ソードアート・オンライン~二人の軌跡~   作:ロシアよ永遠に

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第11話『終局』

喉を狙った一撃。それは的確且つ確実にダメージを与えた。体力の減りが少ないのは、先程の挙動から考えるに、AGI極振りのパラメータなのだろう。STRの少なさによるダメージ低下は免れない。しかしあの速度は、下手をすれば同じようなステ振りをしているアルゴに匹敵するほどのモノだ。

そして…エステルは未だ、目を見開いたまま固まっていた。

一度だけ、たった一度だけリアルで出会った相手。

こちらで会おうと約束しただけの少年。

しかしデスゲームが始まって、いつ命を落とすとも解らない状況に陥って、必死に探せども見つからなかった。

しかし、そんな彼が今目の前に居る。

一ヶ月、探していた相手が…目の前に…。

 

「よる……っ!」

 

「おい、下がるぞ!今の間にPOTを飲め!」

 

彼より少し遅れて追い付いたエギルが、エステルの襟首を掴んで後退する。少々乱雑だが、状況が状況だ。どうのこうの言っては居られない。

 

「無事…だったんだ…良かっ…た…。」

 

「お、おいおい、何で泣いてんだ?痛みはない…って死にかけたんだからな、無理もねぇか。まぁとりあえず回復だけはしておけ。」

 

エギルが腰のポーチからPOTを取り出し、ホロホロと涙を流すエステルの口にねじ込む。…少々強引だが、この際致し方ない。何せ、ボス戦の真っ直中。いつヘイトがこちらに向いて攻撃されるやも解らないのだから、HPを安全域にしておくに越したことは無い。

じわじわと回復していくHPゲージ。しかし、エステルはそんなことも憚らず、目の前でコボルトロードと対峙する少年から目を離せずにいた。

 

「いいか?俺たちはタンクとしてスイッチしに行く。嬢ちゃんはHPが回復するまで大人しくしてろ。今のまま行ったら、やられちまうからな。」

 

そう言うとエギルは、両手斧を構え、コボルトロードに向かって走り去っていく。

そんな彼を見ながら、ここに来てようやく自身のHPゲージを確認すると、少しずつ残量が上昇し、ようやく色がレッドからイエローに変わったと言ったところだった。

 

「死に…かけたんだ…わたし…。」

 

さっきは咄嗟のことで身体が勝手に動いた。しかし改めてみれば、命を落としかけたことをようやく実感した。

最初の隠しログアウトスポットの時よりも危うい状況だった。

あれからも、HPがレッドに陥ることが幾らかあったが、今日ほど危機感を抱いたことはなかった。

今までは何とかなっていた。だが今回ばかりはどうにもならないと、一種の諦めというモノを感じてしまうほどに。

情報を集める中である程度の危険な場所に入りこむ事はあった。だがそれは殆どMOBとの戦いのみ。フロアボスは元より、エリアボスすら戦ったこともなかった。

 

「これが…最前線…攻略組の戦い…。」

 

危険を冒してでも強敵を倒し、情報を集めたり、稀少アイテムを求めるために最前線で戦うプレイヤー、その戦場。それは今正に行われているフロアボスとの戦いがそれだった。

一つのミスが、常に命を危険に曝す。そんな戦いを重ねている彼等。ボス戦ではじめて最前線とプレイヤーと共に戦う、そんなことは始めから無謀だったのかも知れない。

確かにエステルはレベルが高い。情報を集めるためにひたすらレベリングをしていたから、それは全プレイヤーでもトップクラスだ。そして棍術によるプレイヤースキルも高いため、戦闘力もかなりの物だろう。

だが彼女に足りないもの。それは覚悟や心構えと言った、精神面の問題だった。

レベルが高ければ余程のことがない限りはやられない。

どこかでそう思っていたから、今回の事態を招いてしまった。

 

「おい。」

 

半ば放心的になっていたエステルに、野太い声が掛かる。

見上げれば、1Mはあろうかという大剣を肩に掛けた赤髪の青年…アガットが、エステルを見下ろすように立っていた。

 

「戦う気がねぇなら引っ込んでろ。邪魔になるだけだぜ。」

 

「なっ……!」

 

「だが、やる気があるなら着いてこい。…アイツを仕留めるぞ。」

 

言うだけ言ってアガットは踵を返し、片手で重そうな大剣を振るい、ボスとの戦いに合流していった。

…確かにさっきの一撃で恐怖を感じて、萎縮してしまったのは事実だ。…だが…

 

「大丈夫かい?」

 

再びそんなエステルに声を掛けてくる人物がいた。

 

「ディアベル…もうダメージはいいの?」

 

「あぁ、おかげさまでね。」

 

膝を着いて、傅くように見る青髪の彼は、まさしく騎士のようにも見えた。彼の左手には、先程砕けた盾とは少し違う、一回りほど小さな小盾が装備されていた。おそらくは、予備の盾としてストレージに入れていたのだろう。

 

「アガットさんの言ったとおり、怖いなら下がってて良いんだ。アイツは…俺達で仕留める。」

 

「俺達でって……ディアベル、貴方は怖くないの?」

 

「ん?」

 

「あんな…刃がいつ斬り込んでくるか解らないやり取りをして……死にかけたのよ?…なのに…!」

 

「怖いさ。」

 

先程の穏やかな顔付きとは打って変わって、目に鋭さが宿る。声色もどことなく低く、そして…震えすら感じられた。

 

「いつ死ぬとも解らない。そんな状況なんだ。俺も、君の隊であるキリトやアスナさん、ユウキさんだって、怖いことがないなんて事はないと思うよ。」

 

「じゃあ…何で…?」

 

「戦える理由はそれぞれだけど…、そうだな、俺の戦う理由は……」

 

「理由は…?」

 

「俺は、気持ち的に騎士(ナイト)だからさ。…皆を護って、この戦いに勝って、何時しかクリアしたいとそう思っているらね。…それに、俺は誓ったんだ。この戦い、誰も死なせやしないってね。…だからエステルさん、戦えないことを、俺は責めたりしない。…でも戦う気持ちがないまま、戦う理由がないまま戦うのは危険なんだ。…その辺りを、よく考えてくれ。」

 

そう言い残し、ディアベルもアガットと同じく、ボスとの決着を付けに走りだした。

戦う理由…そんなこと考えたこともなかった。

ただ生き残る、それだけを考えて、強くなっていた。そして生き残って、夜斗…いや、今はジョシュアだったか。彼の安否を確認したい、それだけの今までだった。

しかし改めて考えてみれば、なんと薄っぺらいモノだったのかと自覚してしまう。こんなモノで良いのか。自分の棍は…それだけの物なのか?

 

「…まだ…戦う理由とか…解んないけど…。」

 

震える身体を、棍を支えに立ち上がる。

 

「ここで逃げたら……わたし、もうダメな気がしちゃう…だから…!」

 

「じゃ、一緒に行こう。理由なんて…きっと直ぐ傍にあるものだから。」

 

横に並ぶのは、ジョシュア。その目はエステルではなく、皆が押さえ込んでいるコボルトロードを見据えている。

 

「ジョシュア…。」

 

「…皆ジョシュアって呼ぶけど…そんな読みのつもりじゃないんだけどね。」

 

「じゃあなんて呼べば良いのよ?」

 

「それは…この戦いが終わったらにしよう。…準備は良いかい?…戦える?」

 

「…やってみる…いいえ、やってやるわ!あのウサギもどきに目にもの見せてやるんだから!!」

 

戦う理由…大本となるモノは後でも良い。今はただ、自分を吹っ飛ばしてくれたあのボスを吹っ飛ばしてやる。今、戦う理由はそれだ。それだけだ。

 

「上等っ!行くよ…!」

 

言うや否や、アニールブレードを構えて低姿勢で、まるで地を這うように駆けるジョシュア。さすがAGI極振りだけあって、かなりの速さだ。あっという間にエステルとの距離を空けていく。因みにエステルは全てのパラメータを平均的に上げているので、遅くも速くもない。

 

「アガットさん!スイッチ!」

 

「お、おうっ!」

 

黒い装備から、まるで台所に現れるアイツを彷彿させたのは気のせいか。アバランシュを振り抜いた矢先、即座にスイッチ、割り込んで、ソニックリーブを喉に斬り付ける。再びごく僅かに減少したHPゲージ。赤く変色してからとても長く感じるが、それでも一歩一歩、1ドット1ドット確実に勝利に近付いているのは確かだ。

 

「まだだ!」

 

まだよろめくのに蓄積が足りないのか、即座に野太刀を構えて反撃に移ろうとするコボルトロード。

ソードスキル後の硬直で動けないジョシュアに、斬撃が迫る。

 

「オォラァ!!!」

 

しかし緑の閃光と共に、エギルによる斧ソードスキルの『ワールウインド』が、野太刀を思い切り跳ね上げた。

 

「いつまでもタンクのお役御免はさせてらんねぇからな!ジョシュア!そんな装備と速さなんだ!タンクからディーラーとしてのチェンジだ!解ってるな?」

 

「もちろんだエギルさん、助かりました。」

 

鎧をパージして、いつになく饒舌な彼に、思わずエギルもニヤリと笑みを浮かべる。

 

「次っ!スイッチ!!」

 

続いて少女の声に、エギルは思わず反応してバックステップする。続いて長物を携えた少女が駆け抜けて跳躍。コボルトロードの頭部あたりまで跳び上がると、前方へと宙返り。一周してその勢いのまま、コボルトロードの脳天に、鋼鉄の棍を振り下ろした。

ゴンッ!!と言う鈍い音が響き渡り、そして見ていてとても居たそうなまでにコボルトロードの頭頂部に棍がめり込む。

 

『…!!?…!!??!』

 

敵も頭を強く打ちのめされたからか、フラフラと眼を回してよろける。気絶効果だ。ここに来てクリティカルしたのか、とにもかくにもチャンス。

 

「各員!全力で畳み掛けろ!最大火力!!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 

ディアベルの指示で幾人もの咆哮と共に始まる、袋叩きと言う名の一斉攻撃。

突き刺し、

切り裂き、

叩き付けて。

徐々に徐々に、HPゲージは減っていく。

あと少し…!

このまま行けば!

 

『っ!GRURURURU…!!!』

 

しかし、そうは問屋が卸さない、と言わんばかりに、コボルトロードのHPゲージが残りわずかのところで、気絶効果が消失する。

そして…取り囲んでの一斉攻撃の為、それによってコボルトロードのある刀スキル、それの条件が満たされてしまった。

 

「まずい!!」

 

コボルトロードが高々と跳躍した。

これは…先程の範囲攻撃が来る!アレを食らってしまってはスタン…そしてそのまま次の攻撃で…

やられる…!!

 

「させるかぁっ!!!」

 

一人の少年が咆哮と共に駆けだした。

手に持つアニールブレード、その刀身に手を沿わせて『溜め』を作る。蒼く光り出したと同時に跳躍し、迫り来るコボルトロードに剣を突き出す。

 

「届けぇぇぇぇっ!!!」

 

刀を振り下ろさんとするコボルトロードの脇腹に、ソニックリーブの剣閃が走る。

まさにカウンターと言って差し支えないほどの見事なタイミングで穿たれた斬撃により、コボルトロードは体勢を崩して本来の着地地点から10Mほど離れた位置に転落した。

 

「ラストだ!動けるメンバーは一斉攻撃に行くぞ!!」

 

「らじゃっ!」

 

「了解よ!」

 

「僕達も…いけるね?」

 

「モチのロンよ!!!」

 

ここに来て、レイドのトップクラスのメンバーが駆けだした。奴は転落して体勢を崩している。

今が最後のチャンスだ!

しかし奴は意地があるのか、転がりながらでも野太刀を光らせてソードスキルの体勢を取る。

 

「やらせる…もんかぁぁっ!!」

 

ここで抜けて駆けだしたのがユウキだ。

振り下ろされる野太刀に、ソードスキルのホリゾンタルをぶつける。それによって互いのソードスキルが相殺されて、野太刀と、そしてユウキの身体が跳ね飛ばされる。

 

「で、出来た!!スイッチ!!」

 

「任せてっ!!はぁぁぁっ!!!」

 

続くはアスナ。初期スキルながら、その高速且つ完成された速度のリニアーが、コボルトロードの土手っ腹を突き刺す。

 

「次っ…!!」

 

続いてジョシュアが放つソニックリーブ。AGIを全開にして、高速で切り抜ける。

 

()()!!」

 

「っ!!!」

 

実名で呼ばれ、棍を握る力が更に上がる。

リアルネームは禁止なのだが、しかしわざとではない、本能から来る物なのか。

だが不思議と嫌な感じはしない。むしろ、一度だけの名乗りなのに覚えていてくれたことに嬉しさすら感じる。

 

「任せなさいっ!!」

 

棍が…ソードスキルの閃光を放つ。捻糸棍とは違うモーションでその光を放つことは初めてだ。だがこの一撃、絶対に当てる!キメる!!

 

「金剛撃!!」

 

身体を捻り、そしてその反動諸共を棍に乗せて、コボルトロードの首を狙って打ち上げる。

先程は外したが、今度は外さない!

撓る棍が、弾けた音と共にコボルトロードの顎を打ち上げ、続くキリトに無防備な弱点をさらけ出す!

残るHPはもう風前の灯火だ。

 

「キリトッ!!!」

 

「でぇい!!」

 

ガラ空きになったコボルトロード、その左の首元から右脇腹に駆けて斜めの剣戟が走る。

相手を袈裟斬りにする『バーチカル』、その一撃が、コボルトロードを真っ二つにするように赤い軌跡を残す。

しかし切り抜いてもキリトの剣からソードスキルの光は消えない。

そう、

このソードスキルはまだ終わっていない。

 

「う…ぉぉおぉぉぉぁぁぁぁぁっ!!!」

 

雄叫びと思しきまでに叫び、返す刃で先程のバーチカルの軌跡と逆に、切り上げていく。

往復で二連撃のソードスキル『バーチカル・アーク』

それがコボルトの王の腹を割き、

胸を斬り、

喉を断ち、

そして…

 

頭を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

コボルトロードの身体が青い光に包まれ、

そして…

 

 

 

 

 

粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが…口を閉じた。

 

そして…静寂、加えて部屋を照らしていた松明の光が消えて、薄暗く、そしてただっ広い空間になり、

 

 

部屋の中央に黄金色でこう書かれていた。

 

 

 

 

『CONGRATULATION!!』

 

 

 

 

 

 

「い…!」

 

「「「「いやったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

各々目の前に現れたリザルト画面。それを見て歓喜の声を挙げた。

中にはレベルアップした者もいた。

だが何よりも、この死闘を共に戦い、そして生き抜いた。その喜びが大きかった。

互いに肩を抱き合い、拳を打合い、ハイタッチ。

皆が出来うる限りの喜びがこのボス部屋を支配していた。

 

「はぁっ…はぁっ…!!」

 

そして…見事にラストアタックを決めたキリトは…喜びに浸るよりも、ホッとしたという安堵感と、終わったという疲労感に打ち拉がれていた。

 

「お疲れさまキリト君。」

 

「やった!やったよキリト!!ボク達勝ったよ!!」

 

「お、落ち着けユウキ!き、極まってる、極まってるって!!」

 

ようやく生き延びたと思えば、歓喜の余り飛び付いてきたユウキの腕で首が絞まり、呼吸困難で死にそうになる。

 

「ちょっ…ユウキ、キリト君の顔、青くなってるわよ!?」

 

「えっ?あぁっ!キリト、ごめん!」

 

「い、いや、構わないよ…!…エステルも…お疲れさま。」

 

「うん、でも…ちょっと…ヘマしちゃったけどね。」

 

「ヘマしても結果として勝てたんだ。見事な剣技だったぜ?Congratulation!この勝利はアンタの…アンタらのモンだ。」

 

「いや……これは皆が協力した勝利だと、俺は思うよ…。」

 

自分がMVPだと言わんばかりに称えるエギルだが、キリトとしては自分一人の力で勝てたとも思っていない。

一人ではフロアボスは倒せないと、何よりも思っていたから。

しかし、共に戦い抜いた戦友達は、キリトを称えた。

 

「ありがとよ!!」

 

「スゲぇソードスキルだったぜ!」

 

「今度パーティ組んでくれよな!!」

 

皆が…自分を褒めてくれる。

暖かくも、何処かむず痒い。そんな気持ちで満たされたキリトは…少し顔を綻ばせる。

だが…

 

「なんでやっ!!!」

 

一部のプレイヤーは…そんな彼を認められずにいた。

 




ホントはビーター発言まで書きたかったのですが、長々としそうなので一旦きります
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