Fate/Masked Rider   作:ガルドン

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王妃との邂逅

「―――っ、痛ってぇ…」

 

 ズキズキと痛む頭をさすりながら、俺は身体を起こす。

そのまま視線を落としてみると、包帯でぐるぐる巻きになった自分の身体が映った。幸いもう傷はふさがっているらしく、出血などは見られない。

 

「…あぁ、そっか。俺ってばあの後倒れたんだっけ」

 

 時間が経過するにつれて、少しずつ何があったかを思い出す。セイバーを倒した後、情けないことにそのまま倒れてしまったのだ。

そんな俺が眠っていたのは、どうやらテントか何かの中らしい。俺が寝ていたベットの周りには、いくつかの簡素な作りをしたベットが置かれている。

まるで野戦病院のようだなと、そんなことを思っていたその時。不意に出入口が開かれ、外から二人の少女が入ってきた。

 

「うふふ―――あら? 目を覚まされたのね」

 

「え? ―――あ! おはよーミライさん! すっごくながいおひるねだったね!」

 

「え、あぁうん、おはよう…?」

 

 水桶や包帯、果物などを抱えて近づいてくる二人の少女たち。一目見て、彼女たちの片方が誰かはすぐに分かった。壊滅したラ・シャリテで救出できた唯一の人物―――アリスだ。彼女は以前と比べて元気になったようで、弱々しかった声が随分と大きくなっていた。

対してもう一人の少女。こちらに関してはまったくわからない。どこかで会った覚えもないし、もしかしなくても初めましての人ではないだろうか。

 

「あの…」

 

「はい?」

 

「多分初対面の方…ですよね? 俺はナガセ・ミライっていいます。聞いてるかもしれないですけど、一応よろしくお願いしますね」

 

 ぎこちない笑顔を浮かべながら、少女に向けて手を差し出す。何をするにも、まず最初に挨拶をするのは大切だ。それをするのとしないのとでは、印象がすごく変わってくるし。

少女は差し出された手を見て一瞬だけ戸惑ったような表情を浮かべたものの、すぐにピンと来たといった様子で俺の手を取った。

 

「ごめんなさい、自己紹介もしないで話をするなんて失礼でした。初めましてミライさん、私は“マリー・アントワネット”。聖杯に招かれてこの時代に召喚されたサーヴァントの一人です」

 

「は…!? マリー・アントワネット!?」

 

 マリー・アントワネット。その名前を聞いた瞬間、驚いてつい名前を復唱してしまう。

歴史にあまり明るくない俺でも知っているビックネーム。一八世紀フランスの王妃として国を治め、その最中に起きた革命―――“フランス革命”で民衆に処刑された悲劇の女王。

そんな有名人と会えるだなんて思ってもみなかった俺は、驚きすぎてただ呆然と彼女の柔らかな手を握ることしかできなかった。

 

「うふふ、その様子だと私のことはご存知のようね。嬉しいわ!」

 

 そんな俺に追い打ちをかけるかの如く、マリーさんがにっこりと満面の笑みを見せてくれる。たったそれだけのしぐさで、強力な電流を流されたかのような衝撃が身体を走り抜けた。

―――あ、やべぇこの人。人を堕とす天才だ。

直感的に脳がそう理解し、これ以上の接触は危険だと警鐘を鳴らす。事実、出会って数分と経っていないというのに、俺の意識はマリーさんへくぎ付けになっていた。

 

「え、えぇ、まぁ。多分俺くらいの世代で貴方を知らない奴はいないんじゃないですかね」

 

 ゆっくりとマリーさんの手を放す。心の奥底からまだ触れていたいという欲望が漏れ出そうになるが、強引に蓋をする。これ以上は戻れなくなってしまうのでダメだ。

胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をする。何度かそれを繰り返し、思考がやっとまともになってきたところで、俺は新たな話題を切り出した。

 

「―――ところで、今他のみんなはどこに?」

 

「今は私たち以外誰もいません。みんな食糧を取りに行ったり、薪を集めに行ったりしているから。けれど、夜になったらみんな帰ってくると思うわ」

 

「なるほど、そうなんですか」

 

 となると、他の人たちとはしばらく会えないわけだ。カルデアにいるロマンたちスタッフを始め、いろんな人に心配をかけただろうからできるだけ早く無事を報告したかったのだが、こればかりは仕方がない。

 

「…よし」

 

 こうしていつまでもベットに身体を預けているわけにもいかない。寝起きの運動がてら、すこしここを周ってみよう。

そう思った俺はかかっていた布団をはいで、なんとなく久しぶりな気がする地上に足を着ける。そしてそのまま外へ出ようとして―――

 

「ダメ―ーー!!」

 

「ホグァッ!?」

 

 アリスによる強烈なタックルを無抵抗に喰らい、素っ頓狂な声を上げながらその場に崩れ落ちた。

 

「げほっ、げほっ…い、いきなり何すんだよ…!?」

 

「わたし、オルガマリーさんにいわれたの! “もしミライさんがおきたら、ずっとみはっておいて”って!」

 

 ―――あぁ、なるほど。つまりアリスは、監視対象である俺が何も言わずに出ていこうとしたから、それを止めようとしたわけか。

けど、怪我人相手に思いっきりタックルぶちかまして止めるっていうのはよくないと思う。これ多分サーヴァントじゃなかったら数分間悶絶してるレベルの威力だったし。まぁ、何も言わずに出ていこうとした俺にも非はあるし、強くは言えないのだが。

 

「もう、ダメよアリス。ミライさんは怪我人なんだから、もっと優しくしてあげなくちゃ」

 

「う…ごめんなさい」

 

 ばつが悪そうにそう呟くアリスの頭を、マリーさんが優しく撫でる。その姿はさながら母と子供のようで微笑ましさを感じる反面、なんとも言えないもの悲しさも感じた。

 

「はい、わかればよろしい。ところでミライさん、さっきはどうして外に?」

 

「え? あぁ、眠気覚ましに外でも回ってこようかと思いまして。またいつ敵が襲ってくるかもわかりませんし」

 

「まぁ、そうだったのね。それじゃあせっかくだし、私がここについていろいろと案内して差し上げますわ」

 

 にこりとはにかみ、そう告げるマリーさん。そのご厚意に甘え、皆が帰ってくるまでの時間を彼女たちと過ごすことにした。

 

 * * * 

 

「…さて。それじゃあ、あの無謀な行動についての弁明を聞かせてもらおうかしら」

 

「いやその…あれは他の手段が思いつかなくて咄嗟にですね…」

 

「ふーん、そう。つまり不可抗力ってわけ?」

 

「そうですそうです。なので今回は見逃していただけると―――」

 

「見逃すわけないでしょうが!!」

 

「ぶべらっ!?」

 

 鉄拳制裁。魔術によって強化された所長渾身の一撃(マジビンタ)が、ありえない加速で頬へ炸裂する。幼女の細腕から繰り出されたとは思えない強烈な一撃に、俺はあえなくノックアウトされた。

 

「まったく…今後はあんな無茶な行動はしないように。もし仮にするとしても、私の承諾を得てからにすること。いいですね?」

 

「は、はい…」

 

 大きく赤い手形のできた頬をさすりつつ、首を縦に降って肯定の意を示す。それからややあって、所長が咳払いを一つして口を開いた。

 

「オホン、これでこの話は終わり。ここからは今後についての話よ。マリー・アントワネットからこれまでの話は聞いてるのよね?」

 

「えっ? あっ、いや、その……すいません、聞けてないです」

 

「は?」

 

 所長の冷たい視線がグサグサと突き刺さる。あ、この目知ってるぞ。養豚場の豚を見る目ってやつだ。昔漫画で見たのとそっくりそのまんまじゃないかアハハ―。

 

「…はぁ、仕方ないわね。それじゃあかいつまんで説明してあげるから、そこに座りなさい」

 

 “なんでいつもこうなのかしら”とぼやきつつ、所長はそれまでにあったことを話してくれた。

なんでも俺が意識を失った後、竜の魔女たちは一時撤退。得てして勝利を勝ち取ったカルデア陣営だったが、消耗が激しく、もし再び襲撃されれば敗北は必至だったという。

そんな彼らのもとにマスターを持たないサーヴァント―――通称“はぐれサーヴァント”であるマリー・アントワネットとアマデウス・ヴォルフガング・モーツァルトが合流。彼女たちの手助けもあり、この野営地にしばらく身を寄せることになったのだとか。

しかしその日の夜、竜の魔女から差し向けられた追手が襲来。真名を“マルタ”と名乗るライダーのサーヴァントは、カルデアのサーヴァントたちの応戦によって撃破され、散り際にアタランテも言及していた“竜殺し”がリヨンという街にいることを告げて消えていったという。

その後は特に目立った事件もなく数日が経過し、俺が目覚めた―――とのことだった。

 

「―――さて、ここまでで何か質問はあるかしら?」

 

「いえ、特にありません」

 

「そう。じゃあ本題に移りましょうか」

 

 所長はそう言うなり、ぴょんと飛んでベットに腰かける。そのしぐさに思わず『可愛い!!』と叫びそうになるが、なんとかそれを抑えつつ、俺は彼女の話に耳を傾けた。

 

「以前も言ったように、私たちの当分の目標は竜殺しの捜索、及び契約です。そして、先の戦いで居場所が判明した以上、無視するわけにもいかないでしょう」

 

「なるほど、それじゃあ次はそのリヨンって街に向かうんですね?」

 

「…そうね。以前まではそうするつもり()()()わ」

 

「だった? 何かあったんですか?」

 

 謎の過去形の登場に首をひねる。だったということは、今は違うということだろうか。

 

「実はここの兵士たちから気になる情報を聞いてね。なんでも、リヨンから少し離れたティエールって街に“火を操る女”と“怪音波を発する女”がいて、その二人がワイバーンから街を守ってるらしいのよ」

 

「え? まさかそれって…!?」

 

 俺の中で瞬時に察しが付く。その二人はほぼ間違いなくサーヴァントだろう。でなければたった二人で街を守るなんてことができるはずもない。

 

「聞いてしまった以上、こちらも捨ておくわけにはいきません。もし仮にこの二騎が敵の手に落ちれば、せっかく削った戦力も元通りになってしまう。それだけは何としても避けなくてはいけません」

 

「ということで協議を重ねた結果、我々は二手に分かれることにしました。この野営地から出発し、それぞれはぐれサーヴァントを確保。しかる後にどこかで落ち合うという作戦です。作戦開始は明日の早朝。一刻も早く作戦をを成功させて、特異点を修復させるわよ」

 

 かくして仮初の平穏は終わりを告げ、熾烈な戦いが今再び幕を開ける。

果たしてこの先に待ち受ける出会いが、彼らにいったい何をもたらすのか―――それはまだ、誰も知らない。




こいついっつもぶっ倒れてんな。
ってなわけでお久しぶりの更新です。今回は完全に状況整理回ですな。まぁ前回まで派手にドンパチやってたので箸休めということで。
次回からはオルレアン編も後半戦に突入。年内までにこの章を完結させられるようにがんばります。
ではまた次回!
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