ソードアート・オンライン~二人の軌跡~   作:ロシアよ永遠に

10 / 16
すいません、この話、保存したつもりが投稿になってました!妙に短いな、と思った人、正解です。と、とりあえず再投稿しますので、改めてお楽しみください。


第8話『お風呂ハプニング☆』

事実は小説よりも奇なりと、キリトがこの時ほど思ったことは無い。

キリト自身、小説…というよりもライトノベルを多少なりとも嗜んでいる。そのジャンルは恋愛ものだったりバトルものだったりと様々だが、その中でこうしたハプニングのイベントと言う物は存在していた。しかしこれはあくまで小説の中での話であって、いざ現実や自身が体験などするはずもない、寧ろ有り得ないと高をくくっていたが…。

 

「キー坊、短い付き合いだったナ。」

 

「えっと…さすがにこれは…キリト、御愁傷様…。」

 

2人の少女が告げる絶望。そして目の前にはパーティを組んだ2人の少女の姿。しかしその身体に纏うのは、戦闘用や部屋着のそれではない。飾り気もなく、唯々胸部と局部を隠す為にあしらわれた簡素な物だ。

 

「え…えっと…。」

 

何か…何か言わないと、この空気と共に感じる羞恥と殺気に耐えられない。

よし、と意を決し、身長に言葉を選んで…

 

「そこも…初期装備(?)なんですね。」

 

……

………

今何と言った?

言ってしまった?

ここは普通、相手の体躯を褒めるとか、

見てないです的な言い訳をするとか、

謝罪して目を背けるとかそう言った事をするものだろう。

だがキリトは、悲しいかな、14歳思春期真っ盛りであり、女性の体躯に興味が無いのかと言われれば全くそんなことはない。故に…じっと見てしまったのだ。

片や腰まで届く艶やかな長い亜麻色の髪。スタイルは…うん、見た所自分と同年代と思えないほどに整い、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。顔立ちも整っており、街行く男共はすれ違う度に振り返るほどの、可愛い、というよりも綺麗という表現が似合う風貌だ。

そしてもう一人は、同じく腰までの紫色の髪。こちらも整った顔立ちだが、もう一人と比べればまだ膨らみも少なく、腰のくびれも乏しい。しかしこれはこれから成長期を迎えるからとも思えるし、顔立ちも相まって将来有望であるとも言える。

しかしその顔、いや、視線はキリトをしっかり射貫くように見て、そして顔は羞恥からか赤く紅潮している。

そして…手にはそれぞれ、アイアンレイピアとアニールブレード。

 

「「い」」

 

「い?」

 

「いいいいやああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ありったけの、それも現実なら何事かと通報されかねない様な悲鳴と共に、自身に迫る二本の切っ先を最後の光景として、キリトの意識はぷつりと途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は遡り10分前。

トールバーナでのボス戦情報を配布し終えたアルゴは、レベリングと共に外でのクエストの情報収集と確認をしていたエステルと合流した。

道行く男達は熱意とやる気に満ちあふれており、明後日執り行われる第一層ボス戦に向けての気迫は十分と窺い知れる。しかし、後詰めはしっかりしておかねば足下を掬われるのも確かであり、こうしてエステルとアルゴはボス戦に向けての最後の仕上げとして、明日の朝一番にトールバーナ周辺の最新版のガイドブックを発行する予定なのだ。攻略組においては、まだ明日一日に猶予がある。その間に、クエストを熟してアイテムを手に入れたり、もしくは良い狩り場でレベリングするのも、勝つためにはやっておいて損はないものだ。なぜならこのゲームにおいて、強くなりすぎて損はない、と言っても過言ではなく、強くなる=生き残れる目安が高くなるのだから。

 

「西の森はどうだっタ?」

 

「ん~、アルゴに貰ったβのデータからの強さからして、少し手こずったかしら?目安として、1、2レベル引き上げた方が無難かも。…ただその周辺の…そうね、ここにはいい採取アイテムが取れたから、突破する価値その物はあると思うの。」

 

喫茶店で地図を広げ、エステルが集めたトールバーナ周辺のモンスター、そして狩り場に採取ポイント、クエストの情報収集。事細かな情報を手に、アルゴと記事をまとめ上げていく。流石に迷宮区に行くにはソロはキツいので控えたが、今日の調査でトールバーナ周辺のデータは、大凡9割集まったと言っても過言ではない。

 

「…ナルホド、それは確かに記事にすべき所だナ。ビギナーもそうだガ、βテスターもテスト時その時の感覚で挑めば危うイ。」

 

コンソールを操作して、ガイドブックの頁を作成していく最中、自身のメモに目を通しながら、一つの気になる点をエステルは切り出した。

 

「…ねぇアルゴ。どうして…皆中々ボス戦をしようとしなかったのかしら?」

 

「ン?」

 

「だって、ここにいる大半の人は、レベルも10を越えている人が多いわ。…所謂安全マージンを取ってるのに、どうして…」

 

安全マージン…攻略において、その文字通り、このレベルならこの階層は安全だという、βテスト時に設けられた攻略適性レベルの目安だ。大体が階層+10が安全マージンと言われている中で、エステルのいうように、ここにいるプレイヤーのレベルは、低くて9、一番多いレベル帯が10と11。高くてキリトの14。エステルも13という所なので、11や12のプレイヤーがレイドを組めば、攻略も不可能ではないはずだ。…なのに、どうして中々迷宮区の踏破も思うように行かず、トールバーナに最初のプレイヤーがたどり着いて2週間もボス戦に切り出せなかったのか。

 

「…恐れ、だナ。」

 

「恐れ?」

 

「βテスト時は、迷宮区で死んでもやり直しテ、やられた教訓を活かして再び挑めタ。でも今回は違ウ。1発限りの戦いなんダ。だから皆、少し慎重になっているのサ。」

 

このSAOに囚われて一ヶ月。

戦いその物を恐れるプレイヤーはその数を減らしたものの、死ぬのが怖くないのかと言われればそれとは違う。誰しも死を恐れ、石橋を叩いて叩いて、叩き割るくらいの勢いなのだ。それが攻略スピードの遅延に拍車を掛けている。

 

「でもまア、ここに来てようやくボス部屋を見つけて、戦いを挑む算段が立ったんダ。…今までの慎重さがプラスになるといいけどナ。」

 

「…そうね。皆今まで必死になってここまで来たんだもの。…勝てるわ、きっと。」

 

「…だナ。…さて、今回のボス戦でのMVPになりそうな奴の様子を見に行くカ。」

 

そう言ってアルゴは、広げていた地図を丸めてストレージに収納し、席を立つ。彼女に続き、エステルもメモをストレージにしまい込むと、急ぎ後を追う。

 

「MVPって…キリトのこと?」

 

「お、よく分かってるナ。」

 

「まぁね…レベリングの効率も恐らくトップだろうし。装備だってアニールブレードを+6強化と隙はないもの。…技量も相まって、個人単位なら最強戦力じゃないかしら?」

 

ソロで鍛え上げてきただけあり、トップまで上り詰めるだけのその実力は、今のプレイヤーでは最高峰だろう。他のメンバーも、まだ序盤だけあって似たり寄ったりなビルドではあるが、それでも以後名を上げるであろうと予測できるような粒揃いだ。

例えばディアベル。楯持ちソードマンと、オーソドックスでバランスの良い実力者だが、何よりその指揮能力とカリスマが、皆を惹き寄せる。これからのボス戦においてはなくてはならない、立派な司令塔となる可能性が高い。加えて、ギルドが設立できるようになれば、彼の下に多数の賛同者が集まるだろう。

次いでアガット。攻撃に次いで防御重視の、ダメージディーラー兼タンクを担えるビルド。そしてなによりの特徴は、片手直剣エクストラスキルである両手剣を既に得ていることだ。片手剣を使い込むことで解禁されるものなのだが、幾人かも同スキルを解放しているにも関わらず、使っているのは彼一人。キリトも勿論その一人だが、両手剣を使用しない理由として、

1つ、自身のスタイルに合わない。

キリトは軽防具で身のこなしを素速くし、避けて斬る、所謂ヒットアンドアウェイを戦闘スタイルとしている。しかし両手剣は重量があり、素早さに多少なりとも下方補正が入る。その分避け辛くなるのだが、それを補って余りある攻撃力と、ガード補正が付く。

攻撃を重視するビルドのプレイヤーには魅力的だが、誰も使用しないのは2つ目の理由として、一層で良い重鎧が手に入らないことにある。

ガイドブックには、『両手剣を使用する際は、速さを捨て、防御重視の重鎧を纏うことを勧める』と記載されていた。もちろん、両手剣を使用しようと思うプレイヤーは居るだろうが、はじまりの街の店売りのみの重鎧しかないともなれば、その防御力は心許ない。そう言った理由で、装備が整うまでは使用を避けているプレイヤーが多かったりする。

だがこのアガットは、そこまで防御が高い装備ではないにも関わらず、重厚且つ高い一撃を穿つ両手剣で数多の敵を薙ぎ払い、このトールバーナへとやって来た。高いSTRから振るわれる一撃は、その重量から考え付かないほどに鋭く、一層のMOB程度なら攻撃を食らう前に、大抵一撃でポリゴン結晶へと変えていく。それだけに一撃の威力と言うものがどれ程高いのか分かるだろう。キリトが総合能力でなら、アガットは一撃の威力がトップだ。

 

「あそこに居る他の奴の実力も高いナ。オレッちの用意したガイドブックを活かして、着実に強くなった奴らダ。今のプレイヤーが持ちうる最高のメンバーだと思うヨ。…ただ。」

 

「ただ、何?」

 

少々歯切れの悪いアルゴに、エステルは首を傾げた。それは丁度、今回ボス攻略に参加するメンバーのリストに目を通していたときのこと。とあるプレイヤーの欄でその風貌に怪訝な表情をうかべたのだ。

 

「このフルフェイスの兜をしてる奴…こんな奴、オレッちの情報網に掛かったことないゾ?…最前線で見かけない奴ダ。」

 

「アルゴに知られてない前線プレイヤー?…そんな奴居るの?」

 

「重装甲の奴は居ても、フルフェイスの奴を見掛けたのは初めてだヨ。」

 

「ふーん…そんな奴も居るのね。装備からして、タンクか、ダメージディーラーかしら?」

 

「だろうナ。プレイヤーネームは…JOSHUA…?ジョシュア…って呼べば良いのカ?」

 

「確かに…そんな名前のプレイヤーは聞かないわね。」

 

写し出されたのは、アルゴの言うとおり、顔全体を覆う兜を装備したプレイヤー。レベルも12と、平均よりも高く、見るからにタンク隊に配属されるだろう。

 

「でもこれだけの重装甲なら、いいタンクでダメージディーラーを支えてくれそうね。」

 

「あぁ、そうだナ。さっきのアガッちと真逆の防御型みたいだし、攻防特化のプレイヤーが居るなら、ローテも組みやすイ。」

 

「にしても…ボス戦かぁ…どんな奴なのか…戦ってみたい気もするかな…。」

 

「ニャハ。確かにエッちゃんのレベルなら、ディア坊がボス攻略に参加を頼みに来そうなものだけどナ。…っとここダ。」

 

アルゴが止まった場所。

そこは簡素ながらも、味のある木造の一軒家。

ここはトールバーナに到着したキリトが根城としていると言う情報を得ており、時々アルゴが情報交換と売買をするために訪れているものの、エステルが足を運ぶのは初めてだったりする。

 

「ここが…キリトの?」

 

「そそ。ま、どんな物件かは中はまだ見てないんだけどナ。」

 

そう言うや否や、部屋の入口であるドアをノックする。コンコココンと、普段しないようなその拍子は、どうやらアルゴであることを知らせる暗号のようなものらしい。それをエステルに聞かせる、と言うことは、彼女に対して其程の信をおいている事になる。

ややあって、現実の扉の開閉音と共に、コートなどの外装を外した黒髪の少年が姿を現した。

 

「よ、よう…珍しいな。アンタがこの部屋に来るなんて。」

 

「ヤッ。」

 

「って…エステルも来たのかよ。」

 

「久しぶりね、キリト。元気そうで何よりだわ。」

 

「そ、そっちこそ、ビギナーとは思えないくらい強くなってるみたいだな。」

 

「まぁね。あたしもソロで外の情報を集めてたらこうもなるわよ。」

 

「そりゃごもっとも。」

 

久々に直接会ったフレンドと、他愛のない話をしながらも、何故かキリトの頬にはたらたらりと汗が滴り落ちる。しかし訪問者2人は、そのような物を気にするものでもない様子だ。

 

「所でキー坊、アーちゃん…細剣使い(フェンサー)さんはいるかイ?」

 

「フ…細剣使いさん?」

 

その名が出たとき、キリトの汗の量が一気に増えた、様な気がしたが、特に気にしない。

 

「会議場を後にしたキー坊を見たとき、2人の女の子と連れ立って出て行ったっテ、女日照りのゲームオタク共が、未練がましく教えてくれてネ。もしかしたら、もう連れ込んだのかなト…。…あレ?一人増えてないカ?」

 

「ま、まっさかぁ…!ユウキはともかく、あの警戒心の強い細剣使いさんが、今日会ったばかりの俺の部屋に、風呂なんか借りにくるわけが…。」

 

「フロ?」

 

「ユウキ?」

 

2人の得た答え。

あ や し い。

これに尽きる。

何故かいつも以上に挙動不審な彼に、情報屋コンビは少々懐疑的な視線を向ける。

 

「んン~…?」

 

「いや…途中まで2人とも一緒だったけど、女の子2人の方が良いからって途中で別れて…もしかしてもう宿に戻ったんじゃないかな~?アハハハハ。」

 

「ふ~ン。まぁいいカ。ついでダ。こないだの依頼の件、報告していくヨ。」

 

もはや、キリトに隠し事はないと言う予想は、2人には微塵とも残っていない。入り口をブロックする彼の腕を押し上げ、アルゴはずかずかと、まさに勝手知ったるなんとやらと言わんばかりに入っていく。

 

「あっ!コラ!」

 

「お邪魔するわよ。」

 

「お、部屋広いナ!」

 

「そうね。トールバーナの中では中々の優良物件じゃない?」

 

「そうだナ!…賃貸情報も手掛けて、一儲けしようかナ。」

 

「それ良いかも!と言うか、それだけでもある程度は日々の暮らしに困らないかもね!」

 

「そう思うだロ?キー坊キー坊!ここ幾ラ?イベントとか、特殊条件は有ル?」

 

「お!ここって牛乳飲めるんだ!これだけでもあたしは買いかしらね。」

 

あれよあれよという間に、2人の少女はキリトの借りる部屋をあれこれと物色、品定めし始めた。

マズい、これは非常にマズい。

もしいま風呂場でも覗かれでもしたら、ある意味、そして色んな意味で危険だ。

エステルはともかく…アルゴは…

 

「ン?なんだこの部屋…。バス…ルーム…?」

 

部屋に設けられた、木造の扉に気付いたのか、上に記されたネームプレートを読み上げる。一番見られたり、気付かれてはならないとこに気づかれた…!流石に目聡い…!これが情報屋たる所以か!

 

「へぇ…ここにはお風呂も付いてるのね。益々良い部屋じゃない。」

 

「これは高く売れるナ!紹介の際は、高い仲介料を付けても良さそうダ!特に女性プレイヤーニ!!」

 

マズい!これは更にマズい!

このままでは、バスルームも見ておかないト!とか何とか言って、扉を開けかねない。そうなったら…キリトのタマ(意味深)が取られる…!

 

「えっ…と…今はその…そう!故障中!故障中なんだ!入るには面倒な修理イベをだな…っ!」

 

「そうカ、なら仕方ないナ。」

 

「悪いな、今何か飲み物でも…っておい!エステル!何堂々と人の部屋の牛乳ガブ飲みしてんの!?」

 

「え?ダメ?」

 

アルゴが諦めてバスルームから踵を返し、キリトの意識が、牛乳飲みまくりんぐのエステルに向けられた瞬間。

 

「なんてネ。」

 

正に一瞬、その隙を突いてキリトの脇を擦り抜けてアルゴはバスルームへとひた走る。

 

「あっ!コイツ!おわっ!?」

 

俊敏性を重視したアルゴの素早さは伊達ではなく、キリトは急ぎ彼女のフードを掴むものの、そのスピードによって踏ん張ることは出来ずに、ずるりと足を滑らせて顔面から床に倒れ臥した。

 

「あだっ!?」

 

痛みがないはずなのに、条件反射でこう言ってしまうのは、ゲーマーとしての性なのだろうか。

 

「さーて、御開帳~♪」

 

瞬間、キリトの背や額から冷たい、嫌な汗が分泌されるのが自覚できた。

 

「………こりゃ驚いたナ。」

 

そして…話は冒頭に戻る訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 トールバーナ西の森

街の方では、ボス戦に備えて戦略を練るチームも居れば、明日に備えてしっかり休息を取るもの。もしくはフィールドに出て、自己の研鑽に励むチームもおり、キリトのパーティは三つ目のそれで有った。

 

「スイッチ!」

 

キリトが相手の体勢を崩して即座、入れ替わりにアスナのアイアンレイピアから穿たれた一撃が、フィールドを浮遊する蜂型のMOBを貫き、そのHPを削りきって四散させる。聞き慣れた味気ないガラスの割れるような音と共に、

 

「お……お見事…。」

 

乾いた拍手と、妙に恐れを抱いたようなキリトが声を掛ける。

 

「今のがスイッチを使った連携戦闘の流れだ。まぁ結局俺とのスイッチは1回だけで、ほとんどユウキと2人でスイッチしまくってたけど…」

 

「「何 か 言 っ た?」」

 

「いえ…何も…。」

 

朝からこの二人の機嫌はすこぶる悪い。いや、今回同行しているアルゴやエステルには普通に接するのだが、キリトに体する風当たりが非常に強いのだ。

 

(お、おかしい…昨日は…こんなご機嫌を損ねるようなことはしてないぞ?確か…アルゴとエステルが訪ねてきて…あれ?それ以降の記憶が…。)

 

キリト自身、身に覚えのないことで怒りをぶつけられて納得がいかないものがあるが、まぁとりあえず我慢するれば良いと思い、何も言わずにいた。

 

「まぁそれよりも細剣使いさん、ドロップアイテム確認してみな。」

 

「…ドロップアイテム?」

 

ユウキと共にキリトを睨んでいたアスナは、自身のリザルトを見ていなかったので、先ほどのMOBがドロップしたものを見ていなかったらしい。改めてそれを見ると、ゲットしたアイテムにこう書かれていた。

 

「…剣?」

 

「そ、ウインドフルーレ。俊敏性や正確性を重視する細剣使いには良いものだよ。店売りのアイアンレイピアなんかより断然―」

 

「綺麗…」

 

そう言った瞬間…キリトは目の前の光景に息を呑んだ。

オブジェクト化したウインドフルーレ。その鍔に当たる部位には銀の光沢が放つ美麗なエングレーブ。そして太陽の光に反射して、見事な直線の刀身がそれに見惚れるアスナを引き立てるように輝く。

 

そんな風景に…キリトはもちろん、エステルも、そしてユウキ、アルゴも言葉を失い、ただただ五人の中を静寂が支配して、風が森を駆け抜ける音だけが世界の音だった。

 

「コホン!」

 

真っ先に我を取り戻したアルゴが咳払いを一つすると、固まっていた面々はビクリと背を震わせてこちらの世界に帰還する。

 

「後は街で強化だナ―。今まで初期装備のアイアンレイピアを無強化でやってきたんダ。+4強化素材は充分だロ?腕の良い鍛冶屋を紹介するヨ。」

 

「あ、ありがとうございます。その…情報量(おだい)は…」

 

「いらないヨ。」

 

アルゴの提案と情報提供に恐縮するアスナ、そしてそれに対する対価を尋ねるとそれをやんわりと断った。

 

「むしろ礼を言うのはこっちの方サ。目立つのは避けたかったろうニ…ユーちゃんも…ありがとウ。」

 

そう言うアルゴの表情は柔らかく、攻略会議で自身に向けられた懐疑的な思いを拭い払ってくれたアスナ達には大きな恩義を感じていた。自身の評判だけではない。あのままではβテスターとビギナーに大きな溝が生まれ、ボス戦所ではなかった。そしてアルゴの想いは、あそこで頓挫していたかも知れなかった。あの時のアスナとユウキの言葉は攻略を行う上で、沢山の意味で救いをもたらしたのだ。

 

「別にボクもお礼は要らないよ?だって情報屋さん達は、ボク達ビギナーの為に昼夜問わずに走り回ってるんでしょ?こっちがお礼を言うならともかく、疑いの目を向けるのはおかしいと思ったしね。」

 

「ユウキ…ありがとね。」

 

「えへへ……、ところでエステルって、そんなに強いのに、なんで攻略会議に出なかったの?」

 

3人のレベリングと連携戦闘の流れを教える中でエステルも加わっての戦闘となったわけだが、いざ戦闘が始まってみれば、キリトほどの凄まじさではないにせよ、棍術による的確な突打によって、MOBを次々と撃破していた。レベルがアスナ、ユウキよりも高いのも有るが、技量その物もかなりの高さである。

 

「ん~、ぶっちゃけた話、会議に行く暇が無かった、かな?」

 

「まぁ簡単に言えば、エッちゃんはオレッちの情報収集を手伝ってくれてたんだヨ。この狩り場もその成果の一つサ。」

 

中々の経験値とMOBの湧きのおかげで、上位2人はともかく、アスナとユウキの蓄積経験値はモリモリ上がっており、このまま行けば今日の内に11に上がれるかも知れない。

 

「ま、今さらどうなるわけでもないでしょ?むしろ、私が行かなくても今回のメンバーは、現段階で最高峰のメンバーだと思うわ。」

 

「フルレイドじゃないけどな。」

 

「キリト、水を差さない!」

 

「はいはい。」

 

どっちにしても、初めてのボス戦にフルレイドにはならなくとも、それに近い人数が集まってくれたことにディアベルは喜んでいた。彼の魅力も有ればこそで、今攻略組の士気は高い。やる気だけでどうなるものかはわからないが、それでも倒せると信じれる。

 

「でもエステル、キミが入ってくれれば、更に勝利の確実性が増すのは事実だ。…もし良かったら、俺達のパーティに入らないか?」

 

「キ、キリト?」

 

「幸い、俺達のパーティは3人。最大人数には達していない。…加えて、俺達の相手は取り巻きのこぼれがないようにするのが担当。人数の多い方が各隊のフォローに回りやすいし、広範囲をカバーできる。」

 

「ふム、キー坊のいうことに一理あるナ。」

 

一考したアルゴは、よし、と意を決したように、戸惑うエステルの手を取って言った。

 

「エッちゃん。ボス戦、頑張れるカ?」

 

「え、えぇっ!?アルゴもそう言うの!?」

 

「むしろお願いするヨ。…この際言うけど、一ヶ月見たところエッちゃんの力は情報屋をやるには勿体ないヨ。その高い力を前線で奮って、皆の道を切り開くのが一番だと思うんダ。…そりゃ正直、オレッちの手伝いをしてくれるのは嬉しかったサ。でも、情報を集めているときよりも、戦っているときのエッちゃんの表情は活き活きしてたヨ?」

 

「そ、それは…」

 

「…頼むヨ。エッちゃんの力を、キー坊達、そしてボス戦に挑む奴等のために使ってくれないカ?」

 

エステルの中で、アルゴの言葉は強く木霊していた。

確かに…不謹慎かも知れないが、この世界で戦うのは楽しい。元々アウトドアタイプのエステルだからこそ、そう思う。しかし、夜斗を探す上で、最も早く見付かる見込みもあるからこそ情報屋たるアルゴを手伝っていたのだ。…だが一ヶ月経てど、未だに何の情報も無い現実に、エステルの中で思うところがあったようで…

 

「…ゴメン、皆。少し、考えさせてくれない、かな?」

 

「…そうだナ。即答できるものでもないだロ。…ゆっくり…考えてみてほしイ。…エッちゃんが悩んだ末にどっちを選んでも、オレッちは文句は言わないし、おねーさんはむしろ応援するヨ。」

 

「ありがとう、アルゴ。」

 

少し沈んだ笑顔を浮かべるエステルを横目に、5人はレベリングを再開する。

自身の振ってしまった話で、場の空気が少し暗くなってしまったことに、ユウキは後ろめたさを感じていた。

少々微妙な空気ながらも…アスナとユウキが11になったところで切り上げ、1人で考えたいとエステルは宿へ…そして皆は、後ろ髪を引かれる思いで鍛冶屋へと向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。