私たちに優しい世界へ   作:桔梗

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第9話 契約

 時は遡り、一誠たちが喧嘩を始める少し前になる。

 

「ハー、おたくもしつこいね」

「まぁその剣には色々因縁があるからね。それに神父とか大っ嫌いでさ」

「ハハハ、そいつは奇遇だねぇ!俺っちも悪魔が大っ嫌いだよ」

 

 今日も今日とて悪魔狩りやらエクソシスト狩りを行っていた彼、フリードを見つけた優奈は無言で背後から斬りかかり、隠しきれない殺意や怨念を感づかれ防がれていた。

 

「ん?おろろ?これはどういうこった?」

「! しまった、また面倒なところに‥‥」

 

 斬り合いながら移動していたためだろう、何処に向かっているかなんて集中していて気付かなかった優奈は廃教会へとたどり着いてしまっていた。

 

「あれ、優奈さん?それと、神父様?」

「……アーシア、下がってなさい」

 

 これから買い出しなのだろうか、天野夕麻の姿をしたレイナーレとアーシアがちょうど出かける様子で教会から出てきた。

 

「なんの騒ぎっスーって聖剣?」

「エクスカリバーね‥どうしてこんな場所に」

「……」

 

 さらに騒ぎを嗅ぎ付けたのだろう、ゴスロリの服を着た金髪ツインテの少女と、藍色の長髪の女性、コートに深く帽子を被った長身の男性が出てきた。

ミッテルト、カラワーナ、ドーナシーク……全員、一誠たちが匿うと決めた堕天使たちである。

 

「あーらら?何で堕天使さん方がおそろいで?見たところこっち(・・・)関連じゃないようだけど」

「ほぉ、良い事を聞いたよ。そっちには堕天使が関係してるんだね」

「木場優奈、一体どういう状況なのこれは」

「いいんで下がっててください、さすがに護りながらは‥‥――」

 

 闘い辛い、と言おうとしたその時、優奈に悪寒が奔った。

聖剣だけでも十分すぎるほどに寒気がしていたが、これはそれとはまた別者(・・)だ。

 

「報告では死んだと聞かされていたんだが、生きていたのかお前達」

 

 ―光だ、濁った光だ。自分を殺す、危うい存在だ。だから、だから、ダカラ―

 

 危険信号と生存本能が一斉に鳴りだした。

結界など張っていないため、通信なんてやり放題だろうけど、こんな一瞬で来れるとは思っていなかった。敵は思っていた以上に大きいと今更ながらに理解した。

 

 

 ――ダカラ、ドウシタ?

 

 

 危機感を察知能力へと変えろ、震えを沈めその心意を昂らせろ。

お前の敵はなんだ、お前の憎んだものはなんだ、お前が―殺したいものは何だったか思い出せ。

 

「……」

 

 見据えるのは滞空してこちらを見下ろしてくるその姿。

幹部クラスだと察せられる翼の数に、油断なくその手に持つのはこちらを蒸発させることができるであろう威力を込められた光の槍。

彼の名を、レイナーレが震えた口で呟いた。

 

「コ、コカ、ビエル、様…‥」

「その様子だと、裏切ったのか」

「ち、ちがうっスよこれは―!?」

 

 弁明しようと口を開いたミッテルトの頬を掠めるように、小さな槍が飛来した。

一瞬で生成されたそれは正しく光速となって地面に小さな穴を穿った。

 

「その下級悪魔の背に庇われている時点で裏切りと同罪だ。死ね」

「ァ、ア‥‥」

 

 腰を抜かして座り込んでしまったミッテルト、彼女の股から水流の音が聞こえた。

無理もない。圧倒的上位存在から殺気と威嚇とはいえ攻撃を受けて、まともに意識を持っているだけでも大したものだろう。

 ヒューとフリードがコカビエルを称えるように口笛を吹いた。

 

 ―――今だ。

 

 ミッテルトには悪いが、お蔭で意識が一瞬だけ彼女だけに集まった。

魔剣創造(ソードバース)をフル回転で極限使用する。

 

「ハァァァアアアアアアアアア!!!!!」

 

 地面だけでなく、壁や屋根からも特大の魔剣を創造し、コカビエルへぶつける。

フリードはその巨剣自体が壁となり、如何に聖剣とはいえ直ぐにはこちらへ来れないだろう。

 だが、その剣群はコカビエルの槍の一振りで一蹴されてしまう。

ずっとその手に持っていた槍だ。持っていただけ力を凝縮させていたのだろう、あまりに呆気なく破壊された。

だが、一瞬時間は稼げた。

 

「――」

「!」

 

 狙うのはコカビエルではなく、神父フリード。正確にはその手に持つ聖剣だ。

手首事叩き斬って、聖剣を盾に交渉を掛ける、それ以外に碌な時間稼ぎも手も思いつかなかった。

 壁を作ったのは優奈自身、だからこそそれを自在に消せる。行き成り消えた目の前の巨剣、その一瞬で現れる優奈の高速の剣戟――それは、同じく高速の剣閃によって防がれた。

 

「おぉっとあっぶねえ!!」

「くっ」

「まぁ直情的に段違いに強い奴狙うよりはずっとマシだが、ナ!」

 

 弾かれるように距離を取る。自然と、最初の位置である廃墟を背に庇うように立った。

 

「なるほど、下級とはいえ‥いや、だからこそ知恵は回るというわけか……まぁとんだ浅知恵だったが」

 

 敵とすら認識していない、ふざけるなと思わず叫びそうになる口を噛みしめる。

 

「此度の白龍皇のライバル関係である赤龍帝がいると聞いて警戒していたんだがな……アイツならこれだけ近くで騒げば、嗅ぎ付けて邪魔立てしてくるだろうに、赤龍帝は気付いてすらいないようで、残念‥‥いや、僥倖か」

(なるほど、一誠君を警戒していたのか……)

 

 残念ながら、連休が重なっているときに起こった事を彼らが知り得るはずもない。

だって、彼らは神器を持っているだけの人間で、そんなことを教えてくれる伝手は……。

 

(あぁ、いや……それは僕の役目(・・・・)じゃないか)

 

 非日常の悪魔である自分こそが、契約者に対して警告の一つとしてでも伝えておくべきだったのだ。

 

「茶番は終いにしよう、気づかれる前に、死ね」

 

 ボッッッと手に持っていた槍が極大化した。

凝縮していた力を、完全に解き放つ気なのだろう。

 

(この状況は自業自得だ…‥だからこそ、契約者として、最低限の責務は果たそう‥!!)

 

 迫ってくる巨槍に対し、さっき以上の巨剣を大量に創造する。

質ではどうしても劣る、だからこそ数で時間を稼ぐしかない。

荒っぽく創造したせいかさっきよりも呆気なく破壊されていく巨剣たち。

 

「それで、いい!!」

 

 ぐるっと体を回転させ、背中を向ける。

後ろにいたメンバーは振り向いた際に魔力を使って吹き飛んでもらった。残念ながら、小柄な上に座り込んでいたミッテルトは振るった腕から外れてしまったため、抱え込む。

アーシア・アルジェントさえいれば、大抵の傷は治してもらえる。

 

「ごめん、投げる力も残ってないんだ」

 

 魔剣創造を無茶な使い方をしたせいで、彼女を遠くへ投げるだけのスタミナもない優奈は、ミッテルトを庇うために出来るだけ力強く抱き込んだ。

死力を尽くして作り続けていた魔剣の最後の一本が破壊されると同時に、巨槍が爆発。

 

 優奈は、聖光の爆裂を間近で受け止めることとなった。

 

「―――――!!!」

 

 光に呑まれる寸前、誰かの声を聴いた気がした。

でも、其れを認識する前に―――彼女の意識は、途絶えた。

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