「なっ…!? こいつどこから!?」
突如俺達の前に現れた謎の男に対し、俺は言いしれぬ恐怖を覚える。
男の姿はさながら彷徨う亡霊のようで、今が夜なのも相まって一層不気味さを増していた。
「……クククッ、何ヤラ微弱ナ魔力ヲ感ジテ来テミレバ―――マサカコンナトコロデ会エルトハナァ、"ランサー"」
「っ…! アサシンですか」
アサシンと呼ばれた男は口元に歪な笑みを浮かべ、時折舌なめずりをしながらこちらを見つめてくる。
その奇怪な姿に全身の毛が逆立つのを感じた。
「――未来さん、私の後ろへ。ヤツは危険です」
「えっ、あっ、はい!」
ただならぬ様子のアナさんに言われ、素直に俺は彼女の背後へ隠れる。
正直いって情けないと自分でも思ったが、何故だかそうしなければいけない、そうしなけば危険だという確信があった。
そんな俺の様子を品定めするように見ていたアサシンは何かに気づいたようで、口を開く。
「…ホウ、先ホド感ジタ微弱ナ魔力ハソノ小僧ノモノカ。テッキリ使イ魔カナニカカ卜思ッタゾ」
ケタケタと笑い出すアサシン。何故か分からないが、俺は馬鹿にされているらしい。
こちらを挑発するようにアサシンが嗤う。が、俺たちは警戒してその場を動かない。
そんな俺たちを見て挑発は無意味だとわかったのかアサシンは嗤うのを止めた。
「フム、ヤハリコンナ挑発ニハ乗ランカ。プライドノ高イ魔術師ナラ或イハ、ト思ッタノダガ――マァイイ。トコロデ、ランサー。貴様ト行動ヲ共ニシテイタ"キャスター"ハドコへ行ッタ? 貴様ナラ居場所ヲ知ッテイルダロウ?」
「……もし、私が答えたらどうするつもりですか?」
そう、アナさんが尋ねる。
それを聞いたアサシンはさして考える素振りも見せず、答えを口にした。
「ナニ、簡単ナコトサ。貴様ヲココデ始末シタ後ニキャスターモ始末スル」
「なっ……!」
お前たちを殺す。
アサシンはそれが当然だと言うかのように、自然体のまま、その恐ろしい答えを口にした。
だが、それを聞いたアナさんは怯むことなく答えを出す。
「…残念ですが、お断りします」
一瞬の静寂の後、アサシンは小さな溜息をつき、懐から
「……ソウカ、残念ダヨ。ランサー。仕方ガナイ、貴様ガソウスルナラコチラモ相応ノ手段ヲトラセテモラオウ」
瞬間、アサシンの周りの空気が変わる。
まるで何かの針が俺の肌を刺しているかのような、チクチクとした感覚。
それが何なのかは一般人である俺でも直ぐに分かった。
奴が発しているのは明確な"殺意"だと。
それが分かると同時に強烈な恐怖が俺を襲った。
体が震え、ここから今すぐにでも逃げ出したいという気持ちに駆られる。
そうなるのが当然だろう。今まで喧嘩もろくにしたことがないような人間が、こんなに強烈な殺意を向けられれば逃げ出したくもなるというものである。
だが、そんな俺にアナさんは優しく微笑みながら、ある言葉を掛けてくれた。
「大丈夫です。貴方は私が必ず守りますから」
それは、傍から聞けば根拠のない戯言に聞こえる言葉だろう。
奴はきっとアナさんより強い。
怪我をしているアナさんよりもアサシンのほうが当然優位だし、強いだろう。
なのに―――
彼女の言葉は、何故だか俺をひどく安心させた。
「末期ノ別レハ済マセタカ? デハ楽シイ楽シイ殺戮ショーノ始マリダ。精々足掻ケヨ?」
そう言ってアサシンは懐から数本のナイフを抜き、信じられないスピードでこちらに近づいてくる。
それを向かい打つように、アナさんが手にした大鎌を構える。
「――来ます! 未来さん、絶対に私から離れないでください!」
こうして、俺たちの生きるための戦いが始まった。