これから休んだぶんも頑張って投稿しようと思います。
「あぁ、もう! どうなってるのよこいつら!」
目の前のスケルトンどもを持ち前の魔術で消し飛ばしながらオルガマリーは叫ぶ。
彼女の叫びは目の前に殺到しているスケルトンどもに向けられたものだ。
倒しても倒しても一向に減らない雑魚たち。たとえ一体一体が大した力を持っていないとしても、際限なく湧いてくるとなればそれは十分な脅威となる。
そんな奴らの相手をしていれば、誰だって嫌になって叫びたくもなるというものだろう。
『頑張れマリー! あと少しで厄寄せのルーンの効果も切れる! あともうちょっとの辛抱だ!』
「簡単に言わないでちょうだい! あと、所長と呼べって言ってるでしょ!?」
通信越しに声援を送るロマニだったが、余裕のないオルガマリーにそれを一蹴されてしまう。
そんな彼女たちの会話を背に、マシュは一人最前線で戦い続けていた。
「はぁっ…! やあっ…!!」
群れの大部分を相手取っていた彼女は既に満身創痍で、もはや気力のみで戦っている状態だ。
そんな彼女の戦闘からは技術が消え、力任せな攻撃が目立つようになった。
きっとこんな単調な攻撃ではサーヴァント相手ならかすりもせずに躱されてしまうだろう。
しかし今の相手はただの動く骨だ。どんなに単調な攻撃だろうと、数を減らせるのであれば問題はない。
そう考え、彼女は一心不乱にひたすら盾を振るい続けた。
そして敵の数も減り、戦いも終幕しようかという頃。
最大にして最後の試練が彼女の前に立ちふさがった。
* * *
群がる骨をなぎ倒していたマシュの元にロマンからの通信が届く。
その内容は至極単純なもので、『そちらにサーヴァントが一騎向かっている』という旨のものだった。
おそらく現れるのはキャスターだろうと予想し、彼女は警戒心を更に高める。
そして、ロマンの通信から一分ほど経った頃。
ついに件の人物が姿を表す。
「よぉ、随分と頑張ってるじゃねぇか。関心関心」
現れたのは予想通りキャスターだった。
彼はいつもと変わらぬ自然体のまま戦場に足を踏み入れ、マシュの前に立つ。
「おい嬢ちゃん、あんた一人か? 他の奴らはどうした?」
「マスターたちでしたら私の近くにはいません。所長と一緒に後方で待機しています」
「…なるほど、一人で駆け回って一体でも多く敵を叩こうって腹積もりか。まぁ、この数ならそっちのほうが効率的かもな」
納得した表情でこちらを見据えるキャスター。
以前に『自分は知能派のキャスターだ』と豪語していたたけあって、さすがに飲み込みが早い。
「しっかし面倒だな…どうせならまとめてのほうが楽だったんだが」
「……どういうことですか?」
「まぁ見てな。すぐにわかるさ」
その言葉とともに、キャスターは手にしていた杖を地面に打ち付ける。
瞬間、地面が僅かに輝いたかと思うと、周囲の魔力が大移動を開始する。
まるで魔力が一つの群体となったかのような動きに、彼女の中の本能が最大級の危険信号を発していた。
「――っ、この、感覚はっ…」
「そら、気張れよお嬢ちゃん。ここを越えればお前さんは一人前のサーヴァントだ」
ニヒルな笑みを浮かべながらマシュを一瞥すると、キャスターは杖を天高く振りかざす。
すると彼の背後に魔法陣が出現し、その奥から巨大な炎を纏った人形が現れた。
――間違いない。これは
そう直感的に理解したマシュは盾を地面に突き刺して迎撃する。
数秒後、巨大な拳と黒鉄の盾がぶつかり合い、耳障りな金属音が響きわたった。
「おらおらどうしたァ! そんな盾じゃオレの宝具は止められねぇぞ!」
「くっ――」
――確かに、キャスターさんの言うとおりだ。
このままいけば拳が盾を板切れのように吹き飛ばし、後方にいるマスターたちに牙をむくだろう。
それだけは阻止しなければいけない。ここでマシュが食い止めなければ、フジマルたちが危険に晒されるのだ。
「――私が、私がやらなくちゃ」
盾を握る手に力がこもる。
――ここで止めなければ。他の誰でもない、私自身が。
仮でもいい。断片でもいい。
この攻撃を止められるのならなんだっていい。
だから、宝具を使わなくては――
「あ、あああああああぁぁ!!」
吼える。本能の赴くまま、ひたすらに吼える。
その行為に意味などない。叫んだところで宝具が勝手に発動するわけではないし、マシュ自身も狙ってしたわけではない。
しかし、その叫びの中に隠された願いは彼女の中の"彼"に届いたらしい。
叫びが大きくなるに連れ、それに呼応するかのように盾が輝き、徐々に魔法陣を形成していく。
そして、いつしか人形の拳を包み込むほどの大きさにまで膨れ上がった"それ"は、いともたやすく人形の拳を弾き飛ばした。
「――ははっ、まじかよ…」
宝具発動の一部始終を見届けたキャスターは、ため息混じりに驚嘆する。
これが彼女の宝具。
後に
* * *
「はぁっ…はぁっ…」
キャスターの宝具の消滅を確認し、マシュは無意識に止めていた呼吸を再開する。
――出来た。ついに宝具を発動できた。
ゼェゼェと肩で息をしながら、改めてその事実を再確認する。
あの時、目の前に現れた魔力障壁は間違いなく自らの宝具だ。まだ完全に発動できたわけではないが、仮の宝具としては十分すぎるほどのものだろう。
未だ発動の感覚が残る手を握りしめ、数分前まで半人前だったサーヴァントはこの日最大の喜びを味わった。
そして、そんな気の緩んだ状態だからこそこんなことになってしまったのかもしれない。
「ぁ――」
戦闘を終え、気が緩んだ瞬間に彼女の身体は糸の切れた
だがそれは無理からぬことだろう。無理な連戦に加え、仮とはいえ急な宝具の使用。
つまるところ、彼女の身体はすでに限界を迎えていたのだ。
懸命に腕を地面につこうとするが疲れ果てた身体は言うことを聞かず、少女はスローモーションに近づく地面を眺めることしか出来ない。
――あぁ、このままぶつかったら痛いだろうな。
通常の何倍も引き伸ばされた時間の中、なんの感慨もなくそんな予想をする。
デミ・サーヴァントとなってからいくらか身体は頑丈になったものの、基本となっているのはあくまで生身の身体だ。だからなにか硬いものにぶつかったら痛いし、刃物なんかで切られたりしたらもっと痛い。
結局のところ、サーヴァントとなった今でも『怪我をすると痛い』という体の構造は何一つ変わっていないのだ。
そんなことを考えているうちに、地面が目と鼻の先まで迫っている。
マシュは瞳を閉じ、重力に身を任せて来るであろう衝撃に備えた。
だがしかし。
「……?」
いつまでたっても衝撃が身体を襲うことはなく、耳には衝突音ではなく、静かな風の音が聞こえるばかり。
一体どうしたのかと思い目を開くと、腰のあたりに人の腕が巻きついているのが見えた。
「危ない危ない…大丈夫? マシュ」
そして頭上から聞こえてきた男性の声。
慌てて声のした方に目をやると、そこには微笑むマスターの姿があった。
「せ、先輩!? すいません、すぐに立ち上がりますので!」
そう言ってマシュはフジマルの助けを受けながら体勢を立て直す。
そうして完全に一人で自立出来る様になった彼女は顔を真っ赤にして頭を下げた。
「申し訳ありませんマスター。お手を煩わせてしまって… 」
「いやいや、いいんだよ。マシュはオレたちのために頑張ってくれたし。これくらいのことなんてことないさ」
にこやかにマシュを諌めるフジマル。
その表情から察するに彼は特に怒っていたりはしないらしく、むしろ彼女が無事で何よりだと顔を綻ばせていた。
「それよりも、やったねマシュ!ついに宝具が使えるようになったじゃないか!」
どうやら後ろで先ほどの戦いを見ていたようで、フジマルは喜ばしいといった表情を見せる。
それに釣られる形でマシュも満面の笑みを浮かべ、ある宣言をした。
「――はい! これで私も立派なサーヴァントの仲間入りです!」
こうしてマシュの特訓は大成功を納め、一行は最後の戦いへと歩みを進める。
舞台は円蔵山の地下空洞。そこで待つ黒き騎士王との対決を前に、彼らはひとまず拠点への帰路についた。
文章の質を良くしようとすると必然的に長くなっちゃうんですよね…
まぁ、私の場合は元々文才がないのであまり変わらないんですが。
次回は決戦。これでなんとか4月までに特異点Fを終わらせられる……といいなぁ。