私たちに優しい世界へ 作:桔梗
イリナに連れられたのは、近場のファミレスだった。
赤龍帝として呼ばれたのならば、従者である自分も行くと言ってレインも同行している。
「初めまして、ゼノヴィアという。教会の者だ」
「兵藤一誠、赤龍帝」
「お姉ちゃんの真琴です!」
「従者のレインです」
座っていたのは蒼の中に一房翠色になった特徴的な髪をしている、これまた綺麗な女の子だった。唯一疑問なのは、二人揃ってコートを羽織っていることだ。全体が視えなくて残念だと下心混じりに一誠は思った。
「で、話しって?」
「単刀直入に言おう。聖剣が盗まれた、その確保に協力してほしい」
「「聖剣が?」」
聖なる力を宿した選ばれた者のみに扱えるという、あの聖剣だろうか‥。
まぁ兵藤姉弟と生まれて数年のレインは日本の漫画知識しかないから、詳細は違うかもしれないが。
「カトリック教会本部ヴァチカン、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが一本
「待て待て、盗まれたって一本じゃないのか?」
「大昔の戦争で折れたのだよ。それはもう見事なまでにバラバラになったそうだ…で、今はこのような姿になっている」
ゼノヴィアが傍らに置いていた、布にまかれていた物体を見せてくれた。
そこにあったのは一本の長剣……悪魔じゃないが、中々の聖気を感じ、思わず凝視する。
「ふむ……悪魔と繋がりがあると聞いていたが、思っていたよりそんな深い繋がりではないらしいな」
「え?」
「アハハ、実は私たち一誠君が悪魔に転生したんじゃないかなーって思ってたんだよね……聖剣を直に見てその反応なら、そうじゃないみたいだけど」
「あぁそれはちょっと理由があって……ッと、それより聖剣だ。その聖剣が沢山あるってわけか?」
「形はそれぞれ違うが、7本に分かれている。これは
「で、私が持っているのがこれ。
呪符で封印を施しているゼノヴィアと違い、イリナは紐のようになっていた聖剣の形を変え、一本の刀にしてみせた。
「これはプロテスタント側が管理しているわ」
「ほー‥」
「へー‥」
「はぁ‥」
「なんというか、あまり関心がないんだな」
「いや、まぁなんというか…‥もっと
「ヤバイ、奴?」
「あぁ……イリナが引っ越して、フィーやリーダーの姿が消えた後‥‥中学に上がる前位にな」
思い出すのは、暑い熱気と、燃える景色、陽炎に揺れる聖なる姿。
「ヤバいって、エクスカリバーより?」
「あぁ……
「事実殺されかけたけどねー」
アハハと呑気に笑う真琴に呆れながらも驚きを隠せない二人。
「で、でも今はその時よりずっと強くなったんでしょ?」
「あぁ。悪魔の騎士相手に禁手使わず渡り合えるくらいにはな。だけど、今でも勝てる気がしない‥っとまた話がずれたな。で、聖剣を盗んだ奴は?」
続きが気になったが、過去の話をしている場合ではなかった。
取りあえず今の話をするべきだ、と一誠はイリナ達を促した。
「えっと…‥堕天使よ。
「そのコカビエル一派がこの街に潜んでいるらしい。派遣したエクソシストは誰もが重傷、強いと上層部から太鼓判を押されていた者は殺されている」
「マジか」
「マジよ。重傷者からの情報によると、聖剣を振るう神父が敵にいるらしいわ…‥この情報を持ってきてくれたその人は告げた直後に死んだわ」
「……そんなヤバい話なら、リアス先輩たちにも協力してもらった方がいいんじゃないか?あの人‥悪魔たちはこういう話なら受けてくれると思うけど」
「駄目よ」
一誠の提案を跳ね除けたのはイリナだった。
「私たちと教会は悪魔を信用してないの。というか、私は本当は一誠君たちに頼むのだってしたくないのよ。悪魔とは違う意味でね?……でもゼノヴィアが」
「私は幹部や聖剣を奪えるような奴らに特攻掛けて死にたくないからね。出来ることは出来るだけやって生存率を上げたい……なんせ、破壊して逃げかえるだけでも無事な確率は三割ない。上には任務遂行して来いと送り出されたのだから、
「……なるほど、上手い具合に言いくるめられたわけだ」
「うぅ」
教会にとっては聖書の神を殺した二天龍の力を借りろ、なんて言うはずもない。精々無干渉だろう。まぁだからこそ
「でもどうするんだ?此処はリアス・グレモリー眷属の納める領地って聞いてるぞ?」
「明日の放課後、そちらの学校に赴いて不干渉をするよう伝えるつもりだ。力を借りても、土壇場になって手を組まれでもしたら厄介すぎる」
「へー……まぁ手を組むとかはは無いだろうけど。まぁどのみち連休が終わってからってことか。‥‥‥あ、そういえば今日とかどこに泊まるんだ?」
以前イリナが住んでいた家はもう別の家が建っている。
となると、彼女たちはどこに住むのだろうか…もしかして、と思い当たる節があった一誠は尋ねた。
「あぁそれなら今は使われてない教会があって」
「まじかーーー…」
「え?え、なに??」
「えっとね、実はね」
二人に一誠と真琴が悪魔と契約することにした経緯を話す。
ついでに、今そこに住んでいる堕天使とシスターはイイ奴‥‥というか、今回の件に関して絶対無関係だから、と事情込みで話し込んでいく。
「シスターアーシア、か」
「? アーシアちゃんがどうしたの?」
「いや、彼女は聖女と持て囃されていたが、悪魔や堕天使までをも癒す力があってな。魔女として追放されたのだよ」
「あーだから堕天使たちと一緒にいたんだ」
「知らないで接してたの!?」
「そりゃ俺は
「度量が大きいのか只の阿呆なのか」
呆れたような声を出す二人に、むっとした表情を浮かべて今まで口を出さなかったレインが口を開いた。
「悪魔や堕天使をも癒すなんて理由で追放するような教会よりは、マスターたちの方がよっぽど器量が広く深いに決まっているでしょう。阿呆なのは貴女方で、只神の懐が狭いだけでは?」
レインの言葉に、一気に温度が冷えたような錯覚を覚えた。
あぁ、ヤバいと一誠が冷や汗を流した直後、威嚇するレインに対し敵意を持ったのだろう、二人の瞳が危うい光を帯び始めた。
「聖女に必要なのは神の愛のみ。それがあれば生きていける、それが聖女で、それゆえに悪魔や堕天使を癒すなんてことはあり得ないわ」
「あの人は只優しいだけのシスターです。追放されたにもかかわらず神を信仰してるとても素晴らしい人格者ですよ。そんな彼女を救いもせず見捨てた神の方がよっぽど悪魔的かと思いますが」
「ッ神は愛してくれていたさ。何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくは偽りだったのだよ」
段々ヒートアップしていく三人を見て、あぁもうこりゃダメだなと一誠は頭を抱えた。
出来るなら堕天使と一緒に暮らしているシスターをこの二人に紹介するのは避けたかった。こうなることが目に見えていたからだ。
アーシアは今は幸せそうに、本当に幸せを享受して生きているが、出会った当初は悲しみに目が沈んでいた。そんな彼女と一番打ち解けたのは、毎日学校に通っている自分達より時間が多く取れ、その分ずっとアーシアと一緒に居られたレインだろう。
もしかしたら、レインはアーシアのことを知っていたのかもしれない。きっとアーシアが話してくれたのだろう。堕天使連中はその辺話すようには思えない。
それだけ想いあっているからこそ、アーシアを救ってくれない神も教会もレインにとっては只の
「アーシア・アルジェントは我が主の守護対象であり、何より私の親友です。彼女を害するというなら、私は貴女方…‥いえ、貴女達
「それは、我らの教会全てへの挑戦か? 何者かはしらないが、高々従者ごときが大口をたたくね?」
ついに宣戦布告までしてしまったレインを見て、あーもう仕方ないと腰を上げた。
「すとーーっぷ!」
「‥‥すいません、熱くなりましたマスター」
「あぁいや、お前の気持ちはわかるというか、
「レインちゃんはアーシアちゃん大好きだもんねー」
いい子イイ子と真琴が頭を撫で、さすがのレインも人のいる前では恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「……まぁ私たちも言いすぎた節はある。…が、こうまで言われて黙ってるというのは、こちらの沽券に関わる」
「だろうなー…‥はぁ。まぁこっちが売った喧嘩だ、仕方ねぇか。 ちょっと離れたところに人気のない場所があるから、そこで思う存分、殺さない程度に喧嘩っていう力比べでもしようぜ?」
「‥‥そうだな、そちらの力を確かめるいい機会だ。教会に知らせない、私的な決闘といこうか」
「手加減しないからね」
「頼むからお互い殺さない様にしてくれよなー…二対一はあれだし、俺が組むとするか」
「んー、私いこうか?」
「いや、姉ちゃんは審判頼むわ」
「りょーかーい」
こうして、離れの小高い丘にて決闘という名の喧嘩をすることになった。
イリナ達は原作よりも遅めに来ております。
原作では皆殺しだったエクソシストが重傷で帰ってきてその情報の纏めの期間があったため、です。