私たちに優しい世界へ   作:桔梗

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第2話 暖かい昼休み

 晴れ渡った青い空、白い雲。

今昼寝が出来れば相当気持ちがいいだろうな、と確信できる穏やかな気温。

事実、きっと今頃ゆっくりうたた寝でもしている生徒がいることだろう、そんな昼休みのこと。

例にもれず兵藤一誠も、無断で立ち入った屋上にて惰眠を貪っていた。

 そんな彼に、一つの影が近づいていく。ベンチで寝転がっている彼の顔を覗き込むように、その影――彼女は一誠に話しかけた。

 

「やっほー、なーにしてるの?」

「ンー?昼寝ぇ」

「わー眠そう」

「事実眠いんだよ……てか何しに来たわけ、天野サン?」

 

 棒読みでまるで興味ありませんと言外に尋ねる。

彼は寝に来ており、それ以上のことに今現在余力を使う気はなかった。全力で惰眠を貪る所存である。

 そんな彼を見てちょっとイラッときたのか、一瞬眉を顰めたスレンダーな黒髪美少女‥天野夕麻は彼の額まで手を持っていき……思いっきり凸ピンを放った。

 

「痛ぇ!? 何しやがる!?」

「折角の昼休みに会いに来た女の子に対して、その態度はないでしょイッセーくん?」

「そもそもからして学園関係者じゃないだろアンタは。なぁ、堕天使(・・・)さん?」

「ちょ、学園で無警戒に言わないでくれる!?」

 

 凸ピンのお返しだ、と欠伸交じりに頭を掻きながら伸びをする。

 彼女、天野夕麻は見かけ人間な上に駒王学園の制服を着てはいるものの、実際はぜーんぶ裏工作の元に反則的手段で入学してきた堕天使である。

そしてこの学園を‥…というより、この街を管理しているのはとある悪魔たちだ。ばれたら多数の敵に囲まれるという状況なわけだが、彼女は普通に登校している。

 

「他の奴は?」

「そもそも入学してないわよ‥‥あぁ、でもアーシアは登校したがってたわね」

「そりゃまた‥‥」

 

 アーシア・アルジェント。とある事情から協会に追放されたシスターだ。

何の因果か途方に暮れていたところに、丁度地上で活動しようとしていた天野夕麻と鉢合わせし、拾われた金髪薄幸美少女である。

とても良い子で丁寧な応対をしてくれる。事情を聞いてはいるが、正直何で協会はこの子を追放したのか全く理解できない。唯一残念なことは、日本語が喋れないし書けない、目下勉強中なこと。

 

「登校させてあげたいんだけど、さすがにあの子のフォローしてたら私のことまでばれちゃいそうだし」

「分かる。しかも彼女の事だから気にせず神器使うだろうしな」

 

 彼女の神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は人間、天使、堕天使、悪魔、全て関係なく治癒できる。そんな珍しい神器を、彼女は一目なんて気にせず使ってしまう‥‥悪いことではないのだが、如何せん此処は悪魔が牛耳る学園。目を点けられるだろうし、そのフォローをして天野夕麻が堕天使だとばれた日には…。

 

「殺されるな」

「死ぬわね」

 

 好き勝手に街の廃教会を使い、反則技で入学し、最近では神器欲しさに兵藤一誠を襲ったりして暴れてしまっている。そして暴れた件に関しては隠蔽工作できずに最近は警戒高まっているという始末だ。

 

「まぁそういうことだから。偶には日本語教えに来なさいよ。アンタ国語の成績は私より上なんだから」

「国語だけな‥‥ま、気が向いたら姉さんと一緒にいくよ」

 

 じゃぁな、と屋上から降りていく一誠を見送る。

人気が無くなったところで、彼女は一つため息をこぼし、ベンチに座り込んだ。

 

「……はぁ、なぁにしてるんだろ私」

 

 事の発端は、一冊の雑誌だった。

そこに書いてあった今時の女子高生に関する記事を読んで、天野夕麻ことレイナーレは興味が湧いた。

 堕天使総督であるアザゼル様やシェムハザ様などからの寵愛を受けようと日々頑張っていた彼女だが、薄々気づいていたことがある。

 

 ―所詮下級堕天使じゃぁ、そんなの夢物語よね。

 

 もうその考えが脳裏から消え去ることが無くなっていた頃に、その雑誌を見つけた。

今を楽しく生きる女子高生……凄く、羨ましく思えたのだ。

勿論寵愛を諦めきったわけではない。只、自分は欲望によって堕ちた天使だ。

なら、こうして自分の欲望に素直になってもいいじゃないか、と彼女は改めて頑張りのベクトルを少し変えた。

 寵愛のチャンスがあったら勿論積極的に取りに行くが、それ以前に自分が楽しもう。

 結果、動いた彼女は運に恵まれたといっていいだろう。

地上の甘味に釣れた堕天使の旧友2人と、勝手に地上に赴くことで何か違ったチャンスがあるかもしれないと野心を覚えた男堕天使を引き連れて地上に出た彼女はまず最初に金髪のシスターを拾った。

珍しい力を持った少女は行き場を無くして途方に暮れていた。放っておいてもよかったのだが、これはこれでチャンスだった。総督アザゼルは神器に目が無い。

 持ちかえれば何かしらの報酬があるのは確実……だったが、ついさっき無断、ではないが結構狡い手段で地上に赴いたのに、とんぼ返りはなぁ…‥と思った彼女は、取りあえず保護して手元に置いておくことにしたのだ。

 

「そこまではよかったのよ‥あそこまでは」

 

 根城にした廃教会の掃除は大変だったし、入学手続きもうまくいった。

バレ無い程度の暗示と、半年間馴染む努力をした結果、人型で街をうろついても問題なくなった頃……兵藤一誠に出会った。

 自分たちの住処の近くに、はぐれ悪魔が出没し、深夜だったこともあって彼女たちは街の悪魔に知られる前に速攻処分することに決めた。

‥‥偶然だった。本当に偶然、あと数分遅かったらすれ違っていただろう。

彼女たちが現場に着いた時、一誠が丁度はぐれ悪魔を蹴散らし終わっていた。

 

―赤い籠手、翡翠の宝玉に浮かぶ竜の紋章。

 

 そして何より強い龍の「氣」。一瞬で神滅具(ロンギヌス)の一角である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だと分かった。

とても分かり易いチャンスだった。

 

 ―彼はこちらに背を向いている、相手は人間だ、一瞬でこちらの光槍が届く、殺せる、否、四肢を砕いて神器を回収出来るっ!

 

 殺意と敵意、そしてチャンスに熱意が燃えていた。

そして、次の瞬間……思っていた光景とは全く違うモノが目に映った。

 ドンッと音が後で響いた。どうやってか一瞬で距離を詰められ、創り上げた光槍は籠手で握りつぶされ、もう片方の拳を叩きこまれた。

直ぐ近くにいた他の堕天使も応戦したが、瞬く間に鎮圧され、後は悶絶している間に殺されるだけ…‥のはずだった。

 

 運は、レイナーレの味方をした。

 

 夜中に飛び去る音を聞いたのだろう、駆け付けたアーシア・アルジェントが、レイナーレたちを庇うように兵藤一誠の目の前で手を広げていた。

これ以上はやめて欲しい、と。殺さないでほしいと、日本語が話せないながらに必死で伝えた彼女。結果、一誠はため息一つついて、「もう襲ってくんなよ」と其れだけ言い残して立ち去って行った。

 

「あの時は本当に死んだと思ったなぁ」

 

 ダメージは深かった。龍の氣は堕天使にも強く届いたのだ。

そして現場の隠蔽工作をする余裕もなく、彼女達も立ち去ることとなった。

 

「やっぱり、所詮下級には夢物語、かぁ……」

 

 階級だけではなく、実力的にも高くはないと心底彼女たちのその身に沁みる結果となった。

ドーナシーク‥男堕天使だけは悔しいのかあれから鍛錬をしているようだが、それでもやはり未だ一誠とやりあえそうだとは思えない。

 

「………やめやめ!今日は村山さんや片瀬さんと放課後遊ぶんだから、こんな沈んでちゃダメでしょ私!」

 

 頭を振って思考を切り替えると、レイナーレ…‥もとい、天野夕麻は屋上から走り去った。

欲望に忠実に、正しく堕天使として生きることにした彼女のこれからは、まだまだ続く。

 

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