私たちに優しい世界へ   作:桔梗

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第4話 フェニックスのトラウマ

 リアス・グレモリーは、所謂お嬢様である。

家柄も育ちもとても良いお嬢様。学園ではお姉さまとして親しまれており、学友にも眷属にも恵まれている。成績優秀で運動能力は抜群、悪魔としての階級だって魔力の質だって超良質。

 そんな完璧超人にも、悩みはあった。

 

「で、どうだいリアス?いい加減応じる気になったかい?」

「……ハァ」

 

 部室で自分に迫るホストにも似た金髪の男を見て、思わずため息を出してしまう。

彼はライザー・フェニックス、悪魔の中でも今は珍しい純血の悪魔の家のお坊ちゃま。

そして、リアス・グレモリーの許嫁である。と言っても、リアスは認めていないが。

 

「そもそも、当初は大学を卒業するまでは私の自由だという話だったでしょう?」

「あぁ、確かにそうだ。人間界の大学に行ってもいい、下僕も好きにするといい。だが皆心配なんだよ。御家断絶が怖いのさ」

 

 御家断絶……今は昔と違い、純血の悪魔というのは少数になってしまった。

戦争で大多数の純血悪魔が亡くなった上に、その後戦争が続けられない状態になったとはいえ、堕天使や神陣営とはにらみ合いの小競り合い、拮抗状態が続いている。その中で跡取りが殺されて断絶される、なんて言うのはよくある話だった。

 純血の上に現ルシファーの血筋であるリアスと、古参のフェニックス家のライザーは、血筋も家柄も申し分なかった。周りはこぞって二人を結婚させたい条件が揃いに揃っていた。

 

「……」

 

 リアスは兄がいるが、兄のサーゼクスはその優秀さから魔王に就任し、同時に「ルシファー」として家を出る形になった。

よって、家を継げるのはリアスしかいない。そして、その彼女が婿を貰わなければ断絶の危機、ということだ。

 

「分かってるわ‥‥でも、私は私の意思で相手を選び、結婚する。それぐらいの権利はあるわ」

「……相も変わらず、ハッキリものを言うなキミは」

 

 ため息を一つ溢してやれやれと肩をすくめた。何を言っても無駄だと悟った……というよりも、元から理解していたのだろう。彼女は彼女の意思をもって彼女自身の道を歩く、故に、どこか変わった眷属を見つけてくるのかもしれない。

 ライザーが改まった態度を崩したと同時に空気が弛緩し、ふと気づいたように辺りを見渡す。

 

「そういえば、優奈さんはどこ行ったんだ?何時もなら組み手を頼まれるところだが…‥」

「あぁ優奈なら―」

 

 リアスが外を指さした丁度その時、一誠と優奈が使っている剣道場が内側から吹き飛んだ(・・・・・・・・・)

 

 「やらかしたァ!」

 「くぅ、後ちょっと、ホント小数点以下だったのに‥!」

 「んなこと言ってる場合かよ!?」

 

 割れた窓ガラスの向こうから言い争うような、楽しげな会話が入ってきた。

 

「……なるほど、把握した。‥苦労してるな」

「えぇ、ごめんなさいね、ちょーっとだけ行ってくるから」

「あぁ」

 

 紅い魔力を滾らせて、リアスは此処最近ですっかり慣れてしまった説教へと赴く。

あの状態の彼女には、龍の帝王だろうが戦闘狂のイカレ騎士だろうが頭が上がらなくなってしまう。

 

「……その菓子、貰っていいか?」

「んゅ?いーおー!」

「……どうぞ」

「あら、じゃぁお茶を用意しますわ」

 

 取りあえず近くで真琴が作った菓子を一個一個食べさせられていた小猫両名に話しかけ、自分も分けてもらうライザー。

ライザー自身、リアスの性格を理解していたためするだけ無駄だと理解していたが、それでもお家事情によってこうやって度々やって来ては同じような会話を行う。

自分の下僕とイチャイチャしたいが、数億分の一くらいの可能性に掛けて来たり、そもそも自分の下僕とは違った麗しい女性が多いリアスの下僕と触れ合うのが目的だったりする。

 

「ところで、キミは?」

「んー、わたしは兵藤真琴、16歳!さっき剣道場を爆破させた一誠のおねーちゃんです!」

 

 ドヤ、と小猫を抱いて座ったまま胸を反らして自己紹介をする真琴を見て、そっかぁーと思わず頭を撫でるライザー。

 

「(どう見ても人間なんだが……少しおかしな感じがするな)………ま、いいか」

「???」

 

 撫でながら違和感を感じたが、美少女ゆえに寛大に、もしくは大分適当に思考の隅に流した。

これくらい、あの戦闘狂イカレ騎士に比べればずっとマシである。

 

(確かあの赤龍帝と契約したと言っていたが……あの様子じゃぁご愁傷さまとしか言えんな)

 

 全力全開の殺し合いじゃないから真の実力は測れないが、遠くから感じる力から察するに、木場優奈が全力を出しても問題ない力を持っている。

だからこそ、赤龍帝といえどもライザーは同情した。

 

 木場優奈は美少女だ。金髪で健康的で爽やか………だが、戦闘となるとガラッと雰囲気が変わる。

神経を研ぎ澄まし、少しつり上がった眼は殺気を籠らせ、だが視線は探らせない。一瞬でも隙が出来れば空間を無視してるんじゃないかと勘違いするほどの瞬動術で間を詰めてくる。

 両の手に禍々しい魔剣を持った彼女の本気の殺気と剣戟ときたらもう……。

 

(正直、二度とやりたくないな……)

 

 不死鳥は特性上、肉体的に死ぬことは無い。だが、精神(中身)は別である。

 昔、ライザーが見かけどおりのチャラ男だった時の話だ。

リアスを口説きに向かい見事に初の玉砕をした彼は、近くで木刀を振って鍛錬していた優奈を発見した。「綺麗な剣筋を振るう美少女とか最高だよな!」とはその瞬間の彼の感想(欲望)である。

 そして、休憩に入った際にナンパした……までは良かった。

 

「……フェニックスってあの不死鳥ですか?」

「あぁ、その通りだ」

「つまり、死なない?」

「? あぁそうだが‥?」

 

 自己紹介をした後、ライザーの名前に気付いた木場優奈は畏まるわけでもなく、一瞬ゾッとするような瞳をしたかと思うと…‥こういったのだ。

 

「あの、一試合してもらえないでしょうか!」

「ハ?」

 

 それはもうキラキラしていた。輝いていた。

だがさすがのライザーもナンパのつもりで話しかけたのに試合を申し込まれるとは思っておらず、思わず呆然。

それを勘違いしたらしく、更に優奈は付け加えた。

 

「勝ったらボクを好きにしていいので!!!」

「よし乗った!!!!!」

 

 リアスの断わりも無しに受けるわけにはとか、そもそも自分が誰なのか分かって申し込んでいるのかとか色々と拒否する理由は浮かんだが、その一言にすべて吹き飛んだ。

「美少女からそんなセリフを言われて断れる男がいるか!?いや、いるわけがない!!!」

それが彼が後に放った言い訳である。

 そして、始まった試合はそれはもうライザーにとって、全く予想外の意味で忘れられないものとなったのだった。

 

 ――迫りくる剣群、地を埋め尽くす剣群、剣群剣群剣群‥‥…そして、それらを振るう黄金の狂乱騎士。

 

 始めは服だけ燃やして羞恥心で動けなくしてから、言われた通り人気のない場所で好きにする‥‥つもりだったのだが、全く目論見通りに行かなかった。

速くて巧い。炎が避けられ、捌かれる。更に下手に踏み込んでこず、決定的な隙を生み出すまで徹底したヒット&アウェイ。

 当時はその不死性頼りで戦い方が雑だったライザーは、それはもう死にに死にまくった。

だがどうにか掠らせては衣服が薄くなっていく優奈を見ては、「この美少女をっっ!」という男の欲望丸出しで挑みかかり、殺され、蘇り、半裸を見ては挑むという……どっちがイカレていたのか今思えばよくわからない想い出である。

 

 だが、やはり一番オカシイのは木場優奈であろう。

 

 半裸になった自分を気にせず、隙だと思えば迫りくる火焔をものともせず突っ込んでくる精神力。日頃の鍛錬による俊敏性と持久力を生かした十時間以上に渡る殺し合い。

 

 そして何より――彼女は嗤うのだ。

 

 自分が強くなっているという確認と、更に戦闘中に強くなっていく自覚を認識して、優奈は笑みを浮かべながら戦うのだ……終盤の頃はライザー自身戦闘の高揚と性欲のブーストが掛かっているにも関わらず、少し恐れを感じたほどだった。

 そうして気付けば、リアスが止めるには激しすぎて、急遽リアスの母親であるヴェラナ・グレモリーによって物理的に止められるという力技により納まったのだった。

 

「…‥美味いな、コレ」

「ん、どういたしまして~」

 

 結果年下の美少女に殺されまくり精神的にも負け気味で、さらに婚約者の母親にも迷惑をかけるという過去を経て、ライザーも流石に少し自信喪失に陥り、今では眷属たちと共に力を磨く日々を送っている。

 

(また切り刻まれるループは勘弁だしな…)

 

 フェニックスゆえ刻まれた、死のトラウマを思い出しハイライトが消失したライザーは、甘い菓子と目の前の美少女たちで気持ちを和ませるのだった。




 元々は原作通りレーティングゲームさせるつもりでした……転生しない兵藤姉弟と作者の指を離れて暴れ回る騎士様が悪い(横暴
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