一夜明けて朝。相変わらず孫おじいちゃんの家の窓からは小鳥の囀りが聞こえてくる。一晩眠れなかった私達にとってはそれがあまりにも虚しいモノだった。
おじいちゃんは遠くへ行ってしまった。大きな旅に出ていった彼を止めるモノはこの世にいない。ベッドから体を起こして辺りを見渡すと何かが足りない部屋が目に飛び込んでくるのだ。
「.....」
部屋の内装は変わっていない。小さいリビングに数個のタンス、私が都で買ってきた可愛い置物が白い台の上に3つ並んでいる。
"けれど違うんだ"。あの人がいないと全てが別物に見えてしまう。
「おじいちゃん.......っ」
まだ信じたくない。彼にはろくな恩返しもしていない。彼とはまだ話足りない話題がいっぱいなんだ。
「駄目よフラン!弱気になったら...おじいちゃんが安心できない!」
自分を言い聞かせるが、涙は止まらない。何時間も泣いてた目は腫れていた。
「悟空...悟空にご飯作らなきゃ」
今日もあの日から私の義弟になった悟空の為にご飯を作る。彼はきっと日課の修行をしているだろうから終わる頃にはお腹を空かせて帰ってくるに違いない。
『ねーちゃん、ただいま!』
「ご、悟空!もう帰ってきたの!?ごめんね!まだご飯が...」
私が言い切る前に、悟空は袋を手渡してきた。
『悟空...!?これ..っ!』
「へへっねーちゃんに買ってきたんだ!」
彼の手に握られていたのは食べ物が入った袋だった。
「お金はどうしたの..?」
『この前ねーちゃんがくれた金で買った!』
勿論その気遣いに嬉しい気持ちで一杯だったが、計算も出来ない悟空がちゃんと買い物をしてきた所に驚きだった。
『へへ!オラちゃんと指おって数えたもんねー!親切なおっちゃんが金の数え方教えてくれたんだぁ』
「悟空....ありがとう...ほんとにっ」
私は愛されている。このとき改めて実感させられた。大変だっただろうに、その苦労を顔には出さず、笑顔で此方を向いてくれる悟空の姿に涙を浮かべずにはいられなかった。
朝ご飯を一緒に食べ、ゆっくりした一時を過ごした後、悟空は珍しく何やら難しい顔をしていた。
『オラよ..ちょっと悩んでることあるんだ』
「?言ってみてよ。」
その顔からは真剣そのものが伝わってきた。
『オラ家出てもっと強くなりに旅に出てぇんだ!世界っちゅーもんを見てみてぇ!』
いきなりの事であったが薄々そういう話になるのではと心積もりしていた。
「..悟空ならそういうかなって思ってたよ。勿論良いに決まってるわ!」
『ほんとかっ!?ありがてぇ!!ねーちゃんサンキュー!』
「た だ し っ!!」
『ん??』
「その旅に私も連れていくこと!悟空一人じゃ不安だもの」
『なんだぁそんなことかーっいいぞ!』
「決まりね」
私達の気持ちは一心となった。少しホームシックになりつつもあるが、黙っているよりもお互いの為になるだろう。
早速、此処から一番近い東の都へと行き先を決めた。
こういうのを中華街と呼べば良いのだろうか。チャイナドレスに身を包んだ人や武道着を着た人等が沢山いる。
『ここが東の都かぁ~広れぇなぁ!』
隣で私と背丈があまり変わらない彼は目を輝かせ興奮していた。悟空にとって初めての都会だ。珍しいものばかりだろう。
背中に
コツコツ貯金して西の都でやっと気に入る服がみつかった。
「じゃあ早速...」
『ちょいとそこのお嬢さん』
と、不意に後ろから声をかけられた。
「は、はい?」
ハワイアンなTシャツを着、サングラスをかけた年老いた男性が立っていた。
『ちょいとパイパe「「グシャァァッ」」ンノォォォッゥ』
なんだろう。反射的に顔を殴らなきゃいけない気がした。今このおじさんなんて言おうとしたの。胸のこと言ってたならどかーんしてやる。
「すいません手がスベっちゃったー(棒)」
『ね、ねねッねーちゃんっ!なにしてんだぁ!?』
「安心して?正当防衛だよ」
すると地面に叩きつけられた変態が復帰してくる。
『なーにがっ正当防衛じゃ!危うく逝っちまうとこだったワイ!!』
「えへへ!ごめんなさーい...ちょっとカチンときたものでー」
殺意剥き出しで笑って見せると、一瞬変態は怯んだが逞しいことにまだヤリアウ気があるようだ。
『いやいや、変な意味じゃないぞーちょーっと..そのちっぱ「「いっぺんしね!!!」」んほおおおおぉっ~』
ドカァーン
勢い良く車に向かって飛んでいった未確認変態生物は車と共にお亡くなりになった。
『ひぇーーね、ねーちゃんつえーな!』
あ、そういえば悟空に力を見せるのこれが初めてだ。
「あ、あはは...それなりに鍛えてたからね」
ある意味、こんな場面で自分の力量を知られた事が屈辱的な気もする。
『いてて....お嬢さん、年寄りを労らんかい』
「少し黙って下さい。場合によってはコロ...
殺っちゃいます。」
『意味が変わってないのは気のせいじゃろうか』
ほんっとーに腹が立つおじさんだ。ていうかほんと迷惑だ。
「用がないならもうこれで失礼します。..いきましょ悟空」
『お、おぅ!またなー!じっちゃ「挨拶はしないでいいよ」..コエエ』
『待たれい!』
私はもうあんな目は二度と御免なので無視した。
『ね、ねーちゃんいいんか?じっちゃん呼んでるぞぉ?』
「....あぁ~~~~っもぅ!なんですか!!」
これっきりだからねと思いながら話を聞くことにした。
『ふむ、急な話で悪いんじゃがお主達、儂の家に来る気は無いか?』
「結構です」
『あれまぁ~~~っ...儂、亀仙人言うんだけど知らない?』
「え...仙人様?でもそんな変態な仙人様嫌いだわ」
『はっきり言うのぉ....儂はそこのガキんちょが気になったもんで』
『オラかぁ?』
「...人拐いじゃありませんよね?」
『ちゃうわい!!見たところ武道家じゃろ。なに、少し興味が湧いたんじゃよ』
そういいながら構えをとる変態。え?街中で戦う気!?
『お!!じっちゃんオラと勝負してくれるんか!?』
『その通りじゃ...掛かってくるがよい』
━大丈夫なの...?これ━
ジリジリと間合いを取る両者。悟空が変態如きに負けるとは思えないけど、さっきあの人は自分を仙人だと言っていた。油断しない方がいいのかな。
「悟空ー!そんなのやっつけちゃえー!」
まぁ、勿論私は悟空を応援する側だけどね。
『そんなのって...儂..嫌われとるのぉ』
『へへっ、じゃあ遠慮なくいくぞ!』
先に仕掛けたのは悟空。右からの強烈な正拳突きだったが変態はそれを意図も簡単にかわす。...まぐれだろうか。
『とりゃぁっ!!!』
『遅い!そんな突きじゃ儂を捉えることはできんぞ!』
兎に角変態の動きが速い。信じられない!あの悟空が遊ばれている。
『くっそぉ~じっちゃんつえーなぁ...』
『儂はまだまだ本気出しておらんぞ』
シュッシュッ!!
『いぃっ!?』
「悟空!左よ!!」
私が教えたことにより変態の攻撃を腕で防ぐことに成功した。
『お嬢さん..貴女、儂の動きが見えておるのか』
「....偶々です」
『ねーちゃんはすげぇな!オラ少ししか見えなかったぞー』
そう言いながらも二人は決して目を敵に外すことなく隙を窺っている。
『そこだぁ!!』
バシュッッ
『甘い!!!』
蹴りと突きの繰り返し。その迫力にギャラリーも先程から出来てきている。
『りやぁぁっ!!』
『せいっ!』
ガッガッ‼
互角の戦いかと思われたが、
『悟空とやら...お主に力を見せてやろう!』
『な、なんだ!?』
「!!」
彼がとった構えは、体勢を低くしながら左手を腰まで落とし、右手を左手に合わせるような形をとる。
そして
『かぁぁーめぇぇっーー』
『亀ぇ!?』
『はぁぁぁーめぇぇぇっーー!』
掌から作り出されたエネルギーは徐々に高まっていく。
「ッッ!悟空ーーー!!それは受けちゃダメーーっ!!」
瞬時にその力を悟った私は悟空に告げるが
『波ぁぁぁぁっーーー!!』
『こーなったら一か八かだ!!』
悟空はそれを全身を使って防御した。
ギュルルルル!!!
激しいエネルギーが空気を震わせ悟空を襲う!
「ば、バカ!!」
『ーーくぅぅぅッッ!!』
『なんて根性なんじゃっ..!』
ドガーーンッッ
エネルギーが膨張しその場で弾けてしまった。
「ご、悟空ーー!」
『へ...へへ....どうだじっちゃん...耐えきってみせたぞ...』
『な、なんと!』
驚いたことに悟空はあれだけの攻撃を耐えたのだ。周りにいたギャラリーもざわめく。
しかし、あのエネルギー波。並大抵な努力じゃ完成しない技だ。サイヤ人が充実したエネルギーを技として放つそれととても似ていた。もっと言えば幻想郷にいた魔法使いの魔理沙が得意としていた技、マスタースパークと同等かもしれない。
「す、すごすぎる」
業を成した者。闘に耐えた者。どちらも強者だ。正に最強の矛と盾のぶつかり合いだった。
しかし、悟空の方は既に限界だったらしくその場で倒れてしまった。
「悟空!?いけない!!」
『大丈夫だねーちゃん...少し疲れちまっただけだ』
『悟空、お主は強かった。この亀仙人、これ程の相手は久し振りに手合わせしたわい。見事じゃ。』
『亀仙人のじっちゃん...オラ、頼みがあるんだ』
『なんじゃ?』
『オラ...もっと強くなりてぇ..だからよ..
オラに修行つけてくれねぇか?』
「悟空...!」
頼みとはこの人の弟子にしてほしいということだった。肝心の仙人様は少々黙りこんでいたが、直ぐに答えた。
『..悟空よ、儂の修行は地獄の様なモノだぞ。それを受ける覚悟はあるか!?』
『おうッ!!!オラは強くなる!!』
その叫びは天高くまで響いた。
彼の"目"は燃えている。