女難な赤い弓兵の日常inカルデア   作:お茶マニア

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エミヤと正義の味方(じゃあくなるもの)

 亜種特異点の調査に降り立ったのは、藤丸立香とエミヤ。そして、同行できないマシュに代わって参加しているアルトリア・オルタとジャンヌ・オルタの合計四人だった。

 しかし、特殊な環境の為か、レイシフト先の座標が狂って四人は逸れてしまう。

 逸れずに済んだ立香とエミヤの前に現れたのは、愉快な紳士だった。

 拠点を決め、アルトリアやジャンヌと合流し、名探偵の助力を得た一行の前に、一人の男が幾度となく立ちはだかる。

 その男の名は──。

  

 

 眠らない街、近代的なビルが立ち並ぶ新宿に、突如として不似合いな塔が出現した。新宿のアーチャーによる陰謀は、最終段階を迎えていた。

 それを止めるために奔走する立香達だったが、足止めを食ってしまう。

 先を行かせるために残ったのは、エミヤとジャンヌ。その相手は、再起した新宿のアヴェンジャーともう一人──。

「勇ましいことは結構だが、その様では哀れを通り越して滑稽としか言えんな」

 色の抜け落ちた白髪を剃り込む、金の瞳に黒い肌、エミヤと同じ顔を持つ男──エミヤ・オルタは、銃剣をエミヤ達に向けながらそう言った。

「はあッ!? 二人がかりでも少ししか時間を稼げないのに、アンタまで来るとか最悪じゃないの」

「全くだな。あの男には居た堪れない私の身を案じてほしいものだ」

「ややこしいけど、アンタに言った訳じゃないわよ」

「無論、分かっているさ」

 隙を見せずに軽口を叩くエミヤとジャンヌだったが、姿を見れば満身創痍であることが分かる。

 狼王は憎悪を剥き出しにして牙を研いでおり、一切の油断は禁物だった。

「……アレを任せてもらえるか?」

 エミヤの提案を受けて、ジャンヌは彼の表情を見る。鈍色の瞳の先には、金の瞳があった。

「ふーん。まあいいわ。分断さえできればこっちのものよ。正直、アレを見てると腹立たしくなってくるの。それに……アンタは……」

「何か言ったかね?」

「……私に指図するなら高くつくって言ったのよ」

「これは恐ろしい、手心に期待しよう」

 それ以上の会話は不要だった。

 互いの顔を見ることなく、二人は地を蹴った。

 

「あの狼からすれば、オレ達は人間扱いではないらしい。そら、笑えるだろう」

「口の減らなさはお互い様か」

 エミヤ・オルタは眉一つ動かさず、二丁拳銃でエミヤを狙い撃つ。相対しているエミヤは、飛来する銃弾を防御せずに躱していた。それらを解析した結果、そうせざるを得なかった。

 固有結界というエミヤも有する大魔術を弾丸に集束させ、命中した相手の体内で解放する。暴走すれば自身すら斬り刻むのだから、文字通り身を以って知っている。

 同じ剣属性の英霊だが、黒い弓兵は想像以上に固有結界を活用していた。

「──驚いた、私以上にあくどいとはな。そんな手は考えもつかなかった」

「いちいち白々しいな。使えるものは何であれ使うものだ。

 あんたもオレならば、同じ手段を取るはずだがな」

「生憎だが、貴様の剣製には誇りが欠けている」

 かつての腐れ縁から評された言葉を投げかける。

「記憶にはないが、誰かにそう言われた気がするな。まあ、何の価値もない情報だ。

 誇りなど仕事の上で不必要だから削ぎ落した。これで満足か?」

 意匠の同じ双剣と拳銃を互いに構えながら、両者は睨み合っていた。

「さぞおぞましいだろうな。腐り切った自分を見ると言うのは──」

 嘲る様な口振りでエミヤ・オルタは語る。

「──これがおまえの行き着く先だ。足掻きなど無様なだけだ、諦めも肝心だぞ?」

 アラヤと契約した守護者という立場が、エミヤの辿る未来を表している。

 カルデアから座に帰還すれば、また掃除屋として酷使される日々が待っている。摩耗して擦り切れれば、黒い弓兵と同じ末路を迎えるだろう。英霊として召喚され、自身の在り方を肯定できる記録が増えていても、気休めにしかならない。

 だからこそ、彼が得た答えは今も胸の奥に深く刻まれている。

「何が可笑しい?」

 エミヤ・オルタは、唐突に笑みを浮かべた眼前の弓兵に不快感を露わにする。

「ああ可笑しいさ、まるで鏡を見ているようだとな。

 断言してやろう、お前はまさしく私だよ──衛宮士郎(・・・・)?」

 エミヤの問いかけに、エミヤ・オルタは怪訝な表情を以って応える。

 相手の行動を見て、干将莫邪を握る両手に力を籠めた。事情がどうあろうと、衛宮士郎に二度も負けるわけにはいかない。

「結局のところ、他人を救うことに傾倒する愚かな頑固者だ」

「何を言うかと思えば世迷言か。微温湯につかりすぎて、鈍らを通り越して錆びついたか? そんな役立たずは廃棄されるのがお似合いだな」

「ほう。ならば一つだけ聞いてやろう。

 なぜお前は剣に拘る。使いやすいからなどと言ってくれるなよ、私とて銃を扱うことはあったが、銃剣を創ろうなどとは思わなかった」

 簡単な挑発に嫌気がさしたエミヤ・オルタは、苛立ちを隠そうともしなかったが、不思議と問いかけを無視することができなかった。反論しようにも、どうしても答えに詰まる。

 使い慣れているから干将莫邪を選んだ。だが、なぜ使い慣れているのか、なぜ使い始めたのか、過程が思い出せない。 

「己を見失ったのはお前の方だったか」

「──ッ!?」

 エミヤ・オルタは、この逡巡で初めて隙を見せた。心眼を持つエミヤが、それを見逃すはずがなかった。強化した脚力によって一瞬で間合いを詰め、互いの剣を交える。迫りくる刃を捉えた黒き弓兵は、瞬時に意識を切り替えて防ぐ。

 間合いを取り直し、先の光景を見てエミヤは確信した。堕ちた自分は、記憶のほとんどを失っていると。それと同時に、無意識に残した物を把握した。

 死しても、堕ちても治らない、誰かを救うという強迫観念。唯一の宝具である固有結界。剣への執着。

 無駄を省くと主張した男は、正義の味方の礎を捨てきれていなかった。

 

 接近に成功した赤い弓兵と黒い弓兵の白兵戦は拮抗している。いや、それは最初の内だけだった。

 黒い弓兵は動きが鈍り、今は赤い弓兵が押している。

  剣を合わせる度に心象世界が干渉しあい、エミヤ・オルタに彼の失った(知らない)記憶が流れ込んでいた。救われたような顔をした草臥れた男。月夜に映える金砂の少女。多くの映像が駆け抜けてゆく。

「──悪趣味だな」

「その言葉が聞けるとは、称賛の言葉として受け取っておこう」

 押し返して鍔迫り合いを脱すると、エミヤ・オルタは忌々しそうに呟く。再び睨み合いが始まった。

 エミヤは余裕を装いながら安堵していた。戦闘経験はあちら側に分があると理解しているし、堕ちた自分の過去を見て、少なくないダメージを負っていた。

 黒のエミヤは、おもむろに銃口を向けてくる。その顔には歪な笑みが浮かんでいる。赤のエミヤは気を引き締めようとしたが、銃声が先手を打っていた。

 だが、弾丸はエミヤに命中することなく、真横を通過していった。

「……理解出来んな。必殺の好機だったろうに」

「礼には礼を尽くすだったか? 後ろを見てみろ」

 振り返った先には、消えゆく狼王と血濡れのジャンヌ・オルタが居た。

「霊核を砕かれたか、あるいはそれに近い致命傷か。前者なら座に還ってしまうだろうな。

 さて、オレも打つ手がない、今が必殺の好機だ。あの女を見捨てれば、斃すことなど容易いだろう」

「────貴様ッ!」

「怒っている暇があるのか? 決断の遅さは命取りだ。いや、そもそも英霊はくたばって当然だ。気に掛ける必要も──」

 煽りの言葉が終わる前に、赤い外套が翻った。

 走り去る背中を見て、彼の目指す正義の味方がどういうものなのか、それだけで理解できた。

「それがおまえの答えか。お優しいことで、詰めが甘いな」

 一笑に付したが、真剣な顔のまま黒き弓兵はその場を立ち去った。

 

 狼王は、死力を尽くして抵抗してきた。あの時、銃弾を避けようとしなければ、危うく霊核を噛み砕かれるところだった。不幸中の幸いだろう。

 そして、自傷を覚悟の上で炎に焼かれたが、肺も機能しないほどの苦しさだった。なのに、あの聖女は恨みの一つも抱かないなど正気の沙汰ではない。朦朧とした意識の中、そんな感想を抱いていた。

 このままカルデアに還るのだろうが、できればマスターに加勢したかった。念話も妨害されてやることもない。

 彼女はふらふらとした足取りで、足元がおぼつかない。そして、意識は暗闇へと落ちて行った。

「──やれやれ、危なっかしいな。足元に気を付けなさいと言われただろう?」

 その瞬間、浮遊感に包まれる。声の主は下水道のステップに手を掛け、少女を抱き止めていた。

 彼が居なければ、汚水に(まみ)れていただろう。

「なによ、文句あるの? こっちは必死だったっての」

「確かにそれもそうだ。私は取り逃がしてしまったから非難する権利は君にある。

 だからこう言わねばならないな、君のお陰で助かったよ」

「まったく、ふざけるのも大概にしなさい」

 顔を背けながら悪態をつく。その表情は赤く、また不機嫌だった。

「でもそうね。謝罪は不要にするけど、正当な対価を要求するわ」

「私にできることであればよいが、それは一体?」

「…………私と踊りなさい」

 間を空けて放たれたのは、細やかな望みだった。

「踊る?」

「そうよ、あの冷血女を出し抜く為に、おーどーるーの。わかった?」

 少女の瞳は、男の顔を真っ直ぐに見据えていた。

 男は観念したように答える。

「……仰せのままに」

「フハハハハハ、取込み中のようだが失礼するぞ。

 初めましてと言うべきか、共犯者が信を置くアーチャーよ」

 見上げるようにしながら高笑いする謎の男。

 こうして二人は、暗闇に潜む帽子を被った青年に出会った。

 

 

 

 

 小惑星を消滅させ、任務を達成したエミヤ・オルタとセイバー・オルタは、共同戦線を解こうとしていた。

「おい貴様、どこへ行く」

「直感どころか理解力も鈍くなったのか、仕事が終われば帰る以外に何がある。傭兵に長居は無用だ」

「その上、顔も見たくないと言う訳か。嫌われたものだ」

 アルトリアはそう自嘲する。

 黒い弓兵は、最終決戦に臨む立香に依頼を受けた時からこの時に至るまで、堕ちた騎士王に目を合わせることなく、話しかけようともしなかった。その様は、とある男と重なる。

「ほう、おかしなことを言うな。嫌われるのは慣れたものだろう、王とは多かれ少なかれ恨みを買うものだ。その責任の所在に因らずな」

「心当たりがあると言いたげだな」

 背中を向ける男は、現界した体を魔力に還元しながら、顔を見られない理由としてこう続けた。

「まったくだ。あの捻くれ者に悪い記憶(ゆめ)を見せられた。

 そのせいで────あんたの顔を見てると、無性に泣きたくなる」

 その言葉が耳に届いた時には、誰も居なかったかのように、何もない屋上に戻っていた。

 少女はしばし沈黙していたが、立香に許可を取ってある目的地へ向かった。

 

 

 

 最初の亜種特異点の問題を解決し、カルデアに帰還する。

「やあミスター・エミヤ、私もカルデアで世話になることにしたよ」

 エミヤに与えられた部屋には、我が物顔のホームズがソファで寛いでいた。

「かの有名なシャーロック・ホームズが不法侵入とは、世も末だな。マシュ嬢に報告しておこう」

「ははは、やめたまえ。ミス・キリエライトは私を理解する貴重な読者なのだよ」

 冗談めかして名探偵は笑う。

 パイプを銜えながら飄々とした態度を崩さないのは、原典に違わずそういう人柄だからだろう。

「さて、ここまで来て何も無いとは考えにくい。要件を伺おうか」

「それは結構、話が早くて助かるよ。君に頼みたいことがあってね。

 これからあるものを作ろうとしている。そして、私とダ・ヴィンチしか知り得ない秘密だ」

 探偵の男は、世間話のように重要機密を持ちかけてきた。弓兵は驚くしかなかった。

「理解に苦しむな。私だけに伝える必要がどこにある」

「一つめに口の堅さ。二つめに義理堅い男であることだ。

 私の信条として、いかに有能でも女性を100%は信用しないようにしている。

 おっと、ダンスパーティーに巻き込まれた君からすれば、他人事でもないかな」

「お得意の推理で察してもらおうか……だが今は、喧騒のある日常も悪くはないと思っている」

「……話がそれてしまったね。返答を聞かせてもらえるかい」

 一瞬で名探偵の風格を纏わせるホームズ。普段から真面目にしていてほしいと思いながら、エミヤは答える。

「断る理由がない。確証を持たない限り話さないミスターがそう言うのであれば余計にな」

「君の助力は素直にありがたい。さしもの私でも、万能の才人(ダヴィンチ)には劣ってしまうのでね。

 問題の一つは片付いた。では、ついでにもう一ついいかな」

「何だろうか」

「かの女史が、服薬しようとすると目敏く止めに来るんだが──」

「──それは自業自得だ。大人しく治療を受けろ、名探偵」

 

 




「このカルデアは女性の比率が偏っている……些か不可解な状況だ。何者かによる作為的な関与が疑われるな」
『不確定要素にはなりえないけどネ』
「用心に越した事は無いな、我が宿敵よ」
 とある教授は、ホームズのエネルギーとして協力関係にあった。
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