の前に見慣れた影があった。

「ようやく来てくれはったねぇ」

 一見して、最初からエミヤの部屋で酒盛りする算段だったということは自明の理だ。

「探す手間が省けたものだが、まず私の部屋でやると言って欲しかったものだな」

「堪忍なぁ。うちがうっかりしてもうて。……あぁ、うちは追い出されてしまうん? 他の女子(おなご)はようても、鬼はいやどす?」

 妖艶な鬼は愉しそうな笑みを浮かべて弓兵を窺う。反応を楽しんでいることに間違いはなく、もしここで拒絶すれば、多少の脚色を施して口外するであろうことは直感が無くともわかる。どちらに転んでも、酒呑童子に利がある。

「ふっ……冗談だ。そこで待たずとも、中に入っていても良かったのだがね」

「それは雅とは言えへんなぁ。今か今かと待つことを楽しむのも、乙なものやないか」

 感性の違いか、はたまた風情に疎いからだろうか、エミヤにはその感覚が分からなかった。

「……このまま問答ばかりでは埒が明かんな。

 すぐに用意するから適当に掛けてくれ」

 部屋に入りながらそう言って振り向くと、エミヤの言葉が終わるよりも早くに酒呑童子は我が物顔で席に着いている。酒は自前の物を用意したらしい。弓兵は苦笑いを浮かべながらも、差し出す準備を整えていた。

 目の前の皿から箸で一口食べた酒呑童子は満足げな表情を浮かべているため、お気に召したと察する。

「ほんまに腕の立つ板前やね。あんたはんのような人なら、うちのお山にも一人くらい欲しいわぁ」

「生憎だが、スカウトは間に合っている」

「もう、いけずやね。……せや、酌でもしまひょか?」

「私は構わんさ。別に呑めない訳ではないが、料理を食べてもらうだけで満足だからな」

「ほんまに欲のない人やね……ああ、それがあんたはんの好みなんやな? 食べとる姿を見るのが好きやなんて」

 酒呑童子は箸を止め、心底愉しそうな顔でエミヤに問いかける。

「ここぞとばかりに曲解をしないでもらいたいものだが……」

「そないに怖い顔せんでもええよ。あんたはんを取って食う訳でもあらへんしな」

 彼女の生前を考えれば当然かもしれないが、さも当然のように物騒な単語が飛んでくる。

「冗談でもヒヤリとするな。私をからかうのは楽しいのか?」

「愉しいかどうか内緒やで。それに……ほんまに冗談だと思うたんか?」

「君が本気だったら私はとうに手負いだろうさ。まあ、生半可な攻撃で負けるつもりもないがね」

「鬼を前にしておきながら威勢の良いことやね」

「これを虚勢だと思うか?」

「おお怖い怖い。怒らせん方が良さげやな」

 言葉とは裏腹に笑みを崩さない酒呑童子は、このやり取りですら愉しいからこそ手を出さないのだろう。

「しかし、なぜ私を誘った? 日頃イケメンが居ないなどと言っていたような気がするが……」

「気ぃ悪くせんでな。ドクターはんもあんたはんも、並よりも上やから。

 せやねぇ……鬼の本質を理解した相手と呑みたくなったってところやね、小僧とよう似とるんよ。危険だと分かっていても、情を切り捨てられんところがな」

 盃を傾けながら、珍しい雰囲気で語り出す。 

「そないな相手と、酒に酔いながら命を奪い合う、肌を重ねながら騙し合う、なんとも乙なものやないか?

 ──あの時もそうやったなぁ。盃に月明りを映した蒼い瞳を浮かべたら、死んでも佳いかと思うたで……そないな顔してどうしたん?」

「……いや、風情があると思っただけだが?」

「そうかいな。今はその言葉……信用したるさかい」

 決して交わることのない平行線だが、金時と酒呑童子は独特の関係があるのだろう。

 揶揄(からか)われながら、エミヤは最後まで相手をしていた。

 

 後日、微小特異点まで酒の買い足しに走るエミヤの姿があった。

 

 




 頼光の大将はんは口煩いものやけど、旦那はんやエミヤはんは面白いからなぁ。
 金時の小僧がいない代わりに愉しませて貰おか。
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