百合ぐだ子 作:百合と百合と百合と
人の気配を感じて目覚めると、仰向けの立香に馬乗りになる形で見下ろすマシュがいた。そのことに対する所感は、驚きよりも困惑に近かった。午前二時の真夜中に寝室に侵入している事実もさることながら、彼女の表情は怒っているような、泣いているかのような複雑さを孕んでいたからだ。
「どうしたの?」
なるべく優しげな声になるように努めながら、立香は尋ねた。
「先輩は考えたことがありますか?
先輩に身体を触られていた時、私がどんな気持ちでいたか」
「それは……」
「先輩が他の女の人と仲よくしているのを見ているとき、どんな気持ちでいたか……」
声を震わせながら言葉を紡ぐマシュに、立香はかけるべき言葉が見つからなかった。
結局気の利いた慰め方もなく、痛すぎる沈黙に負けて立香は口にしたのだった。
「ごめん」
宥めるために口にしたその言葉は、しかし逆効果だった。
マシュは逸らした立香の目線を、顎を掴んで無理やり自分の方に向かせた。
「あ……」
真っ直ぐな瞳が立香の心を捉えて離さない。
マシュはいつの間にかサーヴァントの姿となっており、力強く両手首を拘束していた。
「ごめんなさい、先輩。
私、我慢できそうにないんです」
胸の鼓動が速くなるのを感じながら、立香は密着したマシュの身体から逃れようともがいた。
「待って、マシュ。
心の準備が、あっ!?」
頬を赤く染めての最後の抵抗に、マシュがそっと唇を重ねた。
「んっ」
立香の目尻が蕩けるように落ち、マシュに全てを委ねる。
しかし、
「……」
瞬きする間に二人の頭は離れた。
(え、良いところだったのに……どうして?)
見ると、力強くでキスを奪った相手は頭を抱えていた。
罪悪感で伏し目がちになりながら羞恥するマシュを立香は、
「ぷ。
アハハハ!!」
笑った。
「マシュったら優しすぎ。
もっと凄いことされるのかと思っちゃった」
明るく笑う立香とは対照的に、あらゆる意味で落ち着いたマシュは陰鬱としていた。
「私は、先輩にとんでもないことを……」
「まあね。
キスだけとは言え、無理やりだもん。正直強姦と変わらないよ」
「はい……」
でも、と立香は続けた。
「私、いつもと違うマシュにドキドキしっぱなしだった。だからさ」
逃がさないようにマシュの後頭部に手を回し、立香は彼女の唇に自分のものを無理やり押しつけた。
驚くマシュに、立香は静かに語りかける。
「今までも好きだったけど、今はもっと大好き」
たった一瞬。
しかし永遠を思わせるような数秒間、立香は極限まで近づいたマシュの表情に恋したのだ。
その心を、立香は正直にぶつけた。
「私と付き合ってくれる?」
マシュはこくりと頷いて、幸せに微笑んだ。
中々時間がとれない(涙)