鎮守府に勤めてるんだが、俺はもうダメかもしれない   作:108036

4 / 11
3話 宣言

「あ゛〜よく寝た、マジで」

 

久々にしっかり寝たと言える時間睡眠をとれた俺は、昨夜からのルンルン気分もそのままに食堂に向かっていた。

 

もうすでにお昼時であるので、朝食と言うよりは昼飯なわけだが。

 

 

それにしても本当によく寝た。

普通に兵隊やってた頃から見ても中々取れたもんじゃない睡眠時間であるのだから、あれだけ寝たのはいつ以来だろうか

.....故に俺は忘れていたのだろう

 

俺がこの鎮守府でどのような扱いを受けているかを....

 

何を作ろうかな?などと考えながら扉に手をかけ、ゆっくりと横に引き、一歩踏み出した瞬間......瞬く間に静寂に包まれる食堂。

 

突き刺さるような視線、視線もやらない完全な無視、困ったようなはわわという声の三通りの反応を受け、俺も自身の失態を恥じていた。

 

 

(あー!やってしまった!

普段食堂使うの深夜で誰もいないから油断してしまった...)

 

未だ仕事後に飯を食べる元気が有り余っていた頃に何回か利用した経験があった食堂だが、勿論誰もいない食堂で料理を作るのは自分自身だった。

 

 

そんな利用の仕方をしていたが故に、飯時はここが皆の憩いの場だということを失念していたのだ。

 

そんな所に憎い相手が現れれば何かしら食事の邪魔になる事は間違いない。

 

 

だが今更引くわけにもいかない。

尚更不自然だし。

 

カツッカツッと皆の食事の音が一切せず、何故か俺の靴の音の方が響いてるような気がするけど気のせいにちがいない.....はぁ...

 

 

...っていやいや、こんな事くらい今まであまりあり過ぎる日常だったじゃないか。

 

別に落ち込むことはないよな。

でもみんなの食事を邪魔するのは悪いからなぁ

 

次からは気をつけ...あ!そういえば間宮さんの作る飯初めてじゃんよ!

 

 

やっべ、テンション上がるわ

 

 

「かけうどんを頼む」

 

安い、簡単、ひもじい

そんな値段のかさばらないただのうどん、かけうどん。

 

トッピングは自由自在、好きなように調整できる俺の大好物だ。

 

 

「は、はい...お待ち下さい....」

 

そう言いつつ、どこか戸惑った様子で調理に取り掛かる補給艦。

 

 

おー、今から作るのか...スッゲェ楽しみ

 

思い返せば久々の栄養補給なのだ。

楽しみになるのも無理は無い

 

 

「....ちょっとあんた!」

 

静寂を切り裂き、食堂に叫びの救世主現る。

 

 

声の主を見てみれば、予想どおり叢雲だ。

 

テーブルに右手をバンとつき、左手を胸元で握りしめ、まさに怒ってますと体全体で表しているその姿も最早、見慣れた物だ。

 

 

 

怒るときはいつもこれなので、この格好で怒鳴られた回数は両手両足では足りない。

 

で、あるからして、湧き上がる感情もある程度達観した気持ちであり、どうしても向ける視線が気怠げなものになってしまう。

 

 

「どうした、叢雲」

 

 

「あんたいきなり食堂に来てどういうつもり!?

仕事をしない提督に出す食料なんて無いのよ!」

 

 

ただの沈黙よりは怒鳴り声があったほうがまだマシだとは思う。

だが叢雲よ...よりにもよって仕事をしないと来たか....

 

 

唯一鎮守府にきて上手くやれていると感じられていたアイデンティティーを否定され、さしもの俺も胸から何かが込み上げるが、先輩2人の仕事量を思い出す。

 

そうだ...あの二人合わせて俺の4倍やってんだった...

 

確かにあの二人に比べれば俺の提督業などあってないような物だろう。

 

そう思うと一気に怒るに怒れなくなってしまい、なんだかやるせない気持ちになる

 

 

だが、よくよく考えれば食堂を出る良い機会なわけだし

 

 

そうだ、この言い分に従ってこの針の筵から出るってのもいいよな

 

そうしよう

 

 

「そうか、了解した」

 

 

まるで初めからそうするつもりだったかのような見事な回れ右を決め込み、足早に食堂を去る。

 

またしても栄養補給の場を失った腹をさすりつつ、廊下を歩く。

 

 

「ハァ...せっかくの間宮さんの飯が食えると思ったのに....

残念ですなぁ、妖精さん」

 

コクコク、と首を上下に振りながら俺の周りを飛行して漂う妖精さん。

 

 

転生してからもこの歳まで童貞を守り続けた俺にはついに妖精が見えるように....というわけではない。

 

今俺の目の前には実際に妖精さんはいるし、艦これをプレイしているなら知らない人はいないだろう。

 

 

だがこの妖精さんは建造や開発の際にいる妖精さんではなく、応急修理要因...いわゆるダメコンの妖精さん達だ。

 

何故俺がダメコン妖精さんと懇意にしているかというと、それは着任当時にまで遡る。

 

 

まだ着任数日で、昼間に設備を見て回る余裕があった頃、解体場を見学していた時だ。

驚くべきかな、恐れ多くもダメコンが解体されようとしていたのである。

 

元提督(今もだけど)の視点から見れば完全なる発狂物だ、選択肢は止める、阻止する、保護する、の3つしか存在しなかった。

 

 

後で先輩提督二人にそれと無く聞いてみた所、なんでもこの世界ではダメコンや女神はゴミと同等のような扱いをされているようだということが判明した。

 

偶に海域制覇の際に発見されるが、効果も知られておらず、ただおかしな格好の妖精たちの集まり、解体すれば微々たる資材に還元されるだけのハズレ、とだけしか認識されていないのだ。

 

 

取り敢えずこれ以上破棄されても堪らないし、解体命令が出次第俺の方に持ってきてもらうよう解体妖精さんに話をつけてある。

 

もちろん職権乱用で。

 

これもバレれば横領で軍法会議デスねぇ、うへへ

 

最近はそっちが本命...ん?誰か後ろから来てるな....

 

 

「提督さん提督さん!

昼間に会うのは珍しいっぽい!」

 

 

おっと、夕立か

 

この鎮守府の中で気兼ねなく俺に話しかけてくれる数少ない艦娘の一人だ。

 

ある夜背後から

「みんなを困らせる提督さんは...いらないっぽい?」

 

とかって声と共に飛びかかってきたのを捕獲してからお持ち帰りして、朝までの短い時間もふり倒してからは仲良し?な関係を築けている。

 

あん時は色々溜まってたからなぁ...

あの耳っぽい髪型見てたら辛抱堪らんかった

 

よく勝てたなって?

まぁチート持ち&実戦経験アリだから、多少はね?

 

夕立が本気の艦娘装備してたらわからんかったけど。

 

 

「何してるっぽい?

やっぱり仕事っぽい?」

 

 

「暫く仕事はない

次の作戦までの間、あの二人が受け持つ」

 

 

「じゃあ遊ぶっぽい!?

夕立もいくっぽいー!!」

 

 

ぽいぽいーっと言いながら抱き付いてくる姿はじゃれてくるお犬様を連想させてとても微笑ましい。

 

 

あ、そういえば口調だけどね、なんかね、いやね、上官の教育でね、なんだか部下の前だとこうなっちゃってね

さらに私生活でもたまに出るようになってきちゃってね

なおんねぇんだよ....ふぇぇ...

 

しかもキッツイんだよなこの口調。

今夕立かわいいなぁ...って思いながらの会話だからまだ柔らかいけど、他の奴とかと普通に喋るとぜってぇ険悪ムードになるんだもんな。

 

ま、昨日みたくハイテンションだと普通に戻るけど

 

表情は変える元気(栄養)が無いから変わんないんだけどね。

 

だからいくら微笑ましくても真顔。

........真顔で美少女を撫で回す二十代前半...いや、まだ犯罪臭はしない...よな?

 

 

「そうか」

 

声だけ聞けば一言返すだけの素っ気無いような感じに聞こえるかもしれないが、俺の右手はしっかりとぽいぽいの頭を撫でくりまわしている。

 

わっしゃわっしゃワチャワチャなでりなでりと、無駄にチート能力も駆使した高速撫でくりだ。

 

 

体は正直、はっきりわかんだね。

 

 

「て、提督さんッ、いつもより激しいッ、っぽい!!?」

 

 

そりゃそうだろう。

もふり好きで前世では抱き枕無くして寝れなかった俺がひっさびさの快眠で冴え渡っているのだから。

 

次の作戦のこともある、ここでモフモフ成分を補充しておかないと...うへへ

 

 

「ちょ、ていとくさッ、やめっ、あ...」

 

 

「ああ、わかった」

 

すっと手を離す。

これ以上やるとセクハラで訴えられかねない。

 

別にそれで退職でもいいんだけど、解雇の理由がセクハラでってのはどうにも良くないからなぁ

 

 

ま、辞められるならそれでもいいんだけどね

 

 

「.......提督さん、今日はいつもより元気っぽい。

何かあったっぽい?」

 

 

「次の作戦は私が指揮を執る事になった」

 

 

「それ本当っぽい!?

提督さんやっと一人前っぽい!?」

 

 

それだと俺が一人前じゃないみたいじゃないか...

成人もしてるし、お前ほどの水兵はいないって太鼓判押された事も有るんだぞ!....って言ってやりたいけど、今この口には入力制限がかかっている為文字数の多いことは言えねぇ

 

栄養が...足りねぇんだ....

 

 

「鎮守府に着任した時点で私は提督だ」

 

 

「部下に認められない司令官は司令官じゃないっぽいー!」

 

 

おうおう心に刺さるぞこんちくしょう

夕立はこういう所があるから心臓に悪い

 

 

「....ああ、実は私も自身を提督だとは思っていない」

 

これは実は前々から思っていたことで、俺が退職に向かおうと決意した際に完全に固まった気持ちだ。

 

おそらく、金輪際何が起きようとこの認識は変わる事は無いだろう。

 

 

「じゃぁあなたは誰っぽい?」

 

 

そんな夕立の問いかけに、俺は自信たっぷりに、誇りさえ感じさせる物言いで告げた。

 

 

「ただの一般兵卒だ」

 




この世界の妖精さんは喋れない設定です。あと、艦娘の装備は多分これじゃないか?と予測で名前が付けられているという設定にして、ダメコンが知られていない状況を作ったのは一様理由があります。
お楽しみに...そこまで続くかなぁ

はぁ...誰か読んでくれっかなって不安になってその日にまた投稿しちゃう私のメンタルの弱さよ....



昼間に合うのは➡︎昼間に会うのは、に直しました
クウヤさん、誤字報告ありがとうございます!

突き刺さるよう視線→突き刺さるような視線、に誤字修正!
THE FOOLさんありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。