やっと新生活にも慣れてきて、どうにか完成にこぎつくことができました。
かなり間が空いてしまったのでかーなーり文章力が落ちてますがお許しください。
ではどうぞ。
「…では聖杯の回収作業に移ります。よろしいですね? 所長」
「えぇ、もちろん。一刻も早く回収して頂戴」
キャスターとセイバーが消えた大空洞。
そこで未来たちは聖杯戦争が終了したことによって顕れた水晶体――すなわち聖杯を回収するため、空洞の中央に位置する高台の上に来ていた。
水晶体は先ほどまでセイバーが立っていた場所でふわふわと浮上しており、純粋な魔力反応以外はなにも感知できない。
安全なことを確認したマシュがゆっくりと水晶体へ触れようとしたその刹那。
「そこまでだ」
大空洞の奥――何もないはずの暗闇の中から、威圧感のある男の声が聞こえた。
声の主はコツコツと靴音を響かせ、こちらへと近づいてくる。
そして、数秒と経たないうちに"奴"は姿を現した。
「なっ……!?」
「レフ教授…?」
現れたのは時代錯誤な緑のスーツとシルクハットで着飾った紳士風の男。
この特異点Fへレイシフトする前に未来が遭遇し、謎の爆発によって消息不明となっていたレフ・ライノールその人だった。
「まさか君たちがここまでやるとはね。どうせ一般枠のマスターたちだからと見逃してしまった私の失態だ」
顕れたレフは言葉を述べながら近くにあった水晶体を回収する。
「レフ! 無事だったのね!」
『レフ…? まさか、そこにレフ教授がいるのかい!?』
「おや、誰かと思えばオルガにロマニじゃないか。君たちも
瞬間、レフの雰囲気がそれまでとは別物になる。その顔から柔らかな笑顔は消え、代わりに醜悪な笑みが張り付いていた。
「…え? ちょっとレフ、それってどういう――」
「言葉通りの意味だよオルガ。君たち人間というのはいつも計画にない行動をする。管制室の爆弾だって君の足元で爆発するように仕掛けたのに、君はそこから離れてしまった。まったく、度し難いにもほどがある」
「え…? 管制室の爆弾? それってまさかあなたが…?」
「おや、いつも以上に察しがいいじゃないかオルガ。
「――私が、死んだ?」
レフの非情な宣告を皮切りに、次々と彼方へと追いやられていた記憶が蘇る。
作戦開始を待つ管制室で起きたあの爆発。あのとき彼女は爆発の直撃こそ免れたものの、その爆風をもろに受けた。
鳴り響く轟音、身を焦がす熱風。荒れ狂う熱波は無防備だったオルガマリーの身体を蹂躙し、身体機能をほぼ停止させたのだ。
「レイシフト適性もマスター適性も持たない君がレイシフト出来たのは、君が死んだからだ。肉体という"枷"がなければレイシフト適性が無くても容易にレイシフトができるからね」
「そんな……私は…」
明かされた事実に狼狽えるオルガマリーを見下ろしながら、レフは浮かべた笑みをさらに濃くする。
彼は嘲笑っている。事実から目を背け、ここまでやってきた彼女のことを。
彼は嗤っている。自分が死んだことに気づかず、死にたくないと喚き散らしていた滑稽な彼女のことを。
「さて、それじゃあ哀れな残骸とお別れするとしよう」
そう言ってレフは右手をオルガマリーに向け、魔力を収束させる。
込められた魔力は尋常ではなく、たとえ一流の魔術師であろうとまともにくらえば命を落とすだろう。
オルガマリーは自らを死に至らしめる強大な魔力の塊を呆然と眺めることしかできなかった。
「さよなら、オルガ」
どす黒い熱線が放たれる。
熱線は寸分違わずにオルガマリーの胸へ吸い込まれていき、立ち尽くす彼女の命脈を絶たんとして――
「がッ……」
「……え?」
――彼女の前に立ちふさがった未来の胸に命中した。
自分の目前で倒れ伏す青年を見てオルガマリーはすぐさま治癒術式を行使する。
しかし、運悪く熱線は未来の心臓を見事に焼き貫いていた。
ここまでの負傷となると、もはや今のオルガマリーの手には負えない。
彼女がいくら魔力を込めようと、手を尽くそうと、もう未来を救うことはできない。
それをわかっていてもなお、オルガマリーは手を止めようとしなかった。
それは何故かといえば――
「嫌――やめて、やめてよ! このままじゃあなた、私のせいで死んだみたいになるじゃない!」
今まさに彼女がこぼした言葉の通り。
彼女は怖いのだ。自分のせいで、他人の命が失われることが。
彼女は自分が誰かの命を背負って生きていけるような殊勝な人物ではないと知っていた。
だからこそ、違法だと知っていても瀕死になったマスターたちを躊躇なく冷凍保存させた。
「あ…所長。無事ですね…」
「無事って――なんで私を庇ったのよ! 何もできない一般人のくせに!」
「ははは…すいません。つい、身体が動いちゃって…」
未来の顔が徐々に青白く変色していく。それだけではなく呼吸も、鼓動も、魔力も、すべてがことごとく無に帰していく。
これが"死"。すべての生物が最後に行き着く終着点にして、あらゆる恐怖を凌駕する最大の恐怖だ。
だというのに、目の前の青年はかすかに笑っていた。
「所長…あきらめないで、ください。きっと……きっと、助かる方法は、あります」
未来が震える手でオルガマリーの手を握る。
その握力はもはやないに等しく、彼の命の灯火がもうすぐ消えることは容易に想像できた。
だが、なおも彼は意志のこもった瞳で最後の言葉を遺す。
「今のあなたは…残骸なんかじゃ、ない。正真正銘、本物の、所長です。だから、希望を、捨てないで…」
瞳の色が薄れていき、世界の色が消えていく。
まるで水の中に沈んでいくかのような軽い浮遊感とともに、旅立った。
「――ッ」
「未来さん……」
『…永瀬未来の生体機能の停止を確認した。残念だが、彼はもう――』
通信越しに沈みきったロマンの声が聞こえてくる。
誰もが未来の死を悼んで言葉に詰まる中、一人だけ真逆の反応をする者がいた。
「フッ、アハハハハハハハハハハ!」
オルガマリーの傍で徐々に冷たくなっていく未来を指差し、笑い転げる緑衣の魔術師。
彼を殺した張本人たるレフ・ライノールは、一連の出来事を滑稽だと言わんばかりに嘲笑っていた。
「いや、おみそれした。まさかこんな場所でこんなに滑稽な三文芝居を見られるとは。お礼にいいものを見せてあげよう」
目元に浮かんだ涙を拭いながらつぶやくレフ。
するとぐにゃりと彼の背後の空間が歪み、そこにあるはずのないものが顕れる。
「うそ…あれって…」
「カルデアにあるカルデアスさ。聖杯の力を使って、わざわざ空間を繋げたんだ。そして――」
顕れたのは以前見た青いカルデアスではなく、真っ赤に染まったカルデアスだった。
レフは心底楽しそうに笑みを顔に貼り付けながら、指を鳴らす。
途端、オルガマリーの身体が浮かび上がり、カルデアスに向かって進み始める。
それを見たロマンはレフが何をしようとしているのかを瞬時に看破した。
『…まさか、マリーをカルデアスに突入させる気か!?』
「その通り。これは大いに笑わせてくれた礼だ。存分に無限の死を味わうといい」
「…いや、いやよ、いや! 死にたくない! 誰か、誰か助けてよぉ!」
静まり返った大空洞の中でオルガマリーの慟哭が反響する。
彼女の身体はゆっくりと、しかし着実に、時空を超えて繋がれたカルデアスへと進んでいた。
既に彼女のいる高度は藤丸たちの届かない場所であり、どんなに手を伸ばしたところで届くことはない。
そして、たとえマシュが捨て身で救出しようとしても、レフはそれを許さない。十中八九妨害されることだろう。
つまり何が言いたいかというと――完全に詰みである。もはやオルガマリーを救出する手立てはない。
だが彼女は助けを乞い続ける。端正な顔を涙で汚し、悲痛な声に思いを載せ、誰かが自らを引き戻してくれることを願っている。
けれど、そんな哀しい叫びももうすぐ止む。
オルガマリーの身体はもう、カルデアスを目と鼻の先に捉えられるほど近くまで来てしまっていた。
「いや…いやぁ! まだ認められてない、なにも成し遂げられてないのに!」
あと数秒。ほんの数秒で、彼女の命は終わりを告げる。
その刹那の時間のなんと長きことか。
永遠にも感じられる時間の中で、オルガマリーは最後の言葉を叫んだ。
「誰でもいいから助けてぇ!」
言葉とともに差し出される右手。
その手は誰にも握られることなく、虚空を掴むだけに思えたが―――
「やらせるか!!」
――それを良しとしない者がいた。
怒号にも似た声とともに、差し出されていた手を何者かが掴み、大気を蹴って引っ張りあげる。
謎の救出者は引っ張り上げたオルガマリーを抱きかかえ、静かに大空洞へ降りたった。
「――何者だ!」
せっかくの楽しみを台無しにされたとばかりに、レフが声を荒げる。
だがそんなことは気にもしていないのか、救出者はさっさと放心状態のオルガマリーをマシュたちに託してから、改めてレフの方に向き直った。
「…俺が何者かって? そんなの、アンタが一番よく知ってるだろ」
影に覆われた顔が徐々に明るみに出てくる。
そこにいたのは、本来いるはずがない者。
未来を閉ざされ、暗闇の中に消えていったはずの人物。
その正体は――
「永瀬未来。ただの一般人さ」
かくして冬木での戦いは一旦の決着をみる。
だがこれは始まりに過ぎない。
これより描かれるは、困難に彩られた人理修復の旅路。
数多の偶然の積み重ねによって開幕した、あり得ならざる
ということでこれにて『特異点F編』終了でございます。
期間にして一年と少しという超ロングランになってしまいましたが、まぁ是非もないよネ!
サーヴァントになったミライの設定やら経緯やらはとりあえず次回以降になります。
ではまた。