バーサーカーのサーヴァントである少女が攻撃を開始する。
「ウウウオオオアッッ!」
聴く者を恐怖させる雄叫びを叫びながら、凄まじい勢いで緑雷を纏った
狙いもなにもあったものではない、ただ力任せに叩きつけただけの一撃だ。
しかし流石はバーサーカー。その威力は凄まじく、危うく盾を吹き飛ばされそうになる。
バーサーカーは続けざまになんども何度も盾を殴りつけ、私の守りを突破しようとしてくる。
「っくううう―――やあーっ!」
強烈な衝撃の応酬になんとか耐え切り、スキを見てお返しとばかりに盾を激突させる。
ありったけの力を込めた渾身の一発。それをもろに食らったバーサーカーは鈍い音を立てて吹き飛び、私たちから数m離れた場所に倒れ伏した。
「……やった、のか?」
倒れたままピクリとも動かないバーサーカーを見て、マスターが呟く。
たしかに、先ほどの手応えはかなりのものだった。自分で言うのもなんだが、会心の一撃というやつだったと思う。
そんな一撃を食らったのだから、あのバーサーカーがあんなに呆気なく倒れても不思議はない。というかここで倒れてほしい。
そんな思いを胸中に抱きながらしばらくバーサーカーの様子を見守ってみたものの、変化はなく、その場にいた誰もが勝利したと思ったその時。
突如として飛来した矢が、倒れ伏したバーサーカーの体に突き刺さった。
「おいおい、なにをそんなところで伸びている、バーサーカー。キミの仕事はまだ終わっていないぞ?」
それと同時に頭上から聞こえてくる男の声。
驚いて見上げてみると、そこには黒いアーマーを身につけた白髪の男の姿があった。
「やれやれ、バーサーカーのクラスは総じて脆いというのは知っていたが、ここまでとはな。まさかたった一撃で沈んでしまうとは思いもしなかったよ」
倒れたバーサーカーの傍に降り立ち、そう肩をすくめながら呟く男。
その姿はここに来る前にキャスターさんから聞いていたアーチャーの容姿によく似ており、彼がアーチャーのサーヴァントであることは容易に想像できた。
すると、その姿を見た未来さんが驚きに満ちた表情で口を開く。
「…な、なんで、お前がここに!? お前はキャスターが足止めしてるはずじゃ――」
怯えきった様子の彼を見て心底愉快そうに顔を歪めるアーチャー。その顔はまさしく悪鬼羅刹と呼んで差し支えないほどの邪悪さに満ちたものだった。
「どうしてか、だって? そんなもの決まっているだろう。私がヤツを倒したからここにいるのさ」
「――キャスターさんを、倒した?」
あまりの衝撃的な事実に頭の中が真っ白になる。
あのキャスターさんを倒した? 本当に?
「まぁ、倒したと言ってもしばらく動けないようにしただけだがね。だが、今はそれで十分だ。あとは孤立したキミたちを始末すればいいだけの話だからな」
そう冷酷に告げるアーチャーの隣で、突然物言わぬ骸だったはずのバーサーカーが動き出す。
「なっ……!?」
私たちの顔が一様に驚愕の表情へと変わる。
バーサーカーは先ほどたしかに倒したはずだ。だというのに、彼女は何事もなかったかのように起き上がり、アーチャーの隣で沈黙を保っている。
これはどういうことなのか。
その問いを投げかける間もなく、アーチャーは閉じていた口を開いた。
「驚いたかね? まぁ無理もないだろう。倒したはずの敵が蘇るなんて、想像もしないだろうからな。キミたちは確かにバーサーカーを倒した。それは事実だ。しかし、彼女は完全に死んではいなかった」
バーサーカーの肩に手を置き、首筋から何かを引き抜くアーチャー。
彼の手に握られていた物―――それはバーサーカーの身体に突き刺さっていた一本の矢だった。
「この矢には私が調合した特殊な霊薬が塗りこまれていてね。刺さった対象が瀕死の状態の時、一度だけ蘇らせることができる。今風に言うなら、
死者の蘇生――そんなことがあり得るのか。
「ただ、この霊薬には欠点があってね。打った対象の自我を消滅させてしまうんだよ。まぁバーサーカーは元々自我が薄いクラスだから問題はないんだが…」
説明を続けながら、アーチャーは引き抜いた矢を投げ捨て、バーサーカーから離れる。
そして次の瞬間、鋭い眼差しでこちらを睨みつけてきた。
そう予感した私はすぐさま戦闘態勢に入る。
それを見たアーチャーは少し意外そうな顔をした。
「…ほう、悪くない面構えだ。主たちを守らんとする気迫が伝わってくる。ただの小娘かと思っていたが…考えを改めねばならんようだな」
そう言ってアーチャーは凄まじい殺気を放ち、手に白と黒の双剣を出現させる。
それに呼応するかのように、それまで沈黙を守っていたバーサーカーも唸り声を上げ、戦闘態勢に入った。
そんな一触即発のこの状況で、不意に後ろから私の肩に手が置かれる。
振り返るとそこには、
「…震えてるね、マシュ」
「え…? あ」
そう言われ自分の身体を見てみると、確かに私の身体は小刻みに震えていた。きっと恐怖によるものだろう。
自分でも気づかないなんて、私は随分と追い詰められていたらしい。
そんな私に向かって、彼は優しく微笑んでこう続けた。
「大丈夫だよ、マシュ。きっとキミなら勝てる。たとえ多勢に無勢でも、キミが諦めない限り必ず勝てる」
その言葉で身体の震えはピタリと止まった。
自分でも何故震えが止まったのかはわからない。
未だに恐怖はあるし、勝てる確率は絶望的なまでに低いままだ。
けれど。
―――ふと、あの炎の中で逃げずに手を握ってくれた彼の姿を思い出す。
あの時の彼の姿は、どうしようもなく美しくて。
あの時の彼の顔は、どうしようもなく優しくて。
あの時私は、本当に美しいものを見たんだと思う。
だから私は、命をかけても彼を守りたいと思うのだ。
「…マスター、指示を。敵サーヴァントを掃討し、一刻も早く拠点へ帰還します」
「…わかった。行こう、マシュ!」
「はい、マスター! マシュ・キリエライト、突貫します!」
こうして私はこの絶望的な戦況の戦いに挑む。
希望という小さなかがり火を、その胸の内に灯しながら。
そういえば書いてて今更気づいたのですが、未だにロマンと通信できてませんね……
ま、まぁそのうち彼らも登場するのでお待ちください。
ではまた次回!