極東の媛魔王《完結》   作:山中 一

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五十三話

 草薙護堂の失踪は、即座に監視者を束ねていた冬馬の耳に届き、そして護堂の仲間たちに伝わった。

 定時連絡が同時に途絶えたことで、冬馬は護堂の行方が分からなくなったことに勘付いたのである。

 そうして、エリカ・ブランデッリ、リリアナ・クラニチャール、万里谷祐理は深夜にも関わらず沙耶宮家の別邸に集結することとなったのである。

 一連の情報を受けてエリカが尋ねた。

「月沢さんから連絡を受けたおかげで、下手人がランスロット卿であるとはっきりしましたが……」

 そこで、冬馬が言葉を切る。

 そこから先は言わずもがな。

 ランスロットが犯人であるとすれば、その呪詛は極めて強大なものとなろう。呪術師では何人がかりでも突き崩せないだろうし、呪詛された当人はカンピオーネである。今の草薙護堂がどのような状態にあるか不明ながらも正気ではないのは確かだ。近付くことは非常に危険である。

 対策会議を開いても、妙案が出るわけではない。会議が踊る前に、打開策となりうる月沢方の意見も取り入れなければという話になった。

「必要と有らば助力するというのが、月沢の考えです」

 キズナへの窓口となっている龍巳は、護堂の仲間たちの前で協力できることを告げる。

「現有戦力では、先輩のお力を借りるのが最も確実なんだけどね」

「馨さん。先輩というと、あなたと月沢様は個人的な交友があるということかしら?」

 馨の言葉にエリカが反応する。

「ああ、その通り。とはいっても、今回彼女が日本に来ていることを教えてもらえなかったりと、振り回されてはいるけれどね」

 馨は護堂以外にもキズナとのホットラインを持っている。

 これは、正史編纂委員会が草薙護堂を中核とした組織作りをしつつ他の魔王とも繋がれるということになり、他勢力からすれば極めて危険な状態と言わざるを得ないだろう。

 もっとも、正史編纂委員会に協力しつつ、護堂の力を利用してサルバトーレの影響力の強いイタリア(母国)の組織に還元しているエリカやリリアナなども見方を変えれば似たようなものになるが、それはそれ。一つの組織が二人の魔王と個人的に親しくなるのは、好ましいことではない。

「ところで、水原さんといいましたか。月沢様が我が主の救出に動いてくださるというのは、本当でしょうか?」

 リリアナが龍巳に尋ねると、龍巳は頷いた。

「今回の件、黒王子の策は月沢にとっても好都合なものです。それが破綻する要因は可能な限り消しておきたい」

「つまり、黒王子の件には月沢様が一枚噛んでいると思ってもよろしいのでしょうか?」

「それは違いますね。月沢は黒王子からグィネヴィア討伐を行うと告げられていただけですので、共闘関係にはありません。ただ、グィネヴィアとは因縁もありますので、今回は利害を同じくした者として成り行きを見守っているのです」

 エリカ・ブランデッリ。

 未だ高校一年生だというが、頭の回転はかなりのものである。おそらくは馨に匹敵する策士。キズナは、警戒心を持って、二人を次のように評していた。晴明――――キズナが魔王だと知っていながら、まったく態度を変えずに飄々と接してきた傑物。あの空恐ろしいまでの胆力と政治的センスを持った偉人と近しいものを馨やエリカからは感じる、と。

 龍巳は前世においてその人物が初叙した年に死去しているので、直接の面識はない。惜しいものだと、今でも思うが、死んでしまったものはしかたがない。

「月沢様はグィネヴィア様と因縁があるのですね」

「以前一度。その際はランスロット卿と死闘を繰り広げることになりました」

「それ以降月沢様はグィネヴィア様を敵視されていると?」

「はい」

 エリカの質問に龍巳は表情を動かさずに答えた。

 真実を答えているが、信じてもらおうとは思っていない。彼女らからの信頼は、今のところ意味をなさないからである。

 草薙護堂の介入をいかに手早く、確実に排除するか検討すること。それが、今回龍巳がここにいる理由である。ただし、護堂と敵対的ではなくアレクサンドルとの関わりも共闘関係ではなく利害共有関係という程度にしておく。あまり、草薙陣営を刺激してはいけない。

「水原さん。月沢様が草薙護堂の救出に協力していただけるというのは、間違いありませんか?」

「間違いありません」

「ただで、とはいきませんよね。半年前と同じようにということですか?」

「そう思うのであれば、それでもいい、とだけ言っておきます」

「なるほど」

 エリカは微笑みながら口を閉じた。

 キズナの側はあくまでも草薙陣営から申し出てくることを望んでいる。キズナのほうから助けたいというのではないのである。しかし、そうなればキズナに貸しを作ることにもなるだろう。無論、そんなことは知らないと踏み倒すこともできるが、それでは護堂の信用に関わってしまう。そうなれば、貸し借りはきちんとしなければならないのだが、護堂がキズナに借りを作るのは二度目となる。前回は魔導書の取引で事なきを得たが次にどのような要求をされるのか分からないのは危険でもある。

 とにかく、この場に護堂がいない時点でエリカ側は手詰まりである。正史編纂委員会の呪術師たちを昏倒させたグィネヴィアから逃れるだけの腕を持っている龍巳もまた厄介。加えて、月沢キズナという未だ正体のはっきりしない謎の魔王をバックにしているとなれば、やはり不用意な発言はできない、というのがエリカの悩ましいところであった。

「しばらく、わたくしたちに考える時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、こちらは急ぎませんから」

 龍巳の承認を得て、エリカたちは別室に移った。残ったのは龍巳と冬馬の二名のみ。馨もエリカたちと共に移動している。

「いろいろと大変ですね、甘粕さん」

「ははは、まあそれほどでもないですよ。私は矢面に立つ立場ではないですしね」

 そして残された組はソファに座って談笑していた。

 龍巳は東京都で育ったわけではないが東の呪術師の一員でもあり、笛に関連して正史編纂委員会でも注目株であったから、馨の右腕であった冬馬との面識があるのだ。

「龍巳君のほうこそ、なかなか彼女の御供は大変ではないですか?」

「そりゃあもう。この半年の間に何度『まつろわぬ神』と戦ったか。慣れたものとはいえ、堪ったものじゃないですよ」

 特にサルバトーレ・ドニとの決闘では、文字通りキズナは死にかけた。荘子の権能がなければ当の昔に月沢キズナの物語は終幕を迎えていただろう。それほどまでに、この半年の戦いは苛烈を極めていた。

「まあ、あんな可愛らしい女性にこき使ってもらえるのであれば、お礼を言いたくなりますね。死んだような目になるかもしれませんが」

「俺はMじゃないので、その気持ちは分かりませんが。年下の女性にこき使われて喜べるのであれば、お仕事がんばってくださいとしか言えませんね」

「そうでもしないとやってられませんからねェ。最近は若い世代の台頭が著しくて、お年寄りたちがお顔真っ赤ですよ。とりわけ、現高校生付近は当たり年ですからねェ」

「なるほど。確かに」

 天才というのは、毎年現れるものだが、それでも今後数十年は現れないであろうという人材が集中しているのが今年の高校一年生の年代である。

 万里谷祐理と清秋院恵那。この二人の才能は、現在の正史編纂委員会では並ぶものがないと言っても過言ではないし、その前には月沢キズナが日本呪術界にハリケーンを巻き起こしたし、沙耶宮馨という策士の出現もあって既得権益にしがみ付いていた実力のない老人はその力を失う一方となっている。

「その天才のうちには、あなたも入るのですがね」

「俺は笛だけが取り得の人間ですよ」

「ご謙遜を。単純な実力でも、十二分に最上位に食い込める上にその笛そのものが国宝級ではないですか。伝統芸能の領域で老人を唸らせることができるのは、あなたくらいのものですよ」

 唸らせたというよりも彼らの自信や尊厳を笛の音だけで叩き砕いたといったほうがいい。

 雅楽の分野で龍巳に敵う者は皆無である。雅楽の最盛期であった平安時代において名を上げた源博雅が、雅楽の廃れた現代日本で後れを取るはずもない。

「失われた楽曲、伝統を再現したお二人の功績は、日本の伝統芸能の観点からも評価されるべきものです」

「宮廷音楽としての雅楽の多くが壊滅していたというのは心苦しいものでしたからね。俺も、できる限りのことをしたいと思ったまでです」

 博雅が龍巳として誕生するまで、実に一〇〇〇年もの月日が流れた。その間日本は平穏無事であったわけではない。とりわけ、宮廷音楽にとって致命的だったのは、応仁の乱と呼ばれる一連の大乱である。京が焼け野原になるほどの乱は戦国時代の幕開けを意味すると同時に、公家社会で培われていた多くの知識が散逸し、公家文化の失墜を意味することにもなったのである。

 応仁の乱が政治的、呪術的に壊滅的打撃を与えたのは言うまでもない。媛巫女の血が全国各地に飛び散ってしまった原因でもある。

「復刻という観点なら、吉志舞を蘇らせたキズナのほうが上でしょう」

「ハハハ、あれはもう桁が違う偉業ですよね」

 冬馬は笑っているが、当時の騒ぎは尋常のものではなかった。

 吉志舞(きしまい)は舞い方だけでなく音楽までも失われた謎の舞踊である。神武天皇にまで遡る歴史を誇り、大嘗祭などで踊られたと伝えられている。

 この舞に深く関わるのが安倍氏である。

 なにせ、吉志舞は代々安倍氏の当主が監督して伝えていたものなのである。

 吉師舞とも書く。

 吉師は大和朝廷のおいて朝鮮系の渡来人に与えられた姓の一つで、安倍氏は吉師に関わりがあったとされる。

 よって、キズナが吉志舞を復活させることができたのは、疑問の余地を挟むまでもない必然だったのだが、そうとしらない人々はやはり納得はしない。失われているのだから、正しいかどうかも資料から窺うことはできない。結果として、呪術的な結果を加味して考えることとなったのである。裏に伝わる資料――――吉志舞の呪術的効果をキズナの吉志舞がどこまで再現できているかという観点から考え直し、完璧に再現されているという結論が導き出されるまでに時間はかからなかった。

「吉志舞なんて聞くと、現代日本人のサブカル好きには「怪獣大戦争マーチ」になってしまいますけど」

「知ってる人、少ないんじゃないですか」

「曲を知っている人は多いと思いますけどねェ。元になった「吉志舞」のほうは、大分テンポがゆっくりですし、違和感を持つ人も多いかもしれませんね」

 古典風軍楽「吉志舞」。

 半世紀ほど前に、失われた吉志舞からインスピレーションを得て作曲したものだという。現在では編曲されたものが非常に有名になっている。

「日本の伝統芸能であなた方は教科書に名を残すほどの偉業を為したわけです。歳を取った方には気に入らないという人もいるのは確実ですよ」

「そう言われても困りますよね」

「まったくです。頭の固いお上には、いつも苦労させられます。その点、草薙さん方の若い力には期待しているところも大きいのです」

「あなたも、すっかり草薙氏のシンパですね」

 草薙護堂の人望はかなりのものがあるという。人としての魅力に溢れた人物ということだろうか。性別を問わず、誰とでも仲良くなるのが彼の長所であり、キズナとの最大の違いであろう。

 

 

 エリカたちが話し合いを終えるのに、十分とかからなかった。

 結論として、エリカたち草薙陣営はキズナの助力を受けることとなった。それ相応のリスクを背負うことになるが、現状では護堂を正気に戻すことが優先である。『まつろわぬ神』に立ち返ったランスロットはかつてない強さを発揮するであろうし、護堂では無策のままで戦うのは危険に過ぎるというのが理由であった。

「月沢様には、我らが主を救出する妙案があるのですか?」

 リリアナの問いに龍巳は頷いて巾着を取り出した。

 龍巳は、巾着の口を開き、手の平の上でひっくり返す。中から出てきたのは小さな丸い石ころであった。

「それは?」

「呪術を込めることのできる霊石です。月沢で用意したものです」

 龍巳は巾着の中に霊石を戻して、口を閉じた。

「手っ取り早いのは、万里谷ひかりさんの禍払いの霊力を何とか利用できないかということです。そこで思い当たったのがこの霊石でした。ここに禍払いの霊力を込めて、彼に飲ませれば、ランスロット卿の呪詛を破ることができるでしょう」

「なるほど。確かに、万里谷ひかりの力ならば神の権能すらも一時的に打ち消せる。この霊石はその力を込めるためのものですか」

「後はどう飲ませるか、ですが、それは今後の状況次第といったところでしょうか」

 霊石の入った巾着を受け取ったリリアナは仲間と目配せする。

 しっかりと頷いたのは、祐理であった。

「大丈夫です。キズナさんの霊石に間違いはありません。朝一番でひかりに禍払いの霊力を込めさせます」

 キーパーソンとなったひかりの姉でもある祐理はそう言ってひかりを関わらせることを確約したのであった。

 キズナを除けば日本最高の霊視能力を持つ祐理が問題なしとした以上は、他の面子がとやかくいうこともない。護堂救出の方向性はこれで決まった。

 龍巳は、キズナの使いとしての役割を全うすると、踵を返して沙耶宮別邸を後にしたのであった。

 

 

 

 □

 

 

 

 翌日、霊石の用意ができたことをメールで確認したキズナは龍巳と合流した。

 朝は晴れ渡る青空がどこまでも続いた。

 しかし、正午を過ぎた辺りから雲行きが怪しくなり、今やいつ雨が降り出してもおかしくないというほどに天候が悪化していた。

「ランスロットが雲を呼びこんだか」

 一部の騎馬民族にとって、雷は馬と習合する。迅雷という言葉があるように、雷は速さの象徴である。馬との繋がりは不可思議なことではない。

 東京湾の海上は凪いでいる。それにも拘らず、こぎ手のいない大型の帆船が悠々と航海しているのである。鬼が島に攻め込む桃太郎の船のように、雲と迷宮に覆われた奇岩島へ果敢にも挑もうとしている。

「ねえ、龍巳。草薙君は、どうしようか」

「放っておいて問題ないのなら、こちらから手出ししなくてもいいんじゃないか?」

「問題ないね。まあ、それでよければいいんだけど」

 抜け目ないのがカンピオーネの特徴だ。

 あの船の中には、おそらく草薙護堂がいる。グィネヴィアの結界によって内部まで見通すことができないのが痛いが、状況証拠を積み重ねれば、グィネヴィアの戦力として乗船している可能性は非常に高いと言えた。

「グィネヴィアの船か。さすがは魔女王を名乗るだけのことはあるねー」

 キズナはコンクリートで固められた地面に腰を降ろし、海を眺める。

 キズナと龍巳がいるのは、横須賀港の傍にある広大な台形の駐車場である。海に突出したそこは、人気のない空間をかなりの広さで利用できるので、いざというときに戦場として使おうとかねてから目を付けていた場所であった。

 そうして、帆船を観察していると、上空を一条の稲光が舞った。

「アレクが参戦したみたいね」

 自然のものではない稲光は、雷そのものの速度で帆船に落ちた。

 アレクサンドルの神速の権能は、自らの姿を雷に変化させることで縦横無尽に世界中を闊歩するものである。帆船が呪術で構成された魔の物品であろうとも、その侵入を拒むことはできない。

「さあ、どうなるのかしらね」

 キズナはほくそ笑みながら、事の成り行きを見守った。

 

 

 

 □

 

 

 

 アレクサンドルは神速の権能を駆使して帆船の甲板に着地した。

 単独行動を旨とする彼は、いつ如何なるときも基本的に一人で敵と対峙する。

 相手が多人数の場合は、分断策などを講じてから各個撃破するなど、策謀によって相手を追い詰めていくのを得意とする。

 今回、敵と見定めた相手はグィネヴィアとランスロット。特にグィネヴィアとの因縁は八年にもなり、そろそろ蹴りをつけておかなければ後々の活動にも差し障りがある。

「女に対しては隙だらけ。まったく、貴様は節操というものがないな」

 目の前にいるのは、同族である草薙護堂。

 当初の予定通りではあるが、やはり出てきたか。

 キズナから情報提供は受けて覚悟していたが、敵対するのは聊か面倒である。

「なんとでも言え、ガスコイン。俺はここでお前を倒すだけだ」

「ふん、狂わしの魔術に似ているが、なかなか厄介なものを受けてくれたな」

 冷厳なアレクサンドルの視線は護堂からランスロットに向けられる。

「ほう、分かるのか」

「俺のほうにも、情報源はあるんでな」

 それを聞いてハッと息を呑んだのはグィネヴィアであった。

「まさか、あのとき、取り逃がした殿方ですか……」

「あのとき? ……ふむ、なるほど。あの男か」

 グィネヴィアの呟きを耳ざとく聞きとがめて、アレクサンドルは薄く呟く。

 グィネヴィアに対して情報収集を行っていたのは、アレクサンドルだけではない。むしろ、アレクサンドルには、日本国内で使える手が少ないために、自分の足で動かなければならない場面が多くなる。正史編纂委員会のように地元であれば話は別だが、護堂をつけていた呪術師たちもグィネヴィアの襲撃によって昏睡状態となっているという。そのような中で、どうやって逸早く草薙護堂参戦の報を掴んだのかと思っていたが、どうやらキズナの傍に仕えていた青年が、神祖すらも出し抜いて生還していたらしい。

「只者ではなかったということか。まあ、いい。俺の目的は貴様だ、グィネヴィア。積年の恨み、とまではいかないまでも貴様を放っておくのも癪だ。始末させてもらう」

「まあ、なんて乱暴な物いい。せっかくのお誘いですが、はいそうですかとあなた様の毒牙にかかるわけにも参りませんので」

 グィネヴィアがそう言うや否や、その幼い身体をランスロットが抱きかかえ、そのまま天かける神馬に飛び乗った。

 逃さん、とばかりにアレクサンドルが全身から紫電を走らせ、雷へと肉体を変じさせる。雷光となれば、ランスロットの速度にすら追いすがることができる。

 しかし、それは叶わなかった。

 アレクサンドルの雷化が解け、神速が解除されたからである。

 原因ははっきりしている。

 目の前に佇む男だ。

「どうやら、便利な道具を持っているようだな」

「ああ、俺の相棒でな。魔法みたいな力を吸ったり弱めたりできる。お前の厄介な足も、この力なら何とかなるって聞いてな」

 アレクサンドルは内心で舌打ちをする。

 実際のところ、草薙護堂の権能についてはまだ謎が多い。ウルスラグナの権能も効果がはっきりしているものは多くはない上に、他にも権能を所持しているのではないかという話もあるくらいだ。今回、アレクサンドルの雷化を破ったのは、ウルスラグナの権能とは別の何かと見ていいだろう。

「貴様と遊んでいる暇はないのだがな」

「つれないこと言うなよガスコイン。せっかくの愉しみを、そう簡単に放り出せないだろ」

「愉しみか。生憎と貴様のような脳筋とは趣味が合わなくてな」

 アレクサンドルはあくまでも護堂に取り合わず、バックステップで護堂から距離を取った。

「どうやら、奴も重い腰を上げたようだ。遊び相手が欲しいのなら、そっちを当たれ」

「何?」

 護堂が怪訝な表情を浮かべたまさにそのとき、帆船の船室が虹色の爆発で吹き飛んだ。

「な、く……ッ!」

 爆風に煽られて護堂はその場に膝をつく。

「癖の強い女だが、比較的まともな部類だ。まあ、その出生からして異常だから、差し引きマイナスといったところか。お待ちかねの歴戦の猛者だ。精々、遊んでもらうといい」

 そう言い残して、アレクサンドルは雷に姿を変えた。

 待て、と叫ぶ前に第二射が甲板に着弾する。虹色の遠距離砲撃が、帆船の側面を撃ち抜き、爆発する。

「クソ……ッ」

 アレクサンドルが帆船から飛び去るのを確認したからか、空を覆わんばかりの虹色の矢が帆船に襲い掛かった。


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