女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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タイトルこれなのに甘い話にならなかった。

Xオルタが来る頃には甘い話になるかな。


エミヤとバレンタイン

 二月に入ったカルデア。サーヴァントの失踪事件が起こる前のことだった。

 

 藤丸立香は悩んでいた。

 今の時期だと、日本ならイベントとしてバレンタインデーが存在する。

 すかさず、バレンタインイベントをやります、と宣言したいところだったがそうもいかない。

 昔聞いた話ではあるが、日本と海外のバレンタインデーは内容が異なるらしい。

 その差異をどう埋めるかが重要だが、とりあえず日頃の感謝を込めた贈り物としてチョコレートを渡すイベントにしようと考える。しかしまだ課題はある。

 現在、このカルデアに在籍するサーヴァントは四十を超えている。

 この状況でそんなことを言えばどうなるか。もはや義理かどうかは問題ではなく、このままでは大多数のサーヴァントがほぼ間違いなく、合計して一般人を確実に胃もたれさせる量のチョコレートを()の弓兵に渡すことになり得る。これだと、甘党のロマニですら裸足で逃げ出すだろう。

 しかも、サーヴァントだけでこの数なのだから、職員の数も合わせれば更に増える。

 つまり、最大の問題点は──、間違いなく味に飽きること。如何にアレンジを加えようとも、基本はチョコレートだ。更に、その状態に陥っても、お人好しな彼が貰った物を食べ切らないとは考えられない。

 サーヴァントが体調不良を起こすのか立香には分からないものの、味覚などの感覚は人と変わらないため、無理をさせるのはあまりにも忍びない。

 ならばどうするか──

 

 先日の二月十四日、エミヤが立香に呼ばれて食堂に赴けば、バレンタインパーティーなるものが開催されていた。

 お菓子やデザートによる立食会というべきだろう。勿論、パスタなどの主食もある。

 最近、カルデア内が何かしら慌ただしいとエミヤは思っていたが、蓋を開ければこういうことだった。同時に、そういえばそんな日があったかと思い至る。

 心当たりといえば、偶には休んでほしいと言われて直近の食堂のシフトから外されていた。だが、提案の意図を考えもしなかった。

 生前の記憶を遡っても、赤い少女()金色の淑女(ルヴィア)が箱を片手に拳や魔術でやたらと張り合っていたような気がするが、チョコレートを貰ったことはそれくらいしか記憶にない。単純に忘れているだけかもしれないが、だからこそ覚えは悪い。

 弓兵は少し遅れて参加することになったが、日頃お茶に誘っている職員から丁寧な包装が施されたチョコレートを貰った。受け取っただけで大層喜ばれ、彼自身は少々むず痒さを感じることとなった。

 マスターの立香からは、サーヴァント全員が一つずつ作った小さい焼き菓子、それらの詰め合わせを代表して手渡された。

 話によると、職員にチョコレートを作ってもらい、サーヴァント側がそれ以外を作るようになったのは立香の発案であり、時間の合間を縫って一人一人に賛同を貰ったらしい。

 「ホワイトデーと被ってごめんね」とは立香の言葉で、気にすることはないとエミヤは返した。

 これは弓兵の予想でしかないが、立香自身もチョコレートを作りたかっただろうに、第一に食べる人のことを考え、その上でサーヴァントと同じ物を作る所が彼女らしいものの、些か申し訳なさを感じる。

 立香が去って行った後、彼が詰め合わせの袋を開ければ、クッキーやビスケット、マカロンなど多様なお菓子が収められていた。それぞれの色も異なり、味の違いを見て取ることが出来る。

 ここまで良いものを貰ったのだから、エミヤがお礼を言いに回るのは自然な流れだった。

 回る中で、「頑張って作った」と一部のサーヴァントに飛びかかられたり、アルトリア達が、「口に合えばよいのですが」と同じような言葉を話していたことに不思議と安堵したり、自信満々のエリザベートが、「ちゃんと食べなさいよねっ!」と胸を張っていたことに肝を冷やした。

 後でカーミラが、「隠し味を入れないよう見張っておいたわ」と言っていたので安心した。ただ、仮面越しでも気苦労を背負っていたように見えたのは、おそらくエミヤの見間違いではないだろう。

 月での経験を垣間見た彼女は、料理の腕がどれほどのものなのか自覚しているのかもしれない。エミヤが彼女に感謝しながら頭を撫でたことは記憶に新しい。カーミラはなぜか照れていた。

「────楽しんでいるかい? エミヤ君」

 

 唐突に弓兵は名前を呼ばれる。

 パーティの喧騒から離れ、食堂の隅に置かれていた椅子に座り、考えに耽りながら渡された贈り物を眺めていたエミヤに声をかけるのは、ロマニ・アーキマンだった。彼自身が甘党なこともあり、皿一杯に甘味を載せている。

「……ああ、そんなところさ。

 ──ロマンほどではないがね」

「あはは……、痛いところを突かれちゃったかな」

 そう言うと、ロマニはエミヤの隣に腰を下ろす。

「でも──、君は本当に楽しめているのかい?」

 珍しく真面目な顔を見せるロマニ、彼が時折見せる二面性ではあるが、普段の態度からすれば、こちらが素の顔なのかもしれない。

「……そんなに分かりやすかったか、私は?」

「いや、むしろ分からない方が凄いだろうね」

 ロマニは皿の甘味を口に運びながらエミヤの問いに答えていた。

「なんて言ったらいいんだろうね……、お礼を言いに回っていたけど、一人になった時はどこか悩んでいるように見えたんだ」

「……そうか、以前よりも顔に出るようになっていたか。

 別に嬉しくない訳ではないさ。ただ、私がここまでしてもらっていいものか、少しだけ考えていた」

「僕も疑問に思っていたんだけど、どうして君はそう考えているんだい?」

「とある理由があってね、私が勝手に引け目を感じているだけだ。

 なにより、この手の中にある物の重みを、私は今まで知ろうともしなかった」

 チョコレートの箱を片手にエミヤは語る。その嬉々として悲痛な面持ちに、ロマニは言葉が出なかった。

「よく言われるよ。『なぜ好意から目を背けようとするんだ?』とね。そうしないようにすると誓ったが、どうしても誤魔化そうとしてしまう。誤魔化せる相手ではないと分かりながらな。

 ──だが、そろそろ心の整理をすべきかもしれないな。心当たりはなくとも、私の都合で逃げ続ける訳にもいかないからな」

「……色々と大変だね、エミヤ君も」

「私の苦労など、マスターの任務やカルデアの職務に比べれば些細なことだ。

 ──さて、そろそろデザートが足りなくなりそうだ。休んでいた分、私が追加を作らねばな」

「おっと、僕は和菓子が欲しいかな。勿論、こし餡でね」

 アルトリア達のいるテーブルを一瞥し、贈り物を抱え立ち上がるエミヤだったが、会話中に甘味を消費していたロマニは、持ってきていた分を完食していた。

「……まあ、いいか。餡子の在庫はある。

 つまらない話を聞かせたお詫びに作っておこう」

「うん。楽しみにしているよ」

 やり取りを終えると、エミヤは背を向けて厨房へ消えていった。見送るロマニだったが、パーティー中でも率先して世話を焼く弓兵は、何とも彼らしいとしか言いようがない。

「…………君が、答えを出せることを祈っているよ」

 

 エミヤの和菓子を食べている内に、真面目な顔のロマニはいつの間にか消え、いつも通りのロマニがそこに居た。

 

 




 やれやれ、ロマニがどうしても参加したいっていうから観測を代わったけど、おかしな特異点が見つかったね。いや、果たして特異点と呼べるのだろうかな。
 場所は……特異点Fと同じ島国か。
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