私たちに優しい世界へ   作:桔梗

6 / 13
第6話 幼馴染

 兵藤家の朝は早い……わけでもない。

結構遅刻ギリギリな時もあるし、特に休みの日なんて昼間はだらけきった姉弟の姿がチラホラ見受けられる。

それを両親に半ば叩き起こされるわけだが、今回は少し違った。

 

 ―ピンポーン―

 

 インターフォンを聞きつけた母が駆けていく音がする。

何時もなら後は母に任せて自分たちは各々勝手にしているのだが、今回ばかりは違った。

 

「なつかしいお客さんよ、起きなさーい!」

「「なつかしい、お客?」」

「マスター、取りあえず寝ぐせ直しますね」

「さんきゅーレイン」

 

 レインに身支度を任せリビングでダラダラしていた姉弟は、オカルト研究部のメンバーや教会の堕天使たちを思い浮かべたが、来客者は全くの別人だった。

 

「驚くわよー。もうすっごい綺麗になっちゃってるんだから!」

「えっと、母さん……まず誰の事か教えてくれないと分からないって」

「んー女の子っていうのは分かるけど」

 

 母が玄関から手を引いて連れてきたのは、栗色のツインテール美少女。

 

((……だれ?))

 

 栗色、ツインテール、美少女……全く持って失礼なことに、この姉弟は思い当たる節が無かった。

 

「アンタたち、本気で忘れてるわね…‥まぁ私も言われるまで分かんなかったけど」

「えっと……久しぶり、二人とも!紫藤イリナだよ!‥‥…私、そんなに変わったかな?」

「まぁ大分」

「そ、そうなんだ…‥そっちの子は?」

「レイン・ヒョウドウです。よろしくお願いします」

「紫藤イリナです。よろしくねー」

 

 レインを撫でながらもちょっとショックを受けて居る美少女こと、紫藤イリナ。

名前を聞いて、あぁと思いだした真琴と、全く持って分からない一誠は意味の違う視線をジーッとイリナに集中させた。

 

「あのイリナちゃんが‥」

「……ごめん、分かんない」

「アハハー、まぁあの頃はちょっとやんちゃだったからねー」

 

 ちなみにちょっとではない。真琴が女の子だとトイレの時に気付くレベルで男の子していた。

草むらに飛び込み、木に登り、虫に触って一緒に戯れていた。それもTシャツ短パン短髪、寒いとその長袖バージョンという……まぁ過去の話である。

 

「写真あるわよー」

 

 ニコニコ笑顔で持ってきたアルバムには、彼らの過去が残っている。

……今の会話で堂々と黒歴史になりかねないものを持ってくる辺り、兵藤姉弟の母である。

 

「うっわ、これ何時のだよ。全然覚えてねぇ」

「アハハ、懐かしいねー」

「そうそう、この頃は5人で仲良くやってたよねぇ。2人は元気?」

「「え?2人?」」

「?」

「「え?」」

 

 写真を眺めていると、イリナが変なことを言い出した。

写真には3人が遊んでいるものばかりで、5人にはならない。

 

「えっと、フィーくんとリーダーだよ?覚えてない?」

「「……」」

 

 全く持って覚えがない二人だった。

そもそもこの二人の「濃い」記憶は小学生からだ。神器につられて様々な異形に狙われだした上に、訳の分からない奴に殺されかけもした。

お蔭でそれ以前の平和な記憶と今が繋がりにくく、思い出しにくいのだ。

 

「えっと、フィー君はなんかこう、黒かったかな。いつも真っ黒な服着てた。たしかじーっとこっち見てたから、私が誘ったんだよ」

「「へぇー」」

「リーダーは私が昔通ってた教会にいた年上の男の子で、えっと確か暇そうにしてたから連れ出してきて…」

 

 想っていた以上にイリナは強引だったらしい……思えば姉弟で遊んでいるときに入り込んできたのはこの子位だったような気がする。

 

「何でリーダー?」

「あの教会で年長さんだったからかなー。私たちとそんなに変わらなかったけど……あ、ほらこれだよこれ!」

 

 そう言って一枚の写真をイリナがみつけた。

そこには兵藤姉弟と、黒い長髪で紳士服を着た少年と白髪で目つきの悪い少年を両手で掴んでいるイリナが写っていた。

それを見てふと、そういえばイリナが引っ越してしまう少し前に、思い出に一枚撮りたいと我儘を言われたことを思い出した。

それをきっかけに、そういえばと姉弟も思い出し始めた。

 

「あー、思い出した。イリナがどっからかひっぱって来てたなそういえば」

「フィー君が何をさせても一番だったよねー。で、リーダーがむきになって突っかかってたっけ」

「懐かしいなー。元気にしてるかな、二人とも」

 

 記憶の通りなら結構したたかな二人だったし、きっと問題ないだろうと笑いあった。

 

「あ、そうだ。ねぇ一誠君」

「ん?」

「ちょっと会ってほしい人がいるんだけど」

「別にいいけど‥俺だけか?」

「うん。実は‥」

 

 そこで一区切りすると、イリナは一誠の耳元に口を近づけ、ささやいた。

 

「―赤龍帝として、お話があるの」

「! そっか‥‥じゃ、行くか。姉ちゃん、外行くぞ」

「んー?」

「え、ちょっと一誠君?真琴ちゃんは知ってるの?」

「おう」

 

 家から出ないと家族に聴かれる可能性もある。取りあえず席を立ち外に出る準備をすることにした。自分の部屋に行く途中、顔だけ振り向いてイリナに一つ大事なことを教えておく。

 

「というか、姉ちゃんの方が強いぜ」

 

 それに驚くイリナと、笑いながら言いすぎだよーと一誠を追いかけてくる真琴。

なんの話だか知らないが、また厄介事かとため息をつく一誠だった。

 

 

 隠れ家にしているある廃墟にて、イカレ神父ことフリード・ゼルセンが目を覚ました。

木場優奈とやりあってから早数日。彼女はしつこく追ってきており、それを撒いてはお仕事のために外に出て、また見つかり撒く、という生活が続いていた。

殺そうとしても実力が拮抗(・・・・・)してきている(・・・・・・)のだろう、良い具合に逃げられてしまうのだ。

 

「ア゛ー、なぁんだか懐かしい夢見ちまった気がする……こいつのせいだろうなぁ」

 

 仕事相手から渡された資料には、この街の危険人物と、恐らく追ってくるだろうという教会からの刺客について書かれていた。

そのうちの3枚には、最近発覚した赤龍帝の力を持つ兵藤一誠、その姉兵藤真琴、そして家族構成が事細かに書かれいてる。

もう一枚は、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を最近渡されたという少女、紫藤イリナの写真付きの資料。

 この計4枚が彼の夢見の原因だろうと、自分で検討を付けていた。

 

「随分美少女になっちゃってまァ……」

 

 昔よく親子で教会に来ており、名前は知っていた。

興味なんてさらさらなかったが、ある日向こうから遊ぼうと迫ってきたのを苦笑いを浮かべて思い出す。あの活発で少年のような少女だったのが、随分と変わったらしい。

 

「ホント、変われば変わるもんだな」

 

 そう、変わってしまったのだ。

()も、彼女達(・・・)も、もう手遅れなほどに変わってしまっていた。

 

「さぁ―って、今日もお仕事しましょうかねー」

 

 過去を振りほどくように、その資料を聖剣でバラバラにすると、彼は隠れ家から鼻歌交じりで立ち去った。今日も今日とて、彼の正義(我儘)を執行するために、彼は動く。

 




ギリギリ3000字……いかないorz
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。