女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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活動報告のリクエスト品です。
こんな感じで仕上がりました。
あと、ネタバレを含んでいるので自己責任でお願いします。


エミヤと浪漫と白い獣(ネタバレ含む)

 ────また意識が飛びかけた。 

 はっきりとしないまま、ふとデスクの時計を見れば、すでに夜の八時を回っている。

 また食堂に行きそびれたな、とロマニはため息をつく。

 不慣れな仕事に弱音を吐く事無く、ロマニ以外のカルデアの職員が寝ている間も、不眠不休で職務に当たっている。

 薬で肉体疲労を誤魔化し、それを悟られないように飄々とした自分を演じていたが、二日続けて食堂に顔を出さないと流石に怪しまれてしまう。

 そう考えていた時、三回の規則的なノック音がロマニの耳に届く。

 こんな時間に部屋に来る人物といえば彼だろう、とロマニは見当を付けながら出迎える。

「Dr.ロマン、夜食を持ってきたぞ」

「フォウ!」

 赤い外套が印象的な弓兵──エミヤが、おにぎり二つとお茶を載せたお盆を持ち、部屋の前に立っていた。腰に水筒をぶら下げ、なぜか頭の上にフォウを載せた姿で。

 

「食堂を閉めてしまったからな、これぐらいしか用意できなかった」

 エミヤが慣れた手つきで、デスクの上に置いたおにぎりとお茶は、まだ温かな湯気を立ち昇らせている。

「ご、ごめんねぇ。集中していたら……つい時間を……忘れちゃって」

 おにぎりを頬張り、いつものように軽い態度で誤魔化す。口に入れた瞬間、独特の酸味がロマニの口内に広がり、中の具は梅干しだと断定する。種がない当たり、食べやすさを重視したようだ。

 昨日とはまた違った中身に、ロマニはエミヤのマメさを実感する。しかし梅干しがあるとは、カルデアの食糧庫はバラエティに富んでいる。

 それにしても、エミヤとロマニはいつの間にか長い付き合いになった。

 思い返せば、エミヤは召喚された日から食堂を改革し、ロマニが行動するよりも早い内から、職員やサーヴァントのメンタルヘルスケアに務めていた。

 広い視野で変化を察知し、思考を巡らせているエミヤが役割の一部を肩代りしているおかげで、ロマニの負担はそれなりに軽減されている。

 昨日、食堂に顔を出さなかったロマニの部屋に夜食を持ってきてくれるほど、この英霊は気が利く。

「気になってたんだけど、なんでフォウくんと一緒にいるんだい?」

「ここに来る途中に行き会ってね、少し話をしたらついてくることになったんだ」

「フォウ、フォーウ!」

「……そうなんだ」

 珍しいこともあるものだ、とロマニは口には出さないが感心する。

 フォウがロマニと顔を合わせることは滅多になく、専ら藤丸立香やマシュの傍に居ることが多いからだ。

「ところで、ロマン」

「なんだい?」

 ロマニが二つ目のおにぎりを一気に頬張った時、エミヤの方から声がかかる。

 

「いつになったら寝るんだ?」

「────っ!? ぐふっ」

 世間話のような気軽さで、突然核心を突いてくるエミヤ。ロマニは思わず、おにぎりを咽喉に詰まらせたため、お茶で流し込む。

「な、なんでそれを……」

 道化の仮面をつけることも忘れ、問い質してくるロマニに対し、ふう、と息を吐いたエミヤは呆れたように答える。

「自分でも気づいていないのか? 顔色が少し悪いぞ」

 まさか、それだけの変化で見抜いたというのか、ロマニは驚愕せざるを得なかった。肉体の疲労は薬で誤魔化していたが、精神の疲労は隠しきれていなかったらしい。

 少し前のロマニであれば、隠しきれていただろう。

「……皆には、内緒にしてもらえないかな」

「まあ、人のやり方にあまり口を出したくはないが、度が過ぎているぞ」

「君が言えた事かい?」

「……そうだな」

 心当たりがあるのか、ロマニのやり方に一定の理解があるエミヤは腕を組み、バツの悪そうな顔で首肯する。

「でも……こうでもしないと、空けられた穴は埋められないからね」

「そう言うと思っていたよ……これを渡しておく」

 頑として譲らないロマニの心境を察していたエミヤは否定することなく、腰にぶら下げていた水筒をロマニに差し出す。 

「中身は何だい?」

「オレンジジュースだ。搾りたてだから疲労によく効く」

 そういえば、おにぎりの中身の梅干しも疲労回復に効く、とマシュが言っていたことをロマニは思い出す。この弓兵は、ロマニの部屋に来る前から分かっていたらしい。

「では、私はお暇しよう。目的も果たせたようなのでね」

 空になったお盆を引き取ると、エミヤは部屋を出て行こうとする。ロマニは一番気になっていたことを問いかける。

「ちなみに、いつから気付いていたんだい?」

「疲労が溜まっている時、という意味なら昨日だな。顔を出していないことが、気がかりだったものでね。私なり(・・・)に調べさせてもらった」

 足を止めて背中越しにエミヤは答える。

 しかし、その答えには含みがあるのではないか、とロマニは感じた。

「ああ、私も聞き忘れていたな。……夜食の味はどうだったかな?」

「……うん、おいしかったよ」

 穏やかな顔で振り返ったエミヤへ、ロマニの返す答えは一つだった。久方振りに、心からの笑顔で感謝の言葉を述べる。

「そうか、無理をしないようにな。おやすみ、Dr.ロマン」

 ロマニの言葉を聞き届けると、今度こそ部屋を出て行くエミヤだった。

 そのエミヤは、終始フォウを頭に載せていたが。

 

 やっぱり気が利くなぁ、とロマニはしみじみと思う。忠告はしても、それを知った上で補助に回ってくれる。それでいて干渉をしすぎない。

 早くに出会っていれば、良き友になってくれただろう。

 ダヴィンチがカルデアに来るまで、基本的に周りを信用していなかったが、立香を始めとして信用できる人物がカルデアに呼ばれてくれたものだ。

 最後まで心配をかけることになるだろう。相手はあの(・・)魔術王だ、油断はできない。

 ────あの英霊が相手なら、ボクは全身全霊を以って迎え撃つ。

 部屋に一人残されたロマニの胸中を知る者は、誰もいない。

 

 




「フォウ!」
 ロマニの部屋で沈黙に徹していたフォウは、エミヤの頭から飛び降りると器用に着地する。
「もう行くのか?」
「フォウ、フォウ、フォーウ!」
「ああ、彼女によろしく言っておいてくれ」
 エミヤに短く別れを告げると、フォウはある人物の元へ走り去る。

 とある部屋の前に着くと、フォウは中の人物へ呼びかける。
「フォーウ!」
「……おかえりなさい、フォウさん」
 間をおいてフォウを出迎えたのは、マシュ・キリエライト。フォウがロマニの部屋を訪ねようとしたのは、マシュのお願いでもあった。
「フォウ、フォウ、フォウ」
「なるほど、途中でエミヤ先輩に会ったんですか。ドクターの様子は? ……流石、エミヤ先輩は仕事の手が早いですね」
 マシュはフォウを抱え上げると、椅子に腰かけて膝の上に載せ、フォウの毛並みを整えながら報告を聞く。
 ロマニの様子がおかしいことは、薄々感づいていた。しかしなかなか切り出すことが出来ず、考えた末にフォウに頼った。
 一方で、立香と同様にマシュが先輩と呼び慕うエミヤは、マシュと同じ疑問を抱いていたらしく、即断で悩みの解消をしてくれた。
 何ともエミヤ先輩らしい、とマシュは微笑む。
「医者の不養生はダメですからね、ドクター」
 何かと気にかけてくれるロマニは、マシュにとって父親のような存在だ。緩い所が玉に瑕だが。
「……そういえば」
 ふと、ロマニのある言葉を思い出す。
『マシュは今、幸せかい?』
 その質問に、今ならはっきりと答えられる。
 立香に出会い、エミヤを始めとした歴戦の英霊達に出会った。その心に触れた。そんな自分は──
「私は今、幸せです。ドクター」
 そんな呟きを残すマシュを、核心を話していないフォウは静かに見守っていた。
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