百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
立香とケツァルコアトルがレイシフトした先は常夏の島だった。
南の海は透けるような青さで光り輝き、背中には濃い緑で生い茂る原生林がある。
靴とタイツを脱ぎ捨てて波に素足を晒す。照り返す白い砂浜に目をそらして見上げると、太陽が一番高い所で曇りない空を明るく照らしていた。
「うーん、眩しい!!」
片手をかざして影を作りながら立香は呟く。
吹き抜ける潮風にオレンジの髪を靡かせて、彼女は相方の方に振り返った。
「中々良いところネー」
ニコニコ笑いながら彼女は言った。
「お姉ちゃんに気に入って貰えて良かった」
ほっと胸を撫で下ろして、立香は少し安心する。
立香とケツァルコアトルの関係は他の英霊達よりも少し深かった。ケツァルコアトルは素直で優しい好意のストレートを立香にぶつけていたし、立香の方もそれをしっかりと受け止める。それが証拠に、立香はケツァルコアトルの呼び名を状況によって使い分けていた。他の人がいる場合はコアトルさん、二人きりの時はお姉ちゃんと。
だからそうしている内に立香はもっと仲を深めたいと思っていた。例えそれが、姉妹的な絆を越えてあらゆる関係を破壊しかねないことだとしても。
「私の話、しても良い?」
「いつでもいいわ」
ありがとうと言って立香は微笑む。
夏の空気を胸いっぱいに吸って、少女は覚悟を決めた。
「お姉ちゃんはね、私の太陽なんだ」
いつかケツァルコアトルが立香に言った言葉、それをそのまま返す。
「私の心の中の太陽はお姉ちゃん。いつか、私を太陽だと言ってくれたあなたの気持ちに応えたい」
ケツァルコアトルの目の前に立ち、その形相を見上げた。どうやらあちらも緊張しているようだった。
「キス、しても良い?」
勇気を振り絞って尋ねる。喉が酷く乾くのは真夏の暑さだけではなかった。
彼女がゆっくりと頷く。
その了承を受け取って、立香はつま先立ちで唇を近づけた。
「うーん…うーん……」
瞳を閉じて真一文字に結ばれた口先は、しかしケツァルコアトルには届かなかった。
キスを拒絶された訳ではない。単純に背の高さの問題である。
それに気付かない立香はいつまでも踵を上げ、そしてバランスを崩した。
「わっ!?」
前のめりに倒れる立香をケツァルコアトルはすかさず受け止める。謝る立香を眺めながら、彼女の直向きさに笑みがこぼれた。
「ここからはお姉さんの出番よ」
立香の脇を抱えて持ち上げる。目と口が危険に歪んでいるのを見て、立香は危機感を覚えた。
だが、もう遅い。
「あなたには高さが足りまセーン!!それー!!」
そしてそのまま空中高く放り投げ、嵐を巻き起こして青い空の彼方へ吹き上げた。たった数秒で先程までいた無人島がただの点になっていく。立香の肝は音速で冷えた。
「どわあああああああああ!??」
立香の絶叫が広い世界の片隅にこだまする。空中で無軌道に転がりながら、天空に落ちているかのような錯覚を覚えた。
「落ーーちーーるーー!!」
その叫びに呼応するかのように、日輪よりも明るい火の鳥が天高く翔け上がった。神をも焼き尽くす大翼は立香を柔らかく包みこみ、熱の球体へと収束する。それが徐々に膨張して光を放って破裂すると、中から両手を繋いだ二人が現れた。
「手を離してはダメよ、マスター」
そう言うケツァルコアトルの両手は硬く立香を握り締めている。
「私、絶対離さないよ!!」
一直線に二人は繋がり、回転しながら落下していく。刺激的な青空のメリーゴーランドは二人だけのデートスポットだった。
「お姉ちゃん大好きーーーー!!」
逆巻く風に負けないように立香は声を張り上げた。碧い海と蒼い空の狭間、どこまでも広がる青さの果てに至るまでそれは伝わり行く。ただし、その中心にいるケツァルコアトルの頬だけは少し紅くなっていたが。
「もう、私好みの直球過ぎるわ!!」
「どういたしまして!!」
気が付けば、点だった無人島がその存在感を取り戻そうとしている所だった。
彼女は立香を庇うように抱いて言った。
「そろそろ着陸よ。
衝撃に備えて」
少女は己の身体をぴったりくっつける。
数秒後、二人は砂浜に落下した。大きな衝撃音と共に白い砂が煙を巻き上げる。
それが晴れると中から無傷の二人の姿が見えた。
奇しくも、立香がケツァルコアトルを押し倒すような形になっていた。
「これなら届くや」
立香がそっと口づける。
風の轟音はもうない。海鳥の陽気な祝福と、さざめく波の穏やかさが耳に心地良い。
「これからもよろしくね!!」
ケツァルコアトルの好きな天真爛漫な笑顔が彼女の胸に落ちた。彼女はその表情にそっと手を伸べる。
「こちらこそよろしくお願いするわ、私の
辛いとき、悲しい時だけでなく、嬉しい時も楽しい時もあなたを抱きしめましょう」
胸を焦がす情熱は互いの心を不必要な程に熱くして。
姉さん良いキャラですよね。
課金してでも手に入れたいと思ったのは初めてでした。