Fate/Masked Rider   作:ガルドン

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マシュの特訓 前

 屋敷での会話から一時間後。オルガマリーたちは準備を整え、指定された森に集合していた。

 

彼女たちが森の中に入ると、なにやらせっせと準備をしているキャスターが出迎えてくれた。

 

「よぉ、準備はできたか? 出来たんならそこの真ん中に立ちな。すぐに特訓を始めるぜ」

 

そう言いながらキャスターが指差したのは、なんの変哲もない地面だ。

言われるがままにマシュがその場に立つと、それを見届けたキャスターが説明を始めた。

 

「うーし、それじゃあ説明すんぞ。まずお嬢ちゃん。アンタにはこれからぶっ倒れるまで戦ってもらう」

 

「……はい?」

 

 ごく自然な表情でとんでもないことを口にしたキャスターに、思わずマシュたちは唖然としてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! それってつまりマシュに限界まで戦えってこと!? 無茶よ!」

 

 無茶苦茶だ、とキャスターに訴えるオルガマリー。

これにはさすがの彼女も思うところがあったようで、キャスターへの抗議を続ける。

 

「マシュはまだサーヴァントになりたての素人なのよ!? そんな娘に限界まで戦えって、無理に決まってるじゃない!」

 

「……はっ、んなことはオレだって知ってるさ」

 

「じゃあどうして―――」

 

 肩を竦め、こちらを見つめてくるキャスター。

その目は既に戦場を駆ける戦士の眼差しへと変わっており、彼がいかに真剣なのかが伺えた。

 

「いいか、そもそもサーヴァントの宝具ってのはそいつそのものだ。だから、どんなに下級のサーヴァントだろうと、現界した瞬間に使えるようになってるはずなんだよ。

だが、お嬢ちゃんはそれが出来てねぇ。お前さんたちはお嬢ちゃんが不完全なサーヴァント(デミ・サーヴァント)だからだと思ってるだろうが、それは関係ねぇ。

宝具が使えねぇほんとの理由はな、単に理性やらなんやらで魔力が詰まってるってだけなのさ。だから―――」

 

 キャスターが空中にルーン文字を刻む。

そして地面を蹴って跳躍し、その場を離れながらこう言い放った。

 

「お嬢ちゃんには理性もなにもないくらいに疲れ果ててもらうのさ! そら来るぞ!」

 

キャスターがそう言い放つと同時に、周囲から無数の歩行音が聞こえてきた。

 

『周囲に敵性反応! 数は……あぁもう! 数え切れないぞコレ!』

 

 通信越しにロマンの叫び声にも等しい報告が聞こえてくる。

もちろんそれをマシュも感じ取っていたらしく、彼女の表情は焦りにまみれていた。

 

「キャスター! あなた一体何をしたの!?」

 

 離れた場所でマシュたちを眺めているキャスターに対し、オルガマリーが問いただす。

彼は何食わぬ顔でその問いに答えた。

 

「何って、ちょいとばかり厄寄せのルーンを刻んだだけさ。これから大量のスケルトンがここに押し寄せるだろうが、せいぜい頑張ってくれ」

 

 そう言い残し、手を振りながら闇の中へ消えるキャスター。

マシュたちはそれを止められず、ただただその後ろ姿を見つめることしかできなかった。

 

「あぁもう、何なのよアイツ! やっぱりあんな怪しい奴の提案なんて聞くべきじゃなかったんだわ!」

 

キャーキャーとヒステリックに騒ぐオルガマリー。

だがそれも無理はない。なにしろ敵は大量にいるというのに、こちらは単騎で戦うしかないのだ。

そんな状況に陥っては誰だって嘆きたくなるというものだろう。

 しかしマシュはそんな危機的状況の中でも至って冷静だった。

 

「……マスター、指示を。戦闘でこの状況を切り抜けます」

 

『な――そんな無茶な! 相手は雑魚とはいえ、こっちの数を遥かに上回ってるんだぞ!? 今すぐに逃げるべきだ!』

 

 ロマンがそう引き止めるも、マシュは引こうとしない。

 

「いいえ、ここで逃げてもなにも得るものはありません。それに、逃げてもこの数なら追いつかれるのが関の山でしょう」

 

 淡々と自分の見立てを述べるマシュ。

たしかに彼女の言うとおり、このまま逃げても無事に逃げ切れる保証はない。

 

「戦うしかないのです、私たちは。ですよね、マスター」

 

まっすぐとした目でマシュはフジマルを見つめる。

その目の奥には確固たる決意が見てとれた。

 

「……うん、そうだね。やろう、マシュ!」

 

「はい、マスター!」

 

 短い会話を交わし、互いの心情を交換しあうマシュとフジマル。

その様子を見てオルガマリーも覚悟を決めたのか、懐からいくつかの魔術礼装を取り出して戦闘態勢に入った。

 

「あぁもう、しょうがないわね! マシュ! 討ちもらした雑魚は私に任せて、あなたは思いっきり戦いなさい!」

 

「――はい! マシュ・キリエライト、全力でこの状況を打破します!」

 

かくしてマシュの試練は始まった。

来たるべき戦いに向け、己に宿る最大の奥義を発言させるために。

 

 * * * 

 

 マシュたちがいる場所から少し離れた小高い丘の上。

そこでキャスターは彼女たちの戦いぶりを見届けていた。

 

「おーおーやってるやってる。あれなら大丈夫そうだな」

 

 近くの段差に腰掛けて戦況を見極めるキャスター。

戦況はすこし押され気味ではあるが、あれならばなんとか切り抜けられるだろう。

そう状況を見定め、自らは最後の仕上げに入ろうとしたその時。

彼の後方から濃密な気配が現れた。

 

「…良かったのですか? あんなに手荒な手段をとって」

 

 次いで聞こえてきたのは女性の声。

その声を聞き、キャスターは警戒のためとっていた戦闘態勢を解いた。

 

「――なんだ、ランサーか。いいんだよ、あれぐらい手荒で。さっさと成長を促すならこれぐらいやらなきゃな」

 

 地面になにやらルーンを刻みつつ、そう答えるキャスター。

彼は作業を止めることなく言葉を続ける。

 

「それに、この先であいつらはとんでもねえバケモンと戦うことになる。なら、多少無茶でも経験を積んでおくに越したことはねえだろうよ」

 

「……それもそうですね。では私が手を出すのはやめておきましょう」

 

「あぁ? なんだ、お前さん手ぇ出すつもりだったのかよ」

 

「えぇ、まあ。 危険な状態になれば手助けに入るつもりでした。彼らは一応大切な"漂流者"ですからね」

 

 大木に背を預け、そう述べるランサー。

彼女の言う漂流者とは何なのか、それは定かではないが、少なくとも悪い意味ではないことは確かだった。

そんなランサーを仏頂面で一瞥すると、キャスターはすぐに先ほどの作業に戻る。

 

「ま、お嬢ちゃんの宝具が開放されるんならこの際何でもいいさ。手助けでもなんでも好きにするといい」

 

 一人でなにかの準備を続けるキャスターに対し、ランサーはふと疑問に思ったことを尋ねた。

 

「…ところで、疑問に思ったのですが、何故貴方はそこまで彼女の宝具に固執するのですか? 彼女の宝具になにか思い入れでも?」

 

 そう尋ねられたキャスターは一旦その作業を中断し、こちらに向き直る。

そしてなにやら意味深な笑みを浮かべながら、こう告げた。

 

「決まってんだろ。あれがあの黒い騎士王サマにとって、最大の対抗策になるからだよ」




ロマンの通信は一応、前回の所長が目覚める前くらいから復旧してます。
正直復旧させるタイミングを逃してたので、こんな雑な復旧になっちゃいました。すんません。
次回、マシュの宝具初披露。
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