Fate/Masked Rider   作:ガルドン

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所長の目覚め

「お父さま」

 

 ある施設の一角。

目の前に浮かぶ巨大な天体モデルを見上げながら、小さな白髪の少女が一人の男に話しかける。

 

「星を観て、未来を観て、私たちはどこへ向かうのですか?」

 

それは年端もいかぬ少女が抱いた、素朴な疑問。

彼女の一族が代々目指し続ける"明確な未来の観測"を追い求める上で、彼女はその疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「"明晰な未来"とは、いったい何なのでしょうか?」

 

 再度少女が尋ねる。

きっと彼ならばその答えを知っていると信じ、少女は静かにその返答を待った。

 

 だが、男はなにも答えない。

それどころか男は少女の方を向こうともせず、ただ目前のモデルを見つめるだけだ。

いつしか少女は返答を諦め、男と同じように目前のモデルを見つめ始める。

 

 結局、男が生きている間に少女がその明確な答えを聞くことはなかった。

実際のところ、彼が疑問の答えを知っていたのかいなかったのか、それは今となってはわからない。

しかしあの時少女が抱いた疑問は、消えることなく今も彼女の心の中に残り続けている。

 

 永遠に紐解かれることのない、彼女の人生最大の謎として。

 

* * *

 

「――っ!」

 

 大きなベッドの上で、深い眠りの中にいた私は目を覚ます。

―――嫌な夢だ。

久しく見ていなかった遠い記憶に、思わず顔を顰めた。

 

 さっき夢に見たのは子どもの頃の記憶だ。

思えば、あの頃から父はなにも喋ってくれなくなったのだったか。

何を言っても返ってくるのは冷たい沈黙のみ。父がなにかを言ってくるときは、決まって誰かを通してのことだった。

 

 結局その状態は父が死ぬまで続き、まるで親子とは言えないような関係のまま私は父との別れを終えてしまった。

 嫌われていた、というわけではないと思う。あの聡明な父のことだ、きっとなにか理由があったのだろう。

けれど今ではもう、その理由はわからない。

 

「…はぁ、何考え込んでるのかしら」

 

頭を掻きながら、考えをそこで打ち切る。

どうせどんなに考えてもわからないことなのだ。そんなことを考えるのに時間を使うよりも、今ある状況の方に意識を向けるべきだと考え、自分の周囲を見回した。

 彼女の今いるベッドの周囲には無数の高級そうな家具が設置してあり、随分とここの家主が金持ちなのだと感じさせる。と言っても、私の家には遠く及ばないのだろうが。

とりあえずこの家を探索するためにもベッドから降りるべきだと判断し、降りようとしたところで部屋のドアが開いた。

 

「あっ、所長。おはようございます」

 

 声のした方に顔を向けると、そこには説明会で居眠りをしでかしたマスターの一人である藤丸立香が立っていた。

 

「――あなた、どうして……?」

 

思いがけない遭遇に唖然とする。

彼はたしか居眠りをした罰としてファーストミッションから外され、自室で謹慎しているはずだ。なのにこんな場所にいるとはどういうことだろうか。

 

「えっと、藤丸――だったかしら。あなたどうしてここにいるの? 自室で謹慎してるはずじゃなくて?」

 

「えっ? 所長、覚えてらっしゃらないんですか?」

 

「…はい?」

 

意味不明なフジマルの応答に首を傾げる。

彼の口ぶりからして、自分はどうしてフジマルが外に出ているのかを知っているようだが、肝心の私の方にはまったく心当たりがない。

これはどうしたものかと頭を悩ませていると、彼がこんな提案を持ちかけてきた。

 

「その、ここでずっと話し込むってのもなんですし、ちょっと別の所に場所を移しませんか? もしかしたらそれでなにか思い出すかもしれませんし」

 

「…そうね、そうしましょう」

 

彼の提案に賛同し、私はベッドから降りて彼に着いていく形で寝室を出た。

しばらく廊下を進んでいくと、彼はあるドアの前で立ち止まる。

そしてドアノブに手を掛けて静かに扉を開け放つと、中から芳しい料理の香りが香ってきた。

 

「おーいみんなー、所長が目を醒ましたよー」

 

「お? よぉ、カルデアのお嬢ちゃん。随分と長いお眠りだったが、よく眠れたかい?」

 

「あ、所長。おはようございます。怪我もなくご無事そうで何よりです」

 

『ん? ああ、マリーじゃないか! 無事だったんだね!』

 

「おや、貴女顔色が少し優れませんね。今食事を持ってきますので、そこに座って少し待っていてください」

 

―――なんだこれは。

その一言が脳内でせわしなく動き回る。

扉をくぐった先で私が見たものは、サーヴァントと人間が仲良く食事をしている異様な光景だった。

 

「ちょ…ちょっとまって。えっと…これはいったいどういうことなの? どうしてあなたたちサーヴァントがこんなところで食事を……」

 

「あ? 何だそんなこと気にしてんのか。まぁそれはあとで説明してやっからまずは座りな。なにをするにも腹ごしらえってのは重要だ」

 

「えっ? あっ、ちょっ、そんな強引な…」

 

 うまく状況を飲み込めずに困惑している間にあれよあれよと食卓へ座らせられる。

そうして半強制的に座らせられた私の前に、中々に豪勢な食事が置かれた。

置かれた食事は日本の家庭ならば珍しくない一般的な和食中心のもので、見栄えはそこそこ。量は成人女性ならば余裕を持って食べられる程度のちょうどいい量だ。

 

「そら、食いな。どうせここに来てからなにも食っちゃいねえんだろ? 腹ごしらえにはちょうどいいさ」

 

 蒼髪のサーヴァントにそう促され、恐る恐る最初に目についた煮物を口に入れてみる。

するとどうだ。想像していた以上に美味しいではないか。

 

「――美味しい…」

 

 思わず感嘆の言葉が口をついて出る。

それを見て機嫌を良くしたのか、蒼髪の青年は屈託のない笑顔でこちらに話しかけてきた。

 

「だろ? オレも最初はどうかと思ったんだが、これがなかなか旨くてな。こりゃ坊主に頼んで正解だったみてえだな」

 

「…坊主?」

 

詳細のわからない人物の登場に、またも首を傾げる。

すると隣でお茶を飲んでいた紫の長髪の女性が、先ほどの話に補足を加えてきた。

 

「キャスターの言っている坊主というのは未来さんのことですよ。彼がこの家に残っていたなけなしの食材をかき集めて料理を作ったんです」

 

 未来――聞き覚えのある名前に眉間にシワが寄る。

永瀬未来。着任早々に藤丸と同じ居眠りをやってのけた問題児。そういえば彼もファーストミッションから外していたのだったか。

説明会でのことを思い出しながらも食事を食べすすめていると、キッチンから噂の張本人が顔を出した。

 

「あ、所長! 無事だったんですね! よかった…」

 

 どこで見つけてきたのか、よく似合う黄色のエプロンを着てこちらに近づいてくる永瀬。

その様子はいかにもどこにでもいそうな主夫の姿であり、今の異質な状況にはいささか不釣り合いだった。

 

「…ふう。ご馳走様でした。中々の味だったわ」

 

 配膳された食事を平らげ、箸を置く。

満ち足りた充足感を腹の底へ仕舞いつつ、手元に置かれていた湯呑みを手に取り、茶をすする。

そうして気持ちをすぐに入れ替えると、先ほどは流されてしまった本題に入った。

 

「じゃあ食事も終わったことだし、そろそろ何があったか聞かせてもらえるかしら?」

 

「おう、いいぜ。じゃあ今まで起こったことをざっと話してやっからちゃんと聞いとけよ。まずは――」

 

そして私は自分が眠っていた間のことをざっくりとではあるが、聞き終えた。

 

カルデアが壊滅状態にあること。レフが死んだこと。マシュがデミ・サーヴァントになったこと。藤丸たちが既にサーヴァントを三騎打倒したこと。

そのどれもがにわかには信じがたい事実――いや、信じたくないようなものではあったが、それを言ったところでどうしようもない。

与えられた状況が何であれ、最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りだ。今回もそのスタンスは変わらない。

 

 そしてこれもまた話を聞いてわかったことなのだが、どうやら私の脳内で記憶障害が起こっているらしい。

具体的に言えばレイシフト準備に入ったあたりから記憶が曖昧になっている。

原因はわからないが、まぁさしたる障害にはならない。気にしなくても問題はないだろう。

 

「――それで、これからどうするつもりなのかしら?」

 

話を聞き終え、これからの方針について聞いてみると、静かだったマシュが答えてくれた。

 

「私たちはこれから大空洞へと向かい、この特異点の元凶たるセイバーを倒すつもりです」

 

「…そう。妥当な判断ね。いいでしょう、そうと決まれば早速行動に移しましょう」

 

そう言って私は椅子を引き、立ち上がろうとする。

しかしそれを手で制す一人のサーヴァントがいた。

 

「待ちな」

 

そう言って静止してきたのはキャスターだった。

 

「…なんですかキャスター。今の方針に何か不満でも?」

 

 じろりとキャスターを睨みつけ、何故止めたのかを問う。

そんな私の視線に怯む素振りもみせず、彼は即座に私の発言を否定した。

 

「いや、別にそっちには文句はねえさ。オレが不満なのは()()()()()()()()()()についてだ」

 

「! で、ですがこちらには強力なサーヴァントが二騎もいます。それならばたとえマシュが宝具を使えなくても、セイバーに対抗できるのでは?」

 

彼はやれやれといった様子で肩をすくめて無情な現実を突きつけてくる。

 

「まず無理だな。何しろ相手はかの高名な騎士の王、()()()()()サマだ。あんなバケモン相手じゃ、オレたちが何人いたって足りやしねえよ」

 

 アーサー王。かの名高き円卓の騎士たちをまとめ上げたという常勝無敗の王。

その名前を聞いた瞬間にひどい頭痛に襲われる。

そんな高名な英雄を相手取るのであれば、たしかに宝具が使える者が一人でも多い方が勝率は上がるだろう。

 

「それに、どうせセイバーの傍にはアーチャーの野郎が控えてやがる。なら、そいつを相手取るのに最低でも一人は離れなくちゃならねえ」

 

そう言ってキャスターはマシュの近くまで行くと、彼女に向かって言葉を続けた。

 

「だから、セイバーに勝つにはお嬢ちゃんの宝具が必要だ。幸い俺にお前さんの宝具を発現させる"いい考え"がある。どうだ? やってみねぇか?」

 

「………」

 

尋ねられたマシュはなにも答えない。

無表情のまま、下を見つめるだけだ。

だがしばらくの沈黙のあと、キャスターに向き直ってこう答えた。

 

「…はい、やります。やらせてください!」

 

それを聞いたキャスターはニヤリと笑みをこぼすと、マシュの肩を叩いて上機嫌そうに宣言する。

 

「うーし、じゃあ決まりだ! それじゃ、このあと約一時間後にここから少し行った先にある森の集合だ! いいな?」

 

こうしてキャスターによるマシュの宝具開放のための修行が始まった。

―――この先に待っている、大いなる決戦のために。




久しぶりの投稿です。
いやー遅れて申し訳ない。
なんで遅れたかは活動報告に書いたとおりです。
これからは多分週一くらいのペースで投稿できるのでまたがんばります。
ではまた。
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