Fate/Masked Rider   作:ガルドン

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苦渋の再起

 暗い。

ただただ、暗い。

周囲にものはなく、真っ平らな地平が続いているだけの空間。そんな場所の真ん中で、未来の意識は覚醒した。

 

「ここは…」

 

 見覚えのない場所に困惑の声が漏れる。

だがすぐにそんな気持ちもどこかへ消えた。

 

「声?」

 

 遠くの方から誰かの声がする。男のものではない。どちらかといえば女性に近い声だ。

声の聞こえた方向へ歩き出す。何があるのかは知らないが、とりあえず動かなければ事態は進展しない。

それから数分ほど歩いてみる。正直、景色が全く変わらないので進んでいるのかわからなくなるが、多分進んでいる、と思う。

 そうしていくらか歩いたところで、不意に景色が変わった。

 

「花畑…?」

 

 真っ暗な空間から一転して、今度は色とりどりの花が咲き誇る花畑に出た。

そしてそこには、明確に人の形をしているモノもいた。

 

「やぁ」

 

 そこにいたのは男とも女ともつかない中性的な姿をした青年。彼はまるでここに未来が来ることを知っていたかのように佇んでいた。

 

「やぁ、未来くん。()()()()()()

 

()()()()()? 」

 

 うやうやしく礼をしながら、親しげな口調で話す人物を前に、未来は一つの疑問を口にする。

――自分はこの青年に会った覚えなどない。だというのに何故この人物は親しげに話しかけてくるのか。

そう思った未来の心を見透かすかのように、彼は答えを述べた。

 

「キミは覚えていないだろうけど、実は私はキミと会ったことがあるのさ。だから名前も知ってるんだよ」

 

「そう…なのか? 俺にはまったく身に覚えがないんだが」

 

「そうだとも。じゃあ挨拶はこれぐらいにして本題に移ろうか」

 

 そう言って彼はこちらに歩み寄ってくる。

そして手が届くくらいの近くまで来ると、ゆっくりと話を始めた。

 

「まず初めに、キミがこの状況をどこまで理解しているかを聞こうか。自分が今どこにいるのかわかるかい?」

 

「えっ、ここってよくある死後の世界とかじゃないのか? だってほら、俺死んだみたいだし」

 

 未来が最後に覚えているのは自分の胸から鮮血がとめどなく溢れてくる光景と、体中が形容しがたい寒さに支配される感覚。そして、そんな彼の手を取って悲壮な表情を浮かべている所長の顔だけだ。

この記憶と感覚を加味して考えた結果、自分はたった今死んだのだと未来は結論付けた。

しかし彼の見解を聞いた青年は曖昧な表情を浮かべたかと思うと、返答を口にした。

 

「うーん、当たらずも遠からずって感じかな」

 

「え、違うのか」

 

「いや、キミが死んだっていうのは間違ってないんだ。でもここが死後の世界だっていう予想はちょっと違う」

 

 浮かべた笑みを崩さずに青年は話を続ける。

 

「ここはあの世とこの世の境目―――例えるなら病院なんかにある待合室みたいなものさ。で、キミに話しておかないといけないことがあってね…」

 

 青年はそこで言葉を切り、ゴソゴソと懐を探り始める。

それから少しして、紙を広げるような音とともに彼が取り出したのは奇妙な文字のようなものが書いてある紙片だった。

 

「あったあった、これだ」

 

「……?? なんだこれ、全然読めないんだけど…?」

 

「はは、まぁそのうちわかるよ。とりあえず見てみるといい」

 

 そう言って青年は持っていた紙片をこちらに渡してくる。

するとなんということだろうか。先ほどまではよくわからない暗号じみた文字だった文章が、いつの間にか分かりやすい日本語へ翻訳されていた。

一瞬すり替えたのかと思い、色々と探ってみたものの、書かれている紙の古び方も、材質も、何もかもが先ほどのものと同じだという結論に行き着いた。

 

「どうなってんだこれ…」

 

 目の前で起きた理解不能の出来事に驚愕しつつ、書かれている内容に目を通す。

そしてすべてを読み終えた未来は、先ほどとは違う驚愕に目を見開くこととなった。

 

「い、()()()()()()って…マジで言ってんのか?!」

 

 ボロボロの紙片に書かれていた内容―――それは『永瀬未来を生き返らせる』という旨のものだった。

 

「本当だとも。でも一つだけ条件があるんだ」

 

 ピンと長い指を立てた青年は大きく息を吸い、言葉を紡ぐ。

 

「率直に言おう。キミにサーヴァントとなって数多の英雄と戦う覚悟はあるかい?」

 

「……え?」

 

 本日三度目にして最大の衝撃に未来は思わず言葉を失ってしまう。

サーヴァントといえばあの特異点Fで何度も戦った、人知を超えた存在のことだ。

武器をふるえば容易く地を砕き、地を駆ければ音すら超える怪物たち。まさしく“英雄”と呼ぶにふさわしい者たちだろう。

 そんな奴らと戦うなんて冗談じゃない。

戦いを後ろから見ているだけで身体は震え、呼吸は乱れに乱れたというのに戦うなんて出来るはずがない。

 

「…無理だ。俺はあんな奴らと戦うなんてできない」

 

 そう述べる未来の体は小刻みに震えている。

そんな彼の姿を見た青年は大きなため息を一つつくと、残念そうな表情で喋りだす。

 

「そうだよねぇ…さすがにただの一般人のキミにこんなことを言うのは酷だよね」

 

 一人納得した様子で何度もうなずく青年。

これでこの話は終わりになるかと思われたその時、青年がぼそりと聞き捨てならないことをつぶやいた。

 

「じゃあオルガマリーちゃんはこのまま無残に死ぬんだね。あれだけの努力が報われないなんて酷い話があったものだ」

 

「――ちょっと待て」

 

 離れようとする青年の肩を掴み、その歩みを停止させる。

振り返った彼はわざとらしい様子でこちらの行動の真意を聞いてきた。

 

「痛いなぁ、いきなりなんだい? 生き返りの件なら無しってことで決まっただろう?」

 

「違う。俺が聞きたいのはさっきの独り言についてだ。所長が無残に死ぬってどういうことだ?」

 

「あぁ、そっちのことか」

 

 納得したと言わんばかりに頷く青年。

彼は掴んだままだったミライの手を優しく払いのけると、パチンと大きく指を鳴らす。すると突然彼らの目の前に見覚えのある映像が映し出された。

 そこに映っていたのは荒々しい岩肌に囲まれた、広い空洞の様子。

中央には巨大な光の柱が伸びており、その場所がただならぬ場所であることを予感させる。

そんな洞窟内の高台に二人の無視できない人間の姿があった。

 

 一人は緑色のスーツに身を包んだ紳士風の男。

――男の名はレフ・ライノール。未来を殺害した張本人であり、カルデアの爆発事件を起こした犯人でもある。

もう一人は黒とオレンジの衣服に身を包んだ美女。

―――彼女の名はオルガマリー・アニムスフィア。カルデアの所長であり、レフの起こした爆発で命を落としてしまった人物だ。

 

「彼女は今、レフ・ライノールによって再び殺されようとしている。しかも考えうる方法の中でも一番最悪な方法でね」

 

 青年は感情の見えない表情でそう告げる。

それを聞いた未来の目つきが徐々に違うものに変わってきていることを彼は見逃さなかった。

 

「…サーヴァントになれば、所長を救えるのか?」

 

「どうだろうね。今の彼女は魂だけで存在している状態だ。たとえここで彼女を救ったとしても、戻る“器”がないなら消滅するのがオチだ」

 

 少しずつ、すこしずつ、未来の選択肢が狭まっていく。

――彼女を救いたいのであればサーヴァントとなって戦え。

無表情なはずの青年が歪な笑みを浮かべ、そう囁いているように見えた。

 

「さぁ、どうする? 自分の身を捧げて哀れな少女を救うか、少女を切り捨てて死後の安寧を手にするか。どちらがより後悔の少ない選択かな?」

 

 沈黙がその場を支配する。

自らの犠牲か、他人の犠牲か。どちらを選んだにせよ、平穏な道を歩める気は全くしない。

――というか、世界を救うなんて大それた話に乗った時点で平穏な生活など望めるべくもないと気付くべきだったのだ。

 そんなことにも気づけなかった自らの馬鹿さ加減に苦笑しつつ、目前の人物に返答を伝えるべく口を動かす。

幾度も重ねた思考の末に未来が選んだ答えは――

 

「俺は戦う。戦って、所長を助ける」

 

 ――未だ覚悟は決まらず、待ち受ける未来は不明にして未知だ。正直言って事態が好転する予感が微塵もしない。

だがそれでも、こうするべきだと思った。

この先どんなに険しい道が待っていたとしても知ったことではない。このまま自分が良いと思った道を突き進むだけだ。

 そんな思いを感じ取ったのか、青年は満足げな笑みとともに未来の手を握る。

 

「了解した。それがキミの出した答えならば、私はそれを尊重しよう」

 

 そこまで言い終わると青年の握っていた手が突如輝き始める。

それに驚愕する暇もなく、意識が段々と薄れていく。

 

「さぁ、長い長い旅の始まりだ! 辛い旅路になるだろうが、選んでしまった以上は止められない!」

 

 薄れゆく意識の中で興奮した様子の青年が声高らかに言葉を紡ぐ。

 

「時には傷つき、心も折れて立ち止まってしまうこともあるだろう! そんな時は我が名を叫ぶがいい!」

 

 さらに意識が薄れていく。四肢は完全に動きを止め、脳はもうまともに働きすらしない。

けれど、静寂に包まれた花畑で話す彼の声だけは確かに聞こえていた。

 

「我が名はゼルノ・ウォー・クライン! わが身は汝の傍にあり、わが心は汝とともにある!」

 

 青年の名を聞いたところで完全に未来の意識は途絶え、姿もまた光の粒子を残して消え失せる。

残ったのは青年ただ一人。

彼は銀色の長髪を風にたなびかせながら、いつまでも来訪者がいた場所を見つめていた。




ということでミライくんがサーヴァントになった経緯です。ここから前話の後半部分につながります。
ミライのステータスや宝具なんかは次の次くらいに投稿する予定です。
ではまた次回。
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