私たちに優しい世界へ   作:桔梗

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第3話 加わる日課

 早朝、剣道場にて。

防具も着けずに木刀を向け合う二人がいた。

一人は二刀持ちの金髪美少女、木場優奈。

 

「さぁ、始めようか!」

「はぁ…やる気満々だな、相変わらず」

 

 相対するのは左手に厚めの籠手をして右手に木刀を持っている兵藤一誠。

ちなみに籠手の下にはさらにタオルまで巻いている。

 

「ルールは何時も通りの相手をKOもしくは降参させること」

「殺さない様に急所を狙う際は加減すること」

「「何かあったら全力でオカ研へ」」

 

 三つのルールを確認し終わると同時に、両者ともに駆け出した。

木場優奈の持ち味はスピードとテクニックだ。

二刀で切り刻み、特殊な歩法で遠近感を狂わせに来る。基本戦法はヒット&アウェイだが、時に二刀連続刺突とか威力的にえげつないことをしてくる。下手をすれば貫通する。

 

「っと!?」

「惜しいっ」

 

 一誠の強みは動体視力と攻撃力だ。

反射神経で二刀を捌き、籠手で弾く。そして隙あらば重い一撃を叩き込むのだ。

 この早朝鍛錬は人知れず行われる。

何故なら、二人とも人間の動きではない(・・・・・・・・・)からだ。

優奈の動きは人間が出せる限界速度を超越しているし、それを追う一誠の動きもおかしい。

一般人が傍から見れば優奈は消えているだろうし、一誠も同じく手足がブレまくって何かをはじいているようにしか見えないだろう。

 

「「‥‥‥」」

 

 言葉は両者の勢いが激しくなるにつれ無くなっていく。

無駄な思考を削ぎ落し、相手を打ち負かすことだけに集中する。

挑発行為をして相手の冷静さを無くすことも戦法の内だが、この鍛錬は精神鍛錬ではなく純粋な対人戦闘が主だから、それは行わない。

 

 ―こんな風に人外鍛錬をしだしたのは、ほんの一週間ほど前の事だった。

 

 この街は悪魔が統治しているとはいえ、はぐれ等の危険な奴らが集まりやすい土地となっている。

理由は簡単、ここに比較的手に入りやすい強い力があるからだ。それも二つ(・・・・・)

 危ないという自覚はある。餌が自分からのこのこ近づくのだから。でも、バカだと罵られようとかまわない。

姉と決めたのだ、互いを護ると。決めたのだ、自分たちに降りかかる火の粉は自分達で掃うと。

 だからその日も、姉と別々で見回りをしていた。

フラフラと、自分たちの()を頼りにして歩き回り、敵を見つけては襲われ逆に消し飛ばす。

そしてあの日、消し飛ばした直後だった。

 

「兵藤、くん?」

「ン? 木場さんか」

 

 驚く優奈と違い、一誠は落ち着いていた。

こそこそ動いていたとはいえ、何時かこうして見つかってしまうとは思っていたからだ。

詰まる所想定通り。寧ろ学園に入学した時点で「やらかした‥」と想定外且つ懸念事項が起こったくらいだ……一誠側としてはよくも一年気づかれなかったなあとは思っていた。

 

「……これ、兵藤くんが?」

「うん」

「‥ああ‥なんというか……なんだろう、どこか納得している自分がいる」

 

 優奈自身、人間の限界レベルに抑えていたとはいえ、一般男子生徒が自分についてくることから可笑しかったのだ。凄い人だなぁと思っていたが、その左手に顕現している神器を見て、納得している自分がいることに気付いた。

 驚きが抜けないのか暫く間が出来てしまい、少し気まずくなっていたその時、一誠の携帯が鳴った。相手は別行動していた姉だった。

 

「ん、もしもし姉ちゃんどした?」

『あ、一誠?なんだか蝙蝠が見てるんだよねー、多分どっちかにバレタっぽい。どうするー?』

「あぁバレタの俺の方。丁度今木場さんに見られたところ」

『なーんだぁ。じゃぁ蝙蝠ちゃん?を愛でることにするね~。なんかデフォルメちゃんで可愛くてさっきからもう…‥あぁかわいい!』

「言ってる傍からとっ捕まえてるだろ!?…切れた」

 

 携帯を手に持ったまま思わず呆然とする。

姉は我慢が苦手だから、電話しつつ蝙蝠を捕まえようとしていたのだろうと簡単に想像つく。

誰の使い魔なのか知らないが、可哀想に‥‥思わず心の中で合掌する。

 

「えっと、取りあえず今からオカルト研究部の部室まで同行してくれないかな?」

「ん、いいぞー。姉さんにもメール送っとく」

「助かるよ」

 

 こうして連れられた部室には、二大お姉さまと呼ばれるリアス・グレモリー先輩と姫島朱乃先輩、一年生では可愛いマスコット系として有名な白髪幼‥少女搭城小猫ちゃん。そして、蝙蝠に導かれて真琴が後から入ってきた。

 

「さて……どういうことなのか説明してもらいましょうか」

「あー…大した事情はないですけど」

 

 リアス・グレモリ―先輩が部長らしく、簡単な自己紹介をした後にコトの説明をすることになった。

赤龍帝の籠手を持つこと、とある事情から姉も戦えること、待ちに入ってくる危ない奴を自主的に排除していること。

 

「とある事情とはなにかしら?」

「人には色々あるんですよっと、姉ちゃん。搭城さん困ってるから引っ付かないの」

「えー」

 

 可愛いから愛でたいのだろう。頭なでなでしてお菓子を与えていた姉の首根っこを引っ張る。

さぁ事情も話したし帰ろうか、としていたら先輩が話を切り出した。

 

「ねぇ、貴方達。悪魔に興味はない?」

「「今のところはないです」」

「……随分バッサリ来るわね‥‥‥知ってるかもしれないけど、悪魔は優秀な人間を」

「悪魔に転生して仲間を増やしてるんでしょ?そこらの話は事の張本人…張本龍から聞いてます」

 

 過去に合った天使、堕天使、悪魔による三大勢力の大戦争。

そして、その戦争の最中にライバルと大喧嘩したうえに、三大勢力を喧嘩の邪魔だと喧嘩の最中に喧嘩をふっかけるという意味わからないことをした二天龍の一角、ドライグ。

 ドライグ自身は神器に封印されたが、その後色々な人たちに宿り回って現状を把握していた。

お蔭で戦争を壊滅させた奴自身から話を聞くという珍しいこととなったのだ。

 

「あぁ、そうでしょうね…‥えっと、じゃぁせめて契約してくれないかしら?」

 

 悪魔側にとっては神滅具を持つ一誠は放っておけない存在。首輪とまでは行かないまでも、なにかしらの繋がりを持っていたかったのだろう。

 

「あ、じゃぁ僕良いですか部長?」

「あら、優奈からなんて珍しいわね。何か頼みたいことでもあるのかしら?」

「はい、ちょっとだけ。‥ねぇ兵藤君」

「ん?」

「僕と契約してくれないかな?」

「契約内容は?」

「僕と本気の鍛錬をしてほしい。週に数回でもいいからさ」

「え゛」

 

 悪魔相手に本気の鍛錬とか‥‥何かの拍子に事故死しかねない。

ただ、見返りが断りずらいモノだった。

 

「その代り……街に潜んでる堕天使たちのことを保護してもいい」

「「「「「!!」」」」」

「ん?」

 

 真琴以外の全員が驚いた視線を優奈に向けた。

 

「堕、天使‥? 優奈、それはどういうことかしら」

「堕天使が街に数人ほど棲み付いてるんです。何度か見かけました」

「……知ってたのかよ」

「僕、教会関係には敏感なんだ…で、どうする?」

「………ハァ」

 

 初めはアレだったが、今となっては仲の良いご近所さんだ。

スーパーでばったり会った時の気まずさと、その後のアーシアと真琴が言葉が通じていないにも関わらず仲良くなってつられるように段々蟠りも無くなったこと。そして最近の楽しそうな堕天使連中を思い出した。

 

「オーケー、その条件を呑もう」

「ヤッタ!じゃぁ明日からよろしくね!時間は人気のない早朝か放課後、もしくは両方で!」

「はいはい」

「あ、じゃあ私も私も!搭城ちゃんと契約したい!」

「? 私ですか‥?」

 

 ほぼ無表情の彼女が小首を傾げた。

それを見て勢いよく頷く真琴。

 

「お菓子作ってくるから一緒に食べよう!餌付けしたい!」

「……凄くド直球ですね‥‥美味しくなかったら食べません」

「大丈夫、美味しいのも買ってくるから!」

「……まぁ、いいですけど」

 

 そんなことがあり、真琴は一誠が鍛錬している間にお菓子を準備し、放課後小猫を愛でながらお菓子を与えている。

平和な日常が、少しだけ物騒に、尚且つほのぼのとなったのだった。

 

――キーンコーンカーンコーン…―

 

「「……」」

 

 丁度、木刀を互いの首筋に振り降ろす直前でチャイムが鳴った。

ルールその四、制限時間は朝の登校時間まで。

 

「ふぅ、また引き分けかぁ」

「こっちは毎度毎度死なないかドキドキだよ‥」

「アハハ、そんなに強いんだから大丈夫だよ」

「一応人間だぞこっちは!?」

「もし死んだときは悪魔に転生って話だからだいじょーぶ」

 

 何かしらの事情で死んだ場合、リアス・グレモリーの眷属として転生することになっている。

……まぁつまり、一誠は一回死んでもいいからこんな危ないことしているわけだ。優奈はちょっとの傷じゃぁ死なないからと気楽に笑っている。

 

「なぁんでそんな戦いに飢えてんだよ‥」

「んー、強くなりたいからね」

「それ以上?」

「うん。もっともっと………」

 

 

 ―神さまだって殺せるくらい、強くなりたいんだ。

 

 

 そう言って微笑んだ木場優奈を、兵藤一誠は初めて恐ろしいと感じた。

 

 

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