私たちに優しい世界へ 作:桔梗
籠手、剣、刀。各々の武器を出しつつ、それぞれが向き合う。
ちなみにレインは素手である。
「マスター、すいません私のせいで‥」
「あぁ大丈夫だって。それよりやりすぎんなよ?相手人間なんだからな?」
「はい」
冷静さを取り戻し、余裕な二人を見て、イリナとゼノヴィアが口を挟んできた。
「あら、別に三対二でもいいのよ?」
「あぁ。こちらの聖剣は下手をすればその神器に勝る代物だぞ」
「あぁ別にいいっていうか‥‥こっちは配慮してるんだぜ?」
「え?」「なに?」
ニヤリと悪い顔をした一誠は、挑発するように指をクイッと曲げて挑発した。
彼はレインほど親しいわけではないが、それでもアーシアを友達だと思っている。
二人の考えはきっと長い時間教会にいたから沁み込んだ仕方のないもので、二人が悪いわけではないのは分かっているが、やはりそれでも、苛立ちは仕方ない。
「赤龍帝が相手だったから
「このっ」
「上等だ!!」
「マスターはやっぱりマスターですね…‥」
威風堂々、小学中学高校と其れなりに激戦を潜り抜けてきただけあって、中々ドラゴンらしい威圧感が素で出せるようになっていた。
そんな一誠を尊敬の目で見つめるレインだが、一誠の兆発が効いたのだろう。真琴の「いつでもスタートしていいよ~」という間の抜けた言葉が場に抜けた瞬間、教会二人組が奔り寄って来たのでそちらへ意識を集中させた。
(にしても、神は愛していた、か)
兵藤姉弟はドライグから直接聞いている。二天龍をどうにかしようとした神、魔王は
ともかく、二人の様子からして聖書の神が不在だという事実は知らされていないらしい。
レインには話す機会が無かったから言ってないのだが、この喧嘩‥。
(ホント、無意味というかなんというか)
そもそも神が神器として配ったのだから、どんな神器だろうと神の意思による行為だと考えられないのだろうか?……人間は潔癖なところがあるから、無理だったのだろうな、とイリナの攻撃を捌きながらボーっと考える。
「この、なんでぼーっとしてるのに躱せるの!?」
「いや、うん……何かゴメン」
純粋に
緩急効いててやり辛かった優奈と違い、正直すぎるというか……。
(やっぱアイツが異常なんだろうなぁ)
小耳にはさんだ話によれば、不死鳥にも喧嘩を売って勝ったことがあるとかないとか……そんなバトルジャンキーと毎日のように稽古して居ればこうもなる。
(…あれ、そういやこの連休中木場から連絡ないな…)
暇があれば稽古稽古!と忙しなく引っ付いてくる優奈の姿を、そういえば見かけていないことを今更ながら気づいた。
授業には参加していた、放課後部室に居たのも覚えている…だけど、思い出せば部活の時間が終わったら何処かへ居なくなっていなかったか?
(今更ながら、アイツこの騒動に関わってないだろうな‥?)
ちょっと心配になってきた一誠は、終わったら優奈に連絡することを決めた。
その後、遂にイリナの動きをそれとなく誘導することで、かすりもせずに無駄な力を使わせることでイリナの体力切れを起こすことで勝利した。
○
レイン・ヒョウドウ。
この名前を貰ったのは、主たちが小学生の頃だ。
生まれて間もないながらに強い力を持っていた彼女は、
周りに
悪魔程度どうにでも出来たが、遠い場所から無理やり転移してきたため、かなり疲弊していたのだ。
そんなレインに魔力を与え、名を与え、同胞でもなれなかった居場所になってくれたのが、兵藤姉弟だった。
―「一誠、この子飼おう!!」
―「ハ?」
今思い出しても突拍子ないというか、
ともうかく、当初はそんな人たちを警戒していたが、後々それもバカらしくなっていった。
(懐かしいな……)
当時は強い力を持った小さなドラゴンでしかなく、こんな人型にもなれなかった。
自分が発した雷はまるで相手にされず吹き飛ばされてしまった無力感。
そして、地に落ち混じって一つになった
「考え事とは、余裕だな」
「まぁ遅いので」
バチッと蒼い雷が身体から時折漏れ出て音を立てる。
レインとゼノヴィアの戦いは既に勝負になっていなかった。
生体電気を操作し、加速することでスローモーションに映る世界をドラゴンの膂力で動き回るのだ。聖剣の力を借りているとはいえ、只の人間の攻撃が当たるわけがない。
そしてなにより、この戦いの無為さを理解していた。
聖なる力、聖なる者、其れを意識して今まではぐれ達と戦ってきたのだ……今更この程度、戯れにしかならない。
「
「―は?」
スッと振り下ろされた聖剣を右側に、ギリギリ肌を掠らないように避けたレインは、帯電した右手で聖剣を持つ手を強く叩き、聖剣を落とさせ、そして左腕だけを本来の形状に
蒼い鱗に包まれた巨椀、どう見ても人のそれではなく伸びた鋭利な爪は雷を帯電していた。
「
「アバ!?」
爪で傷つけないように大きな掌でゼノヴィアを掴み取り、そのまま電流を発す。
人間界で売っているスタンガンよりずっと強力なのだが、気絶しないことに少し驚く。
「こ、この」
「えい」
「ウア゛!? ―ちょ、ちょうしに」
「えい」
「ミ゛!? ほうしに、のりゅ、な」
「えい」
「ア――」
こんな調子で気絶するまで続けた。
最終的に電気でビリビリと痺れた上にろれつが回らなくなったゼノヴィアが転がることとなった。
○
「ま、まさかドラゴンだとは‥‥」
「結局かすりもしなかった……」
ズーンという擬音が聴こえてくるような落ち込み方をしている二人を見て、手加減しない様にしたが逆効果だったかもしれないと一誠たちは思った。
「いえ、その‥‥破壊の聖剣とか直に触れるわけにもいかないじゃないですか」
「擬態の聖剣とか自由に振るわれると面倒だしな。最後の方俺の動きにつられてた自覚あったか?」
「「グ、ハ」」
決して二人が弱いわけではない。
人間としてはあり得ない強さを持っているが、相手が更にあり得なかった、というだけである。
「まぁそんな感じで二人の勝ち~♪」
「んじゃそういうことだから。あとで教会連中と会ってもさっきみたいなこと言うなよ?」
「く、仕方ない……ん?なぁ、あれ」
ゼノヴィアが指差す方向にそのまま視線を移す。
目に映った光景を、しばし一誠たちは疑った。
「たしか、教会がある方角じゃ‥‥」
もう夕暮れという事もあり此処からでは教会は見えにくい。
だが、一誠、真琴、レインの人外染みた視力はハッキリと捉えていた。
廃教会に、
気付いたら教会に攻撃していた、後悔はしていないデス。