邪竜百年戦争、開幕
「………う」
目が覚めた俺の上空に広がるは謎の光輪が浮かぶ青空。
本来であればすぐに聞こえてくるはずの
何故こんなことになってしまったのか、と頭を掻きむしりたくなる衝動にかられる。
こんなことになってしまった事の発端はそう―――レイシフトがあと数秒後に迫ろうとしていた時のことだった。
あの時の俺は寺の住職が瞑想するかの如く、深い集中状態にあった。
コフィンの中は完全密閉空間。故に外からの音は全く聞こえず、聞こえるとしてもダ・ヴィンチちゃんやロマンのアナウンスだけ。なので、どうにも落ち着けなかった俺は瞑想をすることで自身を落ち着けようとしていたのだ。
だが、そんなことをしていたからこそあの“光景”を見てしまったのかもしれない。
一瞬。瞬きの如き一瞬の合間に、俺は見てしまった。
思えばあれは、どこかの誰かが最期に見た記憶だったのかもしれない。
黒い少女は創作の中に出てきそうな翼竜を従え、辺りの家屋を手当たり次第に燃やし尽くしていた。
中にはまだ人が残っていた家もあった。そんな家々が業火に包まれるたびに悲鳴がこだまし、屋内から燃えた身体を振り乱しながら走り出てくる姿もあった。
―――なんと凄惨な光景なのか、と。
普通の感覚を持っている者ならばそう感じることだろう。
だが、映像の中の少女は違った。
まるで憎き仇敵を皆殺しにする復讐者のように。
まるで殺戮を楽しむ殺人鬼のように。
彼女は、ただただ笑っていた。
罪なき人々を殺戮するのが楽しくて仕方がないとでも言うかのように、歓喜の笑みを顔に張り付けていた。
…俺が見たのはそこまでだ。
映像の中にあった集落がどうなったのか。この映像をみた者はどうなったのか。それはもう、定かではない。
だがこの正体不明の映像は、俺に大きな影響を与えることとなった。
『…!? まずい、ミライくんのバイタルが急激に低下してる! このままレイシフトに突入したら―――』
ロマンの声にノイズが掛かり、急激に身体が重くなる。
何が起きているのかはまるで分らなかったが、とにかく今の状況がまずいということだけは素人の俺でも把握できた。
すぐにでもコフィンから出なければという使命感に駆られ、脱出しようとするも時すでに遅し。
俺の意識は容赦なく刈り取られ、強制的にレイシフトが敢行された。
そして冒頭に戻る。
上空に見えるは謎の光の輪があること以外は正常な青空。周囲からは小鳥のさえずりなんかも聞こえてくる。
この状況から察するに、多少のトラブルはあったものの、一応無事にレイシフトできたらしい。
起き上がって周囲を確認してみると、近くには所長だけしかいなかった。だがまあ、当然といえば当然か。何しろこちらは正常にレイシフトが行われていないみたいだし。逆になぜ所長だけいるのか不思議なくらいだ。
とにもかくにも所長を起こさなければ始まらないと考えた俺は彼女を起こし、事の顛末を洗いざらい話す。
話を聞き終えた彼女は開口一番に『なんでこうトラブルに見舞われてばかりなのかしら…』と頭を抱えていた。
所長の見立てでは、おそらくサーヴァントである俺のレイシフトに異常が生じたため、マスターとして繋がっていた彼女もそれに引きずられる形で一緒の場所に放り出されてしまったのではないか、とのことだった。
…あれ、それって要するに俺のせいじゃね? 完全に戦犯じゃね? とか思ったけど気にしない方向で。
「…はぁ、やっぱり通信機も壊れてるわね。レイシフトしたときに強い衝撃を受けたりしたのかも」
どれだけボタンを押しても反応しない通信機をトントンと叩き、本日何度目かもわからないため息をつく所長。
通信機が使えないとなると、合流はかなり難しいかもしれない。もしかすると、このままずっと合流できないなんて可能性も……
「いや、それは無いね」
そう断定する声に思わず驚いてしまう。
ああそうだ、そういえば“彼”もいたんだったか。
「いきなり話しかけてくんなよ、ストレ―――じゃなかった、ゼルノ」
「あはは、ごめんごめん。キミが随分と弱気な考えをしていたものだからね」
そう言って俺は身につけている指輪の中にいるストレングス改め、『ゼルノ・ウォー・クライン』に抗議の言葉を投げかける。
彼は戦闘以外の時は魔力の消費を減らすため、基本的にこの指輪の中で待機しているのだ。
「で、なんで断定できるんだ?」
「うん、実は僕はサーヴァントの気配をある程度感じとることができてね。詳細な場所まではわからずとも、どの方角にいるかぐらいはわかるんだ」
ほほう、それはまた随分と便利な能力だ。そんな能力があるのなら、すぐにとは行かずともそのうち合流はできるだろう。
「じゃあ、フジマルたちはどの方角にいるかわかるか?」
「ちょっと待ってくれ。えーと……南東の方角だね。そこから微弱ではあるが、マシュちゃんの気配に似たものを感じ取れる」
「だそうですけど、どうします? 所長」
「……仕方ないわね。他に行く宛もないし、そうしましょうか」
所長も渋々といった様子ではあるものの、南東へ向かうことを承諾してくれた。
ということで当面の方針も決まり、いざ行動を開始しようと歩き出したその時。
不意に所長が俺の足をつついてきた。
「…え、なんですか所長。なんかありました?」
「何ですかも何もないわよ。あなたもしかして徒歩で移動しようなんて思ってないでしょうね?」
「え?」
いや、まさかも何も完全にそのつもりなんですけど。え? もしかして何かおかしいことしてるのか俺?
「…はぁ、呆れた。あなた自分のクラスもわかってないのかしら?」
クラス。クラス? ……あーーーーーーーーー!?
そうだ、俺って今“ライダー”なんだった。
今の今まで忘却してしまっていた自分が情けなくてしょうがない。なんだ自分のクラスを忘れるサーヴァントって。理性でも蒸発してるのか?
いくらトラブルに気を取られていたからといってもこれは酷い。酷すぎる。今世紀最大の大ポカをやらかしてしまった。
「す…すいません! すぐになんか乗り物出しますので!!」
俺は風切り音が聞こえるくらいのスピードで頭を下げ、すぐに宝具を出現させる。
現れたのはヘッド部分に大きな赤い宝石が填められたバイクだ。
「おぉー…話には聞いてたけど、まさか本当に出てくるとは…」
テレビで見たものと寸分たがわぬその姿に思わず感嘆の声が漏れてしまう。
『
宝具の効果は“仮面ライダーに関するものを創造できる”というもの。正直な話、どうして宝具がこれになったのかはよくわかっていないが、まぁかっこいいし良しとしよう。
「よし、所長は後ろに乗ってくださいね」
「えぇ。ゼルノ、道案内はお願いするわ」
「了解です。それじゃあ行きましょうか」
こうして、幼女と青年と喋る指輪という奇妙なパーティーでのツーリングが始まった。
* * *
「……うん? なんだあれ」
バイクを走らせてから数十分。かれこれ数キロは走ったかというところで、俺はあるものを見つけた。
「おや、どうかしたのかな?」
「あ、いや、なんか妙にでかい鳥が見えた気がしてさ。たぶん気のせいだとは思うんだけど…」
そう、あれを見たのはつい先程のこと。
道を走っている最中にふと視線を上げてみると、空の彼方に数匹の鳥の姿が見えたのだ。
しばらくは平和だなぁとのんきに観察していたのだが、段々とそれらが妙に刺々しいというか、凶暴な形をしているように見えてきて、おかしいなと思い始めた矢先に鳥の一団は姿をくらませてしまっていた。
「ふーむ、妙な形をした鳥か……もしかしたら、特異点に変貌した影響で出現した魔獣の類かもしれないね」
「えぇ、そうね。もしかしたら同じようなものがまだ近くにいるかもれないし、警戒は怠らないようにしてちょうだい」
そう言われ、俺はとりあえずもう一度空に目を移してみる。
だがやはりそこに件の鳥(?)の姿はなく、依然として澄み渡るような空が広がっているだけだ。
やっぱり気のせいだったのでは、と思い始めたその時、背後から突然叫び声のような声が聞こえてきた。
「! 今のは…」
「叫び声、だね。しかも複数人の。どうする? ここからならどうにか助けられるだろうけど」
ゼルノが所長に問いかける。助けに行くのか、行かないのかと。
普通であれば無視して、合流への道のりを進んだほうがいいのだろう。一刻も早く合流しなければ、俺たちは今晩の食事にすらありつけないのだから。
だから当然所長もその選択を下すと思っていた。
こう言ってはなんだが、彼女は中々に冷酷だ。目の前で人が危機に瀕していようと、それを素通りし、自分のやるべきことを全うしようとする。
組織の長としては正解なのかもしれないが、個人的にはあまりいい選択とは思えない。というより、思いたくない。
けど、今の俺は彼女のサーヴァントだ。サーヴァントというのはマスターに忠誠を誓い、付き従うもの。
だから彼女がどんな選択を下そうと、黙ってそれを受け入れようと思っていたのだが―――
「……助けに行きましょう。できる限り迅速に」
予想外の答えに、目を白黒させてしまう。
てっきり見捨てるとばかり思っていたのだが、どうやら何かが彼女の心境を変えたらしい。
「わかりました。じゃあ飛ばすのでしっかり掴まっててくださいよ!」
力を込めてペダルを踏み込み、全速力で声のした方向へ向かう。
悪路故に何度も車体が跳ねるが関係ない。俺は持ち前の騎乗スキルを存分に発揮し、一筋の赤い光となって木々の間をすり抜けていく。
そうしてようやくたどり着いた。
「―――なんだ、あれ…」
そこで俺たちが見たのは、見たこともないものだった。
いや、違うか。俺は奴らを知っている。あの生え揃った鋭い牙も、緑色の硬そうな鱗も、バサバサとうるさい翼も。
「これは―――ワイバーンか!」
ワイバーン。某狩猟系ゲームでもよく出てくる、ファンタジーの代名詞と言っても過言ではないモンスター。
そんな存在が目の前に何匹もいる光景は、まさしく異様といって差し支えない光景だった。
「まずいな…数が多すぎる。ざっと数えただけで何十匹もいるぞ」
ゼルノの言うとおり、周囲には何十匹ものワイバーンが群れをなして押し寄せていた。
どうやら奴らは野宿をしていた兵士たちを襲いに来たらしく、武装した兵士たちが必死に応戦している。
だがその抵抗もそろそろ限界だ。その証拠に、徐々に兵士たちの動きが鈍ってきている。
このままではまず間違いなく数に押しつぶされて全滅するだろう。
「ライダー……いえ、ミライ。行けますか?」
所長が俺の目を見据えてそう尋ねてくる。
正直、戦えるかと聞かれればわからないと答えるしかない。
まだろくに戦闘をしたこともないのに、完璧に戦えるはずなどない。宝具を使ったのもさっきのが初めてだ。
「俺は―――」
戦えるのか。そんな疑念のせいで言葉がでない。
彼女はただじっと俺の目だけを見据え、答えが返ってくるのを待っている。
―――覚悟を決めろ。
―――最期まで足掻くんだろう?
悪辣な表情を浮かべた俺が、未だ迷う自分自身にそう笑いかけてくる。
…そうだ。そうだとも。
こんなところでくよくよなんてしてられない。所長を、マスターを支えるんだとロマンに誓ったんだ。
だったら、迷う必要なんてない。
たとえ不安があろうと、不出来だろうと関係ない。
俺が伝えるべき答えは一つ。
胸に手をやり、答えを待つ彼女にこう告げた。
「―――行けます。あの人たちを助けましょう!」
安定の別行動。人数多いと書くの大変だからね、仕方ないね。
この別行動は所長との絆上げのための旅みたいなものなので長くても許してください。
次回はミライくんの初陣。果たしてうまく戦えるのか…
ではまた次回。