私たちに優しい世界へ   作:桔梗

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 ※性転換注意報発令!
 ※シリアスブレイク注意報発令!


第13話 意思と力と‥?

 駒王学園、保健室。

そこでは着替えて戦場へ赴こうとしている人物がいた。

 

「行くの?」

「……うん」

「そ、っか。使うの?」

「………」

 

 木場優奈は一流の剣士だ。

だが、それ故に今現在自分に足りないものがよくわかっていた。

強い剣?力?―違う。

 

「……ボク、は」

 

 それは、意思(・・)だ。

ただ戦うのではなく、己を戒めて剣を振るうのでもない。

何をしてでも(・・・・・・)敵を斬り裂く意思。それが、今剣士として木場優奈に足りないものだ。

 

 ――「戦場に立ったら悪も善もありません、ただ斬るのみです」

 

 剣士としての師匠の言葉を、思い出した。

善も、悪も、聖も、魔も関係ない。勿論、今も昔もだ。戦場を駆け抜けるのなら、斬り抜けるのならば、その剣に似合う鋼の意思が必要だ。

 だが、木場優奈にはその一歩が踏み出せないでいた。

過去の友人たちから受けとった遺志は分かっている、ここで木場優奈が折れることを彼らは否定しないだろうが、認めもしないだろう。

自分達のことは気にしないで、戦ってと、きっというはずだ。だって、そうして生き延びさせてもらったのだから、今更確認することでもなかった。

 これは我儘だ。貰った物を出来るだけ綺麗にしておきたい、なんて言う木場優奈の悪魔らしくない潔癖な人の心が叫ぶ我儘。

 

 そして、それすらただの方便という、自分への甘さが原因だ。

 

「ボクは‥‥()はね、イリナちゃん」

 

 イリナは優奈が少し、雰囲気が柔らかくなったのを感じた。

騎士らしい毅然とした姿勢なんてまるでない、片腕を抑えて震えるその姿は只の怯えている少女の様だった。

 ―怯えている?なにに?

その疑問を、優奈はすぐ解消してくれた。

 

「争いって、嫌いなんだ」

「ぇ‥?」

 

 イリナは優奈のことをよく知らない。だが、彼女が今の今まで独断行動していたという事実は聴いていた。よりによって相性最悪であろう聖剣を持ったフリード相手に、ずっと一人で特攻してきた彼女が、戦闘行為を否定したことにイリナは驚いた。

 

「痛いの嫌い、辛いの嫌い、苦しいの嫌い‥‥真っ赤な血を見ることがイヤ」

「じゃぁ、なんで戦うの?」

「それは‥‥」

 

 思い出すのは、皆の最後。

毒によって苦しみ、血を吐き散らしながら死に絶える皆の姿。

 

 そんな中皆が因子を渡してくれたおかげで聖魔剣に覚醒してしまい(・・・・・)、傍観することしかできなかった自分。

 

 生かされた、残された、助けられた。

でも、だけども彼女は救われなかった。仲間は死に絶え、覚醒した神器に護られ死ななかった。

そんな彼女を見て喜ぶ研究者たちを顕現した剣で殺しつくした‥‥。

 

「私は、皆にせめて君だけでも生きてって助けれられて、でもね‥‥あの時、私も死んだんだよ(・・・・・・・・)

 

 肉体(カラダ)ではない、精神(ココロ)が死んだのだ。

死に逝く仲間たちと共に、木場優奈だった少女の大事なモノまで崩れ消えた。

 

「痛いのも辛いのも苦しいのも嫌い。血を見るのは、仲間を思い出しちゃうからもっとイヤ。そんなものから連想してしまう自分が大嫌い…‥‥なにより、自分だけが生きていることが一番‥‥」

 

 キバユウナ(嘗ての少女)は優しかった。だから、木場優奈(今の彼女)は日々こう思っていたのだ。

 

「私は死にたい。でも貰った命を無駄には出来ない、ただで死ねない。ホントは神なんてどうでもいい、誰かの役に立って何処かを死に場所にして死にたいの」

 

 そして、そんな誰かが、そんな何処かが出来てしまった。

拾ってくれた優しい悪魔、暖かな仲間達、この部室がそして今という時が、優奈にとっての誰かで場所になった。

だから痛くても辛くても苦しくても、嫌だろうが憎らしかろうが彼女は戦うのだ。

死んで殺して自由になった彼女には、それしかできないから、それしか知らないから。

 

「だから、私は死ぬまで皆の為に戦い続けるの。皆の為っていう、自分のために」

「………」

 

 結局はエゴなんだと自傷し自嘲する優奈を見て、その断片を知って、イリナは少し悲しげな瞳のまま、笑いかけた。

 

「そっか、優奈(・・)さんのことは分かったよ、少しだけ‥‥でも残念だったね」

「?」

 

 彼女のことは悲しい。自分には何もしてあげられないだろう無力さが悔しかった。

でも、イリナは知っている。彼らを知っている、だから笑った。

 

「貴女の願いは叶わないよ‥‥イッセーくんや真琴ちゃんが一緒なんだから」

 

 優しい彼らは、自分が知らない間に逞しくなっていた。

教会の中でも結構な実力を持ったと思っていたのに、それを粉々に打ち砕かれてしまうくらいに。

 

「私の幼馴染はね、()優しいし、強いんだよ。私よりずっとね。だから―」

 

 震える優奈の手を取り、イリナはそのまま優奈を抱きしめた。

 

「そんなに怖がらないでいいよ。大丈夫、あの人たちは、貴女を死なせない(・・・・・・・・)

「………まいったな」

 

 自分のために皆の為に戦い、死ぬ。それが出来れば本望だということに変わりはない。戦いの結果誰よりも早く死んだとしても、それもいい。

でも、やっぱり、死というのは恐怖の対象だった。人の死の瞬間を目の当りにしたら、尚の事。

 

「ほら、分かったらさっさと行って、暴れて来て。私の分までね」

「うん。僕自身、フリードの奴と決着つけたいし、存分にぶつけてくるよ」

 

 黒と白、相反する聖魔の融合した剣を片手に造りだすと、優奈は学園から高速で駆けて行った。

 

「んー、決着つけたいってあたり何だかんだ勝負事は好きそうだよねぇ‥‥多分ギャンブラー気質なんだろうなぁ」

 

 まるで仲良しの友達の所へ遊びに行く妹を見送るような気分でイリナは見届けた。

 

 

 一方、結界を保持している生徒会側は大慌てしていた。

 

「ちょちょちょっとタンマタンマタンマァァァ!!!」

「匙、落ち着きなさい」

「いやいや、会長でもこれはっ!!」

 

 赤龍帝、堕天使幹部、紅い聖剣。

正直に言って生徒会全員の力を余裕でキャパオーバーしていた。

匙の持つ神器、黒い龍脈(アブソーション・ライン)を結界の機能に差し込むことによって、結界の中に満ちる力を吸収、それを結界に流し込んで無理やり補強というかなり強引なことで場を持たせていた。

だが、匙は転生悪魔であり、紅い聖剣の力まで吸い取りかねないというかなり危険な状況でもある。

 

「赤龍帝の力を取り込んでいるおかげですね、匙の龍の力が増大しているようで助かります」

「オレは何時自分が血だらけになるんじゃないかって恐々としてますよ……」

 

 言いながらも中の力はどんどん増大していく。

結界を壊されない様に他にも工夫はしているのだが、如何せんこのままだと一時間しないうちに結界が壊れてしまう。

 

「つってもこれ以上どうしたら‥ん?」

「匙、集中しなさい」

「いや、会長……‥あれって」

 

 キラッと何かが光った気がした匙は、増大した力によって更に良くなった夜目を駆使してある人物を目撃していた。

 

「……木場さんじゃ?」

「はい?」

 

 大きめの剣を足場にして(・・・・・・・)サーファーのように夜空を一直線に突き進むその姿は、まぎれもない木場優奈だった。

空を駆ける魔剣を造りだしたのだろうが、このままだと結界に当たってしまう。

そして、今の結界は諸事情によって出入りができない状態だった。

 

「木場さーん、今は入れないからちょっと」

「ダメです、避けなさい!」

「ヘ???」

 

 首根っこ引っ掴まれた匙は会長と一緒にその場を離脱、他の会員も物陰に隠れたと同時の出来事だった。

 

「――ただ、斬るのみ―!!」

 

 物陰から見た光景を、一行は忘れないだろう。

人が折角頑張って持たせていた超強固な魔壁を、一刀の剣が真っ二つにしてしまった。

 

「む、無茶苦茶だ」

 

 普通なら壁に当たり、見せられないよ!な状態になるだろうに、彼女は力技で捻じ伏せてしまった。

 

「匙、急いで結界の張り直しです!あぁもぅどうしてリアスの眷属はこうも規格外なのですか‥!」

 

 勿論その規格外っぷりが能力だけでないことは、明らかだった。

 

 

 木場優奈が結界に押し入る数分前、オカ研はピンチに陥っていた。

数に圧されただけではない。コカビエルと一誠に(・・・・・・・・・)向かってフリードが振り下ろした聖剣により、結界内が真っ二つに割れたせいで、場の混沌具合が増したからだ。

 

「リアス、割れた校舎から回り込んできていますわ!」

「ヤバいわね」

 

 魔力で強化した校舎を背にして戦うことで、360度ではなく180度面で戦っていたのだが、これでは一枚の大きな盾を失ったも同然な上に全方位で戦わざるを得なくなった。

どうにか持たせているが、真琴ではもうカバーしきれなくなっていた。

 

「皆!!」

「おーっとどこ行くんだイッセー?」

「懐かしい呼び方をどうも。でも今は邪魔だ!」

 

 フリードに向けて拳を振るう一誠。

軽く避けていくが、一誠の背後から迫る巨槍を見て聖剣を振り下ろした。

巨槍と聖剣から発生した聖氣の斬撃が衝突し、消滅した。

 

「どういう心算だフリード。何故俺にまで攻撃を」

「元々こういう心算だったっつーだけでさ旦那。俺っちにとっては悪魔も堕天使も天使も神も魔王だって敵だからナ。‥‥今なら通用するだろ?」

「チッ」

 

 こうなることは想定していたことだが、フリードの強化が想定外だった。

睨み合う二人を放置し、巨槍と斬撃を避け目くらましに使った一誠は真琴の下へと到着していた。

 

「一誠、今のままじゃもう」

「…‥‥無理かなぁ?」

「うん、多分無理」

「だよなぁ」

 

 諸事情により、人外に片足突っ込んでいる二人だが、ベースは未だ人間。

だからこそ、禁手を使っても限界というモノがあった。

戦いながら話し合いが続く。

 

「でもアレは」

「愚痴っても仕方ないと思うよー」

「うぐ‥」

 

 話し合いというよりも、真琴が一誠に説得しているような状態だった。

禁手である赤龍帝の鎧‥‥二人には、更にもう一枚手段(カード)が用意してあったのだが、一誠には渋る理由があった。

それは‥‥。

 

「このままじゃ皆死んじゃうよ」

「‥‥わーたよ。あーもう、コレ嫌、ってわけじゃないんだけどぁぁぁぁああああちくしょー!!」

『相棒、腹を決めろ』

「分かってるっつーの!!!いくぞドライグ、姉ちゃん!!」

「はいはい」

『Welsh Dragon Balance Break Reverse!!!』

 

 ドライグの声が響いたと同時に、真琴と一誠の体が翡翠色に光りだす。

巨大な龍の氣の竜巻となり、邪魔立てすることが出来なくなった状態で‥‥二人の姿が重なった(・・・・・・・・・)

 

「――ェ?」

「―は?」

「‥‥」

 

 部員の皆から、フリードからおかしな声が漏れ、コカビエルは只々見ていた。

二人が一人(・・・・・)になる瞬間を。

 

反転セシ赤龍帝(ウェルシュ・リバースメイル)‥‥」

 

 そう呟いたのは、竜巻の中にいる一人の少女(・・・・・)

一誠のような特徴的な髪癖だが、優奈のような栗色の長髪。

両者ともにそうだった、翡翠色の瞳。

一誠と優奈の間の、少し低めの背丈。

心なしか優奈より少し大きめの胸。

その背には赤い龍の翼を生やし、両腕には肘まで覆う程度に長く、そして少し大きくごつくなった籠手。

その身に纏うのは、胸部を少し露出し脚には動きやすいように切れ込み(スリット)が入った、所々半透明のドレス。

ドレスの上には、赤い龍を模したのであろう簡易な鎧が装着されていた。

 

「…‥ップ、ギャハハハハハアハハハハ!!!!!!!ナ、なんだ、ソリャ!?!?」

「うっせぇ、()に言うな!てぇか笑ってんじゃねぇクソリーダァー!!!!」

「中身は一誠なのね」

「正確には主導権を握ってんのが俺です!‥‥俺の神器なので」

 

 あぁなるほどと全員が納得する。

さっきまで戦っていた幽霊たちまでなるほどなぁーって頷いていた。

 

 ―オイ、お前らさっきまで武器振り回してただろうがサボんな、てかこっち見るな、つーかエロイよなってイイながらこっち凝視すんな。

 

「全員このこと忘れるくらいにボッコボコにしてやるから覚悟しやがれぇぇぇええええ!!!!!」

『一誠がんばってー』

『ファイトだ相棒』

 

 鎧胸部の真ん中に埋め込まれてある翡翠の宝石が点滅し、同時に脳内でドライグに寄りかかっている姉の姿が浮かんだ。

完全に取り込まれてます、取り込んでます、ちなみに男に見られて嫌な気持ちはあるけど姉ともシンクロしてるのでくっそ恥ずかしい一誠は、一言叫んだ。

 

「ホントこの禁手使いたくなかったぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

 顔を真っ赤にしているが、真琴に分けていた力が掛け合わさった(・・・・・・・)その力は、その場にいた誰よりも強く、とても強く荒れ奮っていた。

 

「あら、可愛らしいわね」

「ホントですわね。後で抱きしめたいですわ」

「‥‥今日の分のお菓子は‥?」

「部員の皆の反応が日頃とあまり変わらなくて嬉しいような悲しいようなっていうか小猫ちゃん気にするところそこなの!?」

 

 本人も荒ぶっていた。

そして、そんな場所に文字通り斬り(・・)込んできた者が一人。

 

「斬るのみ――‥‥って、何この状況?」

「うわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

 目撃者が増えたことに、一誠(♀)が全力で泣いた。




 こんな感じの一誠(♀)に需要はあるんでしょうか??
私はTS好きなので何ともないですどうもすいませんでした(´・д・`)ゞゴメンネ

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