女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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新しい趣向で書きました。


Re:エミヤと青き騎士王

 エミヤの生前の記憶を辿れば、アルトリアという少女にとって、食事は魔力供給の代わりだったはずである。

 しかし、衛宮士郎がマスターだった時とは違い、カルデアに召喚された彼女の魔力供給に支障はない。

 それなのに食事を積極的に摂るのは、根が健啖家であるためか、それとも生前の食生活の不満を埋めるためか──

「シロウ、おかわりをお願いします」

 洗い終わった食器を拭きながら、考察に耽っていたエミヤを現実に引き戻すアルトリアの声。弓兵が吹き抜けのカウンターへ目を向ければ、お椀を弓兵に差し出す騎士王の姿があった。

 食べる量が少なくなったと言っても、一般人からすれば三杯目は多いだろう。

 

 アルトリアは、食堂に来ると毎回カウンター席で食事を摂っている。彼女はお代わりの回数が多く、エミヤからすれば食事を提供しやすい場所に居てくれるのはありがたい。

「相変わらずおいしそうに食べるな、セイバー」

「ええ。シロウの料理はとてもおいしいですから。ですが……こうしてまた、シロウの料理が食べられるとは思いませんでした」

 アルトリアは箸を止めると、しんみりとした様子で呟く。本来なら二度と会う事が無いはずだったが、生前のエミヤの記憶を持つことができた奇跡的な邂逅に感謝している。

 彼女の本心を聞いて懐かしさを感じる。当時はへっぽこ魔術師だったが、料理の腕なら一流を自負していた。このまま懐かしさに浸りたいところだが、本来の目的を果たすため、食器を洗い終わったエミヤはカウンターに手を置きながらアルトリアの顔を見る。

「セイバー、今の内に君に聞いておきたいことがある」

「……? 一体なんですかシロウ?」

 食堂を運営している同僚は先に帰っているため、この場に居るのはエミヤとアルトリアの二人だけだ。

 箸を止めてエミヤの顔を見つめるアルトリアは、これから聞いてくるであろう彼の質問に思い当たる節がないためか、きょとんとした顔をしている。

「最近……海外出身のサーヴァントが私をシェロと呼ぶのだが、心当たりはないか?」

「ありますよ」

 悩むそぶりを微塵も見せない、あまりにも早いアルトリアの回答に、エミヤは思わず拍子抜けしてしまう。

 といっても悪いわけではない。知りたい情報に限って一度目の聞き込みでは有益な情報が入らないと相場が決まっているが、これはなかなかに幸先のいい滑り出しだと言える。

「簡単に説明すると、そうですね……シロウと仲の良い女性は多い。ですが、彼女たちの大多数はあなたを"エミヤ"と呼んでいる。そこに壁を感じたあるサーヴァントが、愛称で呼びましょう、と提案しました」

「その人物は……一体誰なんだ?」

「────マリー……いえ、マリー・アントワネットです」

 アルトリアの回答を聞いたエミヤは思わず、『ああ』と納得した。

 当のマリーはエミヤを『シロウ』と呼んでいたが、他のサーヴァントが"エミヤ"と呼んでいる姿を見て壁があるように感じたのだろう。

 王妃として国民の幸せを誰よりも考えていた彼女であれば、自分以外のために行動を起こすことは自然な流れだ。

 そして彼女がシロウと呼ぶ練習をしていた時、日本的な発音が難しかったため何回かシェロになっていたことがあった。そんな彼女がシェロを発案したのだとすれば辻褄が合う。

 その呼び名に決まったことは偶然かもしれないが、エミヤがその名前で呼ばれるのは非常に懐かしい思い出だ。初めてシェロと呼ばれた時には、凛と激闘を繰り広げた金髪の淑女の姿が幻影として見えたほどだ。

「ようやく疑問が解消されたよ。ありがとう、セイバー。

 しかし、マリーと呼ぼうとしていたが、仲が良いのか?」

「そうですね。私と同じく民の幸せを考えながら、聖杯に過去のやり直しを求めない彼女の在り方に感銘を受けました。

 そして話を聞くうちに、いつの間にか仲良くなっていました。今思えば、彼女は不思議な人ですね。私のような王が持つものとは異なる、人を惹きつける才を持っている」

 穏やかな顔を見せてマリーについて語るアルトリアだったが、エミヤはその姿を見ると感慨深いものがある。

 生前に召喚した時、頑として選定をやり直そうとしていた彼女の口から、自身を王と称し、似て非なる考えの人物と仲良くなったと言われたら、ある意味エミヤの頑張りは無駄ではなかったと言える。

 エミヤ自身は気が進まないが、衛宮士郎に感謝しなければならない。自分のやってきたことは、間違いではなかったのだから。

「……シロウ? 聞いていますか?」

「────すまない。考え事をしていた」

 あまりにも呆け過ぎていたためか、不審に思ったアルトリアが声をかけてくる。咄嗟に取り繕うと、エミヤは次の話題を切り出す。

「そ、そういえば、セイバーは私をシロウと呼んでいるが……変えたりはしないのかね?

 もはや、君の知っている面影はないと思うが」

 エミヤの質問を聞いたアルトリアは瞑想するかのように目を閉じると、深呼吸をしてから翡翠の双眸でエミヤを見つめ直す。

「見た目はともかく、それ以外は貴方が思っているほど変わってはいませんよ。今もこうして食堂を切り盛りして、マスターとマシュの旅を初期から支えて、職員やサーヴァントのお願いを聞く。

 未だに自分よりも他人を大切にするところがあるので、完全には変わってはいませんよ、シロウ」

 かつての自分を知る女性に変わっていないという太鼓判を押されたが、最後に棘のある言い方をされてしまう。事実であるため否定はできない。

「それに、『シロウ』の名前は思い入れがありますから、変えるつもりはありませんよ」

 そう言って彼女は微笑んだ。

 以前に見た、今にも消えてしまいそうなほどに儚げな顔だった。

「ごちそうさまでした。シロウ、お先に失礼します」

「────待ってくれ」

 気付かない内に食べ終えていたらしく、郷愁の念に駆られたエミヤは咄嗟の判断が遅れてしまい、アルトリアが食堂を出て行く直前になってから呼び止めてしまう。

 それでも、振り返った彼女にどんな言葉を投げかければよいか、その言葉は既に決まっていた。

「オレも君の名前を忘れた事は無い。……ありがとう、

 ────アルトリア」

 カルデアに来て、面と向かって初めてその名を呼んだだろう。

 弓兵の目は、嬉しさを押しとどめる少女の姿を捉えていた。

 声にならないのか、エミヤには彼女の口の動きしかわからない。

 





 ────ようやく、呼んでくれました
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