Fate/Masked Rider   作:ガルドン

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オルレアン編 前章
始まりの日


「……ん」

 

 ―――見慣れない天井だ。

…などと、どこかで聞いたことのあるようなフレーズを心中で呟きながらナガセ・ミライは目を覚ます。

起床したと同時に睡眠によって打ち切られていた視覚、聴覚、嗅覚などの感覚器官が徐々に機能を再開し、周囲の情報を読みとっていく。

数分に及ぶ情報収集の結果、俺は自分がカルデアの一室にいるのだということに気づいた。

 

「あれ…なんで…」

 

 自分がカルデアにいるという事実に困惑する。

何しろ俺が記憶しているのは自分がオルガマリーを救出したというところまでで、後のことはすっぱり覚えていない。というか記憶にない。

 

 そのことに悩みつつ、とりあえずのそのそとベットから降りようとすると、不意に部屋の入口のドアが開いた。

 

「ん? おや、お目覚めだね。気分はどうだい? ナガセ・ミライくん」

 

 入室してきたのはまさに“絶世の美女”と呼ぶにふさわしい女性だった。

艶のある黒髪とどこか既視感のある美しい顔。

衣服は全体的に赤を主としたものを着ており、左手を覆うように装着されている篭手が目を引く。

女性は入室するなりつかつかとこちらに歩み寄ってきて、丁度ベットのすぐそばにあった椅子に座って指を立てる。

その行為の意図を理解できずに首を傾げていると、彼女は大きく頷いて口を開いた。

 

「うん、反応は良好っと。じゃあ次。この指は何本に見える?」

 

「え、えっと…三本、ですか?」

 

「正解~! よーし、これで認識能力もOKだね」

 

 いつの間にやら手に取っていたバインダーに向かって文字を書き込む女性。

それから程なくして彼女はこちらに向き直り、何事もなかったかのように自己紹介を始めた。

 

「はーい、それじゃ自己紹介に移ろうか。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。芸術家でもあり、発明家でもあり、学者でもある“万能の人”さ。今はこのカルデアの技術部門のトップを任されてる。呼び方は気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ。で、ここまででなにか質問はあるかな?」

 

 そう言ってダ・ヴィンチと名乗る女性はこちらに目をやる。

質問、と言われても……正直情報量が多すぎて質問どころではない。

というかダ・ヴィンチという人物は男だったはずだ。少なくとも目の前にいるような絶世の美女ではない。彼の肖像画ももっとこう…ひげもじゃでしわしわのお爺さんだった、と思う。

 

 そんな思いを含んだ視線で自称レオナルド・ダ・ヴィンチを見つめていると、それに感づいたのか彼女はニヤリと笑いかけてくる。

 

「あぁ、つまりキミが言いたいのはアレだろ? ()()()()()()姿()()()()()()()()()ってことだろ? それはだね、簡単に言うと()()()()()()()()()()()()()()()()なのさ」

 

 ……体をモナ・リザに改造した???

いやいやいや、ちょっと待ってほしい。いくら何でも体を丸ごと改造して別人の、しかも異性に変身するなんてできるわけがない。

いくら今の整形技術が進歩しているからと言っても、そんな芸当は到底不可能だろう。

 

「い、いやぁ、冗談きついですよアハハハ…」

 

 口元を引き攣らせながら笑う俺に対して、自称ダ・ヴィンチは至ってまじめな顔だ。

―――え? まさかほんとにほんとなのかこれ? デジマ?

そう思いかけたその時、再び部屋の扉が開いた。

 

「おいおい、ダ・ヴィンチ。あまり僕のパートナーを困らせないでくれよ」

 

 部屋に響き渡る清涼感のある声。

その声はどこか聞き覚えのある声で、同時に謎の懐かしさも感じさせる声音だ。

 

「いやぁ、ごめんごめん。なにせナガセくんの反応が面白くてね。フジマルくんはこんな反応してくれなかったし」

 

 コツン、コツンと靴音を鳴らしながら“彼”は近づいてくる。

―――その姿はあの時と同じで。

その佇まいも、表情も、喋り方だっておんなじだ。

ただ一つ、何かが違うとすれば―――

 

「やぁ、ミライくん。たっぷり休めたようで何よりだよ」

 

「ストレングス―――!」

 

 一人称が、すこし変わったことぐらいだろうか。

 

 * * * 

 

 それから俺は、二人に自分が寝ていた間の話を聞いた。

その話を要約するとこうだ。

俺が所長を救出した後、レフ・ライノールは聖杯を持ち去ったまま逃走。レフが去ったその後、俺は後を追うようにその場で気絶してしまい、以後三日間寝たきりに。

フジマルたちは特異点崩壊の中、見事カルデアへ帰還。今は俺が目を覚ますまでしばしの休息をとっているらしい。

ストレングスはフジマルたちと共に帰還した俺の身体から突如出現。最初は敵かと思われて攻撃されかけたそうだが、何とか誤解を解くことに成功し、今ではカルデアの協力者という立場に落ち着いているそうだ。

そして、所長については―――

 

「はぁっ、はぁっ…!」

 

 未だ爆発の被害が色濃く残る通路を走る、走る、走る。

病み上がりだろうが関係ない。瓦礫が体を傷つけようと気にならない。俺はきっと、あの部屋にたどり着くまでただひたすらに走り続けるだろう。

 

 そうして走り出してからどれくらい経っただろうか。

今まで全く動いていなかった体をいきなり動かしたせいで、もう息は絶え絶えになって若干ふらつきかけているが、何とか件の場所にたどり着いた。

たどり着いたのは医務室の扉の前。扉の中からは微かに消毒用のアルコールの匂いが香ってくる。

医療関係の場所特有の刺激臭の応酬に若干目を細めながらも、扉を開いた。

 

「―――あ」

 

「―――え?」

 

 開けてすぐに先んじて中にいた小さな住人と目が合う。

時間にして二秒ほどの膠着状態に陥ったのち、俺と“彼女”は互いに再始動し始めた。

 

「え…まだ寝てるはずじゃ…」

 

 突然現れた侵入者に向かって驚いたように口を開け閉めする彼女。

そんな姿を見ただけでつい嬉しくなってしまって―――

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 つい、大声で名前を呼びながら抱き着こうとしてしまう。

だが当然、プライドが高い彼女がそれを大人しく受けるはずもなく。

 

「な、なにするのよこのドアホーーーーー!!??」

 

「ぎゃん!?」

 

 所長渾身の一撃(ビンタ)を受け、歓喜の抱擁は失敗に終わる。

手のあとがくっきりと残っているであろう頬をさすりながら、俺は興奮しきった状態で話しかけた。

 

「所長! 生きてらしたんですね! よかった!」

 

「え、えぇ…まぁ、なんとかね」

 

 だがそんな俺とは打って変わって、彼女はどこか浮かない表情をしている。

そんな様子に影響されてか、昂ぶっていた心も徐々にではあるが、落ち着いていく。

 そうして平静さを取り戻し、改めて目の前に立つ所長の姿を眺めてみると、久方ぶりに目にした彼女の変わりように驚愕した。

中でも一番驚いたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「あの、いきなり不躾な質問で申し訳ないんですけど、どうしてお体の方が小さくなってるんでしょうか…?」

 

「何よそのよそよそしい喋り方…まぁいいわ。それより、ダ・ヴィンチに聞いてなかったの?」

 

 そう言われてみれば、部屋を飛び出す直前にダ・ヴィンチちゃんが何か言いかけていたような気がしないでもない。といっても、俺は所長のことで頭がいっぱいだったのでまるで聞いていなかったのだが。

そのことを話すと、所長は『呆れを通り越して笑えて来るわね』とつぶやき、事の顛末を話してくれた。

 

 彼女によれば、元の肉体は損傷が酷く、器としての機能を果たせない状態にあったらしい。

それ故にもし彼女が帰還したとしても、行き場のない魂はそのまま消え失せるのだと誰もが思っていたのだが、それに待ったをかける者がいた。

 

『待ちたまえ。所長の義体については私に任せてもらおう』

 

 そう声を上げたのは、ドクターの傍らでモニターしていたダ・ヴィンチちゃんだった。

彼女は『すぐ戻る』と言い残して自らの工房に向かうと、なんとそこから()()()()()()()()()()()()()()()を持ってきたのだという。

それを見たスタッフ達はたいそう驚いていたそうだが、すぐさまその身体をコフィンに設置。

それが見事功を奏し、所長は無事にこちらに戻って来れたのだそうだ。

 

「―――これが事態の全容です。理解したかしら?」

 

「は、はい」

 

 まさか自分が眠っている間にそんなことが起きていたとは。すごすぎてちょっと驚いてしまった。

それにしても自分そっくりの身体を作っているとか、ダ・ヴィンチちゃんは変態すぎではないだろうか。

いつか自分のクローンとか作って世界中にばらまくとか、そういうとんでもないことをやらかしそうである。

 そんなバカみたいな思考を繰り広げていた俺の耳に、館内放送の音声が入ってきた。

 

『カルデア内にいる全スタッフ、及び全マスターに通達―。今後についての会議を行うので、十分後に管制室へ集合するように』

 

 噂をすれば何とやら。放送の声はまさしくダ・ヴィンチちゃんのものだ。

内容は聞いた通り。おそらく、最後の俺が目覚めたのでこれからの方針について話し合う場を設けようという魂胆だろう。

 

「十分後…ここからならゆっくり行っても間に合うけれど、やっぱり早めに行った方がいいわよね」

 

 ボソボソと独り言のように呟く所長。

早く行った方がいい、という意見には俺も賛成だ。なにせ彼女はカルデアの所長なのだし。トップはやはり組織の模範となるような行動をするべきだと思う。

 ということで少し早めの移動を開始しようとした俺たちだったが、所長のある一言でそれは中断される。

 

「あぁそうだ。そういえばあなたに一つ言っておくことがあるの」

 

 扉の前でくるりと反転し、こちらを見やる所長。

いったいなんだろうか。聞くべきことはもうあらかた聞いたと思うので、あまり予想がつかない。

一呼吸の間をおいて彼女の口から出てきたのは、まさかまさかの告白だった。

 

「実は私、マスター適正を手に入れたの。それであなたが寝てる間に契約させてもらったから。これからよろしく、“ライダー”」

 

「……え?」

 

 所長はそれだけ言い残して、扉の向こうへ消える。

残された俺は脳内で彼女の言葉を反復させ、理解し、そして―――

 

「ええええええええええええええ!!?」

 

 誰もいない医務室で一人、絶叫した。




やったねフジマルくん!マスターが増えるよ!
てなわけでオルガマリー所長もマスターとして参加します。
彼女が都合よくマスター適正ゲットできてるのはダ・ヴィンチちゃんのおかげってことで一つ。ぶっちゃけ作者も『いくら万能の人でも無理があるのでは?』とか思ってるけど気にしない。だって他に思いつかなかったんだもの。
次回は恒例のサーヴァント召喚回。召喚するサーヴァントはまぁ、だいたいテンプレメンバーですな。
で、これが終わればオルレアン編に入る予定です。
ではまた次回。

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