極東の媛魔王《完結》   作:山中 一

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六十四話

 キズナのペガサスによって護堂は為朝と言葉を交わせるくらいに近づけた。

 彼我の距離は、およそ二〇メートル程度。走れば数秒で到達できる距離である。

「小僧……!」

 為朝は護堂に激しい憎悪を向けて奥歯をギリギリと噛み締めている。

 敬愛する主君を斬ったことは許す許さないで語れる範囲の不敬ではなく、議論の余地なく殺害対象とすべきである。そもそも神殺しであるという時点で《鋼》の英雄神である源為朝にとっては戦うべき害悪である。さらに、弓使いでありながら、弓矢を掻い潜られたのは弓矢の神である為朝にとって屈辱以外の何物でもない。

「貴様が俺の相手をするか」

「そうみたいだな。悪いけど、あっちが気になるしな。さっさとやらせてもらう」

「図に乗るなよ、神殺し!」

 優先順位としては、崇徳院の権能を全否定した黄金の剣の使い手である護堂こそ真っ先に殺すべき存在である。その後、葛の葉の娘であるキズナの首を取り、葛の葉の前で死体を引き回して葛の葉自身を抹殺する。なんにしても、崇徳院に害意を向けたあらゆる存在は、為朝の矢によって死ななければならない。

 正面から挑んでくる護堂に対して、為朝は持ちうる総ての力を込めて対応すると決意する。

 ダン、と地面を踏みしめて高らかに名乗りを上げる。

「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそは清和天皇より九代にして六孫より七代八幡殿の孫、六条の判官為義が八男、鎮西八郎為朝なり! 僅かなりとも誇り持つなら、名乗れ、下郎!」

 名乗りを上げた為朝の呪力が大きく跳ね上がったのを護堂は感じた。

 名乗りは平安から鎌倉にかけての武士には必須の作法。名乗りを上げることで、為朝は自らの身体と精神を戦場の只中に叩き込み、より高い次元での戦闘能力を実現したのであろう。自己暗示とでも言うのだろうか。

 威風堂々たる名乗りに気圧されてはならない。

「草薙護堂だ。別に覚えなくてもいいぞ」

 臆したと思われるのは癪だと、自らも名乗る。礼儀作法も名にもないぞんざいな名乗りであったが護堂自身も為朝に飲まれずに向き合うきっかけとなった。

 為朝が矢を構え、護堂に向けて恐るべき速射を叩き込む。対して護堂は残った言霊の剣を呼び寄せて、楯にしつつ、崇徳院を斬る剣から為朝を斬る剣に作り変える。ヴォバン侯爵と戦ったときには脳髄が沸騰するかのような苦痛を感じたものだが、権能の掌握が進んだおかげか比較的負担も少なく準備が進んだ。

「源為朝は平安時代末期の武将だ。崇徳院が敗れた保元の乱での活躍が、軍記物などで語られていて、平安時代随一の猛将だったと伝わっている」

 輝きを失いかけた言霊の剣は、新たに為朝を斬る剣として光を取り戻す。

 しかし、それも僅かの時間だけだ。

 かなり無理な使い方をしているのだから、この言霊は切り札として使えるようなものではない。あくまでも、戦いの導入部で優位性を保つためのもの。よって、さっさと使いきってもいいと割り切る。

「あんたが《鋼》なのは、九州で竜を殺した逸話や伊豆大島に追放されたときに鬼が島を討伐した伝説によるものだ。《鋼》は剣のメタファーで征服者の象徴だからな。武勇を惜しまれて助命されるほどのあんたは、当時の人にとっても相当衝撃的だったんだろうな」

 源為朝には様々な伝説がある。

 保元の乱の前、九州に追放されていたときに三年で九州を統一したり、為朝の狼藉によって父親が解任されると九州の強兵を二十八騎率いて上洛したりした。保元の乱はその後のことだが、そこでも放った矢が鎧を着た敵を貫通するなどの伝説があり、敗北後に伊豆大島に追放されたが傷が治り次第乱暴を繰り返し、事実上伊豆諸島を支配してしまう。最後は朝廷の討伐軍によって自害したが、ここでも武勇に衰えはなく矢の一本で船を沈めたという伝説を残している。

 為朝の生涯は承久の乱前後に成立した『保元物語』に拠るところが大きく、後世の策で脚色もあるとされるが彼の武勇が畏れられていたのは確かなようだ。

 そして、史実でどうかという点は『まつろわぬ神』にとって関わりのない話である。地上に物語があれば、それらを取り込んで自我を形成する。

 為朝に関する資料は少ないので、中核を為すのは『保元物語』の為朝である。また、この神格は南北朝のころに降臨した神格である。よって、琉球王の祖となったと記す『中山世鑑』など後世の作品の影響を受けていない。

「陛下を斬り付けた憎き言霊よ。さっさと消えやがれ」

 砲撃音のような音が響く。

 目にも止まらぬ神速の矢が護堂に鏃を向ける。それを、言霊がかき消してしまう。為朝の神格を斬り裂く言霊が相手では、如何に為朝が貫通の概念を付与しようとも矢が護堂に届くことはない。

 だが、防御にしか使えない。現状では、護堂は防戦一方である。剣の数が足りていない。新たに作れるものでもなく、目に見えて言霊の剣が減少している。

「限界だな。神殺し。陛下を斬る剣を俺を斬るのに砥ぎなおしたようだが、砥げば剣が短くなるのは道理。貴様のそれも、振るえば振るうほど、砥げば砥ぐほどに寿命を縮めているようだな!」

 ならばと為朝は矢を射放つ。

 その矢は直接護堂を狙うものではなかった。護堂は矢の行方を目で追って、「うげ」と声を漏らした。

「冗談、だろ。くっそ!」

 ひょうと射られた矢は数百に分かれて護堂の真上から降り注いだのである。

 串刺しではすまない。全身をズタズタに引き裂かれて、ミンチにされる。

 防ぐには、やはり言霊の剣しかない。

 護堂は少ない言霊の剣を動員して傘のように展開して矢の雨を防いだ。

 

 

 

 □

 

 

 

 ペガサスを送還したキズナは荘子の権能で宙を漂いながらヤマタノオロチと崇徳院と向き合った。

 怨霊神の力は切った。しかし、圧倒的な威圧感はそのままに崇徳院はキズナと対峙している。

「余を、ここまで追い込むか。正直、予想はしていなかったな」

 メリメリと崇徳院の束帯が歪み、裂ける。

 肩甲骨の辺りから、一対の金色の翼が生えてきた。

 キズナの玻璃色の目が、崇徳院の神格の変化を明らかにする。

「大天狗の力か」

 本質的には、怨霊神のそれに近い。

 崇徳院は単なる怨霊ではない。愛宕山の大天狗と同一視されるなど、怨霊の中でも神の格を手に入れた魔神である。魔縁とは、「生きながら天狗となった者」を指す言葉でもあり、天狗と深く関わる魔物でもあった。

 崇徳院が天狗となったという思想は、比較的早い段階で現れている。

 翼が金色なのは、崇徳院が金色の鳶として描かれるからであろうか。天狗は輝く鳥としても扱われる。

 またあるいは第六天魔王波旬という呼び方もできるかもしれない。

「この力は余の好むところではないのだ。何せ、「今様狂い」と同じ渾名を自ら認めることになるからな。とはいえ、そうも言っていられぬからなぁ」

 崇徳院は手の平の上に太陽を作る。紅蓮の太陽は、それ以前の怨念に濡れた太陽ではない。太陽神の末裔としての太陽の権能である。

「ゆくぞ、神殺し」

 強烈な呪力が押し寄せる中でキズナは頬を叩いて気合を入れた。

「光の御子の輝きに屈しなさい」

 キズナの背中に十二の円環が現れる。金色の円環は、それぞれが別の次元に繋がっているかのように内部の空間が捻れており、そこから純白の翼が飛び出した。

「どっちが魔王か、試してみようか?」

 バチバチと白銀の雷を纏い、キズナはルシファーの権能を発動させた。副作用も覚悟の上である。幸いなことに、この周囲に人気はない。どれだけ毒素をばら撒いても、問題にはならない。

「せいやあああああ!」

 崇徳院の太陽にキズナは白銀の閃光を叩き込む。

 ぶつかり合った二色の光は混ざり合い、互いに打ち消しあった。四方八方に爆風が広がる中をキズナは高速で翔け抜ける。キズナは翼の一つを引き抜いて、白銀の鋒を生み出した。顎を開きキズナを飲み込もうとする蛇神の頭を殴りつける。

 雷鳴が轟き、蛇神の頭を跳ね上げる。無防備になった喉下に鋒を突き刺し、呪力を流し込んで首を吹き飛ばした。

 しかし、ヤマタノオロチの首は八つ。一つ潰した程度では倒したことにはならず、そのうち首すらも再生するだろう。引き受けると言った以上は、崇徳院と共にヤマタノオロチも倒さなければならないが、一つひとつ潰していてはいたちごっこになってしまう。

 ならばとキズナは翼をさらに二つ引き抜いて、ヤマタノオロチの眼前に投じる。

「ここに来なさい、悪魔の化身。我が魂の分け身である、凶悪なる赤き竜よ」

 翼は無数の羽根に分かれ、巨大な円環となる。円の中の空間は黒く染まり、その奥から赤い鱗のドラゴンがのっそりと現れた。大きさはヤマタノオロチと同等である。キズナが飼う神獣は何もペガサスだけではない。単純な戦闘能力で言えば、九尾の権能で縛り付けた狛犬やペガサスよりも、はるかにこの赤い竜は格上である。

 世界を震わす咆哮。

 久しぶりの召喚に、心が浮き立っているのだろうか。犬のように身体を震わせて、周囲をきょろきょろと見回した。それから目の前にヤマタノオロチがいるのを見つけて、首を捻る。

「あなたに任せる。叩き潰せ」

 ドラゴンは、キズナの命令を受けてそれが敵だと認識したようだ。同じ《蛇》ではあるが敵は敵。主の命令に従って、ドラゴンはヤマタノオロチに炎の息吹を吹き付けた。

 ドラゴンの炎をヤマタノオロチは風雨を身に纏うことで軽減する。

 ドラゴンは自分の炎が通じなかったと見ると目をパチクリとして意外そうな顔をしたあと、ヤマタノオロチの力量に感心したように唸り声を上げてから、屈強な後ろ足で地面を蹴って飛び掛る。

 ティラノサウルスのような大顎で、ヤマタノオロチの首の一つに狙いを定めて噛み付く。顎の大きさはヤマタノオロチの数倍であり、当然牙や筋力の屈強さは細首の蛇神とは比べ物にならない。ヤマタノオロチの首にギロチンのようにドラゴンの牙が突き立つ。しかし、ヤマタノオロチのほうも負けてはいない。残る六つの頭がそれぞれに牙を剥き、ドラゴンに噛み付き、火を吹きつける。一撃の重さはドラゴンに軍配が上がるものの、手数ではヤマタノオロチが優勢である。

 堪らず離れたドラゴンは、翼を羽ばたかせて宙に舞い上がる。

 ヤマタノオロチの反撃が、なかなか効いたらしい。あからさまに怒っている。俄然やる気だ。空から急降下してタックルをかまし、太い両足でヤマタノオロチの胴をがっしりと掴むと、戦う場所を変えようというのかそのまま別の場所に飛んでいく。地面を引き摺られるヤマタノオロチは、呻きながら雷を放ち、ドラゴンの身体を打ち据える。

「あの馬鹿、目茶苦茶やってもう!」

 周りのことなど何も考えていないドラゴンの放埓ぶりにキズナは呆れる。京都市内はすでに人気がなく、式神に搬送させた被害者たちも、なんとか戦場から離脱した頃合とはいえ、あまり離れられると余計なところに飛び火しかねない。

 が、しかしそれと同時にありがたくもあった。

 崇徳院との戦いに集中できるからである。

「なかなかのじゃじゃ馬を飼っているようだな、神殺し」

「日本最大の蛇神よりはマシよ」

 とは言いながらも、あの赤い竜は西洋最大の魔竜。聖書に記される悪魔王の化身でもある。

「あまり、あっちを見てもしかたないよ。こっちはこっちでやろう」

 相手は日本最大の魔神。怨霊神としての神格を封じられても大魔縁――――大天狗や第六天魔王波旬という魔道の王としての力は健在なようである。

 だが、人を魔に導く悪神というのであれば、悪魔王(ルシファー)の権能も負けていない。

 輝かしい白は消え果て、漆黒のベールから表れるのは一対の黒い翼。

 眩い黄金の翼を背負う崇徳院に対して、キズナの翼は一切の光を許さない闇色そのもので、奈落の底を思わせる。

 キズナの肉体が俄に成長し、「女」としての成熟を迎える。

 色欲、あるいは傲慢を司るルシファーの権能は、キズナ自身が悪魔王の姿に変貌するというものである。

「ほう、九尾のほかにそのような力を持っていたか」

 キズナは答えない。その代わり、爆発的に強化されて身体能力で以て崇徳院との距離を詰める。

 金と黒が激突する。

 呪力の閃光が対消滅すると、崇徳院は金色の翼を振るって突風を引き起こし、キズナを押し戻そうとする。

 キズナは風に逆らわずに後ろの跳んで崇徳院から離れつつ、吸血鬼の権能で崇徳院の真下から杭を召喚する。

 崇徳院はふわりと跳んで、杭の切先から逃れつつ作り出した剣を叩きつけて砕く。足元からの不意打ちにも、的確に対応する崇徳院には、付け入る隙がなかなか見出せない。

「まったく、さっさと墜ちろよ面倒な」

「くく、それはまた面妖な。天狗道の王たるこの余に墜ちろと命じるか」

 キズナが毒づき、崇徳院は返礼とばかりに金色の太陽光線を放ってくる。

 キズナは崇徳院の攻撃に先んじて回避行動を取り、太陽光線を潜り抜けた。

「よいよい。実によいぞ。もっと余を楽しませてみよ」

 崇徳院の足元が盛り上がり、太い植物が現れる。音を立てながら、急成長した木の枝に崇徳院は腰掛けて、さながら椅子のように利用する。木の根は触手のように地面から飛び出して、キズナに襲い掛かる。幾重にも折り重なる木の根が壁となり崇徳院の姿を覆い隠すかのようになっている。木の高さは一〇〇メートルを越え、見たこともないほどの巨木と化した。

「あああああ、もう、メンドイ!」

 攻守に力を発揮する山の神の力。天狗の権能の発露である。さらに、成長した巨木は花を咲かせて色香を感じさせる香りを振り撒いている。貴族が用いるお香のような匂いだが、キズナはすぐに息を止めて羽根をばら撒いた。花から漂う香りは、思考を鈍らせる毒である。匂いは体内に入り込むという性質上、カンピオーネの呪力への対抗力を無視できる。猛攻に曝されている中で、思考力を低下させられるのは危ない。キズナがばら撒いた黒い羽根は、それ自体が猛毒を帯び、崇徳院が放った香りを吹き散らしつつ、触れた根を腐らせる。

 その間に、キズナは指先に呪力を収束させる。

 漆黒の呪力を湛えた指を、崇徳院に向けて矢のように呪力を射出する。根が崇徳院の前に立ち上がるも、それらは羽根によって朽ちかけている。防御力を求めることはできない。キズナの光線は、根を砕き、その後ろに佇む巨木を貫通して空に消えた。

 

 

 

 □

 

 

 

 キズナと崇徳院の戦場から飛び去った赤い竜は、ヤマタノオロチを引き摺ったまま南下する。同じ《蛇》の神格を持つもの同士ということで、邪魔の入らない環境で戦おうと思ったからであろうか。

 しかし、ヤマタノオロチもただ引き摺られるだけではない。七つの顎から嵐の力の具現ともいえる雷や風を叩きつけて、ドラゴンの戒めから逃れる。

 慣性で地面を滑りつつ、ヤマタノオロチは炎弾を空中のドラゴンに断続的に放ち続ける。直線的な攻撃であるヤマタノオロチの炎は、空中を自由自在に飛び回るドラゴンを捉えることはない。

 ヤマタノオロチはそのままの勢いで京都駅に突っ込み、駅ビルの中に消える。ドラゴンは弧を描くようにして飛び、京都駅に容赦なく炎の息吹を叩き込む。ヤマタノオロチが吼えて、竜巻が生じドラゴンの炎を次々と弾き返し、あらぬ方向に飛ばされた炎が地面に落ちて大爆発をする。京都の街が炎に包まれる。駅ビルは跡形もなく崩れ落ち、七つの首を鎌首を擡げる。

 一つひとつの首が一柱の竜神と言っても過言ではないヤマタノオロチは、攻撃に切れ目なくドラゴンを狙って対空砲撃を撃ち掛ける。一発一発が大地にクレーターを形成するほどの呪力の砲弾である。ドラゴンが鱗の鎧を身に纏っていたとしても、いくらも喰らってはいられない。

 ドラゴンは見た目に反した優雅な飛行で宙を舞ってヤマタノオロチの攻撃を潜り抜けつつ、反撃とばかりに炎弾を撃ち掛ける。

 火球をいくら撃ち込んでも、ヤマタノオロチは嵐の壁に守られていて届かない。

 その一方で、ヤマタノオロチからの攻撃は一応はドラゴンに届いている。もちろん、当たるかどうかは別問題で、ドラゴンの飛行能力ならばある程度の距離を維持していれば攻撃の直撃を受けることはない。

 しかし、安全な場所にいても、撃ち落されないだけで勝利を掴むことはできない。

 ドラゴンは雲の上にまで飛び上がってから、地上の様子を観察する。

 ヤマタノオロチは、雲の陰に隠れたドラゴンを捜し求めて吼えている。雷鳴を思わせる咆哮が、四方八方に広がっていく。

 さあ、どうしようか。

 ドラゴンは千日手に陥った状況を打開するために頭を動かす。

 

 ――――さっぱり、分からない!

 

 打開策は思いつかず。

 かといって炎を叩き落すだけでは、これまでと変わらない。

 ドラゴンの頭では、細かい策など立てようもない。

 どこかでリスクを冒す必要に迫られていたが、それは今この時ではあるまいか。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 火を吹いて、咆哮したドラゴンは翼を羽ばたかせて加速を重ね、ヤマタノオロチを中心として円を描いて飛ぶ。そして、十分な加速を得た上でヤマタノオロチの頭上から、雲を突き抜けて襲い掛かる。

 それは、落雷にも似た電撃的襲撃であった。

 鎌首を擡げた蛇が獲物に向かって牙を剥いた姿にも似ていた。

 敵の反撃に鱗が裂け、翼に穴が開き、血が噴き出した。回避が頭を過ぎることもない。撃ち落される前に、討つ。

 ドラゴンは落下で得たエネルギーを利用してヤマタノオロチの風の防壁を突き破り、ヤマタノオロチを押し潰す。

 地震が発生して多くの家屋が倒壊した。もちろん、気にかけない。ヤマタノオロチがのたうち、ドラゴンの身体に首を巻きつけて締め上げる。

 完全にドラゴンを固定したヤマタノオロチは至近から強烈な息吹を叩き込もうと口腔に呪力を蓄える。

 しかし、遅い。

 ヤマタノオロチが呪力を蓄え始めたそのときには、ドラゴンは自らを構成する呪力すらも利用して喉下に莫大な威力の炎を蓄えていたのである。

 ドラゴンはヤマタノオロチの八つの首が繋がる付け根を目掛けて、特大の炎弾を撃ち込んだ。

 灼熱の炎がヤマタノオロチの表皮を砕き、骨を焼き、断末魔の声すらも許さず巨大な火柱の中に消えた。吹き上がる炎の中でドラゴンは一際高く咆哮し、自らの勝利を祝った後で力を使い尽して消滅していった。


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