もう見に行くしかなじゃない、ヤダー!
「それはね、あなたの氏名と性別。そうでしょ?シャルロット・デュノアちゃん?」
「ヘッ!?」
机の上で肘をついて口元を隠す楯無のストレートな発言に、シャルロットは頬を引きつって固まった。
「い、いや僕は」
「もー、ダメじゃない。男装して格好つけたいお年頃なのは分かるし、自分が男だって自称するのは皆許容しているからいいけど、それに甘えて公式の書類まで公私混同しちゃダメよ」
「ヘッ!?…って、皆!?」
「ああ、少なくとも一組の連中は男装だと知ってるぞ」
「大丈夫。皆分かってるから~。シャルルんが中二病を患ってるのを~」
一夏達四人は、暖かい目でシャルロットを見つめ、本音が労るようにシャルロットの肩をポンポンと叩いた。
「違う!!僕は、好きで女装してたんじゃない!!」
「なん…だと…!?」
「ナ、ナンダッテー!?」
「え?本当に男装趣味の女子だと思ってたの?」
「こんなバレバレな書類だされちゃ、ねぇ?」
「本気でスパイしようとする気あるのかってぐらい、杜撰な計画だしな」
シャルロットの告白に、一夏達は本気で驚いたのか驚愕の表情で立ち上がった。
それを見たシャルロットは本当に勘違いしていたのを悟り、何だか複雑な気分になるのだった。
「というか、何があって男と偽って来ることになったの?貴女は、デュノア社の令嬢でしょ?」
「えと…」
「三行でヨロ」
「エエッ!?えっと、僕は社長の妾の子どもで、母が亡くなるまで知らなかった。IS適性があったから、社長に引き取られた後、デュノア社のテストパイロットに。会社が経営難で産業スパイとして送り込まれたわけです」
「ええい!三行と言ったのに、何で四行じゃないのよ!」
「お嬢様、理不尽過ぎます」
「ご、ゴメンねシャルロットちゃん!おねーさん、興奮してつい心に思ってもいないこと言っちゃったの!!」
ネタに走らなかったシャルロットにキレた楯無だったが、虚がシャルロットには見えない位置で鋼糸をチラつかせたため、必死の形相で謝罪するのだった。
その後職員室と連絡を取り、男装の件は後日シャルロットが担任なのに業務が忙しいと抜かした千冬の代わりに、真耶とカレンが立ち会ってデュノア社に真相を正すこととなった。
「さて、一仕事終えたから、甘いもんが欲しいな」
「そうね。……クッキーの霊圧が、消えた…だと!?」
「なん…だと…!?」
「いつからそこにクッキーがあると錯覚していたのさ~?」
一息付いた一夏達が甘い菓子を欲して手を伸ばした先にあった筈のクッキーがいつの間にか無くなっており、本音がもっきゅもっきゅ、とリスのように頬を膨らませていた。
ちなみに、一般のクッキーは霊圧なんか放ってません。
「返せー!クッキーを!!」
「返せー!私達の糖分を!!」
それを見た一夏と楯無は、本音に飛びかかるが、本音はダブダブの袖口からミカンを二つ取り出した。
「セイヤッ!」
「花道!?」
「オンステージ!?」
本音が投擲したミカンは、二人の顔面を撃ち抜き昏倒させた。
「それでは、シャルロットさん。お疲れ様でした」
「え、え?この二人は!?」
「私はもう定時ですので帰ります。時間外労働はしない主義ですので」
「また明日ね~」
「えー……」
生徒会室を立ち去ってしまった布仏姉妹の行動に脱力したシャルロットは、なぜか床に「ヤス」とダイングメッセージを残して倒れたままの二人をどうしようか、と思案に暮れていると、どこからともなく令音が現れて二人をどこかへ連れ去ったため、宛てられた寮の部屋へ帰ることにしたのだった。
―――同時刻、デュノア本社
社内に隣接するIS関連の研究施設の中、ISの格納庫に黒いフードを被った人影がとあるISを眺めていた。
「…ほう、これが噂の三人目の専用機」
「そこのお前!何をしている!?」
その人物が目の前に置かれたIS、ラファール・リヴァイブに手を伸ばした時、通りかかった警備員が厳しい口調で迫ってくる。
「少し黙っていただけます?」
「モゴォ!モグモガァア!?」
フードの人物は、警備員を一瞥すると、警備員の顔に黒い霧のようなモノが巻きついた。
そして、警備員が激しく体を痙攣させると、力が抜けたのか腕がダラン、と垂れる。
それを見届けたフードの人物が警備員から視線を外すと、黒い霧は消えて解放された警備員は、口から泡を吹き、白目を剥いたまま床に倒れ込む。
「イヒッ!また、私を楽しませてくださいな。愛しい愛しいダーリン」
フードの人物は被っていたフードを取り払う。
「イヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒイヒ!!」
現れたのは人の顔ではなく、顔の形に丸まった無数の触手。それが気色悪い嗤い声を上げながら伸び、ラファールの装甲の隙間から浸食していく。
やがて、すべての触手がラファールの中へと収まった。
「イヒッ!私は、いつもニコニコあなたの隣に、這い寄っていることを思い出せてあげますよ」
純粋に無邪気に、そして狂気が混ざった背筋が凍るようなこの世ならざる声音で触手は呟いた。
―――一夏さん……、と。
アノ触手ハ、一体ナニホテプサンナンダー!?