極東の媛魔王《完結》   作:山中 一

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四十三話

 夏を地中海で過ごすというのは、多くの日本人にとってこの上ない贅沢であろう。

 ひと夏をバカンスに費やせるほど、日本の労働環境は労働者には優しくないし、かといって暇を持て余した学生も、外国に軽い気持ちで旅行にいけるほど資金的な余裕があるわけでもない。

 地中海。

 コバルトブルーの海に燦燦と照りつける太陽。

 まさしく、日本人が想像するバカンスを実現する光景だ。

 月沢キズナもまた、今年の夏は海で過ごしたいと熱望する少女であった。

 しかも、彼女は資金に不足はなく、時間も有り余っているので、どこにいっても豪遊できる立場にある。

 最後の王の足跡を辿るのも重要だが、それはそれとして遊ばないことには人生を謳歌しているとはいえない。

 しかしながら、キズナはカンピオーネであり、地中海の沿岸部はサルバトーレ・ドニやヴォバン侯爵といった同族が犇く魔術界の火薬庫だ。

 キズナ自身が火薬かつ火種という立場にあることもあって、迂闊にあの近辺に飛び込むのはどうか。

 かくして、やってきたのはカンピオーネの影響下から遠く離れた日本最大級のリゾート地沖縄県であった。

「海、だーーーーーーーーーーーーー!」

 フットワークの軽い魔王一行。

 そのリーダーであり、意思決定権の持ち主であるキズナは、きれいな海と砂浜を目の前にして喜びに目を輝かせた。

「夏と言ったら海でしょ、やっぱり。沖縄に来たら、海なんだよ!」

 と、熱く語るキズナは、沖縄に到着したその足で名護市近郊の砂浜にやってきたのであった。

 行楽シーズンということもあって、人が多い。キズナならば、一言でこの場を貸切にできるのだが、だったら人気のないところに行けばいいだけの話であって、そのような労力の浪費はしない。むしろ、こうした雑踏もまた、夏の砂浜らしくていいとすら思う。

 龍巳はバッグを肩に担いで高台から海を眺める。

「ああ、この海岸は昔にも来たな。修学旅行で」

「どっち、中? 高?」

「中」

「中学生にこんな人がいっぱいいる海に越させたの?」

「うちの中学は飛行機代が安いとかいう理由で冬に修学旅行だったから、あまり人がいなかったんだけどな」

「なるほど、そういうこと」

 龍巳の中学校は新潟県の某所にある公立校だ。

 私立に比べれば資金に余裕はないので、季節を調整するなどして経費を削減しようとしていたのであろう。

 南国の沖縄県なら、冬でも天気がよければ気温はそれなりに上がる。泳げないということはないだろう。

「うちは中高ともに京都奈良だったのよ。金閣寺とかは楽しめるんだけどねぇ」

 京都に深い縁を持つキズナは、他の修学旅行生とは異なる視点で街を眺めた。

 自分が生きていた時代にはなかった建造物、特に金閣寺などは非常に興味を引かれたし、その逆で千年前から存在する法隆寺などの古い寺院は、キズナに哀愁の念を呼び起こさせた。

「二回も同じ場所に行く必要はなかったなって」

「それは災難だったな。俺も、高校の修学旅行は京都奈良だったな」

 街の区画というか作りはかつてと同じだった。

 生前を偲ぶものも、少ないながらもゼロでなく、時の流れの中に連続性を見出したものだった。

「安倍晴明の墓なんてのもあったな」

「それ、言わないでよ」

 ため息をつくキズナ。

 自分の墓や自分を祀る神社がある京都には、近付きたくないという思いもあった。複雑な心境である。

「わたし、今なら天神様と仲良くできるわ。崇徳院ともね」

「いつからお前は怨霊になったんだよ」

「まあ、こんなこと言ってたら、本当に出てくるかもしれないしね。今までの経験からすると」

 『まつろわぬ神』として、菅原道真や崇徳上皇が降臨する可能性は、低いながらもゼロではない。怨霊は天災を引き起こすから、彼らの権能は嵐か呪詛かといったところか。

「笑いごとじゃないな。後、お前は絶対に天神様とは仲良くできない」

「なんでよ」

「忘れたのか。あの方を怨霊神に仕立て上げたのは、お前の師匠と同僚だっただろう」

「あ、……そうか。そうだった」

 はっはっは、とキズナは決まり悪そうに笑って誤魔化した。

 千年前、京を襲った未曾有の大災害。

 まつろわぬ帝釈天の襲来は、当時ただの人間であった安倍晴明の尽力によって防がれた。晴明は、その際に神殺しを成し遂げて、さらなる騒動に巻き込まれていくのだが、その始まりとも言うべき帝釈天の事件を隠蔽するために、当時の呪術機関、陰陽寮は、菅原道真の怨霊による落雷騒ぎとして事態の終息を図ったのであった。

「ま、あれはわたしかんけーないし」

 キズナはそれ以上の追及を避けようと、そう言って話を打ち切った。

 それから、キズナは砂浜のどこに陣取ろうかと龍巳と相談し、結局人の少ない端のほうに移動することにしたのだった。

 この砂浜は人口の砂浜だ。

 そのため、自然のそれと違って左右対称の形状をしていて、端には内側に緩くカーブした人工の護岸壁のようなものが海に突き出ている。

 最終的に、人目を避けるような場所に陣取るあたりが、キズナらしいといえばらしいのだ。

 パラソルを突き刺して、ブルーシートで領土を画定し、さらにその周囲に結界を敷いて人の目から内側を遮断する。

「これでよし」

「そこまでしなくてもいいんじゃないのか?」

「人に見られるのは嫌なのよ」

「じゃあ、なんでこんな人の多い場所を選んだんだよ」

「だから、そのほうが夏らしいでしょ。江の島のあたりとか、テレビでよく見る光景じゃないの」

 確かに、と龍巳は頷く。

 有名所のビーチというのは、人が多いものだ。キズナとしては、人気は少ないほうがいいが同時に夏のビーチに遊びに来たという証として、そういった空気感を楽しみたかったのだろう。

「人に見られるのは嫌だが、人を見るのはいいってことか」

「ああ、まあ、そんなところかな」

 などと言って、キズナは周囲を見回す。

 若い男女と家族連れが多く集まるこの場は、きゃあきゃあと姦しい声に溢れている。他人事のように、それを眺めているというのも、せっかく海に来たのにもったいない。

「て、ことで遊びましょ」

 キズナがブラウスを徐に脱ぎ捨てると、白い肌が露になる。下に水着を着ていたので、恥じることもなく脱衣する。

 水色を基調とした、大人しめの水着だが、ビキニということもあって露出度が高い。それを補うために、花柄のパレオを腰に巻いているのだが、そうすると意外にも大きく膨らんだ上半身の双丘に視線を集めることになってしまう。

「どーよ」

「ああ、似合ってるんじゃないか」

 龍巳の答えが中途半端だったので、キズナはムッとして唇を尖らせる。

「反応薄くない? せっかく新調したのにさー」

「そうか? 可愛くて驚いてるんだけどな」

「可愛い? ほんと?」

「ああ」

 龍巳が頷くと、キズナは満足したように笑った。

「じゃあ、許したげる」

 直前までの不機嫌さもどこ吹く風と、華やいだ表情を浮かべた。

 それから、キズナは自分のカバンを漁った。

「はい、じゃ、これ」

 龍巳の目の前に、キズナが突き出したのはチューブタイプの日焼け止めであった。

「UVカットは大事でしょ。南国の日差しは侮れないのよね」

「日焼け止めを、塗れと?」

「ビーチイベントらしく、こういうのもやってみたくてねー。よろしく」

 と、龍巳の返答も聞かずにキズナは、その場にうつ伏せになった。シートの上からとはいえ、熱せられた砂浜の上なので、まるで砂風呂のような熱がじわじわと身体に染み込んで来る。

 突然のことに困惑した龍巳も、諦めたようにキズナの背に日焼け止めのクリームを塗り始めた。

「これ、分量とかどうすればいいんだ?」

「薄くでいいよ。強めのクリームだし」

「はいよ」

 龍巳は、不慣れな手つきでキズナの背にクリームを塗る。

 気心の知れている相手とはいえ、素肌に触れられるというのはむず痒いというかこそばゆいというか、何ともいえない気恥ずかしさがあるものの、以前ほどではなかった。数ヶ月間、世界各国を旅してきた中で、異姓としての仲が深まったからであろうか。

「マッサージしてる感じでね。マッサージ……あ、ちょッ!」

「痛ッ」

 キズナは龍巳の頭を狐の尾で小突いた。

「何をする」

「昼間から変なとこに触んないでよ」

「触ってないだろ、なんだよ変なところって。……ぐッ」

 キズナの尾が今度は龍巳のこめかみのあたりに巻きついて締め上げる。

「粛々と手を動かせばいいのよ、手を」

「はいはい、分かりましたよ」

 キズナの拘束から解放された龍巳は、さわさわと目の前を揺れたり、触れてきたりする小麦色の毛を鬱陶しく思いながらもキズナの要望どおりに仕事を完遂する。

 やるべきことを終えてから、悪戯心を刺激された龍巳は、パタパタと左右に動いている尾の先をつついて言った。

「で、この尻尾にも塗るのか?」

「はぁ? 尻尾に塗るわけ、うひゃ、な、なに、して、変な触り方しないで、ひぃ!?」

「ははは、まあ、そう言うな。日焼けするかもしれないだろ」

 逃れようとする尾をひっとらえた龍巳がさわさわと触れる。その度に、甘い電流がキズナの背筋を上っていく。

「間近でよく見たことなかったけど、狐の尻尾ってこんなにふわふわしてるものか?」

「知らない、離、離してよ。んーーーー。あ、やぁぁ、ダメだってばぁ」

 顔を紅くしてキズナはふるふると身体を震わせる。

 戦闘では痛覚を遮断して、武器として扱う尻尾だが、特別の事情がなければ狐耳と同じく感覚器としても機能する。

 そのためか、こうして心を許した相手に無防備な状態で触れられると、どうにもダメなのだ。

 飼い犬がそうであるように、身体から力が抜けてだらけてしまう。

「ああ、もう! やめろーーーーーー!」

 キズナはどこからともなく三枚の呪符を取り出し、振り向き様に投じた。

「ぶおッ」

 それは、ただ単に風で相手を押す程度の呪術だったが、顔面に叩きつけられた龍巳からすれば正面から張り倒されたようなものである。

 龍巳はキズナの呪術の直撃を受けながらも、後方に転がることでダメージを最小限に止めた。

 放射状に広がる風が砂を舞い上げ、砂浜を吹き抜けていった。

「危ないじゃないか!」

「こっちの台詞だ。ケダモノ! こっちは危うく……ッ!」

 キズナはむぐ、と唇を噛み締めるようにして、その先の言葉を封殺した。

「ケダモノって。狐に言われるのはどうかと思うがなぁ」

「じゃあ、狐辞めますぅ」

 キズナはすぐさま尻尾と狐耳を消し去る。

 スイッチのオンオフで、自在に行使できるのもキズナの権能の長所である。権能の中には、特定の条件を満たさないと発動できないものもあるが、キズナの権能は多くが発動に関しては無条件だ。発動後に対価が発生するという初見殺しの権能もあるにはあるが、それも使い方次第だ。

 

 それからは、海に入ったり出たりを繰り返し、バナナボートに掴まってぷかぷかと波間を漂ってみたりと、思い思いに海を楽しんだ。

 東京湾の濁った海とは比べ物にならないくらいに透き通ったブルーの海は、眺めているだけでも十分に楽しいのだが、潜ってみれば底まで見通せるのでさらに楽しめる。

「泳ぐのって、結構疲れる」

 気がつけば丸一日を海で過ごしていた。

 日が傾きかけて、人込みはずいぶんと解消されていた。風にも、どことなく夜風の涼しさが混じり始めている。

「泳ぐってのは全身運動だからな。知らず知らずのうちに体力をガッツリ消耗する」

「明日は筋肉痛かも」

「カンピオーネがこのくらいで筋肉痛になるのかよ」

 カンピオーネの身体は常人に比べてずっと頑丈だ。骨は鉄筋を思わせるほどに硬いし、筋肉はしなやかかつ柔軟になっていて、傷つきにくい。それはつまり、同じ太さの筋繊維で比較したとき、カンピオーネの筋繊維のほうが常人よりも強い力を出すことができるという意味である。また、その頑丈さのために、筋トレの成果が現れにくい傾向があるとも言われている。

 もっとも、普段から運動不足で呪術によるドーピングを密かに行っているキズナからすれば、水泳くらいでも重労働かもしれない。その場合は、後日筋肉痛に苛まれてもおかしくはない。

「ホテルに戻るか。夕食までに、いろいろと準備することもあるだろうし」

「そうだね。そうしようか」

 龍巳の提案をキズナは受け容れた。

 人数が多ければ砂浜でバーベキューに洒落込めたのだが、さすがに二人ではそれも空しい。当初の予定通りに、ホテルでのバイキングにするのがいいだろう。

 キズナは呪術で身体に付着した砂や塩分、水分を吹き飛ばして水着の上から衣服を着て片付けに入った。

 

 

 

 □

 

 

 

 太陽の動きや星の巡りが地域によって異なるのは、もはや言葉にすべきものではないだろう。

 南北に長い日本は、それだけで日の出と日の入りの時刻が変わってくる。アメリカなどは、同じ国でも東西で時差が生じるほどだし、天空に煌く星々も本質的には何も変わらないのに、見上げる地域によって見え方に違いが出るのは、面白い。

 見方を変えれば、それまでなんということのなかった物事が新しく思えることもあるだろう。

 そう思うだけで、この先が楽しみになってくる。

 かつて抱いていた厭世観を刷新して、先に望みを持つように意識したとき、それは好奇心という形で現れた。

 未知への憧憬。

 不可知への挑戦。

 自ら、手を伸ばす楽しみを知った。知ったからには、突き詰めたいというのがキズナの本質にある。呪術を高めていこうという思いが、常に意識や行動の端々に見え隠れするのもそれが原因である。

 夜、龍巳が寝た後で、部屋の窓から空を見上げたキズナはなんとなしに星を眺める。

 天文は、キズナが得意とする分野でもあった。

 今でも、気が向けばこうして夜空を見上げることは多い。寝付けない夜には特に。

「また、空を眺めてるのか」

「起こした?」

 布団からむくりと起き上がった龍巳が、キズナを見つめている。

 部屋は和室で、布団が二組並んでいる。龍巳の布団は、出入り口側だ。

「いや。俺も寝入りが悪くてな」

「なんだ、起きてたの」

「半分寝てたよ」

「そう」

「何か、発見でもあったか?」

「特にない。昔と同じ。見え方は、少し変わったけど」

「ふうん」

 龍巳は興味がなかったのか、それだけしか反応を返さなかった。少し寂しい。龍巳は、風雅を理解する頭はあるのだが、天頂の星々に対して学問的に取り組んだことはない。

 彼は専ら管弦の徒だった。

 一気に、キズナは脱力した。

 昼間に全力で泳ぎすぎたからだろうか。今になってから、唐突に疲れが噴き出したような感じだ。四肢に錘がぶら下がっているような倦怠感に襲われる。

 やっと、落ち着いて眠れそうだ。

 キズナは重い足を引き摺るように布団まで戻る。

「寝るのか?」

「うん」

 言いながら、隣の布団に膝立ちで近付く。膝と畳がすれて、熱い。 

 キズナは、そのまま龍巳の肩に両手を置いて、キスをした。

 押し付けるようなキスだった。

 粘っこい水音がして、唇が離れた。

 龍巳が何事かと呆然としている。

 それが、愛らしく思えて、キズナは笑んだ。何事にもひょうひょうとしている彼の態度に対するちょっとした意趣返し、ということにしておこう。

「おやすみ」

 そう言い残して、キズナは自分の布団に潜り込むのであった。

 

 

 

 □

 

 

 

 沙耶宮馨の目下の悩み事は、最近になって頻発するようになった宝物殿荒しへの対処だ。

 宝物殿と言いながら、それは文化財を集積している場所ではない。もっと危険で、学術的価値のあるものだ。即ち、呪物の集積所であり、研究所である。宝物殿という言い方は、業界用語である。

「今月に入って四件。片っ端から潰していくつもりか」

 全国各地に散っている宝物殿の襲撃が後を絶たない。

 すでにこちらは死者まで出していながら、相手の尻尾が掴めない。

 現場の状況や僅かに残された情報から考えて、相手は真っ当な人間ではない。神獣か神祖か、この世ならぬモノによる襲撃と考えて間違いないというのが、正史編纂委員会の考えである。

 すると、その目的は何かという話になるが、

「結局、詳細は不明か」

 破壊なのか略奪なのか。それすらも判然としない。現場は徹底的に破壊されつくしているために、何が逸失したのかも分からないのだ。

「目録で、どうにか掴めるといいのだけど」

 背凭れに凭れ掛かり、馨はオフィスビルの街並を眺めた。

 今、配下に襲撃された宝物殿に収蔵されていた呪物の目録を確かめさせているところである。

 上手くすれば、そこに共通項が見えるかもしれない。

 何が、正体不明の相手をここまで駆り立てているのか。

 それが見えなければ、いつまで経っても後手に回らざるを得ないのである。

 そこに電話がなった。

「はい、沙耶宮です。ああ、どうも。ご無沙汰しております」

 それは、正史編纂委員会の鹿児島分室の室長からの電話だった。

 会合くらいでしか会話を交わしたことのない相手だけに、馨はいぶかしみつつ言葉を交わす。特別に親しいわけではないので、軽口を叩くこともせず、淡々と話をするのだが、その内容は衝撃的だった。

「南西諸島沖に嵐、ですか? 台風ではなく」

 鹿児島分室長によれば、つい先ほど南西諸島沖東南五〇〇キロのところに突如として大嵐が発生したのだという

しかも、それは数十分ほど猛威を振るい、操業中の漁船を転覆させるなどの被害を出した後で忽然と姿を消したのだとか。

「膨大な呪力があったと。つまり、嵐に関する神格ではないか、ということですね」

 馨に連絡が入ったのは、東京分室が事実上の正史編纂委員会の頭脳であり、馨自身も二人のカンピオーネと個人的な交友関係を築いているからであった。

「え? 月沢様が沖縄にいらっしゃる。なるほど、それは……」

 またあなたか、と馨は口元がにやけるのを我慢できなかった。

 事件遭遇率は草薙護堂と同等かそれ以上。

 行く先々で殺人事件が起きる名探偵クラスの巻き込まれ体質ではないか。

「分かりました。僕のほうから、彼女に連絡を入れてみます。近くで事件が起こっていながら連絡を寄越さなかったら、それはそれで怒られそうですからね」

 キズナが積極的にこの問題に絡むかどうかは分からないが、それでも所謂『ホウレンソウ』はやっておかないと後々責任を追及される事態になっても困る。

「そちらからも媛巫女を? 気をつけてください。ハチャメチャな人ですから。ちなみに、どなたを派遣されるのでしょう。……神降ろしの? 確か、高橋でしたか。まだ、中学生だったはずでは? まあ、確かに僕も高校生ですけど」

 相手の切り替えしに苦笑しながら、馨は沖縄に派遣されるという媛巫女を思う。

 この国は媛巫女に関しては豊作だ。

 月沢キズナが出て行ったのは痛手だが、万里谷祐理という後釜も着実に育っている。さらには、二人の神降ろしの巫女までいるのだ。

 西洋では数世紀確認されていない術の使い手だけに、非常に重宝されている。

 そのうちの一人は鹿児島県を中心に活動しており、まだ中学三年生という若年だ。本来ならば見習いの段階だが、危険を冒して投入するというのは、おそらくは実績を積ませたいのと同時に点数を稼ぎたいのだろう。

 いずれにしても、どれほど優秀な媛巫女を送り込もうと、活躍の機会などありえない。

 月沢キズナその人が、最高の媛巫女なのだ。今更、増援など無駄もいいところだ。役目としては、連絡役が精精だろう。

 ともあれ、相手が本当に『まつろわぬ神』の類であれば、沖縄にいるカンピオーネに存在にも気付くだろう。

 場合によっては沖縄本島に上陸するという恐れもある。

 嵐神なようだから、台風である程度の誤魔化しはできるが、一般人の避難などするべきことはたくさんある。そういう方向に人数を割かねばならない。

 鹿児島分室長もそのあたりを弁えている人なので、わざわざ馨が言うこともない。

 ただ、その嵐が東京にやってこないことを祈るばかりであった。 

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