あと時間が取れないので、今週の投稿はこれだけです。
また来週に投稿します。
────月の勝利者は少年であり、少女でもあった。
エミヤの記憶には、月での経験も記録として含まれている。その時に彼を召喚した少女は岸波白野であった。
しかし、その記憶は完全ではない。月の裏側や新天地での記憶は完全に覚えているものの、表側での記憶に欠損があった。月の表側で、体が完全か不完全かに関わらず、岸波白野は勝利と敗北という二つの結果を残したためである。
その矛盾した記憶が重なり、人理焼却が影響しているのかは定かではないが、何かしらの因果によってカルデアのエミヤには記憶の欠損という形で反映された。
少しの違いは、やがて大きな変化を齎す。一頭の蝶の羽ばたきが、竜巻を起こすように。だからこそ、無銘の時に会ったはずのドレイクをエミヤは覚えていなかった。
白野の召喚したサーヴァントは役目を終え、元々崩れていた半身と焦げた外観の体は、ゆっくりとではあるが本格的に崩れ始めていた。しかしその渦中にあっても、無銘の双眸は白野を捉えている。
召喚された無銘は、
マスターの方針に従うのがサーヴァントの役目、そう茶化した彼は手を尽くした。岸波が途中で脱落しないよう力を貸したこともある。その努力が実ったためか、白野の最後の相手は、彼の少年だった。
少年が従えるサーヴァントは、自信に満ち溢れた
────それでも、あと一歩届かなかった。
もし万全な状態で召喚されていれば、勝つことができた未来もあっただろう。しかしそれは、敗者の結果論に過ぎない。なぜなら、今のマスターを勝たせることができたわけではないのだから。
『……アーチャー』
今にも消えてしまいそうになるほど、白野の体は浸食されているが、彼女は動じることなく消滅の運命を受け入れている。そんな白野は相棒を呼んだ。
『────ありがとう』
顔の半分以上が浸食され、整った顔立ちはその面影を残してはいない。そんな状態にあっても凛とした表情であることは、無銘には理解できていた。おそらく笑顔を作っているのであろう白野は、感謝の言葉を無銘に送る。
無銘は、そんな言葉を受け取るわけにはいかなかった。白野が満足しているとはいっても最後の最後で敗北し、途中で脱落することになったのだから。
『いいの。アーチャーが私のために色々としてくれたことは、全部分かっているから。だから……』
無銘の心中を察していた白野は言葉を途中で切ると、一度瞼を閉じ、再び開けると無銘を見据え──。
『────また、あなたに会いたい』
その言葉を残して、先に消えてしまった。遠い記憶を呼び覚ますような感覚、この光景をどこかで見たような気がする。そんな言葉を言われたら、無銘はこう返すしかない。
『ああ……オレもだよ、マスター────』
無銘の言葉が終わると同時に、彼の体も完全に崩壊した。
白野と無銘、二人の消滅を、岸波と二人の従者は静かに見届けた。
アンチセルを撃退し、アルテラを救った岸波の活躍を見届けた無銘は静かに立ち去る。異なる世界線からやってきた彼は、岸波とネロを最善の結末へ導いた。
こうして力を貸したのは、
アルテラを信じ切れず、アルキメデスの諌言に従って倒してしまったがために、今いる世界の未来は、その可能性は、永遠に閉ざされてしまった。
未来のない世界で終わりを待つことは、アルキメデスに完全敗北したことと同じである。そう考えた白野がとった行動は、至ってシンプルなものだった。
この情報を持ったサーヴァントを並行世界に移すこと。白野自身は、送り出す役目があるため除外される。そして適任は、付き合いの長い
他の世界線のアルキメデスに一矢報いることができれば、
そう考えていると、目的の人物が現れる。
無銘、赤い外套の弓兵──もう二度と会うことができないサーヴァント。
未練を断ち切り、彼に所定の位置に立たせると、白野は絶対的な王権──レガリアで願った。ムーンセル・オートマトンは、あらゆる願いを叶える力を持つという。その力で、無銘を並行世界に移すことを望んだ。その願いが叶う確証はなかったが、白野は賭けに勝った。
珍しく慌てている無銘へ、最期の言葉を告げる。
『岸波白野とアルテラを助けてね。また会いたいな、アーチャー』
無銘はその言葉に答えることができなかった。しかし、彼女の望みが叶った今ならば自信を持って返せる。
『約束は果たした……
弓兵の独白を聞くものは誰もいない。
私のために、いつも戦ってくれたアーチャー。偶にデリカシーのないことを言ったりするけど、私の頼れるサーヴァント。気になる異性と位置付ける方が適切かもしれない。地上に帰っても、また会いたいな。
ありがとう……